クリエイターの作業効率化を支えている、補助デバイスをはじめとした周辺機器。作業スタイルに合ったデバイスを導入することで、作業の生産性を大きく向上させることができます。 この連載では、3DCG制作の現場において活用されている周辺機器に焦点を当て特集いたします。

第1回では補助デバイスについてのアンケートを実施しました。補助デバイスとは、使用者がボタンやスティックにキーを自由に割り当てることができる入力装置であり、作業時間の短縮を実現するためのデバイスです。一般的に左手デバイスとも称されます。

今回は、回答のあった製品から6点を厳選し、寄せられたコメントとともに紹介いたします。さらに、「ガジェット蒐集家」であるCGアーティスト・ますく氏からもクリエイターにおすすめの周辺機器について解説していただきました。

※2名以上から回答のあった製品については、CGWORLDにてコメントを選定して掲載しております。ご了承いただきますようお願い申し上げます。

記事の目次

    Razer Tartarus シリーズ

    Razer Tartarus Pro
    いのぽあ様( アニメーター・モーションデザイナー)

    ▲いのぽあ様の補助デバイス使用環境

    Q.補助デバイスの用途を教えてください。
    主にMayaでの作業に使用しています。 Tartarus Proにはアニメーション作業中によく使うHotkeyを割り当て、左手をほとんどTartarus Proの上に置いた状態で作業をしています。その結果、肉体的な負担が減り、作業効率が上がり、そして作業スピードも上がるという良いスパイラルが生まれています。
    具体的なHotkeyの割り当てについては写真に割り当てたHotkeyを載せておいたので、よろしかったら参考にしてみてください。

    ▲Hotkeyの割り当ての詳細

    私はanimBotというアニメーションのプラグインのHotkeyを多く登録しています。なので、animBotに馴染みがない人には知らないものが多く含まれていると思います。しかし、これだけのHotkeyを割り当てていても、まだ追加できる余地があることはお分かりいただけたでしょう。

    Q.補助デバイスの特に気に入っている機能とその理由を教えてください。
    新たにHotkeyを20個も登録できるところが最大の魅力です。十字キーの4方向も使えばさらに4個登録できます。
    キーボードだけの場合は2つも3つもキーを組み合わせなければならない場合も1つで済ますことができます。MayaのHotkeyにはすでに多くのものが割り当てられていて、新たに作成する場合には、どうしてもキーを2つ3つと組み合わせたものになりやすいです。しかし、このTartarus Proを使用すればその問題も解決できます。
    また、キーマップ(キーへの割り当て)を切り替えることができるので、Maya用、Blender用…といった具合に、良く使用するアプリケーションごとに設定することもできます。

    Q.デザインや重量等、その他気に入っている点を理由も含めて教えてください。
    左手首を置く部分にクッションがあるので非常に快適です。そのおかげで手のひらを置く部分が汗じみでやや黄ばんでしまいました(笑)。黄ばむのが嫌な人は黒いモノを選びましょう(笑)。
    実はキーボードに合わせて黒いモノが欲しかったのですが、たまたまその時期に在庫がなくて白いモノを買いました。こちらのほうが経年劣化を考えなければ綺麗でお気に入りです。

    Razer Tartarus V2

    ▲Razer Tartarus V2 | Infinite Commands. Endless Possibilities.

    ますく氏による解説

    ▲ますく氏私物のRazer Tartarus V2(画面左)

    あらゆるクリエイターにおすすめできる、定番ゲーミング補助デバイス。
    デバイスにホイールが付いているため、マウスホイールのないペンタブと併用すると相性が良いです。

    旧モデルは2000年代初頭にBelkinからSpeedPad n52という名前で販売されていて、一時期は絶版になり中古品が6、7万円まで高騰した大人気補助デバイスでした。 当時は私も予備を含めて3万円の中古品を3つほど購入してストックしており、現行モデルも在庫切れに備えて2台所持しています。

    基本的にはキーボードの左側をそのまま割り当てています。

    私の周りの親しいクリエイターの大半がこのシリーズを愛用しており、肌感ではイラストレーターからCGモデラーまで幅広く利用率が高く、長年愛されてきた信用と実績が伺えます。 
    歴史がありカルト的人気がある本デバイス。再販を求める声も多くRazerから改めて再販売され、順当な進化を遂げメカニカルスイッチが採用され、キーも増えたTartarus V2が最新版としてリリースされました。 
    新シリーズでは、旧シリーズに比べキーの数が増え、メカニカルキーボードが採用されました。配線の取り回しが野暮ったいので、次のアップデートでは今風にUSBC対応とBluetoothの無線化を期待したいです。 

    TourBox Elite

    TourBox Elite
    daisuke28様(アニメーター・モーションデザイナー)

    ▲daisuke28様私物のTourBox Elite

    Q.補助デバイスの用途を教えてください。
    全てのアプリでの補助作業に使用しており、アプリによってはマクロが組めるので 重宝している。 そして、この補助デバイスを制御する専用のコンソール「TourBoxコンソール」も非常に優秀で分かりやすいUIであるためにカスタムも容易。

    Q.補助デバイスの特に気に入っている機能とその理由を教えてください。
    これまで20以上の補助デバイスを使ってきてようやく、キーボード、マウスプラスアルファとして使えるデバイスに出会えました。
    詳しくは最近比較配信をしたのでこちらも参考までに。
    全ての物理ボタンの形状が異なっているが故に使いやすく機能も割り振りやすい。

    Q.デザインや重量等、その他気に入っている点を理由も含めて教えてください。
    第一印象はあまりカッコいいとは思わなかったがそれぞれのボタン形状が違っていることに 意味があると使ってみて納得した点。
    無線接続タイプが発売されたので買ってみて正解でした。

    ますく氏による解説
    1分でも1秒でも作業効率化を図りたい、クリエイティブに没頭するために直感的にそう探したい。 この2つが、ガジェット蒐集家の根源的欲求です。

    効率化を目指すプロのクリエイターにはほぼ必須と言える補助デバイスですが、作業の高速化、没入化のためには、目で追わずに操作できること、触った感覚や押し込む感覚、操作が直感的であること。つまり、ブラインドタッチが可能な触覚によるフィードバックや、手に馴染むエルゴノミクスデザイン(人間工学の考え方に基づいたデザイン)が重要となります。

    触覚フィードバックに優れるデバイスとして真っ先に上がるのがTourBoxElite。この製品は一度触ったら病みつきになるクリック感や振動が内蔵モーターにより再現されています。 個人的には、キーが足りず3DCG制作には向かないと感じ定着しませんでしたが、小型無線対応で持ち運び性に優れ、出張先でのZBrushや画像処理には最高のパートナーになってくれる一台です。

    Blackmagic Design DaVinci Resolve Speed Editor

    Blackmagic Design DaVinci Resolve Speed Editor
    たつ様(ゼネラリスト)

    ▲たつ様の補助デバイス使用環境

    Q.補助デバイスの用途を教えてください。
    DaVinci Resolveでカット編集を行うとき。

    Q.補助デバイスの特に気に入っている機能とその理由を教えてください。
    ジョグダイヤルが気持ちいい。

    Q.デザインや重量等、その他気に入っている点を理由も含めて教えてください。
    質感が良い。置いているだけでかっこいい。 

    ますく氏による解説

    ▲ますく氏私物のDaVinci Resolve Speed Editor

    CG制作ひとつとっても様々なソフトがあり、対応可能なデバイスも異なってきます。CGイラストや画像処理に必要なショートカットは比較的少ないため、最も普及しているCGイラスト制作用の補助デバイスを買ってしまうと3DCG制作時には機能やキーの数が足りず、お蔵入りになってしまいがちです。

    VFXや映像編集、音響の領域まで入ってくると、数え切れないほどのデバイスが存在しています。 映像業界は個人購入が困難なほど高額なデバイスが多いですが、映像編集に特化したBlackmagic DesignのDaVinci Resolve Speed Editorは本格的かつ、個人でも手が届く素晴らしい商品なのでおすすめしておきます。なお、各キーの機能、使い方については以下の通りです。

    ▲DaVinci Resolve Speed Editorのキーごとの機能一覧

    BRAIN MAGIC Orbital2 STERNA

    BRAIN MAGIC Orbital2 STERNA

    Orbital2 紹介映像 【30秒ver】

    シロ様(モデラー)

    ▲シロ様の補助デバイス使用環境

    Q.補助デバイスの用途を教えてください。
    Blenderで3Dモデリングに使用しています。 テンキーの代わりとして、ビューの視点変更や回転に機能を割り振っています。 テンキーは従来キーボードの右側に位置していますが、私は左側に配置し、左手デバイスとして使用していました。

    Q.補助デバイスの特に気に入っている機能とその理由を教えてください。
    他の補助デバイスは回転ノブを採用しているものが多いですが、こちらはジョイスティックを採用している数少ない補助デバイスです。 ジョイスティックは視点変更や回転と親和性が高く、直感的な操作が出来るので気に入っています。

    Q.デザインや重量等、その他気に入っている点を理由も含めて教えてください。
    黒色デザインの補助デバイスが多いなか、白色デザインなのが貴重です。 卓上デバイスを出来る限り白にしたいので、白色デザインは嬉しいです。 

    3Dconnexion SpaceMouse Pro Wireless

    3Dconnexion SpaceMouse Pro Wireless

    ますく氏による解説
    3Dconnexion SpaceMouseは、ビューポート操作を行うためのもので、他では類を見ない特殊な操作を可能とするため、他社製の補助デバイスとは一線を画す全く異なるジャンルのデバイスとして紹介させていただきたいです。 

    ▲ますく氏私物の3Dconnexion SpaceMouse Pro Wireless(画像中央)

    ■スペースマウスのここがすごい①
    まず、この補助デバイスのすごいところは、ほとんど思いつく3Dアプリケーションとドライバー提携ができていて、Autodesk製品、Maxon製品、Blender、Unity、UnrealEngine等、あらゆる3Dアプリケーションでその特殊な操作感を体感することができることです。

    ■スペースマウスのここがすごい②
    VRのように体験しないとなかなか分かりづらいとは思いますが、通常のコンピューター上で動かすソフトは、マウスカーソルが一つだけです。 しかし、スペースマウスを使うと、片手でマウスカーソル/ペン操作をしながら、もう片方の手でビューポートを動かせるようになります。 つまり、スペースマウスを使用すると右手と左手の両手操作が可能となり、両方で物体を引っ張ったり、片手でオブジェクトを回しながらもう片方の手で線を引いたり、両手で物体を押しつぶすことができます。 回り込み形状や、通常のマウス操作では合わせにくいビューアングルも、直感的に合わせることができます。

    ■スペースマウスのメリット
    ・両手で3D空間とオブジェクトを制御できるようになる
    ・アングルハントの精度速度が劇的に上がる
    ・ほとんどすべての3Dアプリケーションで使用できる

    CLIP STUDIO TABMATE

    CLIP STUDIO TABMATE
    有田満弘様(ゼネラリスト)

    ▲有田様ご提供写真

    Q.補助デバイスの用途を教えてください。
    主にペンタブレットを使用する際に、ショートカットを割り当てて使用します。WindowsでJoyToKeyを使用することでさまざまなアプリケーションに対応できています。表示の拡大、縮小、回転、アンドゥ、スクロール、表示モードの変更が主な用途です。

    Q.補助デバイスの特に気に入っている機能とその理由を教えてください。
    画面の拡大縮小にホイールが使える点がこのデバイスの一番気に入っている点です。電池式で充電が不要なのも便利な点です。

    Q.デザインや重量等、その他気に入っている点を理由も含めて教えてください。
    さまざまな補助デバイスを使用してきましたが、あまり特殊なものは気に入っていても生産が終了してしまったり、ドライバの対応が終わってしまったりで乗り換えを余儀なくされることがしばしばでしたが、安価で入手性が高いため安心感があります。大きさが小さく軽量なので持ち運びが必要な場合も便利です。 

    左利きの方には、Azeron Cyborgシリーズがおすすめ

    Azeron Cyborg

    ▲Meet Azeron Cyborg - the next-gen BEAST for gaming

    ますく氏による解説
    補助デバイスには右利き用の左手デバイスしかないので、困っているという声を多く聞きます。
    そこでユニバーサルデザインという観点から、ヨーロッパのトラビア共和国が生んだ、カスタムオーダーメイド対応の Azeron Cyborg をおすすめします。左右両利きが選択できるだけではなく、本体の色や様々な機能を自己流にカスタマイズすることができます。
    エルゴノミクスデザインで手にフィットするため、連続数十時間使用していても疲れません。お値段もかなり控えめで、何より見た目が未来的でインパクトのある、大評判のデバイスです。