授業スタイルを刷新し、Unityでつくった教材を活用する
このほか、後期の授業では冒頭で30分の時間をとり、毎回3名ずつ、自分が好きなゲームのプレゼンテーションを、ひとり5分の制限時間で行なってもらうようにしました。簡単なスライドと共にゲームの概要やおもしろさをみんなの前で説明してもらいます。公式サイトを表示したり、動画を再生したりするのもアリです。中には自分でプレイ動画を作成し、再生した学生もいました。
というのも、前期の最後にレポート試験を行なったところ、留学生の大半で日本語の文章力に課題があることが判明したからです(本クラスは約7割が留学生です)。半ば予想していましたが、こちらの想像を超えていました。残念ながら文章力は一朝一夕には上がりませんが、プレゼンを行うことで、その一助にはなります。ゲームの魅力をわかりやすく説明することは、ゲームの体験について考えるきっかけにもなります。
なお、このスタイルは書評バトルとして全国で行われている「ビブリオバトル」を、ゲームに当てはめたものです。実は2017年度の授業でも実施していましたが、そこそこ時間を取られるため、2018年度は休止していました。それを学生の事情にあわせて復活させた形です。実際にやってみると、2年前と比べて想像以上に洋ゲーやインディゲームの紹介率が高く、驚かされました。
●授業で紹介されたゲーム一覧
・Euro Truck Simulator
・Fate/Grand Order
・Mount & Blade II: Bannerlord
・Lost Castle / 失落城堡
・Planet Zoo
・機動戦士ガンダム エクストリームバーサス2
・ゴッド・オブ・ウォー
・Hollow Knight
・ザ・シムズ4
・Cuphead
・スーパーマリオメーカー 2
・グランド・セフト・オートV
・オリとくらやみの森
・7 Days to Die
・大乱闘スマッシュブラザーズX
・Home Sweet home
・Gremlins, Inc.
・アリス・ギア・アイリス
・RimWorld
・オバケイドロ!
・Dead by Daylight
・Warcraft III Reforged
・セブン・ビリオン・ヒューマンズ
・ドラゴンボールℤドッカンバトル
・XCOM 2
・デビル メイ クライ5
・バイオハザード3 LAST ESCAPE
・マブラヴ オルタネイティヴ
・Baba Is You
・レインボーシックス シージ
・Frostpunk
もうひとつ授業で工夫した点があります。それが、授業の最後に毎回20分ずつ時間をとり、ペーパー演習を行うことです。前述の通り、自機とコントローラの関係性について学んだのであれば、そこから「アーケードゲーム版のコントローラは?」などの応用問題を提示して、紙に描いて提出してもらいます。このとき文字だけでなく、簡単なイラストを添えてもらうことが条件です。
ほとんどの学生にとって、ゲームのアイデアや要素を紙の上に図解することは、初めての経験でした。そのため最初は意味をなさない絵が大半でした。もっとも、アイデアをまとめて図示できるようになれば、企画書や仕様書づくりで役立つことは言うまでもありません。重要なことは「美麗な絵」ではなく「説明的な絵」を描くことです。こちらも2018年の授業で実施したものをブラッシュアップし、しつこく続けたところ、次第に画力が上がっていきました。
▲ペーパー演習の学生の回答例
逆に前期の授業では、必ずグループ演習を行いました。毎回くじ引きでちがったグループを組み、同じように授業に即した演習を行なってもらったのです。こちらのねらいも留学生対策でした。授業の内容にわかりにくい点があっても、グループ演習でほかの学生に聞くことで、フォローが期待できます。毎回ちがったメンバーでグループを組むのも、コミュニケーション力の向上につながります。個人演習とグループ演習では、それぞれ特性がありますので、うまく組み合わせていければと思います。
もっとも、以上の内容を90分に押し込もうとすると、けっこう大変です。「5分間プレゼンテーション(30分)」→「ミニゲームを遊ばせつつ講義(40分)」→「ペーパー演習(20分)」というタイムスケジュールを立てましたが、講義が押してしまうこともありました。
また、中にはUnity演習の時間を使ってペーパー演習を行う学生も見られました。ただし、そこはあえて目をつぶりました。2018年度は宿題としましたが、提出率が低かったためです。ほかにUnity演習に途中からついていくのが難しくなった学生に、何か課題を提示したいという想いもありました。
なお、前期・後期で使用したスライドはこちらです。後期のスライドにはペーパー演習で用いたPDFシートのダウンロードリンクもつけましたので、興味のある方はご覧いただければ幸いです。
▲前期スライド
▲後期スライド
連載のまとめにかえて
以上で今回の内容は終了です。まだまだ力不足な点が多々あり、試してみたいアイデアもたくさんあります。ただし、内容が当初の「ゲーム専門学校の新人講師がUnityを学びながらUnityを教える様をレポートする」点からずれてきたので、ここでいったん連載終了とさせていただきます。改めて初期の記事を読むと、ひどいですね。文句も言わずに授業を受けてくれた学生諸君には感謝の念に堪えません。
▲授業風景
実際に「人に教えることは自分が教わること」であり、教えた内容を基に記事を書くと、いい振り返りにもなります。つまり、本連載で一番得をしたのは、他ならぬ筆者ではなかろうか......。商業媒体は敷居が高くても、授業の内容をもとにブログなどを書かれると、自分のためにも周囲のためにもなって、お勧めです。実際、自分が連載を始めた背景にも、授業づくりの参考になる情報がほとんどないことがありました。
一方で過去3年間における初学者向けゲーム開発環境の充実ぶりには驚かされるものがあります。背景にあるのが世界的なSTEAM教育の広がりです。もはやクオリティさえ考えなければ、誰でもゲームをつくれる時代になったと言っても、過言ではありません。「メイカー」ムーブメントなどとも融合し、趣味のゲームづくりや、実験的なゲーム制作がますます広がることが予想されます。
自分が運営に参加しているNPO法人 IGDA日本でも、クレヨンで描いたキャラクターをWebカメラなどでキャプチャし、デジタルデータ化して、クラウド上で共有するシステムを公開中です。このキャラクターはUnityのprefabに転用できるため、これまで福島ゲームジャムなどで活用されてきました。そこで自分も本キャラクターを用いたミニゲームを制作し、ワークショップで試遊展示するなどしています。
▲お絵描きワークショップ 紹介動画 その1
▲お絵描きワークショップ 紹介動画 その2
裏を返せば誰もがゲームをつくれる時代になってきたからこそ、プロを志す学生であれば、より高みを目指すことが求められると言えるでしょう。それにともない授業の内容もまた、改善が求められていくことは言うまでもありません。冒頭で触れたとおり、日本のゲーム教育が新たなステージに進みつつある中、これは大きな課題となります。自分としても、さらなる研鑽や実践を積んでいきたいと考えています。
最後になりましたが「あそびのデザイン講座」という素晴らしい教材を制作され、筆者の度重なる質問にも丁寧に御回答いただいたユニティの安原広和氏。このような機会を提供いただいたCGWORLD.jp編集部の皆様。そして授業内容をレポート記事にすることをご快諾いただいた東京クールジャパンの皆様に、あつく御礼を申し上げます。ありがとうございました。
プロフィール
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PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota -
小野憲史
ゲームジャーナリスト
1971年生まれ。関西大学社会学部を卒業後、「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーのゲームジャーナリストとして活動。CGWORLD、毎日新聞、Alienware zoneなどWeb媒体を中心に記事を寄稿し、海外取材や講演などもこなす。ほかにNPO法人IGDA日本名誉理事・事務局長、ゲームライターコミュニティ世話人など、コミュニティ活動にも精力的に取り組んでいる。2017年5月より東京クールジャパン、2019年4月よりヒューマンアカデミー秋葉原校で、それぞれ非常勤講師に就任。
本連載のバックナンバー
No.01:「あそびのデザイン講座」活用レポート
No.02:Unityスクリプトに初挑戦
No.03:Unityアセットストアに初挑戦
No.04:新年度がスタートし、ゼロから仕切り直して授業設計
No.05:到達度のちがいをどのように捉えるか?
No.06:あそびのデザインとMDAフレームワーク
No.07:「あそびのデザイン講座」の根底に流れるデザイン思想とは?
No.08:遊んで楽しい、つくって楽しい、そして......
No.09:レベルデザインで変わるゲーム体験
No.10:サンプルを魔改造してランゲームをつくる
No.11:日本のゲーム教育で学校に求められることとは何か?
No.12:現実を抽象化・誇張化するとゲームになる
No.13:メカニクスとレベルデザインの接続
No.14:満を持してメカニクスデザインへの移行