良い画には法則があります。
「美術(美 + 術)」は術であり技です。気の遠くなるような長い年月をかけて、
人類はそれを研鑽し昇華してきました。
画のみに留まらず、願わくばあなたの人生も+(プラス)になりますように。

記事の目次

    人生は絡み合う糸のように

    人との繋がりの大切さを感じた1年

    新年あけましておめでとうございます。

    前回の掲載からもう1年。時間が経つのは本当に早いですね。「歳をとると時間が経つのが早いんだよ」とたびたび耳にしてきましたが本当なんですね。かつては無限とも思えた時間も、後半戦に差しかかってきました。だからこそ、ひとつひとつの作品を本当に大切にしていきたい。「この作品で最後にする」「引退する」と言いながらも、精力的に活動を続けておられるアーティストの方々がたくさんおられますが、その心の裡(うち)には、「これが人生最後の作品である」と自分自身を鼓舞する、あるいは大切にしているのではないかと思うこの頃です。

    2024年は本当に目まぐるしい1年でした。ついに公開された映画『ラストマイル』が大ヒット。憧れの日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』にも参加させていただくことができたり、新しくバーチャルシンガーと関わることができたり、タイトルデザインやキャラクターデザインを手がけさせていただいたりと挑戦の幅が広がりました。

    それもこれもたくさんの方々との人付き合いによって生まれたものです。歳をとればとるほど、人との繋がりの大切さがよくわかります。人生は絡み合う糸のように繋がっていて、ひょんなことが自分の手助けになるかもしれません。一方で不要な関係は糸がからまるだけですので、ばっさりと切ったほうが良いこともあったりしますが(笑)。

    多くの人にVFXの素晴らしさを伝えたい

    さて、新年ということで今年の抱負を。昨年の抱負は「少しでも多くの人にCGの本当の素晴らしさを伝えたい」でしたが、今年の抱負はもう少し的を絞って「多くの人にVFXの素晴らしさを伝えたい」

    最近、日本のVFXが盛り上がってきているな~と思うのは筆者だけでしょうか。映画ランキングがアニメと洋画がズラリと首位を占めていましたが、ここ最近は邦画タイトルがチラホラ見られます。

    2024年はアカデミー視覚効果賞で初めて日本映画が受賞しました。配信などでの映像のクオリティもかなり上がっていますし、丁寧に制作すれば観る人にきっと伝わる。そんな土台が着々と構築されてきているように思います。

    CGの楽しみは多岐に渡りますが、VFX(特に実写系)はさながら大冒険のごとく人を寄せ付けぬ廃墟を自由に歩きまわり、室内にまだ見ぬ映像を流し、壮大なロマンを求めてはデータとして流通していきます。生成AIを含めテクノロジーを活用した制作手法を若い世代にもベテラン世代にも伝えていけたら。そんな年になったらと思っております。

    デザインの考え方

    2025年も縁起の良いものを。毎年この時期に、干支をモチーフにした作品を年賀状がわりに作成しています。今年は巳年(ヘビ)ですね。

    12年前の巳年はどんな画を描いたかな? と探してみたところ、こんな蛇の骨を描いてました。お正月から骨の画を送られて、受け取った人はさぞかし怖かったことでしょう。ということで今年は平和な感じで(笑)。「絡む紐」をモチーフに、現実に見え隠れする「蛇の真実」を作成。

    2024年は移動が多かったので、機材用の配線やコード類をたくさん持ち歩いていたのですが、これがよく絡まるんですよね。なんでこんなに? と呆れるほど絡まるので調べてみたところ、「KNOT THEORY(結び目理論)」というワードに出会いました。

    この世には「結び目理論」なるものが存在しているらしい。これまたちょっとした理論とアートの世界を垣間見ることができ、眺めているだけで楽しめました。

    紐の自然なレイアウト

    こういった「自然現象的なかたち」は、意図的に作ろうとするとなかなか上手くいかないものです。結び目が「自然現象か」と言われるとそうでない気もしますが……。

    結び目理論(むすびめりろん、knot theory)とは、紐の結び目を数学的に表現し研究する学問で、低次元位相幾何学の1種である。組合せ的位相幾何学や代数的位相幾何学とも関連が深い。素数と結び目にもエタールホモロジーを導入して密接に関係する。



    出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

    ……何のこっちゃ! ずいぶんとヤヤコシイ単語が出てきました。しかし結び目ってそんなに複雑な理論だったのか。そんなことを調べているときにふと目を向けると、バッグの中で絡まるコードが。目の前にある「結び目理論」。イライラせずになぜか許せる感じになってきました(笑)。

    書道のように格好良く走り書きしたものをベースに、とも思ったのですが、プロの書道家ではないのでこれっぽっちも格好良くならない……。どれも何だか素人が適当に描いたようなものばかり。これは難しい。

    ということでシミュレーションして紐を絡ませることにしました。……が、簡単かと思ったものの何度もトライする忍耐の作業に。

    試行錯誤すること数時間。ようやく納得のいく「絡まっていくかたち」が見えてきました。

    続いて「良い角度」を探していきます。こういった作業は比較的楽しいですね。そういえば、学生時代に「デッサンは場所取りが大事」と先生に教わりましたが、本当にアングル次第で良い絵にも悪い絵にもなるものです。

    最終的に、より複雑な人間関係を模してみたくて絡み合いを増やしました。画創の法則では「ランダムな配置」という法則があります。「ランダムに配置して」と言われると、人はなぜか一定の間隔で並べてしまうか、何かしら意図のある図にしてしまうものです。サスペンス物語では、連続犯はエリア内で円状に犯罪を繰り返したりしますが、犯人はその中心にいる……みたいなね。「自然なランダム」こそ難しい。そういうときに、シミュレーションが助けてくれたりしますよね。

    シルエット

    「そう見える」というのは、シルエットが大きく影響しています。

    ただ単に同じ太さだと人工的な紐に見えるのですが、

    こういった具合にちょっとした筋状の凹凸を加えて、

    さらに「しっぽ」「胴体」「頭」といった感じで太さに意味を持たせると、グッと生物っぽくなるんですよね。

    蛇柄

    時をさかのぼること24年。『2001年宇宙の旅』ではなく、2001年も巳年。

    当時はPhotoshopで描いてましたねー! ただただ「何とかこのパターンを描こう」と四苦八苦してフィルタを使っていました。そして2025年。時代は最新のPhotoshopを与えたもうた。

    時が経つことの凄さを感じます。制作にかかる時間はおそらく今の方が断然早く、そしてリアリティもあります。

    しかし、ここにたどり着くためには気の長い忍耐が必要……。時代は変わってもCGは忍耐なんですね。良い作品に出合うため、じっと耐え忍ぶ。

    テクスチャを貼るだけでだいぶ印象変わりますね。しかしこれだけだと、何とも味気なく「ただ絡み合う蛇」ですね。

    画創の法則

    ということで、ここで画創の法則「大量」を。とにかくモノをたくさん置いてみよう。

    素材はなるべく自然なものを用意。

    そしてワンサカワンサカ。盛っていきます。

    さて、最後に文字入れを。

    こういう作業を感覚だけで行うとズレるんですよね。自分では真ん中だと思っていても、セーフガイドを出すと右に寄っている……。

    画の構成とかモニタの位置、座っている姿勢などからも影響されるので、ここはガイドに頼ってしっかりと真ん中に置きましょう。

    ちなみに「タイトルセーフ」という名前なんですけど、昔のTVは端っこが枠で覆われていたため映らなかったので「タイトルが見える範囲」ということですね。

    CGは本当に日進月歩。今年はさらにどんな進化があるのでしょうか。CGの旅を楽しみましょう!

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    早野海兵/Kaihei Hayano

    画龍 / Garyu
    ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・コンピュータエンタテインメントを経て創作活動の世界へ。現在、CGWORLD.jpにて「+画」連載中。アートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。
    #3dsMax, #adobe aftereffects, #zbrush, #substancepainter

    <代表作>
    ゲーム『鬼武者』シリーズ
    『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ
    『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
    著書『テクスチャイリュージョン』シリーズ
    連載「+画」、「画龍点睛」

    早野海兵公式サイト:kaihei.net
    画龍公式サイト:garyu.mystrikingly.com
    Twitter:@Kai_ryu_Kai

    TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano(@Kai_ryu_Kai
    EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE