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第21回:プロダクションパイプラインについて考える

第21回:プロダクションパイプラインについて考える

みなさんこんにちは。世間は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威をふるっています。この影響で、これまで大規模なリモートワークが難しいのではないかと思われていた映像制作プロダクションが一気にリモートワーク体制を整え、実施しているという話を耳にすることが多くなりました。まだまだ多くの課題があり、試行錯誤は続けられるとは思いますが、これを機会に様々なものが大きな転換点を迎えそうです。

前回のまとめで2回程クラウドを絡めた番外編を挟むというお知らせをしましたが、今回の記事が4月頭に公開となってキリが良いので、今回から新章に突入していきます。本連載ではこれまでにローカルPCでの環境構築、社内の環境構築、クラウドを含んだ環境構築と進み、プロダクションの基礎を固めてきました。その結果、われわれは色々な要素技術を手にすることができました。今回からは、固めた基礎の上に、映像制作を行うための体制を築いていきます。

映像制作を行うための体制づくりといっても、やることは多岐にわたります。その中でも、本連載では映像制作パイプラインを話題の中心に据えて進めていきます。

TEXT_痴山紘史 / Hiroshi Chiyama(日本CGサービス
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

パイプラインとは?

ひとくちにパイプラインと言っても、人それぞれ思い浮かべる内容は異なります。ここでは、一例として『ゲーム・映像制作パイプライン構築マニュアル』(ボーンデジタル/2014/原題『Production Pipeline Fundamentals for Film and Games』)に書かれている内容をご紹介します。

パイプラインは制作に携わる各アーティストの仕事を結びつける接着剤である。パイプラインは、その中で労働者がそれぞれ自分の作業を行ってから完成した仕事を次に手渡す組立ラインとよく似ている。

工場の組み立てラインというのは、ひとつのわかりやすいイメージです。

ところで、工場の組み立てラインをつくるためには、それ以前に考えるべきことがたくさんあります。

・組み立てラインを使って何をつくるのか(成果物は何か)
・成果物をつくるために必要なタスクは何があるか
・成果物をつくるために必要な道具は何か
・成果物をつくるためのルールをどうするか
・原材料の管理をどうするか
・つくったものの整理や管理はどうするか
・そもそも組み立てラインをつくる必要があるのか

上記のようなことが先に決まっていて、それに合わせて環境をつくるというのが間違いのない方法です。組み立てラインと言っても、自動車のように多くの工程を経て似たような製品を大量生産するものと、お弁当屋さんのように日々刻々とつくる商品を変えつつ回していくものでは最適な形はちがってきます。ここで陥りがちなのが、規模感も目的もまったく異なる事例を上っ面だけ真似してしまうことです。それぞれのラインは個別の背景をもっていて、それに合わせて構築されています。きちんと自分なりに解釈・再構築をして取り入れるようにしましょう。

パイプライン整備の副次的な効果

パイプラインを整備することで、業務をシステム化できる以外にも様々な効果を期待することができます。最も大きいのが、自分たちが行なっている仕事を改めて整理し、それぞれに名前をつける機会になることです。

日々の仕事ではスタッフ間の暗黙の了解ができており、複雑なルールがあったとしても、ほとんど意識されずに業務を遂行できてしまうことがよくあります。少人数かつ人の入れ替わりが少ないスタッフで、驚異的な成果を出すようなチームによくあるケースです。これはこれでひとつの完成形ですが、単純に新しい人員を追加するだけでは組織を大きくすることができないため、どうしても成果物のトータルな物量に限界が生じてしまいます(それでも驚異的な成果を上げるのがこのような組織の恐ろしいところですが)。これは目指してなれるものではないので、あまりおススメできません。

新しく入ってきたスタッフが即座に十分なパフォーマンスを発揮できるようにするためには、これでは不十分です。大きなプロジェクトのために人を増やしたのに、新規スタッフのために既存スタッフの時間を奪ってしまうとなると本末転倒です。

それを避けるためには、日々の仕事を分類して名前をつけ、整理し、統一感をもって管理できるようにしておく必要があります。そして、必要以上に複雑なルールや、曖昧になっている運用を洗い出し、見直していきます。これはそのままパイプラインを整備するために必要なことでもあります。タスクを細分化し、名前をつけ、データを整理することができなければ、いくら優秀なツールを導入したとしても無駄に終わります。

参考までに、前述の『ゲーム・映像制作パイプライン構築マニュアル』で例として挙げられているVFXプロダクションパイプラインをご紹介します。

※引用元:『ゲーム・映像制作パイプライン構築マニュアル』 p. 5


普段あまり気にしていない作業でも、ひとつひとつリストアップして図にしてみると、思った以上に複雑なことを行なっていることに気づきます。また、作業間のながれが不明瞭であったり、乱れていたりする部分も明らかになるため、そこから改善の糸口を見つけることができます。

ツール開発とパイプライン整備のちがい

社内やプロジェクト内で行うツール開発と、パイプラインの整備は目標もアプローチも大きく異なります。このちがいをきちんと意識しないと、これまでの自分のやり方をそのまま適用しようとして上手くいかなかったり、窮屈な思いをすることになってしまいます。

そして、このちがいは前述する日々の仕事の見直しにも大きく影響してきます。

プロジェクトの中でTA/TDやデザイナーがツールをつくる場合、最大の目的は目の前の問題を解決することになります。例えば、素早くファイルを開きたい、簡単にテクスチャのパスを差し替えたい、といった要求に応えることです。ここで一番の目安になるのが、クリック数を減らすことです。3クリック必要なところを1クリックに減らす、といったことが大きな目安になります。この場合、プロジェクト中での問題を解決することが主な目的なので、仕事のやり方やフローは変えないことが多いです。

それに対して、パイプラインシステムの整備を行う場合は、チームや会社全体を見渡して問題を解決していきます。このとき、問題解決のために、あるチームに追加の負担がかかることもよくあります。しかし、プロジェクト全体を見た時にメリットがあるのであれば、がんばる価値があります。ここで、目の前のクリック数を減らすという思考に支配されてしまっていると、なかなか受け入れることができなくなってしまいます。

また、人が行なっている作業を見直して、機械に仕事を任せやすくすることを目指します。作業を見直すことで機械に任せることができれば、人の数十倍、数百倍の効率で確実に作業をさせることができます。そうすれば、そこに時間を割かれていた人は、本来行わなければいけないクリエイティブな仕事に集中することができます。

人が行なっていた作業を機械に任せようとすると、根本的に仕事のやり方やフローを変える必要もでてきます。仕事のやり方を変えて、機械に任せやすくすることは何も特殊なことではなく、CG制作では普段から行われていることです。例えば、レンダリングを効率的に行うためにレンダラ専用のアセットを用意することがあります。これも、アセット作成だけで見ると手数や管理の手間が増えて煩雑なだけですが、プロジェクト全体で見るとレンダリングコストの削減につながるため、全体の工数を削減することができます。

スペシャリストとジェネラリスト、それらとパイプラインの関係

ここ10年ほどで日本でもアーティストのスペシャリスト化が進み、特定の分野に絞ったコミュニティができるようになりました。

環境を用意する側から見ると、アーティストの専門化には大きなメリットがあります。まず、アーティストが使用する環境を絞ることができます。例えばアニメーターには速いCPUのマシンを用意するが、色を見る必要はないのでモニタはそこそことか、ライティングアーティストにはカラーマネージメントが十分されたモニタを使ってもらい、ソフトウェアもKatanaのような専用のものを使用してもらうという判断ができます。

全てのアーティストがジェネラリストとして作業して何でもこなすという環境の場合、誰もが何でもできるための環境を用意する必要があります。高速なCPU、高価なモニタ、Maya、ZBrush、Arnold、Katana、Houdini、などなど全て盛り込んだ環境を全員に用意していたらお金がいくらあっても足りません。

スペシャリストないしはジェネラリストとパイプラインの間には、どのような関係があるでしょうか。私は、システム的には関係のない独立なものであると考えています。

スペシャリストやジェネラリストという分類は、パイプラインや、それを構成するタスクをどのように割り振るかというお話です。パイプライン中のモデリングというタスクをモデリングチームに、リギングというタスクをリグチームに割り振るのがスペシャリスト向けのタスク配分であり、タスクの種類を(あまり)問わずスタッフに分配するとジェネラリスト向けのタスク配分になります。この場合でも、両者でタスクごとに使うツールやルールにちがいはありません。


上図のように、Char_A、Char_B、Weapon_Aというアセットに、それぞれModel、Rig、lookdevという作業フェーズがあった場合、合計で9つのタスクが発生することになります。このような、作業フェーズの分類とタスクのリストアップのお話と、リストアップしたタスクをchiyama、suzuki、nishizumi の3人にどのように分配するのかというお話は分けて考えることができます。

まとめ

今回はパイプライン編の最初ということで、俯瞰的な内容をご紹介しました。具体例が少なく、ピンと来ない部分も多かったかもしれません。次回からはパイプライン整備に関する具体的なお話を進めていきます。



第22回の公開は、2020年5月を予定しております。

プロフィール

  • 痴山紘史
    日本CGサービス(JCGS) 代表

    大学卒業後、株式会社IMAGICA入社。放送局向けリアルタイムCGシステムの構築・運用に携わる。その後、株式会社リンクス・デジワークスにて映画・ゲームなどの映像制作に携わる。2010年独立、現職。映像制作プロダクション向けのパイプラインの開発と提供を行なっている。新人パパ。娘かわいい。
    @chiyama

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