記事の目次

    グラフィックデザイン、ゲーム、CG、映像などのクリエイティブ業界へ、デザイナーあるいはアーティスト職での就職を希望する学生は、エントリーシートや履歴書と合わせて、作品集(ポートフォリオやデモリール)の提出を求められます。本記事では、ポートフォリオの「顔」とも言える表紙にスポットを当て、表紙に求められる役割と、ブラッシュアップのためのヒントを数回に分けてお伝えします。第4回では、モデラー志望者による表紙のブラッシュアップ過程を通して、ブラッシュアップ時の考え方とやり方をお伝えします。

    SUPERVISOR_斎藤直樹 / Naoki Saito(コンセント
    TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    取材協力_室橋直人(東京工芸大学)、東洋美術学校
    作例提供_堀内美里

    無個性な表紙から、作風が伝わる表紙へとブラッシュアップする

    3番目に紹介する実例は、モデラー志望の堀内美里さんのポートフォリオです。堀内さんは2018年3月まで東洋美術学校に在籍し、3DCG制作を学んでいました。

    • ブラッシュアップ前の表紙。堀内さんのポートフォリオの総ページ数は31ページ。パワードスーツ、背景、キャラクターなどのモデリング作品が序盤から中盤にかけての約2/3を占めており、終盤にはキャラクターのイラストレーション、コンセプトアート、石膏デッサンなどが掲載されています


    ▲ポートフォリオの冒頭に掲載されたパワードスーツのモデリング作品。全6ページを使ってていねいに紹介されており、目を引きます


    ▲ポートフォリオの中盤に掲載されている背景【左】、およびキャラクターのモデリング作品【中】と、終盤に掲載されているイラストレーション【右】


    堀内さんのポートフォリオの表紙はまだ未完成で、連載の第1回で紹介した無個性な表紙の典型例に近く、「注目を集める」「内容を伝える」という表紙の役割を果たせているとは言えません。加えて、ポートフォリオ内の作品の数々は同じ人がつくったとは思えないほど作風に開きがあるため、表紙に掲載する作品次第で見る人に与える印象がガラリと変わってしまいます。どんな作品を掲載すれば「堀内さんらしさ」を見る人に印象づけられるか、よく考える必要があると感じました。

    堀内さんにも、第2回の鳴海さん、第3回の小林さんと同様に、「YWT」というフレームワークを使ったポートフォリオ制作のふり返りをやっていただきました。

    Y=やったこと
    
W=わかったこと
    
T=つぎにすること

    Y=やったこと
    ・複数の先生にポートフォリオを見せ、意見をいただいた
    ・会社説明会などに参加した際に、会社の方にポートフォリオの添削をしていただいた
    ・なるべく色々なジャンルの作品を掲載するようにした

    W=わかったこと
    ・1つの作品をつくり終えると、次の作品では全く別ジャンルのものをつくりたくなる
    ・モデルのワイヤーフレーム、テクスチャ、ポリゴン数などの情報も掲載する
    ・各ページの見出しの位置を揃えるなどして、統一感を出した方が読みやすい
    ・ページ番号を掲載するとポートフォリオの編集時に面倒なので、掲載しない方がいい
    ・自信のある作品を一番前に掲載する
    ・中途半端な作品は掲載しなくていい
    ・フォントを統一させる
    ・制作時間は「○日」ではなく「○時間」と書いた方がわかりやすい
    ・会社に合わせたポートフォリオをつくる
    ・作品で自分らしさを出すのは難しかった

    T=つぎにすること
    ・ポートフォリオの更新
    ・新しい作品の制作
    ・作品のブラッシュアップ

    Wの中で「1つの作品をつくり終えると、次の作品では全く別ジャンルのものをつくりたくなる」「作品で自分らしさを出すのは難しかった」とふり返っていることから、堀内さん自身、どうすれば自分らしさを表現できるのか悩んでいることが汲み取れます。

    「自信のある作品を一番前に掲載する」とも書いていますが、堀内さんによくよく話を聞いてみると、冒頭に掲載されたパワードスーツのモデリング作品は「ハードサーフェスの表現に挑戦してみたい」という動機でつくった習作であり、ハードサーフェスに対して特別な思い入れがあるわけではないことがわかりました。となると、パワードスーツのモデリング作品を表紙に掲載した場合、採用担当者に誤解を与えてしまう可能性が高いと言えます。堀内さんの志望動機や、入社後にやりたいことがすんなりと伝わる作品を掲載した方が、面接時の会話もスムーズに進むでしょう。

    • 一方で、左のキャラクターはオリジナリティがあり、すごく魅力的だと思いました。これ以外の作品にも言えることですが、堀内さんの場合、3DCGよりも2Dのイラストレーションの方が、オリジナリティを発揮できていると感じました。そこで「欲を言うと、3DCGと2Dの世界観をつなぐような作品がほしいですね。例えば、オリジナルデザインのクリーチャーをモデリングしたり、イラストレーションで描かれた不思議な世界を3DCGで再現してみたりするのはどうでしょう?」と提案しました。もっとも、口で言うのは簡単ですが、実際に制作するのはかなり大変です。それでも堀内さんはこれを卒業制作のテーマに選び、挑戦してくださいました


    • 左は堀内さんが描いた表紙のサムネイルです。ポートフォリオのタイトルは「TRY」としました。この言葉には「3DCG制作はもちろん、パソコンでの作業にも苦手意識があったけれど、やっていくうちに楽しくなり、目標達成に向けて努力できた」という意味が込められています。3体のキャラクターはタコをモチーフにしており、「積木」「縄跳び」「一輪車」を通して「何かにTRYしていること」を表現しています


    • 先のサムネイルをもとにつくったのが、左の表紙です。キャラクターも背景も3DCGでモデリングし、手描き調のシェーディングを施しています。「堀内さんらしさ」を内包するオリジナリティのある作風で「3DCGと2Dの世界観をつなぐ」という目標がちゃんと達成されています。暖かみがあり、ちょっと不思議な絵本風の世界観でまとめるため、文字も手書きで表現しています


    前述の世界観をポートフォリオ全体へと展開するならば、例えば、このキャラクターを主要なページにも配置して「堀内さんワールド」の紹介者として使うと良いかもしれません。あるいは、カテゴリ名の頭に「TRY-1」「TRY-2」といった言葉を足してみるのも良いでしょう。そういった「繰り返し」を取り入れることで、堀内さんの世界観をより強く印象づけることができます。

    ただし、ポートフォリオの「顔」である表紙に配置するからには「新たな作風を増やすだけ」にならないよう注意してほしいと思います。「注目を集める」「内容を伝える」ことが表紙の役割ですから、堀内さんの世界観と作品を代表するビジュアルを、それに相応しい演出でもって見せてほしいと願っています。



    今回は以上です。次回もぜひお付き合いください。
    (第5回の公開は、2018年5月を予定しております)

    プロフィール

    • 斎藤直樹(グラフィックデザイナー)
      株式会社コンセント

      神奈川県横浜市生まれ。1987年東京造形大学造形学部デザイン科I類卒。広告企画制作会社、イベント企画運営会社を経て、1991年株式会社ヘルベチカ(現コンセント)入社。HUMAN STUDIES(電通総研)、日経クリック、日経パソコン(日経BP社)などの制作に関わる。東洋美術学校ではグラフィックデザインの実習を担当。

    Information

    • 採用担当者の心に響く
      ポートフォリオアイデア帳

      発売日:2016年2月3日
      著者:中路真紀、尾形美幸
      定価:2,000円+税
      ISBN:978-4-86246-293-0
      総ページ数:128ページ
      サイズ:B5判


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