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    Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。

    TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony​ Pictures​ Imageworks
    EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

    今回のお題

    こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。今回は、「めんどくせえなぁ」というテーマでのポーズの添削をさせていただきます。

    「めんどくせえなぁ」というお題は、言葉のニュアンスからもわかる通り体の力がかなり抜けた印象のポーズです。つまり、ここでも僕がポーズをつくるときに大事にしている「緊張と緩和(力が入っている・抜けている)」という要素が使えると思います。最初に出してもらったポーズではその辺りがよく出来ているのと思ったので、まずはそこから解説していきます。

    作品01:「めんどくせえなぁ」

    投稿作品

    Point 1:まぶたの緊張と緩和

    これが最初に出してもらったポーズです。「めんどくせえなぁ」というのは、恐らく左側のキャラクターの感情になると思うのですが、個人的によくできていると思うのはキャラクターのまぶたです。ポーズをつくる際、眉毛の方が優先度が高いことが多いのですが、 観ている人の目線が真っ先に集まる「目の周辺」もかなり重要です。そこで、まずはまぶたについて解説していきます。

    緊張と緩和のルールは体のどの部分であるかに関わらず、基本的には同じルールを当てはめることができます。「 緊張(力が入っている)」は、 内へ向かう力と外へ向かう力のどちらか、「緩和(力が抜けている)」 はその中間といったイメージで考えると分かりやすいと思います。

    今回のポーズでは、先ほど説明した通り力が抜けているポーズにしたいので、まぶたの位置はちょうど良い場所にあると思いました。ちょうど良い位置にあることで、より良い感じで力が抜けている「めんどくせえなぁ」という雰囲気が出ています。


    Point 2:黒目の見え方と目線
    <正面の場合>

    目はキャラクターの感情を伝えたり印象をつくったりするのに、とても大切なパーツなのですが、 「キャラクターがどこを向いているのか」という目線を定義する上でもかなり重要な要素になってきます。正面の場合は、正直言うとそこまで大事というわけではないのですが、左右の黒目の離れ具合により遠くを見ているのか近くを見ているのかが分かってしまいます。

    Point 3:黒目の見え方と目線
    <左右の場合>

    次に、最も初心者のアニメーターがまちがえやすい上に重要なポイントである「左右の方向と目線の見え方の関係性」です。 多くの初心者アニメーターは、黒目がまぶたに隠れるのは強がり、結果としてキャラクターの目線がずれてしまいます。 もちろん黒目がまぶたに隠れるとキャラクターの魅力が薄れてしまったり、デザインとして良くなかったりするのですが、 決まった方向を見ているのにその方向に黒目が向いていないと、左右で目線が合っていないような印象になってしまいます。

    左右を向いているときはある程度黒目を埋めた方がいいのですが、この辺りのバランスがとても大切です。基本的なルールとして、黒目はまぶたに半分くらいまでは埋めても大丈夫です。目線に関しては自分でつくっていると、合っているのか合っていないのか気が付きにくいのですが、このように比べて見ると一目瞭然ですね。この辺りの感覚は、経験や慣れも重要な部分でもあるので意識しておきましょう。

    先ほども触れた通りバランスがとても大切なので、逆に黒目は埋もれすぎてもダメだったりします。 具体的なMayaでのリグの扱い方の話になってしまいますが、キャラクターの目線をつくる際、IKの目線を使うと首を振ったときに黒目が必要以上に隠れてしまうことが多いので、この点に関してもあわせて気をつけておきましょう。 今回のポーズでは、隠れすぎてしまうという部分が気になったので、僕からのフィードバックとして挙げさせていただきました。

    Point 4:CGアニメーションにおいて気をつけるべき2つのポイント

    CGアニメーションでは、手描きアニメーションでは見られない特有の気をつけるべきポイントが存在します。アートの観点から考えると大事なポイントというわけではないのですが、プロとしてプロの仕事をする上ではかなり重要なポイントになってきます。

    ①しわ

    CGアニメーションでは、アニメーションをつける段階でキャラクターの皮膚や表面のディテールがそこまではっきりと見えるわけではありません。したがって、アニメーションの段階ではそこまで見えなかったしわなどが、ライティングの光が当たることで浮き上がってきます。 最終的にそのようにライトが当たると、アニメーションの見映えや動きが変わって見えるということが起きてしまいます。 このあたりは、アニメーションをつける段階で常にジオメトリの変化にも目を向けておくことで、ある程度は回避することができます。余計なシワやジオメトリの動きに違和感がないかチェックしましょう。

    ②影

    しわと同じように影もアニメーションが終わった後の工程で、ライティングなどが当たると浮き彫りになってきます。 CGアニメーターにとって特に気をつけてほしい部分としては、例えば影の位置によってキャラクターが浮いているように見えてしまうことがあります。カメラからはそこまで見えなくても、接地などをちゃんとアニメーションの段階で詰めておくことで回避出来るので覚えておきましょう。

    添削前のポーズ


    添削ノート


    添削後のポーズ

    今回は、キャラクターのポーズをつくる上で最も重要な部分と言っても過言ではない、目についてのコツやポイントをあれこれと解説してみました。ほかの表情のパーツでも同じですが、特に表情は可動域が狭いのに表現力がとても豊かなので、ちょっとしたちがいで印象が大きく変わってしまうので注意が必要です。どのルールにも当てはまりますが、最終的には観客から見ていかにわかりやすくつくれるか、ということを根本に置いて考えると良いでしょう。これは目線だけでなく、最後にお話ししたCGアニメーションにおいて注意するべきポイントにも当てはまります。

    今回の添削はこんな感じです。最後に、いつもエイド宿題に参加してくださってありがとうございます! 皆さん本当に素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させていただいています。ぜひまた今後も参加してくださると嬉しいです!

    「エイド宿題」とは?

    「エイド宿題」はTwitterで始めたクリエイターの皆さんへ向けた新しい企画です。オンラインスクールAnimationAidのクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。

    ●参加方法とやり方

    ・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。
    ・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう。
    ・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。
     

    ●参考

    ・エイド宿題とは?
      https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/

      ・エイド宿題 これまでのお題
      https://ryowaks.com/category/aidshukudai/
     

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