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    グラフィックデザイン、ゲーム、CG、映像などのクリエイティブ業界へ、デザイナーあるいはアーティスト職での就職を希望する学生は、エントリーシートや履歴書と合わせて、作品集(ポートフォリオやデモリール)の提出を求められます。本記事では、ポートフォリオの「顔」とも言える表紙にスポットを当て、表紙に求められる役割と、ブラッシュアップのためのヒントを数回に分けてお伝えします。第3回では、イラストレーター志望者による表紙のブラッシュアップ過程を通して、ブラッシュアップ時の考え方とやり方をお伝えします。

    SUPERVISOR_斎藤直樹 / Naoki Saito(コンセント
    TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    取材協力_室橋直人(東京工芸大学)、東洋美術学校
    作例提供_小林紗近

    少し気取った表紙から、人を引き込む表紙へとブラッシュアップする

    2番目に紹介する実例は、イラストレーター志望の小林紗近さんのポートフォリオです。小林さんは2018年3月まで東洋美術学校に在籍し、イラストレーションを学んでいました。在学中に第一志望のゲーム会社と業務委託契約を結び、学業の傍ら仕事も始めました。

    • ブラッシュアップ前の表紙。小林さんのポートフォリオの総ページ数は48ページ。数多くのイラストレーションと、自分でデザインしたキャラクターが掲載されています。さらに3Dモデリング、Live2Dによるアニメーション作品も掲載しており、様々な表現方法に興味をもち、精力的に作品制作に打ち込んできた様子が伝わります


    ▲2Dのイラストレーションやキャラクターデザインに加え、3DモデリングソフトのMetasequoiaを使ったキャラクター制作にも挑戦しています


    ▲表情集、Live2Dによるアニメーション、デフォルメキャラクターのモデリングなど、自分でデザインしたキャラクターを様々な方法で表現しています


    小林さんが描くキャラクターたちは表情が豊かで、ポージングには躍動感があり、とても魅力的です。でも表紙には少し気取った感じのイラストレーションを選んでいるので、内容とのミスマッチが起こっており、もったいないと感じました。そこで第2回で紹介した鳴海さん同様、小林さんにも「YWT」というフレームワークを使ったポートフォリオ制作のふり返りをやっていただきました。

    Y=やったこと
    
W=わかったこと
    
T=つぎにすること

    Y=やったこと
    ・第一志望のゲーム会社の方々にポートフォリオを見ていただいた
    ・作品のブラッシュアップをした
    ・Live2D作品を増やした

    W=わかったこと
    ・人を楽しませるサービス精神が足りない
    ・ちょっとしたアイコンなどを加えるだけで賑やかになるし、UIもできるというアピールにもなる
    ・表紙にもっと時間をかける
    ・ゲームの説明書のように、見ていてわくわくするようなデザインにする
    ・キャラクターのどこがポイントなのか、伝わるデザインにする
    ・キャラクターデザインを見せる場合は、キャラクターの相関図や、日常を描いたイラストレーションなども入れる
    ・キャラクターの表情集を増やす
    ・日々の落描きをキャラクターごとにまとめる

    T=つぎにすること
    ・掲載しているのは1年生の頃の作品なので、全てブラッシュアップする
    ・UIの勉強をする
    ・色々なゲームの説明書を見る

    小林さんはゲーム会社の方々との対話や仕事を通して、UI(ユーザーインターフェイス)デザインにも興味をもったようです。広義に解釈すると、ポートフォリオの表紙もまたUIの1つであると言えます。ゲームのUIより、もっと素朴なUI、見る人をMy WorldへといざなうUIです。小林さん自身もWの1つとして「人を楽しませるサービス精神が足りない」とふり返っているように、今の表紙には「こっち側においでよ!」「楽しいよ!」と見る人を引き込むサービス精神、ウェルカムな気持ちが伝わるサービス精神が足りないのではないでしょうか。

    ただし「アイコンなどを加えるだけで賑やかになる」という考え方だと、ちょっと小手先に走ってしまうのではないかという不安を感じます。ゲームの説明書だけでなく、アイドルグループの特集記事、キャラクターの魅力をファンではない人に紹介する記事など、色々な宣伝媒体の「UI」をリサーチしてみると新たな発見があるかもしれません。

    こういう場合は、表紙づくりの作業ではなく、その前段階でじっくり考えてみることが大切です。「これでいこう!」と決まったら、作業はさくさく進むものです。一方で、作業の手が止まってしまう、ノリきれないという場合は、最初にどう考えていたのか、立ち止まって考え直すことが必要だと思います。

    第2回と同様、小林さんにも掲載作品全体を言い表すようなポートフォリオのタイトルを考えてほしいとお願いしましたが、こちらは難航しました。「好きなものを詰め込んである」「どれも楽しく制作できた」「元気な笑顔のキャラクターが多い」ことから、「笑う」という意味をもつヘブライ語由来の「isaac(アイザック)」というタイトルを思いつきましたが、まだ少し気取った感じが残っているうえ、キャラクターの名前に見えてしまいかねないという理由で却下となりました。実際、「isaac」は旧約聖書に登場する人物の名前でもあります。

    採用担当者から「これはどういう意味ですか?」という質問を引き出せれば良いですが、そう上手くはいかない場合が大半でしょう。かといって、自分で説明するのは格好がつきません。

    もう1案、「いきいき」「はつらつ」というタイトルも思いつきましたが「高齢者向け商品のパンフレットに見えそう......」という不安がありました。こういうときは、最初に考えた「サービス精神」というコンセプトに立ち返り、考え直すことが大切です。前回も書きましたが、タイトルに選ぶ言葉は「こっぱずかしい」くらいでちょうど良いのです。

    ▲とはいえ妙案は出てこなかったので、「今ある材料だけで表紙をつくるなら、どんなビジュアルになるか」を考え、サムネイルを描いてみることにしました。煮詰まってアイデアが出てこない場合は、このように完成形から考えてみることも有効です。理屈で考えるのが駄目なら、絵面で考えてみましょう。そうやっていくうちに、足りない要素や、ぴったり当てはまる言葉が見えてくるものです


    • 先のサムネイルをもとにつくったのが、左の表紙です。表情集の作品ページ用に描かれたイラストレーションを加工して、表紙に転用してみました。この作例のグラフィックデザインは、本連載の監修者である斎藤氏に依頼しました。小丸の散らし方、タイトルのケイ線にかかる指先などに、グラフィックデザイナーとしての長いキャリアを有する斎藤氏ならではの細かな配慮が見られます

    イラストレーターのポートフォリオの場合、自信作を大きく表紙に掲載する見せ方が王道ですが、何を見せたいのかが曖昧だと「へーうまいねえ」という感想だけで終わってしまうこともあります。前述の表紙のように、自分の強みや見せたいものをわかりやすく明示すると、より強いメッセージ性をもつようになります。



    今回は以上です。次回もぜひお付き合いください。
    (第4回の公開は、2018年4月3日を予定しております)

    プロフィール

    • 斎藤直樹(グラフィックデザイナー)
      株式会社コンセント

      神奈川県横浜市生まれ。1987年東京造形大学造形学部デザイン科I類卒。広告企画制作会社、イベント企画運営会社を経て、1991年株式会社ヘルベチカ(現コンセント)入社。HUMAN STUDIES(電通総研)、日経クリック、日経パソコン(日経BP社)などの制作に関わる。東洋美術学校ではグラフィックデザインの実習を担当。

    Information

    • 採用担当者の心に響く
      ポートフォリオアイデア帳

      発売日:2016年2月3日
      著者:中路真紀、尾形美幸
      定価:2,000円+税
      ISBN:978-4-86246-293-0
      総ページ数:128ページ
      サイズ:B5判


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