>   >  新人講師がゼロから挑むUnityによる人材教育:No.06:あそびのデザインとMDAフレームワーク
No.06:あそびのデザインとMDAフレームワーク

No.06:あそびのデザインとMDAフレームワーク

「あそべる企画書」の時代到来に向けて

ただ、新しいメカニクスを実装するということは、Unity上でスクリプトを組むことと同義語なのですね。第6回目まではマウスを使ってUnity上でブロックを組み、ピンボール台をつくり上げていくという、初心者にとっても直感的に楽しめる要素が中心でした。しかし、第7回目からはスクリプトとUIの作成が中心になっていきます。そして多くの学生がスクリプトの作成で苦労しているのは、すでに本連載でも述べたとおりです。

▲筆者が自作した第7回の動画チュートリアルの一部


また今後、単に「Unity上で課題が達成できて良かった」というだけにとどまらず、演習内容に対して解説したり、各自が考察したりする時間が、ますます必要になっていきます。第7回目の演習についても、1コマ目でMDAフレームワークとの関係性や、ゲームオーバーとスコアの関係性などについて、PDFをもとに簡単な講義を行なったため、その分だけ演習時間が削られてしまうことになりました。限られた時間で何をどのように教えるか、悩ましいところです。

なお、これは企業によっても異なりますが、ゲームデザイナーがUnity上でスクリプトを作成し、メカニクスを実装する機会は、それほど多くありません。スクリプト作成はプログラマーの仕事という企業が大半だからです。実際問題として、シナリオが多少バグってもゲームは進行するものの、スクリプトがバグるとゲームが起動しません。このように考えると、ゲームデザイナーにスクリプトを触らせない企業が多いのも理解できます。

もっとも、ゲームデザイナーがこうしたスキルを身につければ、自分で思いついたアイディアをUnity上で実装し、おもしろさを検証することが容易になります。実際に本媒体でも過去にレポートしたとおり、海外企業ではレベルデザイナーの採用時に、ユニークなパズルを組み込んだオリジナルのレベルを作成させ、応募時の課題とする例が存在します。日本でも単に企画書が作成できるだけでなく、実際に操作できるモックが提出できれば、企業の採用率が高まることは言うまでもないでしょう。

実際問題として日本の多くの企業では、ゲームデザイナー採用に際して企画書の作成と提出を課しています。しかし、学生が企画書の作成だけで、おもしろさを伝えることは困難です(たいてい穴があります)。採用側としても、企画内容の審査は二の次、三の次で、「タイトルの付け方や企画書のデザインにセンスが感じられるか」「細かいところまでこだわってつくられているか」など、学生の可能性を探る手段として活用されている場合が多いようにも感じられます。

逆に学生がゲームエンジンを用いて「あそべる企画書」を作成できるようになれば、企画書だけでは気づかないメカニクスの穴も、事前にチェックできるようになります。採用側としても、より正確に学生の資質を判断できるようになるでしょう。ゲームをWebGLでビルドし、企画書のスライドと共にWeb上に組み込んで、志望動機とともにURLを提出する......。遅かれ早かれ、そうした時代が来るのは明らかだと思われます。自分もそこを見すえて授業を準備していきたいと考えています。

一方で「あそびのデザイン講座」自体も、各回の内容をWebGLでビルドし、解説を付記してWebコンテンツにしてしまい、「あそべるゲームデザイン学習サイト」などにしてしまう、といった発展系が考えられます。ゲームデザイン教育に関する教材やマニュアルの研究は、世界的に見ても発展途上にあります。1980年代に日本のゲームが世界を席巻したように、日本のゲームデザイン学習コンテンツが世界を席巻し、次世代のゲームクリエイター育成につながることを期待しています。



今回は以上です。次回もぜひお付き合いください。
(第7回の公開は、2018年10月以降を予定しております)

プロフィール

  • 小野憲史
    ゲームジャーナリスト

    1971年生まれ。関西大学社会学部を卒業後、「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーのゲームジャーナリストとして活動。CGWORLD、まんたんウェブ、Alienware zoneなどWeb媒体を中心に記事を寄稿し、海外取材や講演などもこなす。他にNPO法人IGDA日本名誉理事・事務局長、ゲームライターコミュニティ世話人など、コミュニティ活動にも精力的に取り組んでいる。2017年5月より東京ネットウエイブ非常勤講師に就任。

本連載のバックナンバー

No.01:「あそびのデザイン講座」活用レポート
No.02:Unityスクリプトに初挑戦
No.03:Unityアセットストアに初挑戦
No.04:新年度がスタートし、ゼロから仕切り直して授業設計
No.05:到達度のちがいをどのように捉えるか?

その他の連載