技術革新が加速し、制作体制も多拠点化が進むCG映像業界で、クリエイターはどう学び、成長していくのか。各社の教育・研修の取り組みに迫る連載企画、第5回はデジタル・メディア・ラボを紹介する。前編では、入社初週に行われる新人研修に焦点を当て、社会人としての基礎力やセキュリティ意識、制作における“共通言語”をどのように揃えているのか、その設計思想と現場視点の工夫に迫る。

記事の目次

    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.330(2026年2月号)掲載の「クリエイターの学びの現場 第5回 デジタル・メディア・ラボ」を再編集したものです。

    デジタル・メディア・ラボ

    1995年創業、169人が在籍するCGスタジオ。東京本社を中心に大阪・金沢・バンコクへ展開し、ゲームや遊技機、展示映像まで幅広く制作。「創れない世界はない」という行動指針の下、常に新しいことを取り入れ、行動する姿勢を推奨している。
    Webサイト:https://www.dml.co.jp

    多拠点・多領域で広がるDMLの制作と組織体制

    CGWORLD(以下、CGW):まずは、デジタル・メディア・ラボ(以下、DML)さんの事業内容と組織体制について伺えますか?

    城田淳哉氏(以下、城田):当社は1995年創業で、主業は3DCGを中心とした映像制作です。特にゲームと遊技機向けの制作が全体の9割以上を占め、ここ20年ほどはその2軸で推移しています。一方で、残りの1割には展示映像やプロジェクションマッピング、『やさいのようせい』に代表されるライツ事業などもあり、扱う領域はかなり幅広いです。モデリングだけ、アニメーションだけに留まらず、カットシーンの演出やライティングまで含め、総合的に社内で完結できることが強みですね。

    常務取締役 制作本部長・城田淳哉氏

    吉田 学氏(以下、吉田):組織体制としては、制作本部の下に、CG制作部とAM(アミューズメント)開発部がある構造です。CG制作部はゲーム・遊技機・展示など、3Dが関わるものは全て扱う部署です。AM開発部は遊技機の企画開発や2Dコンポジット、オーサリングなどを行うチームです。

    制作副本部長 CG制作管掌・吉田 学氏

    城田:私は制作本部全体を統括しつつ、近年はシステムやセキュリティ分野を主に担当しています。制作面は吉田・片山(敏春)・濱口(剛裕)の3人に任せています。

    吉田:私は制作本部の副本部長として、全プロジェクトの制作を見ています。新卒の配属先は、CG制作部・AM開発部・営業部の3つが中心ですね。制作進行やプロデューサー候補の新卒は、営業部に所属します。まれに管理部やシステム推進室に配属されるケースもありますが、数年に1人程度です。

    片山敏春氏(以下、片山):CG制作部に関しては、私が東京側、濱口が大阪側の部長を務めています。CG制作部の新卒は常に全職種で募集しており、「良い人がいれば採用する」というスタンスなので、モデラー、アニメーター、リガー、テクニカルアーティスト(以下、TA)など、採用職種も人数も毎年変わります。

    制作本部 CG制作部長(東京管掌)・片山敏春氏

    濱口剛裕氏(以下、濱口):ここ3〜4年のDMLは「人を増やしていく方針」を掲げており、その一環で新卒採用者も増えています。今年は12人、昨年は10人、その前は8人ほど採っており、若い人が急増しました。

    制作本部 CG制作部長(関西管掌)・濱口剛裕氏(取材にはリモートで大阪から参加)

    城田:拠点別では東京が6〜7割、大阪は多い年で4人、平均すると2〜3人です。金沢は2年半前に開設した新しい拠点で、今年初めて新卒採用を行いました。これから徐々に増やしていく段階ですね。

    多拠点化が促した、研修と配属設計のアップデート

    CGW:今年の新人はどのように迎え入れられたのでしょうか。まずは研修全体の設計思想を教えてください。

    城田:DMLの新人研修では、「クリエイターとして一人前になること」だけでなく、「社会人として通用すること」を非常に重視しています。ビジネスマナーやTPOに応じた言動は、どの職種でも必要になりますし、将来的には片山や濱口のようにセミナーへ登壇したり、外部で会社を代表して話す場に立つこともあり得ます。そのため、早い段階から社会人としての基礎力を培ってほしいんです。

    2025年 新入社員研修スケジュール

    ※内容やスケジュールは、年度ごとに見直している

    片山:今年は4月1日から5日間、新入社員研修を行いました。構成としては、親会社主催の研修、DML独自の研修、外部講師によるビジネスマナー研修を組み合わせたかたちです。コロナ禍前は東京に集合していましたが、現在は東京・大阪・金沢の3拠点からオンラインで参加する形式に落ち着いています。

    吉田:新人研修の初週で最も大切なのは、全員が同じ“共通言語”をもつ状態をつくることだと思っています。採用人数が年々増え、さらに拠点も広がったことで、各部署への配属後に個別で説明すると、どうしても指導内容にばらつきが出てしまうんです。そこで「各部署に分かれる前に、全員で同じ話を聞く」ことを徹底しようと、3年前から制作本部研修を新設しました。この研修では、社会人1年目の新人に意識してほしいマインドセットを伝えるようにしています。

    濱口:現場感覚で言えば、昔は配属後にメンターが説明していた内容が、今は最初の1週間で一気に共有されるイメージです。結果として、新人が早く“現場モード”に入れるようになったと感じます。二度手間も減りますし、教える側としても助かっています。

    制作本部研修で使用するスライドの抜粋。制作には対価と責任が伴い、最終決定権は自分ではなくチームにあることや、やりたい表現を組織のビジョンと接続して実現していく重要性が示されている

    制作の4段階を循環的に捉え、「認識の共有制作ブラッシュアップふり返り」を反復することで、作品の質と個人の経験値を高める基本姿勢が示されている

    現場を守るために最初に教える、セキュリティの基礎意識

    城田:ここ数年は、セキュリティ教育にも力を入れています。そのきっかけになったのが、ロシア・ウクライナ戦争でした。DMLでは、10年来海外の会社とプロジェクションマッピング案件などで協業してきました。戦争開始後、日本国内でもサイバー攻撃が急増したことはニュースなどで伝えられていますが、その頃からDMLにも海外からのログインアタックのような試みが多発するようになったんです。戦争との因果関係はわかりませんが、「もし乗っ取られたら大変だ」という強い危機感が生まれたんです。

    吉田:実際の研修では、「こういう添付ファイルは開かない」、「こういうメールは危険」といった具体例を交えて注意喚起しています。同業他社の情報漏えい事例もケーススタディとして紹介し、“サイバー攻撃は他人ごとではなく、誰にでも起こり得る”という意識づけを徹底しています。

    片山:セキュリティ分野は、現場の制作以上に、新人が早めに知識をもっていないと危険につながる部分です。ですから、初週の段階でしっかり伝えるようにしています。

    CGW:各配属部署では、どのような研修を行うのでしょうか?

    片山:各配属部署での研修に関しては、“研修”と呼ぶよりは、もうOJTのスタートに近いです。まずは自席につき、PCのセットアップをして、そのまま実作業に入っていきます。職種別の座学をまとめて行うというより、現場に入りながら覚えていくながれですね。

    濱口:大阪も同じです。現場に入ると、自然と周囲の会話や進め方が耳に入ってくる。それが一番の学びになります。

    第5回 デジタル・メディア・ラボ 後編は、3日(火)に公開します。

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.330(2026年2月号)

    特集:映像制作ニュースタンダード

    定価:1,540円(税込)

    判型:A4ワイド

    総ページ数:112

    発売日:202619

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota