今回はカナダのトロントからお届けしよう。幼少の頃からPlayStationに親しみ、現在はゲーム開発に携わる仲島久美子氏は、語学留学の際に国際的な環境で生活し仕事をすることに興味をもったという。では、さっそく話を伺ってみよう。

記事の目次

    Artist's Profile

    仲島久美子  / Kumiko Nakashima(Behaviour Interactive / VFX Artist
    愛知県出身。名古屋デザイナー学院 ゲーム・CG学 CG映像コースを卒業後、遊技機開発会社に就職。その後カナダへ語学留学し、帰国後は株式会社Black Beard Design Studioにエフェクト・デザイナーとして転職。その後、青年海外協力隊としてブータン王国でボランティアを経験。再びカナダに戻り、Larian Quebecにて海外でのキャリアをスタート、Behaviour Interactiveへ移籍し現職。サバイバルホラーゲーム『Dead by Daylight』のVFXアーティストとして奮闘中。
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    <1>「なんとなく」だった語学留学が、海外での就職への道標に

    ――幼い頃や学生時代の話をお聞かせください。

    子供の頃は、外で木登りをしたり昆虫をひたすら採集したり、歳の近い兄の影響もあり男の子っぽい遊びが好きだったと記憶しています。小学5年生のときに初めてゲーム機を買ってもらい、PlayStationの『クラッシュ・バンディクー3 ブッとび!世界一周』をプレイしどハマりし、そこから今に至るまでずっとゲームが好きです。その頃は自分が開発に関わるとは思っていませんでしたが、絵を描くことが好きで「将来は絵を描く仕事がしたい」と漠然と思っていたので、当時の願いに近い職に就いているのかなぁ、と思っています。

    新卒で入社したのは遊技機の開発会社でした。2Dアニメーションから実写まで幅広く関わったり、映画の撮影現場を生で見たりと、新鮮な経験をしました。

    この会社を退職後、カナダに語学留学しました。正直申し上げますと「なんとなくノリで」留学したのですが、初めての海外生活で多様なバックグラウンドをもつクラスメイトと関わり、そこで初めて国際的な環境で生活し仕事をすることに興味が湧き始めました。

    語学留学を終えて日本へ帰国し、就職したBlack Beard Design Studioでは主にモバイルゲームのエフェクト制作をさせていただき、リアルタイムレンダリングのCG経験を積む貴重な機会になりました。

    その後に青年海外協力隊として海外ボランティアに参加した経験も、今の自分に活きていると思います。協力隊ではブータン王国でCGアニメーションの制作指導を行い、昔話の保存のためのプロジェクトに参加させていただきました。ボランティアなので就労ではないのですが、これが海外で働いた初めての経験になりました。また、野良牛に追いかけられたり、落石に怯えながら長距離バスに乗る生活を経験したので、ちょっとのことでは驚かないメンタルの強さを得ることもできました。

    ――海外の映像業界での就職活動は、いかがでしたか?

    2019年末にカナダでの就職活動を開始した頃は、ちょうどコロナのパンデミックが発生し始めた時期で、欧州の開発会社の最終面接の予定がなくなったり、ケベックシティに引っ越す際もフライトがなくなったり、宿泊施設の閉鎖に伴い住む場所がなくなったりと、イレギュラーだらけで大変な思いをしました。しかし同僚が親身になってサポートしてくれたお陰で、乗り切ることができました。

    カナダで最初に就職したLarian Studiosはベルギーに本社を置く会社で、ケベック・スタジオは唯一の北米拠点です。面接の後のテクニカルテストは今ふり返るとひどいクオリティだったのですが……2度のリテイクを経て、なぜかジョブ・オファーをいただきました。1度でクオリティレベルをクリアできなければ終わりだと思っていたのですが、後にリードに聞いたところ「結果だけでなく、フィードバックへの対応の仕方も選考に含んでいる」ことだったらしく、最後まで諦めずに取り組んで良かったと思いました。

    Larian Quebecで約2年間経験を積んだ後、2022年にBehaviour Interactiveに移籍し、トロントに移住しました。

    お仕事風景

    <2>世界中にファンのいる人気タイトル『Dead by Daylight』の開発に参加

    ――現在の勤務先は、どんな会社でしょうか。

    Behaviour Interactiveという社名はあまり馴染みがないかもしれませんが、「『Dead by Daylight』の開発会社です」と話すと「知ってる!」と言っていただけることが多いです。モントリオールに本社を置いていますが、2022年2月にトロント・オフィスを新設し、私はそちらに在籍しています。

    勤務形態はフルリモート、フレックス、オフィスワークの中から自由に選べるため、同僚の中には数百キロ離れた街に住む人もいます。ゲーム業界は労働環境が過酷なイメージがあるかもしれませんが、カナダはそういうことはほとんどなくて、今の会社では入社以来、毎日定時退社しています。

    ――最近参加された作品で印象に残るエピソードはありますか?

    移籍以来、同社代表作のサバイバルホラーゲーム『Dead by Daylight』に参加しています。世界中にファンがいる人気タイトルなので、多くの人の目に触れることがとても嬉しい反面、責任も感じます。最近ではキラーの進路を妨害するパレットの破壊シミュレーションを担当させてもらったのですが、かなりの頻度でプレイヤーの目に触れるVFXなので、破片の挙動1つにも気を使いながら、細かくセットアップしてつくりました。

    ――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

    企画、コンセプトから組み込みまでトータルで関わることができるのがとても樂しいです。マルチプラットフォームかつアシンメトリー(鬼ごっこなど、参加者の役割に差があるゲーム)のタイトルに関わるのが初めてだった上に、前職では自社開発エンジンを使用していたためUnreal Engineでの開発も初めてで、最初はかなり苦労しました。各プラットフォームの制限を考慮したり、Blueprintを使っての組み込みは未だに試行錯誤の日々ですが、同時にやりがいも感じますし、徐々に面白さも感じるようになってきました。

    ――英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

    日本人にありがちなのは「失敗を恐れて発言しない」ことだとよく言われますが、私もその典型でした。最初は本当に「Yes, No, What?」以外の発言ができなくて、自分が惨めすぎて何度も日本に帰りたいと思っていました(笑)。しかし、友人に教えてもらったアプリを介して言語交換会などに参加するようになったことで、英語が「勉強するもの」から「コミュニケーションのツール」に変わっていきました。留学などをする機会があったら、趣味を通じてたくさんの友人をつくることをお勧めしたいです。特に日本は有難いことにアニメやゲームなどサブカルで認知されているので、同様の趣味をもつ人が仲良くしてくれることが多いです!

    また、多少理解できなくても、海外のチュートリアルを原語のまま見たり読んだりすると、専門用語や言い回しを学ぶことができるのでお勧めです。私は「言語そのものを学ぶ」よりも「言語を通じて知識を学ぶ」経験をすることで、少しずつ言語もできるようになっていました。

    ――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

    新しい経験や価値観を楽しめるようになりましょう。

    カナダのゲーム開発会社は仏語圏であるケベック州に集中しているので、生活のためにフランス語も必要になるかもしれないことを、心の隅に置いておいてください。

    また、最初から完璧を目指さず「とりあえずやってみる」精神ももちましょう。そして、1人でもできる趣味があると少し気楽になれます。

    Last but not least、とにかく心身の健康は大切に!

    サバイバルホラーゲーム『Dead by Daylight』のVFXチームと。普段はバラバラの場所で仕事しているそう

    【ビザ取得のキーワード】

    ①専門学校を卒業後、国内企業で経験を積む
    ②約半年の語学留学、青年海外協力隊としてブータン王国で映像制作指導を経験
    ③カナダ/ケベックシティのLarian Quebecに就職
    ④Behaviour Interactiveへ転職。就労ビザ、T52を取得

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    TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada