「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第3回(※1)となる今回は、カプコンで『モンスターハンター:ワールド』(2018)などの開発に携わるキャラクターデザイナーの仕事を紹介する。

※1 本連載のバックナンバーは下記にて公開しております。
No.01(前編)>>フロム・ソフトウェア
No.01(後編)>>フロム・ソフトウェア
No.02(前編)>>コロプラ
No.02(後編)>>コロプラ

記事の目次

    塩原信一氏 リードキャラクターアーティスト

    1999年にカプコンへ入社。『デメント』(2005)、『デビル メイ クライ 4』(2008)、『ロスト プラネット 2』(2010)、『モンスターハンター』シリーズ、『ドラゴンズドグマ』シリーズなどの開発に参加。最新作の『モンスターハンター:ワールド』では、キャラクターデザインに加え、装備デザイン、オトモデザイン、背景デザイン、コンセプトアートなども担当。現在は未発表タイトルのデザインセクションリーダーを務める。

    目加田 実果氏 アーティスト

    名古屋出身。愛知県立芸術大学 デザイン専攻を卒業し、2017年にカプコンへ入社。現在入社1年目。未発表タイトルのキャラクターデザインとモデリングを担当。多くの人を魅了するキャラクターデザインを求め日々奮闘中。

    株式会社カプコン

    1979年設立。現在の本社は大阪市中央区にあり、家庭用ゲームソフト、オンラインゲーム、モバイルコンテンツ、アミューズメント機器などの企画、開発、製造、販売、配信、アミューズメント施設の運営を行なっている。『ストリートファイター』シリーズ、『バイオハザード』シリーズ、『モンスターハンター』シリーズなど、数々のヒットタイトルを生み出している。
    www.capcom.co.jp

    ▲『モンスターハンター:ワールド』プロモーション映像。2018年1月26日(金)発売の『モンスターハンター』シリーズ最新作。プレイヤーはハンターとなり、様々な環境に生息するモンスターを狩猟する。本記事では、ゲーム内に登場するハンター、装備、武器、モンスターなどのデザインの仕事を紹介する
    ©CAPCOM CO., LTD. 2018 ALL RIGHTS RESERVED.

    どんなデザインであっても、必ず理由付けをする

    --最初に、お2人が所属しているデザインセクションの仕事について教えていただけますか?

    塩原信一氏(以降、塩原):私たちのセクションでは、ゲーム内に登場するキャラクター、装備や武器、小道具などをデザインします。アーティストの多くは専門分野をもっており、私はキャラクターデザインのリーダーをしています。カプコン入社当時はエンバイロメント(※2)のデザインやモデリングを担当していましたが、幅広く色々なデザインをやってみたいという希望があり、2013年頃にデザインセクションへ異動したのです。最近はプレイヤーキャラクターと、その装備のデザインを担当することが多いですね。

    ※2 環境のこと。背景と呼ぶ場合もある。

    --リーダーをやりつつ、デザインの実務もなさっているのでしょうか?

    塩原:そうです。カプコンのアーティストはものをつくりたい人が大多数を占めるので、管理だけに専念することを嫌がる場合が多いです。管理をやりながら制作もやるのは結構しんどいですが、管理職には「1番やりたい仕事を自分に割り振れる」という特権があるので、楽しんでやっています。

    --デザインとモデリングのセクションは分かれているのでしょうか?

    塩原:セクションは分かれていますが、デザインとモデリングを兼任しているアーティストもいます。また、デザインの段階から3Dツールを使う人もいます。特にモンスターデザインの場合は、絵を描くよりもZBrushで形をとる方が早いという人が多いようです。

    目加田 実果氏(以降、目加田):私はデザインセクションに所属していますが、モデリングも担当しています。学生時代にはデザインとモデリングは分業するものだと思い込んでいたので、人によっては両方担当していると知って驚きました。

    --塩原さんは『モンスターハンター:ワールド』でもキャラクターや装備のデザインを担当したのでしょうか?

    塩原:はい。『モンスターハンター』シリーズの場合は、装備といっても単なる鎧や服ではなく、1人のキャラクターをデザインする感覚に近いですね。『モンスターハンター』シリーズは、モンスターを狩り、手に入った素材を使って装備や武器をつくり、さらに強力なモンスターに挑むゲームなので、基本的にはモンスターのデザインが先行します。「ゲーム内でこんなあそびをやりたい」「こんなモンスターだとあそびと結び付く」といった具合にアイデアを膨らませ、モンスターのデザインを詰めていきます。そのモンスターの見た目や生態の特徴を生かして、装備や武器をデザインするのです。例えば『モンスターハンター:ワールド』の「古代樹の森」に住む「アンジャナフ」というモンスターは「縄張りに侵入したほかのモンスターに躊躇なく襲いかかったり、怒るとプレイヤーキャラクターをどこまでも追いかけてきたりする非常に好戦的なモンスター」という設定です。そのため「アンジャナフ」からつくった装備をまとったキャラクターは、ワイルドで好戦的な印象の戦士に見えるようにデザインしました。武器も、そんな戦士がいかにも愛用していそうな得物としてデザインされています。

    ▲【左】デザインの仕事について語る塩原氏。手元には「アンジャナフ」からつくった装備をまとったキャラクターのデザイン画が置かれている/【右】同じく目加田氏

    --すべてのデザインに根拠があるわけですね。

    塩原:どんなデザインであっても、必ず理由付けをするようにしています。「自分はこういう色や形が好きだから描いてみました」というだけでは、周囲もユーザーも納得しませんし、おもしろいゲームにもなりません。目指したいキャラクター性に説得力をもたせるためのデザインが必要となります。

    --1つのデザインが完成するまでのプロセスを教えていただけますか?

    塩原:まずはイメージを膨らませ、色々なパターンのラフを描きます。先ほどの「アンジャナフ装備」の場合だと、決定稿よりもさらに野性的な「未開の地の部族」のようなラフも描きました。この段階では、思い付く限りの様々なアイデアを描くようにしています。ラフが出揃ったらデザインセクション内のほかのアーティストに見せて意見を聞きます。最終判断は世界観の監修をしているアートディレクターが行います。『モンスターハンター:ワールド』の場合は、エグゼクティブディレクター兼、アートディレクターの藤岡 要が判断しました。デザインの方向性が絞り込めたら、全体のシルエットに気を配りつつ、徐々に細部のデザインを詰めていきます。

    --ラフから決定稿まで、絵を描く作業は1人のアーティストが担当するのでしょうか?

    塩原:スケジュールに余裕のあるときは、複数人でラフを出し合って選ぶこともありますが、基本的には最初から最後まで1人のアーティストが担当します。目加田のような新人の場合も同様です。「新人だからこれしかできない」というような制約はないので、完成まで責任をもって担当してもらいます。とはいえ経験が少ないうちは1人だけで完結する仕事ではないので、周囲の先輩や上司がサポートしていきます。

    --モンスターやエンバイロメントと同様、武器のデザインも専門のアーティストが担当するのでしょうか?

    塩原:幅広く手がけているアーティストもいますが、基本的には武器専門のアーティストが担当します。『モンスターハンター』シリーズに登場する武器はすごく種類が多い上、その大半は変形機能も付いています。変形の前後で構造に破綻がないようにデザインする必要があるため、専門的な知識や技術が求められるのです。

    「私の絵はここがおかしかったんだ!」と気付けるようになった

    --目加田さんは現在入社1年目だそうですね。入社前にどんな勉強をしていたか、教えていただけますか?

    目加田:私は愛知県立芸術大学でデザインを勉強しました。2年次前期までは平面から立体まで幅広い分野のデザインを学び、2年次後期からは視覚伝達デザインを専攻しました。子供の頃からイラストを描くことが好きだったので、自分のイラストを生かせるデザインを学ぼうと思ったのです。例えば私はアイヌ民族に興味があったので、アイヌの昔話をイラストで表現し、それを1冊のフリーペーパーにまとめ上げ、周囲に配ったりしていました。

    --どうしてゲーム開発の路に進もうと思ったのでしょうか?

    目加田:大学で色々なデザインを経験しながら、自分に何ができるだろうと悩んだ結果、ゲームの路に進もうと決めました。私は幼稚園の頃からゲームが好きで、同じようにゲーム好きの姉や近所の子供たちと一緒によくゲームであそんでいました。ゲームで負けるとすごく泣いて、周りを困らせていましたね。小学校の高学年になると自分でもゲームのキャラクターを描きたくなったのですが、全然上手く描けず「どう描いたらカッコ良くなるだろう? 可愛くなるだろう?」と考えながら試行錯誤していました。キャラクターの設定を考えることも大好きだったので、ゲームのキャラクターをつくることを仕事にしたいと思ったのです。

    --今は志望通りの仕事に就いているわけですね。

    塩原:私が今年の新人研修の講師を担当した当初から目加田のことは気になっており、本人もキャラクターデザインの仕事を希望していたので、7月の終わり頃に今のセクションへ入ってもらいました。

    目加田:新人研修で学んだことは、ほぼすべてが今の仕事に生きています。私は新しい知識や技術を習得するだけで精一杯でしたが、指導してくれる先輩たちは新人の適性を見極め、今後の配属先まで考えてくださっていたのだなと後になってわかりました。

    --新人研修の期間はどのくらいですか?

    塩原:約3ヶ月です。毎年、美術大学の油絵科や彫刻科出身者の中には、3DCGツールはもちろんPhotoshopすら触ったことがない人もいます。しかし、現場の第一線で活躍しており、教えることにも長けた者が講師役を務めるので、ある程度のものがつくれるようになるのです。実際、目加田も3DCGに関してはほぼ素人同然でしたが、すぐにつくり方を習得しました。

    --目加田さんが新人研修で学んだことの中で、特に印象に残っているものは何ですか?

    目加田:カプコン流の人体デッサンの研修は、美術大学の受験用デッサンとは全然ちがい、すごく実践的で勉強になりました。目の前のヌードモデルを描くのではなく、いわゆる棒人間の絵でポーズだけが指定され、そこに肉付けをしてディテールを描くよう求められるのです。

    塩原:あえて多くの人が普段描かないポーズやアングルを指定するので、絵の腕前に自負がある人でも「自分は人体を思ったより理解していなかった」と痛感し、鼻を折られるのが通例です。そうやって自分の知識や実力を把握してもらった上で、人体の美術解剖学(※3)を学び直してもらいます。

    ※3 カプコンで格闘ゲーム開発に携わっていたアーティストがまとめた美術解剖学の資料はシャドルー格闘家研究所のアートの話 No.001「あやしい美術解剖図」で公開されている。

    目加田:大学ではデザイン科を専攻していたため、人体デッサンはほとんど学ばず、独学で人間を描いてきました。新人研修でしっかり教えてもらい、自分でも調べたことで「私の絵はここがおかしかったんだ!」と気付けるようになったのは大きな収穫でした。今も完璧に描けるようになったとは言い難いですが、まちがっている部分、できていない部分、練習が必要な部分はわかるようになったので、絵を描く上での目標ができました。

    ▲【左】新人研修について語る塩原氏と目加田氏。手元のクリアファイルには、新人研修で制作したデザイン画、デッサン、3DCG作品などがまとめられている/【右】同じく目加田氏

    ゲームで再現できる範囲内で、どれだけ面白いあそびを提案できるか

    塩原:新人研修では、キャラクターをデザインし、それを自分でモデリングし、ボーンも入れ、ゲームエンジンに実装し、既存のアニメーションデータを使って動かしてみるという課題にも挑戦してもらいました。一連の課題の中で、目加田はゲーム内でのあそび方まで考えたキャラクターをデザインし、しっかりとプレゼンテーションもしてくれたのです。

    --ただキャラクターの絵を描くだけでなく、「このキャラクターを使い、このようにユーザーにあそんでもらいたい。楽しんでもらいたい」ということまで考え、それがほかの人に伝わる絵や企画書も制作したわけですね。

    塩原:そうです。実際、われわれの普段の仕事の中でも「このキャラクターは、こんな戦い方をするんです」といったアイデアを伝えるため、漫画のような感じでちょっとした一場面の絵を描いたり、実際に自分が体を動かしてみせたりして、ほかのスタッフにプレゼンテーションすることはよくあります。そういう説明を通してデザインやアイデアの価値を伝え、賛同者を増やしていくわけです。目加田は新人研修の時点である程度それができていたので、デザインすることに向いていると思いました。「自分はこんなゲームをつくりたい」という熱意は、研修で教えられるものではありません。それが備わっており、ほかの人に伝わるように発信できる能力が一番重要だと思います。

    目加田:この課題では、自分のデザインが3D化され、ゲームに実装されるまでの過程を体験できたので、新しい発見がたくさんありました。例えば格闘ゲームのキャラクターの場合、髪やアクセサリーなどのゆれ物の量には制限がありますし、腕や脚の動きを邪魔するような衣服は実現できません。そのため、ある程度身体にフィットしたコスチュームでありながら、個性的なシルエットにする必要がありました。講師から何度も指導を受けて試行錯誤をする中で「どうやっても上手くいかない形」がわかるようになった点も収穫でした。

    塩原:そういった「ゲームの都合」をデザイナーが理解することは重要ですが、あまりに理解がよぎると、デザインが縮こまってしまうという弊害も生じます。デザイナーにはゲームで再現できる範囲内で、どれだけ面白いあそびを提案できるかが期待されています。最初から必要以上に縮こまっていては、周囲やユーザーを驚かせ、楽しませるようなデザインになりません。私自身「モデラーの都合を気にして、デザインの段階ではっちゃけないでどうする!」とアートディレクターから指摘されることがあります。まずはっちゃけてみて、それからモデラーに相談し、落としどころを探した方が表現の限界に近付けるのです。経験を積むほどそれが難しくなってしまうので、アイデアを出す段階で予防線を張りすぎないように心がけています。

    長くやってきたアーティストは、誰もが自分なりの「フェチ」をもっている

    --最後に、目加田さんの今後の抱負を聞かせていただけますか?

    目加田:色々なキャラクターをデザインし、いつの日か、ユーザーの思考や価値観まで変えるようなキャラクターを生み出したいです。私自身、学生時代に歴史系のゲームをやり、ゲームだけでなく歴史も好きになるという体験をしました。そんなふうに、私がつくったキャラクターを通して、ユーザーに何らかの新しい発見を届けられるようになりたいと願っています。

    塩原:目加田はデザインもモデリングもオールマイティにできる方ですが、そんな中で「自分が1番上手く表現できる!」と思うものは何なのか、見せられるようになってほしいです。長くやってきたアーティストは誰もが自分なりの「フェチ」をもっており、隙あらばそれを制作物の中に入れようとするものです。そういうフェチを常日頃から見せてくれていれば、「これは目加田の得意分野だから、目加田に頼めば1番いいものをつくってくれる」というように仕事をふりやすくなります。今の仕事に慣れてきたら、徐々に自分のフェチを磨き、表に出すことも意識してほしいと思います。

    TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
    PHOTO_蟹 由香