創造にデザインを。
デザインとは良い画を創りあげるためのコミュニケーションです。
より伝わりやすく、理解しやすく。
「美術」とはその字のとおり「美しくするための術」であり、
気が遠くなるような長い年月をかけて人類が研鑽し、昇華してきた技です。
そしてそれは芸術のみならず、貴方の人生にも+(プラス)になっていく身近なものです。

記事の目次

    輪と和

    新年あけましておめでとうございます。

    前回の連載から少し間が空きましたが、今年からは寄稿のスタイルを変更して

    年1回のペースでお届けしていきます。


    「お身体、大丈夫ですか?」と心配してくださる方々もいらしゃって、

    大変ご心配をおかけしました。

    少し年寄りじみたことを言ってしまいますが、

    人の人生は本当に輪のように繋がっていて、

    人にしたことは必ず自分に返ってきます。良いことも悪いことも。

    古来より大切にしていきたい「輪」から「和」へ。

    もうしばらくお付き合いください。



    さて、新年ということで今年の抱負を。

    まあ、いつもと変わらないことですが……

    「少しでも多くの人にCGの本当の素晴らしさを伝えたい」

    近年、私のところにくる相談はCGに苦言をもつ方からの依頼がとても多いです。

    「CGなんか信用ならない」みたいな。



    CGといえども万能ではありませんので相性や使い方がありますが、

    こういったお話を伺っていて思うことは、

    「CGプロダクションにデザインも発注している」という誤解でしょうか。

    あくまでもCG制作会社はCGのオペレーションをするプロの会社なので、

    「デザイン会社」ではないんですよね。



    日本のCGプロダクションの技術力はどこも素晴らしいのですが、

    デザインで活かされてはいない、ということがわかってきました。

    ある意味「作ることと考えることは別な分野」というわけです。



    さて、私自身の最近の実例としては、

    CGと世界観を結ぶ役割「クリエイティブアーティスト」として制作に参加させていただいています。

    映画『わたしの幸せな結婚』(2023年)やさまざまなCGデザインの案件については

    私のHPをご覧ください。



    CGならではのデザインを提案して、

    皆さんが幸せになるようお力添えさせていただきたいと思っています。

    ぜひお声がけいただけたらと思います。

    干支

    新年ということで縁起の良いものを……。毎年1月の連載は年賀状として干支をあつらえたものを作成しています。今年は辰年。何とも画になる年ですね。

    12年前にCGWORLDの連載に向けて制作したこの「白龍」。縁起の良い作品で、今でもそこかしこで使われている人気のキャラクターです(笑)。勝手にプレゼン等で使われるなどして、苦情がきたこともありました。有名キャラクターの辛いところです。さてこの白龍。一見するとこれといった特徴のないシンプルな龍のようですが、デザイン的に解説すると……

    当時は、CGで何ができるのか? どこまでいけるのか? など、「多くの疑問を私が解決できれば」といったイメージをデザインに込めて制作しました。つまりCGの「?」というわけです。馴染み深い文字や記号などをベースに作成するのは、デザインの手法のひとつですね。

    デザインの考え方

    デザインとはコミュニケーションです。「結局、何を伝えたいのか?」。これを明確で分かりやすく、かつ格好良く見せること、とでも言いましょうか。デザインに関してはセンスがある人の才能だと言う方もいらっしゃいますが、ほとんど「情報力」です。全体を理解し、より適切な表現を提案できること。特に仕事の場合はこれに尽きます。ある意味コミュ力ですね。

    今回のテーマを例にすると分かりやすいかも知れません。まず、伝えたいことは「新年の挨拶」ですよね。このテーマについてたくさんの情報を収集し、そして編み上げていきます。これをブレストと言ったりもしますね。

    テーマ → アイデア出し → 情報収集 → レイアウト → ブラッシュアップ

    実際にデザインする作業時間は1割程度でしょう。9割は考える時間、あるいはコミュニケーションをとる時間です。それでは早速、ブレストしていきましょう。

    アイデア出し ~情報収集~

    1年の始まりに、縁起の良いしめ縄の輪を。そこにさらに縁起の良い「年始の飾り物」であるしめ縄飾りを掛け合わせます。この「要素を掛け合わせる」という考え方も、アイデアを出す手法の1つですね。何もないところからデザインは生まれません。「伝えたい」という明確な意思が必要です。

    辰年の龍

    縁起の良いしめ縄、お正月、新年、和、輪……。デザインは資料や膨大なワードから導き出すのも素敵ですね。仕事の打合せではよくブレストを行います。人に依っては「時間のムダ」と考える方もいらっしゃいますが。ブレストでは、まず思いついたものを書き留めたりかき集めたりすることも大切です。そして、個別の意味を深く掘り下げていきます。

    辰(龍)

    そもそも、十二支の中でなぜ龍だけが架空の生物なのでしょうか。諸説ありそうですが、昔は実在していると思われていた、という説が大筋っぽいですね。また、猫は嫌われていたのか十二支に入っていませんが、海外では猫も含まれている国があるみたいです。こうやって脳裏に浮かぶ疑問をネット検索していると、改めてインターネットの存在に驚きと感謝を感じるこの頃です。

    しめ縄

    日本人にとって非常に馴染み深いしめ縄の輪ですが、古くはなんと「日本神話の天照大神が天岩戸から出てくる際、再び岩戸に戻らないようしめ縄で塞いだとか何とか。そう考えると、三種の神器のごとく由緒あるものですよね。ちなみに、Bingに描いてもらったしめ縄はこちら。何だかすごく力強い!

    海外でもこういった「サークル」は、神秘的なものとして使われることが多かったりします。ストーンサークル、ミステリーサークル、魔除けのサークルや魔法陣など、円や輪をかたち取ったデザインは、古今東西で数多ありますね。レイアウト的にもとても落ち着くかたちであるため、私もよく表紙の画や目立つトップの画像などに輪のデザインや配置を採り入れています。

    輪のレイアウト

    輪、サークルの配置、レイアウトは本当に王道ですね。あらゆるものに効く万能のレイアウトなのかもしれません。何でしょう、輪があると画が落ち着くというか……。タイトルなどにも輪で締める感じもありますね。

    円を使うとまとまりやすく、宇宙など壮大なものの表現とも相性が良いですね。ちなみにこれらは過去に制作した作品なのですが、時間がないときにサクッと使えてとても有効です。自分の作品は普段からできる限りまとめておくと良いですよ。

    レイアウト

    デザインする際に大切なことは、全体=大きなレイアウトデザインから入っていくということです。レイアウトで7割くらい画の見映え(格好良さ)が決まると言っても過言でないでしょう。今回の場合、まずは「輪のデザイン=しめ縄」にすると決めたのち、見映えのするデザインになるよう考えていきます。

    とりあえず輪っかを作ってみるも、ただの輪っかですね。

    輪っかをずらしてみましたが、どうも落ち着きが悪いですね。関連性がありません。

    そこで、輪が絡み合ってしめてあるような形にしてみました。日本版「メビウスの輪」といった感じでしょうか。

    テクニカル

    大きなデザインが決まったら、デザインに対する技術検証をします。技術は作品のためにあるもので、技術のためにある作品ではないですね。

    CGでしめる縄

    ただのしめ飾りではなく、玉飾りのように輪っかにしたいと考えたのですが、これはCGだと自然に見せるのが結構難しい。

    押したり引っ張ったり。シミュレーションをかけて結ぶ・結わくをやってみるものの、いまひとつしっくりとこない。

    何度も鍛錬を重ねて結んでいきました。

    気分はしめ縄職人。CGは本当にいろいろな体験ができますね。

    これは、実は以前に連載で制作した稲穂です。CGで制作したものは自分の財産です。いつか使うときのために大切に取っておきましょう。私に至っては、いまだに学生時代のデータを大切に保管してあります。

    稲穂を組み合わせ、最後に忘れないよう干支の辰を載せてバランスを整えます。どちらも輪のバランスを崩さないように、流れに沿って配置する必要があります。ものとしての一体感を持たせるためです。この「バランスの調整」がデザインの醍醐味なわけですが、詳しくはまた今度「画創の法則」などでお話ししたいと思います。

    ここまで作ったところで、今度は画の重心をみていきましょう。今回はわざと上下いっぱいいっぱいに配置して、ものの大きさを演出してみました。これだけでも安定しますが、さらに安定するよう重みのあるモチーフは下に集めています。3Dで画を作るときは、「モチーフとしてのバランス」と「画としてのバランス」の2つを意識して整えなければなりません。CGで作品を作るためにはとても多くの知識を必要とする。その一面を垣間見る瞬間ですね。

    ただこのバランスはちょっと右に重い感じがしますね。左下に穴があるような……、などと感じてもらえたら。この「穴」に関する回答は文末のコラムで。

    そして配色です。本来、白地×白縄なのでどうもインパクトが弱い画になりがちです。縁起物ですのでインパクトがなくても構わないのですが、これは筆者の好みの問題で(笑)。

    やはり黒い点があった方が吸い込まれるような迫力がありますね。白い服にインクをこぼしてショック、みたいなインパクトがあります。

    こちらはレンダリングしたままの画で、ちょっと暗いです。

    カラコレしていきますが、ただ明るくするのも難しいもので、そのまま上げていくと白くとんでしまう所も多くなり見にくいですね。

    かといってコントラストを出しすぎると暗く沈んでいきます。こういった雰囲気の作品であれば良いのですが、今回は縁起物です。もう少し明るく神聖な感じも出したいところです。

    明るさとコントラストの絶妙なバランスが必要になってきます。この辺りについては数値では言い表せず、経験値による調整と言うしかないところです。

    フォント

    そして最も大切とも言えるフォント選び。通常、セリフのアリ/ナシで決めることが多いのですが、やはり今回はお正月なので毛筆でしょう。

    コラム ~ AI ~

    そうそう話は変わりますが、新しいレイアウトに……とAdobe Illustratorのベクター生成AIを試してみたのですが、これが素晴らしい。今回は魔法陣を沢山考えてもらいましたが、これがベクター付きで生成されるわけです。これまでは自分の手で何時間もかけて描くか、あるいはPhotostockなどのベクターデータを探してきて切り貼りするかなど大変な手間がかかったものですが、コーヒーでも飲みながらポンポン生成されますね。素敵すぎます。
    Adobe MAXなども拝聴してましたがムービーにもどんどん応用されているようで、来年、再来年の進化がとても楽しみ。ほんとこれ、ひとりで映画とか作れてしまうんじゃないかしら? なんて思えてしまう。夢は広がりますね!

    2023年はデジタル業界にとって進化の途にある年になりましたね。おそらく技術的なAIの進化はどこまでも進んでいくのでしょう。初めてCG(デジタル)が世の中に登場したときにとても良く似ています。当時私はまだ学生でしたが、画を描くのはみな筆、図系は烏口や定規でした。

    そこにMacintosh(Mac)をはじめPhotoshopやIllustratorが現れて……、人々はすぐにそれらテクノロジーを受け入れて使ったでしょうか? いえいえ、実は最初はみな反対して悪口ばかり言っていました。すんなりとデジタル化に移行したのは、ほんの一握りの人だけでした。学校ではそれらツールを使わせないように教員室の奥にMacを隠したり、今と同じように「デザイナーの仕事がなくなる」などと嘆く人もチラホラいて「PCなんか反則だ、使わなくとも俺はできる!」などと言い出す人も(笑)。

    スプライン化してレンダリング

    私はというと、3番目くらいに飛びついたものですが(ちなみに、あまりにも初期に使いはじめても途中で燃え尽きます)。最初は部屋が汚れなくて良いな、といった気軽な感じでしたが、気付けばドップリとデジタルに漬かってました。

    新しい技術、進化があるときにとても重要なことは「本質を忘れないこと」。

    我々は果たしてCGを作りたいのでしょうか? なぜ、CGが生まれたのでしょうか? 答えはいろいろあるかとは思いますが、「良い作品をつくるため」という目的のためでしょう。CGはあくまで目的のための手段です。とすれば、いつかCGがなくなり全てがAIに置き換わったとしても、本質をもっていれば大丈夫ですね。CGは良い画をつくるためのパートナー。一緒に進化していきたいものですね。ちなみに本稿で掲載している画像とトップ画は異なりますが、AIで最終調整しています。

    自分が考えつきそうもないアイデアがポンポンと出てくるので、これはありですねえ。トリプルS級の優秀なアシスタントがいきなりできた感じがします。私はビル・ゲイツ氏の言葉「AIがすべての答えを持っているのに、それでも教育を受けたいと思う人がいるでしょうか?」という言葉に感銘を受けました。

    In the distant future, agents may even force humans to face profound questions about purpose. Imagine that agents become so good that everyone can have a high quality of life without working nearly as much. In a future like that, what would people do with their time? Would anyone still want to get an education when an agent has all the answers? Can you have a safe and thriving society when most people have a lot of free time on their hands?


    AI is about to completely change how you use computers” And upend the software industry.

    - By November 09, 2023


    これからは強い感覚を身に付けなければならないでしょう。CGは本当に日進月歩、今年はどんな進化があるのかドキドキしますね!

    今年も1年、この業界にとって素晴らしい年になりますように。

    INFORMATION

    期間は短いですが作品展示を行います。今まで作成した作品のうち、なにかしら縁起のよいことがあった作品を展示いたします。皆さまにも沢山の幸運が訪れますようにと願いを込めました。お近くにいらっしゃった際は、ぜひお気軽にお立ち寄りください。


    Art&Graphic exhibition(2024.February vol.2)
    ~創造のイノベーション~

    <会期>
    2024年2月27日(火)~3月2日(土)
    ※日・月・祝日は休廊

    時間
    火~金:12時~18時
    土(最終日): 12時~15時30分

    <会場>
    RECTO VERSO GALLERY(レクトヴァーソギャラリー)

    〒103-0025
    東京都中央区日本橋茅場町2-17-13第2イノウエビル3F・4F
    Tel 03-5641-8546  Fax 03-5641-8547
    http://www.recto.co.jp/verso
     

    <リニューアル>「3ds Maxオンラインコース ~2024対応版~(デジタルハリウッド)」

    今年さらに新しくオンライン講座がリニューアルされます。

    大人気「3ds Maxオンラインコース 」がさらにリニューアルしてパワーアップ! 本格的な作品をつくりながらのトレーニングで実践的な技術を習得。

    本当に初めての方から最高の作品作りを。詳細はデジタルハリウッドのページにて。

    CGに初めて触れる方や新人教育用の教材「CGオペレーション基礎講座」として、基礎固めに効果を発揮しています。3ds Maxの機能をひとつずつ詳細に解説。豊富な作例から楽しく機能を学んでいただけます。
    online.dhw.co.jp/course/3dcg

    3ds Max『画龍点睛オンライン』講座

    文章だけでは語りつくせない詳細をオンライン形式でお届けします。実践で役に立つ「基本と応用」をCGWORLDの連載『画龍点睛』で制作した作品を通じて解説します。ゼネラリストとしての作品づくりに対する考え方で、さらなるステップアップを。
    tutorials.cgworld.jp

    ジェネラリスト『画創の法則』講座

    「画角の法則/均衡の法則/流導の法則/色彩の法則/心理の法則/観察の法則/動感の法則/仕上の法則」

    生き残るために必要な8つの「画創」が、あなたのクリエイティブな人生を左右する。

    早野海兵/Kaihei Hayano

    画龍 / Garyu
    ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・コンピュータエンタテインメントを経て創作活動の世界へ。現在、CGWORLD.jpにて「+画」連載中。アートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。
    #3dsMax, #adobe aftereffects, #zbrush, #substancepainter

    <代表作>
    ゲーム『鬼武者』シリーズ
    『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ
    『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
    著書『テクスチャイリュージョン』シリーズ
    連載「+画」、「画龍点睛」

    早野海兵公式サイト:kaihei.net
    画龍公式サイト:garyu.mystrikingly.com
    Twitter:@Kai_ryu_Kai

    TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano@Kai_ryu_Kai
    EDIT_みむらゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE