今回はバンクーバーからお届けしよう。映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が公開中だが、この作品にEffects TDとして参加しているのがWētāFX Vancouverの大喜多智裕氏である。美大を卒業し現場経験を積んでからカナダ留学を経て、ハリウッドの最前線で仕事するまでに至ったキャリアパスについて話を伺った。

Artist's Profile

大喜多智裕 / Tomohiro Okita(WētāFX Vancouver / Effects TD)
大阪府出身。2004年に京都市立芸術大学油画研究科卒業。関西圏のCG制作会社に勤務する傍ら、個人およびグループでの作家活動を行う。2014年にカナダのVan Arts VFXコースに留学。2015年、MPCバンクーバースタジオでFXアーティストとしてのキャリアをスタート。その後Method Studios、Scanline VFXを経て現職。
www.wetafx.co.nz

<1>35歳で留学、一心不乱に勉強し海外で就職

――幼少時や学生時代の話をお聞かせください。

小さな頃から絵を描いたり何かをつくることが好きでした。高校生の頃に美術に将来の希望を見出し、美術大学を志しました。浪人で通った美大予備校ではデッサンや立体造形の受験対策を行い、センター試験対策のために英語だけは勉強していた記憶があります。大学では油画科を専攻するも、何か油絵具とはちがったメディアで作品をつくりたいと思い、LightWave 3Dを購入し独学で習得していきました。卒業制作では3DCGでつくった画像を引き延ばしプリントアウトした作品を制作しました。

大学卒業後は関西を中心に就職活動を行いゲーム開発会社に就職しました。その後数回ほど転職し、またフリーランスでの仕事を通して、主に企業内やイベントで利用されるための映像や立体映像を用いたインタラクティブコンテンツの開発業務に従事していました。並行して個人やグループでの作家活動を行い、個展や企画展などに出展していました。

35歳を前にして、何か自分の中で停滞感を抱えていました。そんな中、ハリウッドで最新のVFX事情を体験するため、LAで開催されたSIGGRAPH 2013へ視察に行きました。この会場内で開催されていたジョブ・フェアー(Job Fair)が、自分にとって初めての海外就職活動となりました。

ジョブ・フェアーとは合同就職説明会のようなもので、各スタジオのリクルーターやスーパーバイザーとカジュアルな形で面談できます。大手スタジオのリクルーターにデモリールを見てもらい感想を訊ねてみましたが、ファインアートやモーショングラフィックスに近い自分の作品は、全くミスマッチでした。

初めて挑戦したジョブ・フェアーでしたが、業界にピンポイントで通用するスキルも実績も当時の自分にはないと判断し、就職を断念しました。そんな中、たまたまSIGGRAPH会場でこの連載を担当してらっしゃる鍋 潤太郎さんと出会い、様々なアドバイスをいただきました。おかげで海外就職のハードルがよりクリアになり、留学を真剣に検討するようになりました。

これがキッカケとなりVanArts(Vancouver Institute of Media Arts)への留学を決意しました。

将来はエフェクトアーティストとして就職したかったので、VanArtsではHoudiniが学べるVFXコースを選択しました。夕方からのクラスは、実際に大手スタジオで制作業務を担当している講師が指導してくださるので勉強になりました。

当時、ある授業で「センスを鍛える」ためのシンプルなエクササイズがありました。まずテーマを決め、ネットで画像を探します。例えば“雨の街並み”というテーマを設定し、そのテーマに合致した、できるだけかっこよかったり、美しかったりする画像を探すのです。次は同じテーマでできるだけ下手くそな酷い画像を探し、その2つを並べます。そしてその両者のちがいをできるだけ言葉で表現します。

この練習を通して、何が作品を未完成と感じさせるのかといった点や、何が美しいと感じさせるのか、ということを分析するセンスを養うことができました。この方法を自分の制作物にも応用することで、自分が辿り着きたいゴールへのルートをできるだけ明確にし、完成への妨げとなる問題を解決し、クオリティを上げていくことができるようになりました。

その当時は貯金を全て留学費用につぎ込んでいたことや、すでに35歳だったこともあり、留学生活を楽しもうなどという気持ちの余裕はありませんでした。技術を伸ばしたい一心で、寝食の時間を惜しんで学校で制作する毎日でした。

しかし今思えば要領の悪いことをしていたな、という気もします。ただ自分を追い詰めるのではなく、適度な休息をとってルーチンを根気よく繰り返しながら、もっとクラスメイトとの関係を楽しむべきだったのだろうな、とふり返っています。

――海外での就職活動はいかがでしたか?

私の場合はVanArtsを卒業したことで、当時Post-Graduation Work Permitという就労可能なビザを得ることができました。現在は制度が変わり、VanArtsは残念ながらこのビザの支給対象外になっているようですが、取得できた当時の自分はワーキングホリデーを申請できる年齢をとうに過ぎていたので、かなりの助けになりました。

このことでビザの問題は一先ず解消され、幸いにも卒業制作のデモリールが評価されたため、応募した会社には大体面接まで漕ぎつけることができました。しかし経歴やコミュニケーション能力に難ありと思われたのか、内定をもらうまでには多少時間がかかりました。しかし諦めず応募を続けるなか、MPCバンクーバー(2019年12月に閉鎖)から内定をいただき、FXアーティストとしてのキャリアをスタートすることができました。

FXチームの同僚と

<2>WētāFXで活躍中、映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』にFXTDとして参加

――現在の勤務先はどんな会社でしょうか。簡単に紹介してください。

WētāFXの、バンクーバー支社に勤務しています。ご存じのようにWētāFXの本社はニュージーランドにありますが、バンクーバー支社は今のところスタッフが100人程度の規模で、風通しの良いフラットな環境です。これから人員を増やしていこうとしているところです。

――最近参加された作品で印象に残るエピソードはありますか?

約半年ほど映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』にFXTDとして参加していました。WētāFXはR&Dが非常に強い会社で、流体や剛体、ソフトボディシミュレーション、果てはレンダラーに至るまで自社で開発しています。

効率のみならずクオリティを限りなく追及していく姿勢は、他のどの会社でも経験したことのないレベルのものでした。また日々開発が進行するセットアップやパイプラインに対する理解を深めるためのミーティングも頻繁にあり、日毎にチームのノウハウが蓄積されていました。

私が参加したのは制作も佳境を迎えた頃でしたが、R&Dチームが開発した新しいツールの検証や意見交換などを通しショット制作を行いました。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

12月16日(金)全国劇場にて公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
www.20thcenturystudios.jp/movies/avatar2
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved

――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

分業体制の強いVFXワークフローの中でも、エフェクトはCGに対する知識やスキルが広く要求されるポジションだと思います。

また勤務先のパイプラインをよく理解する必要があります。さらにエフェクトの種類によっては各部署との擦り合わせなどが頻繁に発生するため、効率的なコミュニケーションも必要とされます。自分1人の力ではままならない大変なことが多いですが、私の中ではやりがいのある仕事だと感じています。

――英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

実践的な英語能力を向上させたいなら、リスニングとリーディングのようなインプット能力だけでなく、スピーキングとライティングのアウトプット能力もバランスよく勉強する必要があります。

日本にいる間は留学のためにTOEICに絞った勉強をしていました。できるだけ多くの過去問をやり、間違った部分についてはネットや参考書を使って丁寧に調べ知識を増やしていく、という王道的な方法でした。

この勉強法の利点は、語彙と文法の理解度が比較的短期間で伸ばせることです。しかし実際に現地の方との英語のコミュニケーションでは、テストとちがって発音も文法も不明瞭な英語を聞き取り理解し自分の意見を伝える必要がありますので、特にリスニングとスピーキングがある程度のレベル以上に達していないと辛く感じます。

また仕事ではメールやチャットでのやり取りも多いので、ライティング能力も重要になります。海外での生活を意識した英語能力の向上を目的とするのであれば、TOEICで600~700点ほどが取れるようになった時点で、アウトプット能力を視野に入れた英語力を鍛える方針に切り替えればよいと思います。

そんな私が英語に慣れ親しむためにやっていることをいくつか挙げてみますと……

1.発音とスピーキングの練習
フォニックスという、あまり日本では習わない発音のための体系的な練習法があります。一冊でいいので関連する書籍などを購入して、自分の声を録音して耳と発音を鍛えると良いと思います。

スピーキングに慣れるにはオンライン英会話は良いと思います。しかし講師によっては、自分が聞き役に回ってしまい、意外と喋れないこともよくあります。そんな場合は自分の声を録音して日記的なものを1人でしゃべったりすると良いと思います。録音された声を聞いてみて、理解できるかを確認するのも良い練習になります。スピーキングは全ての英語力が問われる一番難しい部分だと思うので、気を長くもって根気よく続ける必要があります。

2.ライティング
日常的な会話や業務程度の文章であれば、スピーキングで用いるような簡易な文章を書き出せるだけで十分だと思います。中学、高校レベルの英作文に関する参考書籍や、日常会話フレーズ集などで勉強して、簡単な文章を素早く思いつく能力を鍛えるとスピーキングにも活かせます。

3.リスニング
英語でCG関係のチュートリアルを見るのが良いと思います。業務に関連する語彙も勉強できますので一石二鳥です。英語でのドラマ鑑賞を字幕付きで観るのも良いですが、自分が理解できる程度のものを見つけることが大切です。

4.リーディング
これもリスニングと同じように自分のレベルにあったものや、仕事に関連するものを探すのが良いです。ニュースなんかに目を通しておくとオンライン英会話のときのネタに使えたりするので一石二鳥でしょう。

テスト勉強とちがい、アウトプットとインプットのバランスが取れた総合的な英語能力は、勉強のために費やした時間に比して成長がとても実感しづらいので、目先の結果を求めず毎日のように継続的に英語に触れることが近道と思います。突然、自分の英語能力が上がったようなブレイクスルーを味わうことがありますので、諦めず粘り強く続けていくことがモチベーショのさらなる強化につながると思います。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

海外を目指すなら、身動きのとりやすい若いうちから動く方が一般的には良いでしょう。理想は日本国内のプロダクションで希望する職種に就き、数年は経験を積んで、30歳までにワーキングホリデービザなどを取得して就職活動をするというのが堅実な戦略でしょう。

しかし自分の中に絶えない思いがあるのなら、いくつになっても遅いということはありません。重要なのは自分で決断をして行動を起こすことです。行動する前の情報収集と分析は大切ですが、手元で得られるものには限界があります。とりあえずデモリールをまとめて希望する会社に送ってみる。知り合いに海外就労している方がいれば、とりあえずコンタクトを取ってみる。よくわからないけど、まずは現地に行ってみる。

どれも面倒だし勇気のいることですが、小さな行動を重ねることによって幸運を掴むこともあります。そういったことの繰り返しが、希望する未来につながっていくのだと思います。

バンクーバー・オフィスでは、卓球がひそかなブーム
大喜多氏が参加した映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』より
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved

【ビザ取得のキーワード】

①京都市立芸術大学油画研究科を卒業
②関西圏のCG制作会社、およびフリーランスにて経験を積む
③カナダのVanartsに留学、卒業後post graduate work permitを取得し、Vancouver市内のVFXスタジオに就職
④スタジオのサポートを受け、ワークパーミットの延長及びカナダ永住権を取得

あなたの海外就業体験を聞かせてください。インタビュー希望者募集中!

連載「新・海外で働く日本人アーティスト」では、海外で活躍中のクリエイター、エンジニアの方々の海外就職体験談を募集中です。

ご自身のキャリア、学生時代、そして現在のお仕事を確立されるまでの就職体験について。お話をしてみたい方は、CGWORLD編集部までご連絡ください(下記のアドレス宛にメールまたはCGWORLD.jpのSNS宛にご連絡ください)。たくさんのご応募をお待ちしてます!(CGWORLD編集部)
e-mail:cgw@cgworld.jp
Twitter:@CGWjp
Facebook:@cgworldjp

TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada