2021年新年
画に+(プラス)要素を。そしてあなたの人生に+画を。
新たなステージでお伝えできることが、少しでも皆様のお役に立ちますように。そして今年が平和な年であり、これからのCG業界が健やかに発展しますように。作品を通して伝える場を用意してくださったCGWORLDスタッフの皆さまに深く感謝します。
TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano(画龍)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)
【+画 ONLINE】vol.001:丑
(CGWORLD Online Tutorials)の
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Concept
画には「術(すべ)」がある
2021年丑(うし)年。月刊誌での連載が終了し、20年に渡って思い描いていたことが節目を迎えました。何年も前から「何が伝えられるのか」を考え、模索を繰り返してきました。 日々、進化する旺盛なソフト群の技術的な解説は、SNS等の方が利便性が高いでしょう。そして、それは長く残るものではありません。
そんな中で、近年1つの希望の光を見出しました。それは単なる「オペレーションの解説」ではなく、四半世紀にわたりこの業界で生き残りをかけて編み出してきた「法則」です。たとえ世の中が変わったとしても、異なるソフトを使っているとしても、本当に必要なことは変わらない。画には「術(じゅつ)」があります。美術も技術も「術」があります。
術を知らなくても画はつくれるかも知れませんが、知っていた方が得なことは本当に多いです。もしあなたが、世界の頂点に君臨するような溢れんばかりの才能をもつ超トップアーティストであるならば、「法則」や「術」は必要ないかも知れません。ですが、私のように才能もコネもないけれど、それでもクリエイティブな世界を夢見てこれからも末長く仕事をしていきたい、と思う方にとっては知恵と力になってくれるはずです。
今回はWeb連載の強みを活かして、動画チュートリアル『CGWORLD Online Turorials』との連携をしております。
Design
日本人の芸術のルーツからインスパイアされて
縄文土器については、筆者なりに検証を重ねてみました。歴史の授業でも最初の方で習う時代なので、国民的にも認知度が高い造形物ですよね。炎を形どった「火焔型(かえんがた)土器」などは有名なのですぐに頭に浮かんできます。読者の皆さんの中でも、この土器を思い浮かべられた方も多いでしょう。
1万6,500年も前の文化で、1万年以上かけて進化してきた造形とは想像を絶するものです。大きく前期・中期・後期と3つにわけるとしたら、中期に見られる「深鉢形(ふかばちがた)土器」の表面の造形などはとても複雑で興味深く、魅力的だと感じるのですが、きっと私が「ディテール好き」だからでしょう。
デザインの大きなながれでは、最初は思考錯誤した上で「シンプルで武骨なもの」からスタート。そして次第にディテールが増していき、巨大&複雑化してこの上なく情報量がつまったところで、再びシンプルに戻る。という歴史がありますね。後期の土器にいたっては現代でも使えるレベルの造形になっているので、芸術品というよりは日用品という印象に近く、完成されていて大人しい。途中経過であるがゆえに、この上なく情報量がつまったところがとても魅力的。今回は年始めということもあり、年賀状のモチーフとして牛(丑)をチョイス。初心にかえって日本人にとっての芸術のルーツ「縄文文化/縄文土器」からインスパイアされた「丑型」のオブジェデザインに仕上げました。
デザインするにあたり使った法則はいくつかありますが、今回は「パターン化を認識する観察眼」と「バランスの法則」から、大小の比率、ながれの法則から空気といわれる穴の存在をお話をしようと思います。
モチーフのパターンを認識することは、この世に存在しないものを創造する上で比較的安易に現実感をもたせる術(すべ)の1つです。「観察眼」という言葉をネットで検索すると心理学的な単語が出てきますが、そういった意味合いではなく、ここでは私が独自で使っている造語としての「観察眼=画における観察する力」という意味です。
例えばデッサンですが、デッサンは私の言う「観察眼」が非常に高くなる勉強法の1つです。1つのモチーフを何時間もかけて観察することなど日常生活ではあまりないことでしょう。観察して(鉛筆で)描き留めているわけですから、まさに勉強です。授業の内容をノートに書きとるのと同じ行動ですね。
いくつも縄文土器を観察していると、ある一定のリズムがあるように見えてきました。それは「渦」というか「流体」というか、つまり「線のながれの方向とパターン」ですね。この渦のような形状がとても多く出現することで、見る人に他の土器とは異なる「縄文のイメージ」を与えているようです。
創作についてはアナログ的な手法からさぐりを入れていきます。縄文時代のデザインは手法のお手本ともいえる制作過程であるため、CGとはいえビューポート上で同じ気分を出しながら、1本づつ縄を積み重ねていきました。実際に手作業でこれと同じことをするのはとても手間がかかることでしょう......。
穴の存在についてはムービーで詳しくお話していますが、UV展開をするために経由したZBrushで、なぜか穴の空いたモデルは魅力があります。ここまで穴が空いていても、人間は形を想像できるものなんですね。
質感は物の存在感を確立させるためのとても重要な要素ですが、なるべく土のような、土器のような、金属のような......、そんなオリエンタルな雰囲気を演出していくよう心がけました。新品のようではないけれど、傷ついてダメージを受けているわけでもない。長い年月をかけて変容してきた表層のスーパーアンティークともいえる重圧な感じが出せれば。土器なので「土の感じ」はポイントとなる要素ですよね。
画づくりにおいて最も重要な工程の1つである「仕上げの技術」。物理的な計算を終えた画を最終的にどこまで魅力的に仕上げられるか、その手法がアーティストに問われるといっても過言ではないでしょう。画像(左)は第1レンダリングをしたままの状態で、これを画像(右)の最終画像に仕上げていくまでのプロセスを解説していきましょう。画づくりはレンダリングが終わってからなお先があります。
▲画づくりにおける白と黒の点の法則
画づくりにおける白と黒の点の法則。見え方においては一定のパターンというか印象の操作が存在しています。一見「だまし絵」みたいに見えますが、左と右ではどちらが中央に目がいくでしょう?
通常のシーンの場合、まんべんなくライティングされていて、モデルチェックなど全面的に評価をしなければいけないときには都合が良いライティングです
しかし、年賀状のモチーフとしてはビジュアル的にインパクトが欠ける感じがしたので、法則に従って背景を黒に変更。実際にはライティングの調整で背景を暗く落としています。台や地面も制作しているのですが、「見えない存在」となっています。
当初、複雑化していた多量のライトとHDRのドームライトもばっさり捨て、シンプルなライトの設計に変更することでよりモチーフを際立たせる演出をしています。
▲(左)と(右)の画はベースは同じ
左と右の画はベースは同じものです。印象のちがいについて考えてみましょう。
▲「CGWORLD 2020 クリエイティブカンファレンス」で公開したティザーイメージ
上の画像は、「CGWORLD 2020 クリエイティブカンファレンス」で公開したティザーイメージです。ここまで隠すのは想像力ではなく、次回への期待をゆだねるためにしています。やりすぎると、謎の方が強く表に出てきて画としての意味が変わってしまいます。
レイアウトは、どのような対比の画面になっても中心線が基本になります。日頃の制作に対する姿勢、利き手、視力、配置などから、中心は個々感覚的なズレが生じます。中心だと思っていたものがズレてしまうのは、人間なので当然ですしそれが心地よい場合もあります。ただし、仕事としてはしっかりとグリッドを引いて確認をしていきたいところです。
基本となるのは「どこに空間をもたせるのが有効か」という点ですが、これはモチーフの形や光などの外部要素によってその都度熟考する必要があります。今回は画面の上手(かみて=右側)からの強い照明を想定していたため、ほんの少しバランスを下手(しもて=左側)にずらしました。強い光は空間にパワーがあるので、広く空けてあげないと画が息苦しくなってしまうからです。
Composite
トーンカーブの調整は精密な外科手術のよう
After Effectsでのコンポジットは3つほど利点があります。
1つめは、そのままムービーに対応できること。これは筆者のお仕事の9割近くが動画であるが、アートディレクターとしては画づくりと制作との共用を考えたワークフローにするためです。指示する画像をそのまま映像作業に採り入れられます。
2つめはAfter Effectsでの非破壊なワークフローが調整や修正が多発する仕事の方式上とても都合が良いものであること。カット編集から繋ぎまで一元管理できるところが、期間の短いショートワークに適していること。
3つめはNukeやDaVinci Resolveなどのさらに上位なツールもありますが、まだまだ日本ではAfter Effectsを一般的に使用する会社が多く存在するので、データの互換がしやすいこと。エラーなどの対処が調べやすいこと。
今回の画像サイズはiPhoneの画面サイズを参照していますが、バージョンによってサイズがかなり変わるため、背景画面などに使用する場合はいずれの場合でも対応できるようにバランスを考慮する必要があります。After EffectsでiPhone画面用に縦長レイアウトで作業開始。レンダリングしたそのままの画像、EXRでエレメントには反射、スペキュラなど、ひと通り入っています。ライティングはして施しているものの、もう一段インパクトと強調が欲しい。
エレメントから抽出した画像を重ねてフレア感を出していきます。フレアはどの写実的な画像にも入っているのですが、うっすらと入れることでよりリアリティが増します。良質で綺麗なレンズであるほど、フレアはあまり入らないものです。やりすぎると、安っぽく古臭くなってしまうのは、そのせいかもしれませんね。
V-Rayの[Frame Buffer]でカラコレしたLUTをそれらの上から重ねます。コントラストと立体感がより際立つよう調整しました。
▲さらにトーンカーブを使用して、ギリギリまで黒と白の境界を探る
ここでも見えすぎは禁物です。あえてさらにトーンカーブを使用して、ギリギリまで黒と白の境界を探っていきます。この工程では一瞬の手の震えが命取りに。まるで精密な外科手術のよう......。
今回、はじめての試みとして、『CGWORLD Online Turorials』と連携した記事構成にしてみました。文章には文章の良いところがあり、文章だけでは伝えきれない詳細な解説を動画で補うことができます。各媒体の素晴らしい特徴を活かして、テキストだけでは収まりきれなかった解説を動画にたっぷりと収録しています。ぜひ本稿とあわせてご視聴ください!
【チュートリアル収録内容】
セミナーや授業で私が長年お話してきた「生な感じ」を体感していただけたら嬉しいです。
<画創の法則>
・観察の法則から観察眼その1
・均衡の法則から大小のバランス
・流導の法則から空気と穴
・画角の法則から空間
・誘導の法則から白と黒の点
・仕上の法則から隠すということ
・モデリングからコンポジットまで
・使用ソフト:3ds Max/ZBrush/Substance Painter /After Effects
【+画 ONLINE】vol.001:丑
(CGWORLD Online Tutorials)の
詳細・動画はこちら
Information
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3ds Max『画龍点睛オンライン』講座
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tutorials.cgworld.jp
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Profile
早野海兵 / Kaihei Hayano
Sony music、Sony computer entertainmentを経て創作活動の世界へ。現在は、アートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。
#3dsMAX,#adobe aftereffects,#zbrush,#substancepainter
『CGWORLD』連載「画龍点睛」
『鬼武者シリーズ』
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』
『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
著書『テクスチャイリュージョン1~3』
kaihei.net:www.kaihei.net
画龍:www.ga-ryu.co.jp
Twitter:@Kai_ryu_Kai