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No.05:到達度のちがいをどのように捉えるか?

No.05:到達度のちがいをどのように捉えるか?

完成度が低く、独創性が高い学生をどう導くか?

7月20日には全11回のまとめとして、簡単な発表会を行いました。前回(6月15日)は6名の学生が制作過程の内容をデモしてくれましたが、今回は発表時間が30分しか取れなかったこともあり、3名に留まりました。いずれも効果音としてフリーの音声素材を使用し、ブロックが消えるたびに萌えボイスが再生されたり、ステージの上方に天井をつくり、ボールが立体的に反射するようにブロックの配置を工夫したりといった、ユニークな作品に仕上がっていました。

▲発表会の様子


ただ、授業終了後に各自のプロジェクトフォルダを提出してもらったところ、未完成ながらも個性的な作品が数多く見られました。「一度に複数のボールが登場する」「手前と奧とで複数のバーが表示され、同時に動かせる」「本物のピンボールのように、射出ルートを設ける」「ステージ上に回転する細長いブロックを配置し、ボールの動きを妨害する」などです。「まだ作成途中だから」などと言い訳せずに、どんどん制作途中の内容を公開してほしかったところです。また教室内に、そうした雰囲気をつくり上げることが、今後の課題になりそうです。

これに限らず、クリエイターは一般的に制作過程を公開したがらない傾向にあります。一方でゲーム制作は集団作業であり、グラフィックデータを仮モデルで実装しておき、後から差し替えるなどの工程を踏むことが一般的です。また、制作途中のバージョンを他人に遊んでもらい、そこからフィードバックを得ることも、完成度を高める上で重要です。「個々の学生の進捗度の問題」にも関係しますが、試作と評価と改善のループ、いわゆるPDCAサイクルを意識させる工夫が、より求められそうです。

その上で提出された作品群の内容をチェックしたところ、おもしろい傾向がわかってきました。提出作品数が23件、うち提出ミス3件(シーンファイルのみ2件、過去の作品との混同1件)、有効作品数20件。これを「完成度の高さ」「独創性の高さ」の二軸で分類すると、次のような分布になりました。なお、完成度が高いとは各種スクリプトを使いこなしていること。独創性が高いとは特定の意図が感じられるステージ構成であることを意味しています。

A:完成度が低く、独創性が低い 7件
B:完成度が高く、独創性が低い 3件
C:完成度が低く、独創性が高い 7件
D:完成度が高く、独創性が高い 3件


このうちAはいわゆる「作業中」の段階に留まっていることを意味しています。Bは資料で示されたサンプルの改良に留まっているもの。Cは独創性が高いものの、スクリプトの使用度が乏しかったり、効果音が設定されていないもの。Dは独創性、完成度が共に高いものです。

ここで講師側が学生に求める一般的な到達コースは「A→B→C→D」となります。ゼロから演習を始めて、ある程度資料の内容がつくれるようになったら、それをもとに改造を始めて、最終的に完成させるという流れです。残念ながらAに留まった学生には、いかにBに到達させるか。そしてBで留まった学生には、いかにCへと進ませるかが、指導のポイントになりそうです。

ただ、これまでの授業内容をチェックしていると、少なからずAからCに、いきなり進んでしまう学生がいるように感じられました。こうした学生の特徴として「講義を聞くより、手を動かす方が好き」「とにかく思い通りにつくりたい」「無意味とも思われるつくり込みをして、ひとりで楽しんでいる」といった傾向が見られます。その結果、早い段階から勝手に改造を始めてしまい、時間内にまとめきれなくなる、というわけです。中には「こんなことをやりたいんですが?」と質問してきた内容が、そのまま資料に記されている、なんてこともありました。

もっとも、こうした学生は「つくる楽しさ」「表現する楽しさ」を知っているともいえます。その結果、決められた型にはめられることを、無意識のうちに避けてしまうというわけです。こうした資質はクリエイティブな仕事をする上で必須です。決められたことを決められたようにつくるだけでは、ただの作業員でしかないからです。それでは、仮にプロになったとしても、将来的に人件費が安い国に仕事をとられたり、AIに仕事がとって代わられたりすることになるのは、明らかでしょう。

とはいうものの、時間内にきっちりと一定のレベルまで到達することも、プロにとって重要なスキルです。このバランスの取り方を、演習を通して学ぶことが重要です。逆に一番まずいのは、時間内に終わらせようとするあまり、無難な表現に留まってしまうようになること。CからBに逆流してしまうことです。一方でクリエイティブな作業には完成がなく、締切を設けなければ、いつまでもCのままで留まってしまいがちなのも確か。ここでもポイントは、個々の学生の進捗度にどう向き合うか。今後の課題になりそうです。



今回は以上です。次回もぜひお付き合いください。
(第6回の公開は、2018年9月以降を予定しております)

プロフィール

  • 小野憲史
    ゲームジャーナリスト

    1971年生まれ。関西大学社会学部を卒業後、「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーのゲームジャーナリストとして活動。CGWORLD、まんたんウェブ、Alienware zoneなどWeb媒体を中心に記事を寄稿し、海外取材や講演などもこなす。他にNPO法人IGDA日本名誉理事・事務局長、ゲームライターコミュニティ世話人など、コミュニティ活動にも精力的に取り組んでいる。2017年5月より東京ネットウエイブ非常勤講師に就任。

本連載のバックナンバー

No.01:「あそびのデザイン講座」活用レポート
No.02:Unityスクリプトに初挑戦
No.03:Unityアセットストアに初挑戦
No.04:新年度がスタートし、ゼロから仕切り直して授業設計

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