北陸に実在する心霊スポット・坪野鉱泉を舞台に展開する清水 崇監督の「恐怖の村」シリーズ第3弾。様々な制約をクリアしたVFX的なアイデアとは?

※本記事はCGWORLD284号(2022年4月号)の記事を一部再編集したものです

映画『牛首村』
映画公式サイトとU−NEXTにてデジタル配信中
監督・脚本:清水 崇/脚本:保坂大輔/特殊スタイリスト:百武 朋/VFXスーパーバイザー:鹿角 剛/制作プロダクション:ブースタープロジェクト/配給:東映/製作:「牛首村」製作委員会
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© 2022「牛首村」製作委員会

魅せるVFXとインビジブルエフェクトの狭間

ホラー映画界の巨匠、清水 崇監督が手がける映画『牛首村』。恐怖の村シリーズ第3弾の本作の主演は、映画初出演・初主演のKōki氏だ。Kōki氏が一人二役で演じる女子高生の奏音と詩音が、牛首村と呼ばれるおぞましい風習と秘密をもった村の狂気に巻き込まれていくホラー作品となっている。本作のVFXはホラー作品からファンタジー作品まで数多くのVFXを手がけてきたスタジオバックホーンが担った。

右:鹿角 剛VFXスーパーバイザー、左:水石 徹CGディレクター(以上、スタジオ・バックホーン)

同社代表取締役社長かつ本作のVFXスーパーバイザーを務める鹿角 剛氏はこうふり返る。「監督の清水さんとは夏目漱石の生誕記念映画『ユメ十夜』(2007)から15年来の付き合いで、シリーズ前作の映画『樹海村』(2021)でもVFXを担当しています。恐怖の村シリーズは毎年2月に公開されるスケジュールなのですが、本作は2021年の8月頃から3DCGのモデリングをはじめ、撮影素材がまわってくる9月頭ごろから徐々にカット制作に入り、10月中旬ごろにグレーディング、月末には最終チェックというながれでした。VFXの作業としては1ヶ月半ないくらいです。作品全体の総カット数は158カットで、そのうちスタジオバックホーンで担当したのは100カットほどでした。今回は双子のシチュエーションが多いのですが、主演のKōkiさん含め双子ではない役者さんがほとんどなので、一人二役のVFX処理が主な作業になりました」(鹿角氏)。

上段左から、山上弘了CGアーティスト、麻田哲史CGアーティスト、北岡大樹CGアーティスト、深谷聡則CGアーティスト、内田 俊CGアーティスト、山本英文CGアーティスト、中屋健司CGアーティスト、西村喜香プロダクションマネージャー(以上、スタジオ・バックホーン)

本作のVFXの見どころは、モーションコントロールカメラなしでつくられた一人二役表現に留まらない。鏡越しのトリッキーなカメラワークカットや動きのあるガラス反射の差し替え、LiDARをフル活用した効率的なワークフローや複数素材を組み合わせて生み出された迫力ある自動車と人の衝突カットなど、映像・VFXの面白さが凝縮された表現が目白押しになっている。「特に複雑なカメラワークのカットは、撮影のスタッフ全員と何度も打ち合わせ、2~3日かけてテスト撮影、前日リハーサルして本番を撮ったものもあります」(鹿角氏)。魅せるVFXとインビジブルエフェクトの狭間、巧妙な演出で後から不気味な違和感が残るVFX表現に大注目の作品だ。

左から、小林敬裕VFXディレクター、江川千恵子コンポジター(以上、アンダーグラフ)、齊藤隆明VFXアーティスト(タッグ)

<1>ロケ撮影での一人二役カット

時間経過のつじつまをどう合わせるか

本作のVFXの核心となるのは、一人二役による双子表現だろう。特に屋外のロケ撮影が多くモーションコントロールカメラも使用できない現場だったため、実写同士の合成にはいくつもの課題があったという。「清水監督の撮る画はカメラが動いていて、かつ長回しという特徴がありVFX処理が難しいので、その中でどう一人二役を実現していくかがまず課題でした。さらに、主役のKōkiさん演じる詩音と奏音はメイクチェンジに1時間近くかかったため、どうしてもその間に日が落ちて現場のライティングが変わってしまう課題もありました。ディープフェイクなどの技術もありますが、お芝居がちがうとどうしても別人に見えてしまうため、今回は使用していません」(鹿角氏)。

一人二役カットは基本的にベースの素材はグリーンバック(以下、GB)なしで撮影し、リファレンスとして代役を入れた撮影、後から合成する素材はFIXかつフレーム調整ができるよう広めの構図で撮られた。一部、セリフのないエキストラで実際の双子が演じているカットもある。カメラワーク自体も、1人の間はドリー、2人が映るタイミングでパンとティルトのみにするなど、制約の中で最大限の表現をするための細かい工夫がされている。日が落ちてライティングが変わってしまった素材は、後処理で光を足してつじつま合わせを行なった部分もある。村に漂う煙はカメラワークや奥行きがあるため合成ではなく現場で実際に焚かれているが、ライティング同様に動きや濃淡が時間と共に変わってしまうため、フラクタルノイズや煙の実写素材、空舞台の素材などを組み合わせて馴染ませる方法を採った。本作は地方ロケで細かいロケハンが事前に行えなかったこともあり、現場の限られた時間内でこうしたVFXの策を練る必要がある場面も多かったという。「清水監督とは技術的に可能か不可能かのやり取りだけでなく、ストーリーに関わる部分の見せ方や演出をこちらから提案していくこともあります」(鹿角氏)。

モデリングはMaya、テクスチャは一部Substance 3D Painter、コンポジットはAfter Effectsが使われた。シリーズ前作の『樹海村』ではカラーマネジメントの観点からNukeも一部使用されていたが、After EffectsのワークフローでもOCIOとACES Configで色を管理することでミスなくデータを扱えたため、本作では全てAfter Effectsでの作業となった。

奏音と詩音が対面するカット

  • 奏音のみのベース素材
  • 詩音のGB素材
完成映像。素材間のライティングのちがいは、コンポジットで右側の茂みに光を加えることで馴染ませた

村で詩音と奏音が並ぶカット

  • 詩音のみのベース素材。カメラワークが付いている
  • 奏音のGB素材。FIXで撮影された
  • 空舞台素材
  • 完成映像

村人が2人になるカット

  • ベース素材
  • 重なって出てくる2人目の素材。After Effectsのロトブラシにより半自動的でマスク切りされた
  • 空舞台素材
  • 完成映像

<2>撮影とVFXの連携で生まれるエレベータカット

魅せるVFXではなく違和感を残すVFX

はじめはシンプルなフォロー撮影だと思っていた画が、実は鏡越しの画だったという意表をつかれるエレベータのカットは、その撮影法から工夫が凝らされた。実際にはカメラは前方向に動いており、フレームいっぱいに配置した鏡をカメラと同時に動かすことでフォロー撮影しているように見せかけている。鏡がエレベータボックス内の所定の位置に収まった後、フォーカスが表面の埃に合うことで初めて鏡だとわかる演出になっているが、この瞬間までシンプルなフォロー撮影に見せるために埃は後処理で加えられた。この埃は美術で作成した黒抜きの実写素材をベースに、落書きの跡を指の動きに合わせて追加している。「実際は鏡には何もないので、小さな黒い点を打ってそれを目安にパントマイムのようなかたちで演じていただきました」(鹿角氏)。落書きを書いた後に一瞬詩音が映り込み、直後に鏡が割れる描写は、ガラスの割れ素材を乗せ、割れた破片のパーツごとにマスク切りしてそれぞれ位置をずらすことで表現している。「このカットはいかにも合成したようなありえない表現ではなく、後からアレ? と違和感が残る画を目指しています」(鹿角氏)。

廃墟のエレベータ内が無重力状態になり詩音と共に落下するカットは、3DCGなしで作成された。とはいえセットの仕掛けとして実際にエレベータを落下させたわけではなく、カメラを持ち上げることで落下に見せかけている。「落下時のパースの変化はカメラとボックスの位置関係が変わればよいので、カメラの動きで対応しました」(鹿角氏)。GBで撮影したFIXのベース素材と、美術で作成されたボックス上部の機構やAfter Effectsで作成されたワイヤー素材などを加えて最終的な画になっている。「前後つながりの都合上スマホで撮影されていたので、キーイング処理が特に難しいカットでした」(鹿角氏)。

村への案内人である山崎がビルのエレベータに挟まれて引きちぎられるカットは、富山のビルでロケ撮影された。このエレベータはドアを開けたまま昇降できずガラスの窓もあったため、3DCGが用いられている。事前に現場でLiDARによる3Dスキャンをしておくことで、効率的にモデリングが進められた。「LiDARはフォトグラメトリーと異なり実寸スケールでデータを出力できるので、現場を計測してモデリングするより非常に楽でした。」(CGディレクター・水石 徹氏)さらに、挟まれた後のエレベータの動きの塩梅は非常に難しかったという。「山崎がものすごく暴れているので、エレベータボックスを動かしたいところですが、動かすと軽く見えてしまって怖さがなくなるのが難しいところでした」(鹿角氏)。

鏡を使ったトリッキーな長回しカット

鏡を使ったトリッキーなカメラワークの長回しカット。鏡とカメラを同時に移動させることで、カメラがフォロー撮影する画に見せかけている

撮影方法を示した図
  • 奏音のベース素材
  • マスク処理されたベース素材
  • 一瞬映り込む詩音の素材
  • 埃素材。美術で作成した素材にコンポジットで落書きを追加している
  • 割れのヒビ素材
  • 割れの反射素材。割れたパーツごとにベース素材をずらすことで表現している

廃墟のエレベータが落下するカット

  • ベースGB素材。スタジオに組まれたセットで撮影された
  • シャフト内の素材

落下するエレベータボックスの素材。カメラを上に持ち上げることで、エレベータボックスが落下する視差をつくっている
  • ボックス上部の機構素材。美術により実際に作成された
  • 完成映像

山崎がエレベータに引きちぎられるカット

  • ベースGB素材。富山のビルでロケ撮影された
  • エレベータ内から撮影された背景素材
iPhoneのLiDARでスキャンされたエレベータのリファレンスモデル
  • レンダリングされたエレベータの3DCG素材
  • 完成映像

<3>難易度の高いカメラワークカット

自由に動くカットでいかに反射を合成するか

本作では反射に異質なものが映り込む演出が多数ある。特にカフェのガラス反射に牛首が映るカットは、カメラが上下左右に動いていることもありVFX処理が複雑になったという。このカットは、合成する牛首の反射が実際に映り込んでいる頭より大きいため、現場に黒幕を立て反射を切った素材が撮られた。その後スタジオ撮影された牛首のアルファで切りとることで、自然な反射の画をつくり出している。「ジブアームによる自由な動きで映っているものが少ないこともあり、トラッキングはできず手で動きを合わせる必要がありました」(鹿角氏)。

水たまりの反射越しに屋上からアキナが飛び降りてくるカットは、アキナが縁に立っている状態から落下するまでに体を180度回転させるアクションが必要だった。「はじめはタワーイントレで実際に落下するワイヤーアクションも検討しましたが、いくつか問題があったので軸を変える方法にしました」(鹿角氏)。撮影の軸を90度回転させることで、寝ている状態を立っている状態、カメラのドリーインの動きを落下の動きに見せかけて撮影している。

ミツキが自動車に飛び込んで轢かれるカットは、飛び出して衝突、フロントガラスの上を転がっていくながれをワンカットで見せる必要があった。「このカットはスタントマンではなく本人が轢かれたとわかるようにしたいという監督の要望があったのですが、ロケ地はワイヤーアクション用のクレーンを入れるスペースがなかったので、GB撮影した素材を組み合わせて表現しています」(鹿角氏)。飛び出して衝突の瞬間まではドリーインで撮影し、跳ねてフロントガラスの上を転がる様子はワイヤーアクションで車内から撮影された。この2つをモーフィングの手法で組み合わせることで、轢かれる一連のながれを表現している。「滑らかにつなげすぎると衝突感が出ないので、ぶつかる瞬間はあえて飛んだコマを入れています」(鹿角氏)。

体に子供の顔が浮き出るシーンは、本格的に3DCGが用いられたカットだ。足や手や顔のモデルをnCloth化し、子供のモデルをコリジョンモデルとして押し当てることで浮き出る様子を表現している。この浮き出るClothモデルをターゲットに本体のモデルへブレンドシェイプすることで、体本体の動きはnClothに影響させずに浮かび上がる様子を実現している。「シワはあまりない方が良いという要望があったのですが、Clothを硬くすると引っ張られている感が出ず、柔らかくするとシワだらけになってしまうので、そのバランス調整が難しかったです」(水石氏)。

ガラスの反射が牛首になっているカット

  • ベース素材。カメラワークが付いている
  • マスク処理されたベース素材
  • 牛首のGB素材。FIXで撮影された
  • 室内の素材。反射を消すために黒幕を建て、FIXとベース素材に寄せたカメラワークの2種類の素材が撮影された
  • 牛首素材のアルファで切り抜かれた室内素材
  • 完成映像

ビルから飛び降りるカット

村シリーズでおなじみのアキナがビルから飛び降りるカット。軸を90度回転して撮影することで、カメラのドリーインを落下の動きに見せかけている

廃墟のベース素材
  • アキナのGB素材

自動車に轢かれるカット

アキナの友人・ミツキが自動車に飛び込み轢かれるカット

  • 車内のGB素材。トンネル内から外に出る照明が組まれている
  • ミツキが飛び出す素材。カメラがドリーインして当たる瞬間に跳ねられた演技をしている
  • ワイヤーによる跳ねた瞬間のアクション素材
  • トンネルの背景素材
  • 現場でのリファレンス画像
完成映像

体に顔や手が浮き出るカット

  • Mayaによるシーン構築の様子
  • ブレンドシェイプのターゲットモデルをnCloth化し、顔を押しつけることで表現した
  • 体のフォトグラメトリーモデル
  • iPhoneのLiDARでスキャンされた顔のモデル

TEXT_三宅智之(38912 DIGITAL)
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada