Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。
TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony Pictures Imageworks)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)
今回のお題
こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。今回は、「少し悲しい」というテーマでのポーズの添削をさせていただきます。
「少し悲しい」というお題では、「悲しい」という基本的な感情表現に加えて、「少し」という具体的なニュアンスを表現しなければなりません。どうすれば感情に強弱を付けられるかを考える必要があるのですが、「悲しい」というのはかなり繊細な感情なので、「少し」が付くことでとても微妙なニュアンスになるわけです。ポーズのデザインが微小すぎて、見ている人に感情が伝わらないということにもなりかねません。
アニメーションの仕事においては、全てのカットがいつも必ずしもわかりやすい感情とは限らず、「悲しみが始まる最初のカット」のといった繊細な表現も求められます。今回のテーマは、そんな映画のワンシーンのようなイメージでつくると良いでしょう。最初に出してもらったポーズからすでにとても良くできたポーズだったのですが、お話ししたとおり全体的なポーズと感情表現が繊細すぎて、少し伝わりづらくなっていました。そこで今回は、感情としては弱いけれど押さえておきたい感情表現のポイントについて、解説していきます。
作品01:「少し悲しい」
投稿作品Point 1:肩の緊張と緩和
ポーズにおける「緊張と緩和」についてはこの連載で何度も解説していますが、アクションシーンじゃなかったりキャラクターが座っていたり、また今回のポーズのように首が前に傾いて肩を少し隠しているといったポーズの場合には、肩のポーズを見落としてしまいがちです。 特に、今回のお題の「少し悲しい」という感情の表現をするためには、このあたりをしっかりと押さえておく必要があります。おそらくほとんどの人が想像がつくと思いますが、今回のケースでは 「力が抜けている=緩和」のデザインを考えると、お題に合ってくると思います。そこで、肩のポーズを「緩和」のニュアンスにするために、抑えておきたいポイントを解説します。肩のポーズのポイントは、大きくわけて2つあります。
①シルエットとしての肩の角度
最も分かりやすいのは、カメラから見えている肩の角度です。元のポーズを見てみると、肩のラインがまっすぐになっていますが、力が抜けた緩和のポーズにするためにはこの ラインを少し斜めに落としてみると良いでしょう。シルエットとしての肩の角度が変わることで、全体的なポーズの印象が大きく変わるのがわかると思います。
②頭の相対的な位置
2つ目のポイントは少し複雑です。正面のカメラから見るとわかりづらいかもしれませんが、まずは首の角度について考えてみましょう。カメラから見ると、首は完全に頭に隠れてしまっているのですが、肩のラインと頭の相対的な位置を考えると、元のポーズの場合は肩に力が入って首がもち上がっているような印象です。肩の力が抜けていると首がもう少し下がるので、そのぶん頭の相対的な位置は下がってくるはずです。この「頭の相対的な位置」を確認するためには、頭と肩のラインを比べて肩のラインが頭のどの辺りとぶつかっているか(タンジェントしているか)を確認すると良いです。ぶつかっている部分が下すぎると、頭が上がってしまっているということになります。
慣れないうちはこのことを確認するのは少し難しいです。なぜなら、隠れてしまっている首の角度を頭の相対的な位置から想像しなければならないからです。 これを最初から回避するオススメの方法は、ポーズをつくるときは常にカメラからの見た目だけでなく、他のアングルからの見た目も気にしつつ、3D空間上で全ての角度から説得力のあるポーズをつくるよう心がけるということです。このようにポーズをつくるクセをつけておけば 、アクションシーンのポーズやアニメーションをつくるときなどにも、人体構造的に違和感のあるポーズになることも避けることができます。
Point 2:緊張のスイッチ
力を入れる際に、最初に動き始める(力が入り始める)「スイッチ」となる顔のパーツがあります。スイッチというのは、簡単に言うと緊張と緩和では「緊張」になるのですが、しっかりと力を入れるということではなく、最終地点に行き着く過程において最初にギュッと力を入れた際に影響が出るパーツのことです。この「緊張」のスイッチに当たる顔のパーツを押さえておくと、力の入り始めのような繊細な表現ができるようになります。
緊張のスイッチは全部で3つあります。1つ目は「眉毛の一番内側の辺り」、2つ目は「下のまぶた」、そして3つ目は「唇と口角」です。眉毛の内側に関しては、 スイッチが入る際に少しだけへこませると力が入った印象になります。下のまぶたは、シンプルに上に少し上げてみます。そして唇と口角に関しては、下唇を噛むような感じで閉じて、それにより口角に少しシワができます。この3つのポイントを押さえておくと、力の入り始めのスイッチは完成です。
キャラクターの表情が変化し始めるときに、この部分から動かし始めるとスムーズに力が入ったポーズを付けていくことができます。
添削前のポーズ
添削ノート
添削後のポーズ
今回から「感情の強弱」という少し難しいテーマになりましたが、繊細な感情表現はアニメーターにとってどのような仕事をする場合にも必要になってきます。今回のエイド宿題のテーマを通して、少しでもそういった技術を身に付けていただけたら嬉しいです。これまでのテーマと同様にポーズの基本的な考え方やコツに加えて、今回のテーマではさらに演技的な話まで深掘りできたら良いなと思っています。
今回の添削はこんな感じです。最後に、いつもエイド宿題に参加してくださってありがとうございます! 皆さん本当に素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させていただいています。ぜひまた今後も参加してくださると嬉しいです!
「エイド宿題」とは?
「エイド宿題」はTwitterで始めたクリエイターの皆さんへ向けた新しい企画です。オンラインスクールAnimationAidのクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。
●参加方法とやり方
・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。
・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう。
・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。
・エイド宿題とは?
https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/
・エイド宿題 これまでのお題
https://ryowaks.com/category/aidshukudai/
Profile.
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若杉 遼/Ryo Wakasugi
2012年にサンフランシスコの美術大学Academy of Art Universityを卒業後、Pixar Animation StudiosにてCGアニメーターとしてキャリアを始める。2015年にサンフランシスコからカナダのバンクーバーに移り、現在はSony Pictures Imageworksに所属。CGアニメーターとしての仕事の傍ら、CGアニメーションに特化したオンラインスクール「AnimationAid」を創設、現在も運営のほか講師としてクラスも教えている。これまでに参加した作品は『アングリーバード』(2016)、『コウノトリ大作戦!』(2016)、『スマーフ スマーフェットと秘密の大冒険』(2017)、『絵文字の国のジーン』(2018)、『スモールフット』(2018)、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)など
●若杉遼 ブログ わかすぎものがたり
ryowaks.com
●AnimationAid
animation-aid.com