画にプラス要素を。

画には法則があります。

それは長い年月をかけて、様々な先人たちにより研鑽されてきたものです。CGという分野においても非常に有効な法則で、きっとあなたの知恵と技術になってくれることでしょう。 永く、そして楽しくこの仕事をし続けるために。

そして願わくば貴方の人生に+画を。

今回もWeb連載の強みを活かし、動画チュートリアル『CGWORLD Online Tutorials』と連携してお届けします。

記事の目次
    【+画 ONLINE】vol.023: 鹿 / 「観察眼」で光と影を見極める

    楽しくなるまで地道に毎日コツコツと!

    CGというものは、過去作ったものを応用させやすい性質がありますね。
    ということは「長くCGをすればするほどストックが溜まっていく」ということで、
    長年携わっていくだけで恩恵にあずかることができるようになるのですね。

    例えば、「ボール」は誰が作っても「ボール」です。
    「正解」があるので一度ボールを作ってしまえば、
    以降はそれを使い続ければ良いですよね。
    完成品ではなくとも、気合を入れて作ったメカなどは、
    パーツを後々自分の作品に使うことができます。

    CGは簡単に見えますが、自由自在に作れるようになるまでの道のりは長く、
    学習は本当に大変だと思います。

    しかし良いところまで行く目前、楽しくなる前にCGを辞めてしまう人の多いこと。
    本当にもったいない。
    できればもう少し粘って、CGの楽しさを味わって欲しいものです。

    積み重なるほどに味わいが深まるCGの世界。
    私のCG歴は30年を超えましたが、本当に長くやっていて良かったと思っています。
    地道に毎日コツコツと!

    それこそ昔は昆虫のCGなどを作る人があまりいなかったので重宝されたものでした。
    過去に昆虫系の作品が多いのは、
    実は昆虫が好きだったからでなく(ハッキリ言うと嫌い……)
    昆虫を作る仕事が多かった上、プレゼンしやすかったといった背景があります。
    いわゆる「他人が作ってないものが求められる」ということでしょう。

    昨今では地図のデジタルデータにしても、
    無料で高品質のものが手に入れることができますよね。
    数十年前ではデータストックの販売なんて、
    本当に「スズメの涙」ほどの種類のデータしかない上にローデータ。

    なので自分で作った方が速かったのですが、
    現在はとても自分では作れないような高スペックのデータが
    (お金はかかりますが)手に入るようになりました。
    かといって、ファンタジックな造形はその分野でしか使えないものだったりするので、
    「フォトリアル」に関しては変革の時期がとうに過ぎているのかもしれません。




    これらは過去に私が制作したものですが、こんな感じで昔はかなり「虫」の需要がありましたね。この他にもカブト虫、クワガタ、イモムシ、そして蝶なんて何羽作ったことか。

    こういった標本のようなシチュエーションの画像は、現物写真の参考などでまとめられたりすることもあり、いまだにこれらの作品が人気なのは、おそらく「+画」だからでしょう。ただ作るだけでなく、そこにはストーリーが存在します。

    「弘法筆を選ばず」とはよく言ったもので、いかに時代が進化して技術が優れようとも「画の本質」は変わりません。

    「画創の法則」は過去も未来もあなたの手助けになってくれることでしょう。
    それがCGでなくなったとしても。

    デザイン

    画創の法則:「観察眼」「光と影」

    これまでも何度か「観察眼」について書いていますが、観察眼とは「物を見る力」「観察する力」のことです。シャーロック・ホー〇ズの推理のようなものですね。ではものを見る際に、はじめにとらえるべきポイントはどこなのか。それは「光と影」です。光あるところには影あり。

    There is strong shadow where there is much light.


    -光が多いところは影も強くなる


    引用:Chinoma:「There is strong shadow where there is much light.

    「光が多いところは影も強くなる」これはヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの有名な言葉です。今回は哲学的な意味合いではないので解釈は少々異りますが(笑)、物事の本質のお話として、これを画創の法則的に「観察する光と影」に置き換えてみると、「光がある、そして影ができる。この2つは世界の理の必須である」……と、捉えました。

    さて、この光の流れは私の講演でも度々登場するものですが、立体物を捉える基礎となる考え方ですね。特にCGは「光のシュミレーションソフト」と呼ばれるほど光は重要な要素です。デッサンも光を描いているようで影を描いていたりします。

    光がなければ真黒。

    「光の方向」があっても、影がなければなぜかとても不自然です。

    レンダリングの質を上げても、まちまちなライティングは不自然ですね。

    光と影がマッチすることで、よりリアリティのある表現になるわけですね。単純ではありますが、とにかくライトの数を減らすことが「光の流れ」を練習するには効果的です。自分でコントロールできる範囲のライトの使用を心がけましょう。昔は「ライト〇百個置いたぞ!」といったことが自慢になったりしてましたが、まったく無意味です。
    ※「光の流れ」を読み取る作業に関しては動画チュートリアルで解説しています。

    今回の写真を見る限り、こんな感じでしょうか。光源は明らかに太陽で、正面の少し上方からという、見事に「まっすぐの光」であまり嬉しくない方向ですね。背の低い木々のおかげで上方からの光も感じ取ることができます。そして木々の間からの曇天。高さを感じる影、そして緑の地面からの反射光。

    今回はこんな感じのモデルを使ってみます。

    ちょっと調整してこんな感じに。

    テクスチャを貼ってレンダリングします。ライティングですが、……なんとHDRの撮影を忘れてました(笑)。とはいえ、実際の現場ではHDRの撮影素材をもえらえる方が少ないものです。そのため、ほとんどのシーンは「目」で作らなければなりません。

    とりあえずモデルを置いてみる。

    ちゃちゃっと手早くライトを設定。

    モデルを変更。

    コンポジット

    大切なのは足元ですね。これをCGで作るのは大変なので、実写からマスクで抜いてしまいましょう。これだけでグッと「前後感」が出るので、多少の違和感は収まってしまいます。街頭広告ディスプレイの飛び出す映像とかも、わざと前後に重なるものを置いて立体感を演出していますよね。以前お話しした「視差」の効果です。

    パッとカッコ良いカラコレが実現。カラコレも日を追うごとに様々なLUTが登場して、ちょっとしたサンプルであれば自分でいじる必要がなくなってきましたね。このままでも自然で良いのですが、スマホなどの画面で見た場合、何を作ったのかが分からなくなりそうなので大きくトリミングして……、

    こんな感じですね。昔は実写合成は難易度が高くライティングのテクニックが求められたものですが、ソフトの進化によりとても手軽にできるようになってきました。「HDR撮影とかよく分からない!」という場合でも、こんな感じでやってみると上手くいくはずですので挑戦してみてくださいね。


    今回の動画チュートリアルは、「光の流れの読み方」「HDRを使わずライティング」に加えてオープンに話せないこと(笑)など盛りだくさんの内容となっています。ぜひご覧ください

    CGにはいつも夢があります。

    全ての望む方が素敵なCGに触れられるよう、オンラインで活動の幅を広げております。オンラインセミナーやオンライン教材を用意しているほか、講演なども承っておりますのでお気軽にご連絡ください。

    本来の画をつくる楽しさをいつまでも忘れずに。

    チュートリアル収録内容

    <画創の法則>
    観察眼
    ・光と影
    ・視差

    <メイキング>
    モデリングからコンポジットまで
    使用ソフト:3ds Max、After Effects

    長年、セミナーや授業でお話してきた生な感じをぜひ体感いただけたら嬉しいです。動画チュートリアルによる解説ではさらに詳しく内容をご説明しております。

    【+画 ONLINE】vol.023: 鹿 / 「観察眼」で光と影を見極める

    3ds Max『3DCGクリエイター講座』講座(デジタルハリウッド)

    CGに初めて触れる方や新人教育用の教材「CGオペレーション基礎講座」として、基礎固めに効果を発揮しています。3ds Maxの機能をひとつずつ詳細に解説。豊富な作例から楽しく機能を学んでいただけます。
    online.dhw.co.jp/course/3dcg

    3ds Max『画龍点睛オンライン』講座

    文章だけでは語りつくせない詳細をオンライン形式でお届けします。実践で役に立つ「基本と応用」をCGWORLDの連載『画龍点睛』で制作した作品を通じて解説します。ゼネラリストとしての作品づくりに対する考え方で、さらなるステップアップを。
    tutorials.cgworld.jp

    早野海兵/Kaihei Hayano

    画龍 / Garyu
    ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・コンピュータエンタテインメントを経て創作活動の世界へ。現在、CGWORLD.jpにて「+画」連載中。アートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。
    #3dsMax, #adobe aftereffects, #zbrush, #substancepainter

    <代表作>
    ゲーム『鬼武者』シリーズ
    『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ
    『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
    著書『テクスチャイリュージョン』シリーズ
    連載「+画」、「画龍点睛」

    早野海兵公式サイト:kaihei.net
    画龍公式サイト:garyu.mystrikingly.com
    Twitter:@Kai_ryu_Kai

    TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano@Kai_ryu_Kai
    EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE