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    読者の中には「モーションキャプチャ(以下、MOCAP)で撮影」と聞くと、MOCAPスタジオを探し出し各種スケジューリングに走り回らねばならない、あるいは多額の投資を行い自社内に本格的なスタジオを設ける必要がある、などと思われている方も多いことだろう。オランダのXsens社が開発するモーションキャプチャシステム「MVN」は、慣性センサにより動きをキャプチャするという独自の概念を持ったシステムで、光学式MOCAPで必須となってきた特別な施設や撮影までにいたる複雑なセッティングを必要としないことを特長としている。今回から複数回に分けて、MVNの実力を検証していく。

    非常にコンパクトなMVN

    まずは、ページトップのプロモーションムービをご覧頂きたい。スカイダイビングに、フィギュアスケート、クライミングといったシチュエーションのように、アクターに激しい動きを要請したり、撮影のセッティングが困難な状況でも、モーションデータの取得が可能であることが分かってもらえるだろう。カメラレスかつスタジオレスのMVNは、モーションキャプチャの既成概念を覆す存在と言える。では、このMVNをCG映像制作現場のワークフローで運用した際、実際にどのようなメリットが得られるのか、セッティングからキャリブレーション、撮影、そして撮影後のデータ運用はどういった工程を踏む必要があるのか。まず第1回目として、MVNを"なんの変哲もない"会議室に持ち込み、セットアップから、キャリブレーション、撮影まで試してみた。

    まず驚かされたのが、MVNのシステム一式が非常にコンパクトであること。届けられたコンパクトなスーツケース1つの中には、アクターが着るボディスーツとセンサ、送信/受信機、バッテリ等が綺麗に収められている。データ取り込み用のソフト「MVN Studio」の入ったノートPC1台を加えれば、MOCAPに必要な一式が全て揃ったことになる。ちなみにスーツ1着あたりのセンサ数は17個(スーツ内×12、両手各1、両足各1、頭部×1)。またシステムには予備のセンサも1つ同梱されているので、刀やライフル等の小道具で使用したい場合などに重宝しそうだ。

    非常にコンパクトなMVNその1

    ケースを空けたところ。スーツ、センサ、受信機の全てが収まる
     

    非常にコンパクトなMVNその2

    MVNのケース(左)は機内持ち込み可能なサイズ(W559×H351×D229mm)なので、まさに場所を選ばずMOCAPが行えてしまう(許可を得る必要はあるが......)。専用のボディスーツ(右)は、伸縮性が高く、動きを妨げないポリウレタン弾性繊維ライクラ素材が採用されている。アクターの体型に合わせ、S/M/L/XL/XXLの5種類を用意

    簡単なセットアップ

    続いて、スーツケースから専用スーツを取り出し、アクターに着替えてもらった。今回、アクターさんには更衣室で一人で装着してもらったのだが、ものの5分でスーツの装着が完了した。スーツ内には、腕や手首付近など全11箇所に予めセンサが取り付けられているものの、人体工学に基づいた設計がなされているため、レビューに協力してもらったアクター自身も「スーツに違和感はほとんど感じられず、動きにも制約がない」と語っている。

    スーツ装着後、両手、両足、頭部にセンサをバンドで留めていく。スーツや手足、頭に取り付けられたセンサから得られたデータは、背中に取り付けるバッテリ一体型の送信機に集められ、ノートPCに接続した受信機に送られる仕組みとなっている。これらバンドも専門スタッフの介助なく、アクター自身で着用できた。これでアクター側のセットアップは全て完了。MVNのキャリブレーションを済ませた上で実際に撮影を行なってみた。

    Review02簡単なセットアップ Review02簡単なセットアップ

    全身装着完成。センサの付属した専用のグローブ、頭部のバンドに加え、足はスニーカーであれば紐に装着できるパーツを用いてセンサを装着可能。なお。状態総重量は2Kg以下となっており、アクターには必要以上の負荷がかからない。加えてカメラの概念がないので、スーツの上に衣装を着用することもできる

    Review02簡単なセットアップ

    データの送信とバッテリが組み込まれたパックは、背中に2つ専用のポケットに入れるだけで終了。バッテリは1個につき単三乾電池4本で稼働し、連続稼働時間は約3時間。専用の充電器があるので長時間のロケにも対応できるだろう

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    MVN STUDIOとモーションセンサの通信設定

    アクター側でのセットアップが完了したら、続いて「MVN STUDIO」を起ち上げ、簡易キャリブレーションを行う。まずは、スーツ側の送信機とPC側の受信機の通信設定を下記のステップで行う。その手順は以下の通り;

    (1)PCにデータ受信機×2を接続(USBに挿し込む)
    (2)受信機の電源がONになるのを確認(ランプ状態は緑)
    (3)送信機×2の電源をON(ランプ状態は緑)
    (4)受信機/送信機のランプがそれぞれ青になれば無事にセットアップ完了
     
     

    送信機と受信機の通信設定の様子
     

    通信設定の完了後、キャリブレーションを行う。こちらもわずか4ステップで済んでしまう;

    (1)「MVN STUDIO(データのキャリブレーションや記録、出力等を行うアプリケーション)」を起動
    (2)ウィザードに従って新規のセッションを作成
    (3)データ通信が始まりアクター情報を認識
    (4)アクターは「Nポーズ(気を付けの姿勢)」を取る(約4秒)

    以上の手順を経て、撮影開始となるがキャリブレーション自体は約5分で完了したため、スーツ装着に要した時間を加味してもわずか10分程度で全てのセットアップが完了したことになる。
     

    簡易キャリブレーションの様子

    MVNstudio操作画面

    キャリブレーションのセットアップ作業画面。身長や足のサイズ、肩幅などを設定することで誤差のないキャプチャが可能となる
     

    "ごく普通の会議室"にて、セットアップから撮影の実演を解説してきたわけが、MVNのセッティング、キャリブレーション、そして撮影という一連の作業がいかに手軽にできてしまうのかお分かり頂けたと思う。特に、MOCAP用に特別の設備を取り揃えることが難しい中小プロダクションや、撮影空間に縛られずあらゆるシチュエーションでのMOCAPを必要とするプロダクションには有用なのではないだろうか。続く第2回目では、野外での撮影などカメラレス、スタジオレスのMVNならではの特徴をより詳しくお伝えすると共に、撮影後のデータの運用方法についてレビュー予定だ。

    MVN機材一式

    MVNシステム構成

    ■MOCAPスーツ、センサ、バッテリ

    小型慣性センサは標準で17個(オプションにて、1台のPCで最大20個まで使用可能)。センサとPC間はワイヤレスで通信し、スーツは動きやすい伸縮自由なライクラ素材を使用。各センサ間のケーブルは埋め込み配線となっており、激しい動きにも対応する。また、ソフトウェアを上位版の「MVN STUDIO Pro」にすれば、1台のPCで最大4人までの同時キャプチャが可能。スーツのサイズは、S/M/L/XL/XXLから選択

    ■MVN STUDIO ソフトウェア

    MVNに付属するキャプチャデータを簡単な操作で記録/出力できるソフトウェア。リアルタイムにデータを表示し、23ボーンの出力が可能となっている。再生、編集、キャリブレーションもこのアプリケーションで行い、汎用ファイル形式 BVH、FBX、MPG、AVIムービー形式(MVN STUDIO ProではC3D形式も可)など多彩な出力をサポートしている。またオプションにて、Autodesk MotionBuilderプラグインにも対応、CGキャラクターのリアルタイムプレビューも可能

    対応OS:Windows XP/Vista/7
    CPU:デュアルコア以上
    グラフィックスボード:DirectX 9対応のボード
    入出力端子:USB2.0×2ポートまたはハブ

    ゼロシーセブン公式サイト

    「MVN」に関するお問い合わせ

    ゼロシーセブン株式会社
    TEL:03-3560-7747(担当:池田)
    FAX : 03-3560-7748
    e-mail:info@0c7.co.jp