自分で教材をつくって授業で活用してみる
さて、後期の授業では別のテーマが存在しました。それが座学パートにおけるUnityの活用です。これまで何度か説明してきたように、本授業は2コマ連続の90分授業で設計されています。前半90分で座学を行い、後半90分でUnity演習を行うというスタイルです。その上で前半と後半の授業内容を有機的に絡めることを目標としていましたが、なかなか難しかったというのが実情でした。
そこで後期では発想を転換して、座学パートで用いる教材をUnityで制作し、ゲームを遊びながら内容の理解を深めてもらいました。ゲームをおもしろくするためのノウハウについて、単にスライドなどで説明するだけでなく、体感してもらえるようにしたのです。そのため後期では毎週のようにScratchやUnity Playgroundでミニゲームをつくって、学生に遊んでもらいました。
例えば学生作品には、サウンドやエフェクトが未実装のままで展示されているものが散見されます。学生に事情を聞くと、「時間が不足していた」「担当者が捕まらなかった」など、様々な理由が挙がってきます。ただ、中にはメカニクスにばかり目がいってしまい、それ以外の要素に対する理解度が乏しいままで、演習を行なっている場合があります。
そこで同じシューティングゲームのメカニクスで、演出が4段階で豪華になっていくデモを遊んでもらい、おもしろさの比較をしてもらいました。それぞれ5段階で採点させたところ、クラス全体での平均点が1.9点→2.6点→3.4点→4.4点と上昇していきました。かなり荒っぽい議論ではありますが、このことから同じメカニクスであれば、演出の種類が多い方が、ゲームのおもしろさが増すことが理解してもらえたのではないかと思います。
▲授業用ミニゲーム その1
同様に前期の終盤で、ゲームを遊びながらプレイヤーの頭の中で、「目標→考察→行動→結果→報酬」というサイクルが回転している様について説明しました。この点についてさらなる理解を深めてもらうために、後期では画面の上から降ってくるボールを避けながら、画面の上に向かって移動を続け、ゴールに到達するミニゲームを作成しました。その際、ボールから身を隠せる安全地帯の場所を変えた、2種類のバージョンをつくって、遊び比べてもらいました。
▲プレイヤーの頭の中のサイクルについて解説した授業用スライド
▲授業用ミニゲーム その2
▲授業用ミニゲーム その3
動画にある通り、前者では安全地帯の間隔が離れていて、次の場所がわかりません。安全地帯の場所は常に動いているため、プレイヤーはボールが飛び交う中で、瞬時に移動方向を判断しながら、適切な操作を行なっていくことが求められます。これに対して後者では、次の安全地帯の場所がある程度見えているため、最適なタイミングを見計らって移動できます。つまり、じっくりと「目標→考察→行動」ができるというわけです。
こうしたレベルデザインのちがいで、前者よりも後者の方が攻略性が増したという言い方ができますし、歯ごたえがなくなったという言い方もできるでしょう。ちなみに、授業では後者の方がおもしろいと答えた学生の方が多数派でした。もっとも後期では一貫して「わかりやすい(迷いやすい)ゲームづくり」の重要性について説明したため、かなりバイアスがかかったと思われます。両者を遊ぶ順番によっても変わってくるでしょう。後日あらためて再調査してみたいところです。
最後に自機とコントローラのデザインの関連性について理解してもらうため、Scratchでつくった教材を紹介しましょう。宇宙船を操作して、一定時間で敵を撃破したスコアを競うシューティングゲームです。このとき、初めにキーボードのQで攻撃、Wで加速、Eで左回転、Rを右回転と、わざと遊びにくくしたものを遊んでもらいます。どういったキー配置であれば、より遊びやすくなるか考えてもらうためです。
そうすると、様々なアイデアが出てきます。左右キーで回転し、スペースキーで攻撃、上キーで加速などは好例です。そこで実際にプログラムを改造して、遊びやすくなったか確かめてもらうのです。同様の教材はUnity Playgroundでも制作可能ですが、Unityだとキー配置を自由に変更するのがちょっと面倒くさいため、Scratchで制作しました。
▲授業用ミニゲーム その4
改良前:scratch.mit.edu/projects/338298752/
改良後:scratch.mit.edu/projects/340092067/
ゲームの歴史に詳しい人であればご存じだと思いますが、この教材では世界初のアーケードゲームである『Computer Space』(1971)のゲーム内容と操作デザインを踏襲しています。本作は世界初のビデオゲームとされる『Spacewar!』(1962)に影響を受けてつくられましたが、その際に操作系も踏襲するミスを犯してしまったため、商業的にはふるいませんでした(本作を製作したノーラン・ブッシュネルは、この反省からダイアルひとつで遊べるゲーム『Pong』(1972)を開発し、大ヒットに導きます)。
▲コントローラのデザインについて解説した授業用スライド
このことはゲームデザインにおいて、自機の形状とコントローラのデザインに強い関連性があることを示しています。実際に1980年代のアーケードゲームでは、様々なコントローラーが登場し、ゲーム体験の向上やゲームデザインのノウハウ蓄積に大きく寄与しました。また、近年になって電子工作を駆使したオリジナルのコントローラが登場し、インディゲームシーンで盛り上がりを見せています。
本授業でもScratchでゲームを遊んでもらった上で、アーケードゲームへの移植を念頭に、オリジナルのコントローラを考案し、アイディアスケッチを描く演習に挑戦してもらいました。また、ユーザーインターフェイスデザインにおけるアフォーダンスとシグニファイアの概念についても、合わせて解説しました。その結果、様々なコントローラのイラストが寄せられました。
●授業用に制作したミニゲーム群の一例
▲授業用ミニゲーム その5。ゲームは「自機」と「世界」と「両者の関係性」によって記述されていることを説明するために、『くるくるくるりん』(2001)にヒントを得て制作したゲーム。自機の形状を変化させることで、ゲームの体験が大きく変化する様を体験してもらう
▲授業用ミニゲーム その6。人間は左右の分かれ道で7割が左に曲がり、目の前に壁があると7割が壁に左手をついて進む......という特性について説明するためのゲーム。ただし、2Dゲームにしたため理解度も限定的だった。3Dダンジョンゲームにすることを検討中
▲授業用ミニゲーム その7。片手で操作するだけなら簡単でも、両手で別々の操作を要求されると、とたんに難易度が上昇することを説明するためのゲーム。授業ではこの弱点を逆手にとったゲーム『ブラザーズ : 2人の息子の物語』(2013)のゲームデザインについても紹介
もっとも、こんなふうに遊びながら学べるゲーム教育を、すでに実践されている先生方も多いのではないかと思います。自分のスキルでも、Unity Playgroundを使用すれば、だいたい1~2時間で1本のゲームがつくれましたので、それほど大きな負担になったわけではありません。むしろ前回で紹介した、演習課題のチュートリアル作成の方が大変でした。
逆にもし、まだ実践されていない方がいらっしゃいましたら、これを機会に、ぜひ挑戦されることをお勧めします。その上で近い将来、こうした教材が共有されたり、書籍化されたりして、誰もが自由に使えるようになればいいなあと思います。