今回は、アメリカのゲーム業界で活躍中の方に登場いただいた。アメリカで働いていると、レイオフに遭遇することが少なくない。これには勤務先や親会社の経営状態、担当プロジェクトの規模縮小や公開延期など、様々な要因がある。こうしたとき、日頃の積み重ねや行動力がキャリアを救う鍵となる。大手ゲーム企業での大規模レイオフを乗り越え、現在もLAで活躍中の藤田祐一郎氏に話を伺った。

記事の目次

    Artist's Profile

    藤田祐一郎 / Yuichiro Fujita (Principal Character Artist / 1047 Games)
    愛媛県出身。2012年に立命館大学映像学部を卒業後、株式会社JET STUDIOでCGデザイナーとしてキャリアをスタート。その後、株式会社カプコン株式会社SAFEHOUSEを経て2022年6月にアメリカのBlizzard Entertainmentへの入社を機に渡米。2024年3月に大規模レイオフを経験後、同年4月に1047 Gamesに移籍し現職
    www.splitgate.com

    <1>Blizzard Entertainmentを目標に、海外へ

    ――子供の頃や、学生時代の話をお聞かせください。

    幼いころから絵を描くのが好きで、友達と漫画を描いて見せ合うような小学生でした。その時々で夢中になった作品、例えば『ドラゴンボール』や『軍鶏』のような漫画を真似ていました。当時は色を塗らず、ひたすら線画を描いていました。

    ゲームも大好きで、高校時代にゲームキューブでプレイした『バイオハザード』リメイク版で、ゲームの面白さと3DCGの美しさに衝撃を受け、3DCG・ゲーム業界への興味を抱くきっかけとなりました。

    進学した立命館大学映像学部では、ハリウッド映画の美術部門を経て、5年連続でSIGGRAPHに入選した実績をもつ北原 聡先生の授業を受ける機会に恵まれました。そこでモデリングを学び、「これだ」と思えるほど楽しかったのを覚えています。幼い頃から好きだった線画とモデリングは、ともにシルエットをデザインするという点で共通しており、没頭するうちに3DCGの世界に引き込まれていきました。

    そのながれで、学部内にCGサークルを立ち上げ、仲間とグループ制作を行うようになりました。そのときの作品『骨先輩』が今でもYouTubeに残っています。

    ▲自主制作CGアニメーション『骨先輩』

    また、北原先生のゼミに所属し、CG映像制作に取り組みました。ゼミでは絵コンテから最終レンダリングまで、毎週フィードバックを受けながら作業を進めるスタイルで、実際の仕事でのデイリーチェックのような経験をすることができました。

    ――日本で仕事されていた頃の話をお聞かせください。

    大学卒業後、キャリアをスタートしたのは株式会社JET STUDIOでした。そこでは、遊技機のプロジェクトを中心に、様々な作業を担当させていただきました。アニメーションやリギング、またベトナムにある子会社との連携業務も経験しました。

    この業務では、リテイク指示や作業工程を英語ドキュメントで伝えるなど、ベトナムチームとのコミュニケーションが主な役割でした。また、1年間採用担当のお手伝いも務め、多岐にわたるスキルを身につける機会を得ました。こうした経験の中で、自分が最も情熱を注げるのはキャラクターモデリングだと感じるようになり、上司にお願いし、以降はキャラクターモデリングに専念させてもらいました。

    6年ほど勤めた後、カプコンへ転職し、『ストリートファイター6』の制作に携わりました。ベテランから新人まで幅広いアーティストが活躍する中で切磋琢磨しながら、とことんクオリティを追求することができました。ふり返ると、アーティストにとって幸せな環境だったと思います。

    その後、SAFEHOUSEにキャラクターモデリング・スーパーバイザーとして参加しました。Netflix作品『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』で、エラスマス・ブロスダウ監督のもと、メインキャラクターの制作やクオリティ管理を担当しました。

    そうして国内でキャリアを積んでいきましたが、海外を意識し始めたキッカケは、株式会社JET STUDIOに勤めていたころに遡ります。社会人になって約5年が経過した頃、自分自身のスキルを向上させなければという焦燥感から、ありとあらゆるCG関連のワークショップやセミナーに参加していました。数多くの講座に参加する中で、アニメーターのヨーヘイさん、背景アーティストの鈴木卓矢さん、ストーリーボードアーティストの栗田 唯さんなど、Blizzard Entertainment(以下、ブリザード)出身のアーティストたちのセミナーが特に強烈な印象として残りました。「彼らのようになりたい」という思いから、ブリザードを目標として意識するようになりました。

    しかし、その時点でブリザードのゲームを一度も遊んだことがなかったため、まずは会社への愛着を深めようと、『オーバーウォッチ』を遊び始めました。私の持論として、「お金と時間をかければ好きになる」という考えがあります。何かに熱中したいのであれば、先にコストをかけることで、後から感情がついてくるという考え方です。時間というコストをかけて『オーバーウォッチ』を楽しむうちに、ブリザードという会社が大好きになり、私の中で夢がどんどん大きく育ち、自主制作にいっそう励み、また求人募集がある度に応募するようになりました。

    ――海外のゲーム業界での就職活動は、いかがでしたか?

    就職にあたっては、ブリザードの求人サイトから応募し、レジュメ(履歴書)やポートフォリオの選考を通過した後、待ち受けていたのは試練となる面接でした。キャラクターアート、コンセプトアート、テクニカルアーティストなど、自分が関わる各部署とそれぞれに面接があり、最終的に1時間の面接を5回ほど行う必要がありました。

    Zoomでのオンライン面接だったため、サイドモニターに自己紹介や志望動機、想定される質問への回答を英語で書いた資料を用意しました。想定質問を準備する際には、以下の方法を活用しました。


    ① アメリカで一般的な就職面接の質問を調べる
    ② 求人に記載された求められるスキルや素養を読み込む
    Glassdoorというサイトで過去の面接質問を確認する
    ④ 面接官を事前に教えてもらえるため、LinkedInで相手の職歴を確認する


    内定後は、O-1でのビザ申請だったため書類準備が大変でした。推薦文の作成などでも多くの方々に協力していただきました。コロナ禍の影響でビザの発行プロセスが遅延し、内定を受けてから実際に就労を開始するまでに半年以上かかりました

    海外での初参加タイトルは、ブリザードの新規IPのサバイバルゲームでした。このとき、ブリザードがグリーンカードをサポートしてくれることになり、それに先立って、諸々の理由で就労ビザをO-1からH-1Bに切り替えることになり、手続きをしました。

    しかし、担当していたプロジェクトが途中で中止になってしまい、私を含むチームのほぼ全員が解雇されるという大規模なレイオフがありました。グリーンカードのプロセスが十分に進む前にレイオフが通達されたため、グリーンカードの話は立ち消えになりました。

    このレイオフによって、突然、何のキャリアプランもなくなってしまいました。「日本に帰る選択肢はいつでも取れる」と考え、ひとまずアメリカでのサバイバルを目標に、レイオフが通知されたその日から転職活動を開始しました。1週間以内に10社応募し、5社との面接を経て、最終的に3社から内定をいただきました。

    そのうち自分が最も苦手意識のあるハードサーフェスのスキルが必須となる1047 Gamesを選択しました。レイオフされたことで、「自分自身がアーティストとして一皮むけなければならない」という大きな危機感を持つことができたので、一番ハードな環境に身を置こうと考えた結果です。

    また、ブリザードの元同僚で1047 Gamesに転職していたEnvironment Artistが、LinkedinのDMで「うちに来てくれ」と誘ってくれたことも理由の1つです。

    <2>目標に向かって、あきらめずに続けること

    ――現在の勤務先は、どんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

    1047 Gamesは、スタンフォード大学の学生だったイアンとニコラスが学生寮でゲーム開発を始めたことからスタートした会社で、「1047」は彼らが出会った寮番号から来ています。ポータルシステムとFPSを融合させたゲーム『Splitgate』が海外で人気を博し、2200万ダウンロードを記録しました。現在は2025年にリリース予定の続編『Splitgate 2』を開発中です。

    ▲Open Alpha Trailer | Splitgate 2

    前作『Splitgate』はしっかりコアなファン層を持つゲームで、所属アーティストたちの作品のクオリティの高さに興奮しました。武器が主役であるFPSゲームというジャンルの特性上、会社には世界中から非常に才能のあるハードサーフェスアーティストが多数所属しており、彼らがつくるアートを見ているだけで本当に勉強になります。

    弊社の特徴として、完全フルリモートの働き方が挙げられます。キャラクターアートチームは、アメリカ、ブラジル、スペイン、ドイツ、マレーシアなど、世界中から参加しています。また、年に一度、アメリカ・ネバダ州で全社員が集まるオフサイトイベントが開催されます。昨年参加した際には、4泊5日で様々なチームビルディングのためのワークショップが行われ、とても楽しい時間を過ごしました。

    ▲1047 Gamesでのオフサイトの様子。世界中から社員が一箇所に集まった

    ――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

    よく海外では分業化が進んでいると言われますが、これまで経験した2社ではいずれもR&D段階からプロジェクトに参加したのもあり、比較的自由に作業させてもらえました。特に現在はプリンシパル・キャラクターアーティストとして、大きな裁量をもちながら仕事をしています。

    具体的には通常の制作業務に加え、高いクオリティをチーム全体で実現するためのワークフロー構築や、他のアーティストに対するスカルプトオーバーでのフィードバックを日々行なっています。また、キャラクター関連のマスターマテリアル作成を任されているので、チームに必要な機能を必要に応じて実装しています。自分の作業がダイレクトにプロジェクトのクオリティに直結していることを実感できる点が、とても楽しいと感じています。

    ――英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

    大学受験のための英語以外、特に実践的な英語学習をしてこなかったため、まともに英語を話せるレベルではありませんでした。

    JET STUDIOでベトナムの子会社へ発注する際に積極的に自分で英語を使ってみたり、カプコンでは外国人のアーティストもいたので積極的に話しかけました。また、オンライン英会話を1日30分、約4ヵ月間続け、少しずつリスニングとスピーキングに慣れていきました。

    これまでの経験上、面接では難しい英語は使われないので、あまり心配する必要はないと思います。ポートフォリオで十分に実力を示していれば、相手はどんなに拙い英語でもきちんと理解しようと耳を傾けてくれるはずです。また、仕事で使う英語についてもそれほど大きなハードルにはならないと感じています。ソフトの使い方やワークフローについては世界中どこでも大差はなく、フィードバックの内容も理解できるでしょう。またリモートワークであれば会議を全て録画しておき、聞き取れなかった部分を後で自動文字おこしツールで文章化して確認することもできます。私はOtterというサービスを利用しています。

    最も難しいのは、複数人との日常会話です。トピックが次々に変わり、スラングや文化的背景への理解度が影響するため、私自身もまだまだ苦労しています。

    ――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

    目標に向かって、あきらめずに続けることが大切だと感じています。私自身、海外の会社へ何度も応募しましたが、最初の2年間は書類選考すら通らない状況が続きました。

    30回以上応募した結果、ようやく書類選考を通過し、面接を経て内定をもらえたのがブリザードでした。もし落とされたとしても、それはスキルが足りないからではなく、単にタイミングが悪かっただけの可能性もあります。

    常に準備を続けていれば、必ずチャンスが訪れると信じています。そして、もしそのチャンスをあっさり逃したとしても、次のチャンスに向けて引き続き努力し続けることが大切だと思います。

    ▲フルリモートでの仕事環境。最近CintiqからIntuosに切り替えた

    【ビザ取得のキーワード】
    ① 立命館大学映像学部を卒業
    ② カプコンやSAFEHOUSEなどの国内著名スタジオで経験を積む
    ③ Blizzard EntertainmentでO-1ビザを取得後、H-1Bビザに切り替え
    ④ 1047 Gamesに移籍し、H-1Bビザをトランスファー

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    TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada