こんにちは、パーチ の長尾です。これまでカラーマネジメント導入に必要な技術と考え方、そして実際に導入した時の問題などについて解説してきましたが、とうとう今回が最終回となりました。全12回を読んでいただければカラーマネジメントに関する基礎学習は終了です! 次は実際の導入に進んでみてください。
そこで、最終回は "導入" ということにフォーカスしていこうと思います。すでに導入しているプロダクションの多くは 段階的導入 を採用しています。
必要性の高い部署から徐々に導入を進めていくやり方です。その際のポイントを紹介して、「自分のところではこうやっていこうか」と考えてもらうのを最終回のゴールにしてみます。では、いつも通り 「一番大事なポイントを絞り込んで、難しいことをわかりやすく」 してありますので、最後までおつきあいください。
導入ステップ
全12回にわたってカラーマネジメント(以下、カラマネ)を解説してきたので、一連の導入作業を一覧できた方が良いかな? と思いました。と言うわけで、ここに導入ステップをまとめてみました。
「導入ステップ」 ※クリックで拡大
導入のステップを一覧にしてみました。各ステップごとに参照する連載回を入れてあるので、インデックスとしてご利用ください
STEP 1:基準プロファイルを決める
まずは、自分の制作に最適なプロファイルを決めます。第3回 に掲載した 「業種別 推奨カラープロファイル 一覧表」 を参考に決定してください。
STEP 2:導入する部署を決める
会社で導入する場合は、「全ての部署で導入」するのか、「一部の部署で導入」するのかを決めましょう。個人または数名の場合は PC ごとに、または業務内容(3DCG、ポスト処理など)によって導入範囲を決めます。今回の次章で 《段階的導入》 について解説しているので参考に決定してください。
STEP 3:適切な機材を導入
基準プロファイルと、導入部署の要求水準を下に、適切な機材を導入します。カラマネにおいて一番重要な機材はモニタです。また導入した機材は測色器で測定管理することになりますので、管理の手間も考えてモニタを決定します。実機を確認したい場合は;
・メーカーショールームへ行く
・実機が展示してあるイベントに行く
・すでに導入しているプロダクションを訪問する
・メーカーから機材を一時的に借りる
・実機を使ったセミナーに参加する
......といった方法があります。第3、4、9、10、12回 に、モニタとそれ以外の機材について解説してありますので、そちらを参考にしてください。
STEP 4:ソフトウェアを設定
3DCG ソフト、ポスト処理ソフト、のカラマネ設定を行います。3ds Max、Maya については第5、6回 を、ポスト処理ソフトについては 第7回 を参考に決定してください。
STEP 5:パイプラインを構築
業務内容に沿って、カラマネのパイプラインを構築します。設定方法はもちろん、データのやりとりなど、自動処理される部分とルールに基づいて、主導で管理する部分を決めます。第4~9回 を参考に決定してください。
STEP 6:スタッフ教育
カラマネのメリット、基本的な仕組み、基礎知識、パイプライン(運用方法)を関連スタッフ全員に伝えます。 第1~11回 を参考に教育コンテンツを制作してください。
STEP 7:管理・運用
最後は導入後の管理と運用について決めます。管理者が管理業務を行うためのルールづくりです。第2、,3、11回 を参考に管理・運用マニュアルを制作してください。
段階的導入
すでにカラマネを導入しているプロダクションや個人の多くは、段階的 に導入しています(もちろん全部署で一気に導入するケースもあります)。段階的導入のメリットは;
・1回の投資が少ない
・パイプライン構築を徐々に進められる
・1部署だけの導入でも、一定の高品質化と効率化が起こるので、すぐに効果を確認できる
......段階的に導入することで、投資と手間を分散させることができるのがメリットだとわかります。効果をすぐに確認できるので、追加投資もしやすいという意見もよく聞きます。あと、これは私の経験ですが、導入直後は制作者と管理者に小さな混乱が起きます。理由は、これまで慣れ親しんだモニタの色、パイプラインが変更されたことに対する気持ちの問題です。人間は「変化を好まない生き物」 ですからね。その気持ちを和らげてあげるには、改めてメリットを説明したり、徐々に慣れてもらうお願いをしたり、が効果的でした。
でも安心してください、導入から少し経つとメリットを実感してくるので、プラス意見が出てきます。そうすると混乱した人たちも落ち着きを取り戻し、導入を喜んでくれるようになります。そして、半年も経つと「カラマネがない環境なんて考えられない」「ビジュアル制作に携わる人は、みんな導入した方が良いよ」という言葉が聞こえるようになります。人間の適応力に驚かされる瞬間です。
では、段階的導入の具体例を見ていきましょう。
段階的導入例1:試験導入からスタート
まずは1台、または数台で導入して、カラマネ導入方法、パイプラインの構築などの試験を行います。そして、その経験を元に徐々に拡大していきます。実例を見ると、試験導入を担当する方は、
・カラーマネジメント導入がミッションになった専任者(開発部署の方が多い)
・機材に詳しい方
・色に関して厳しい部署の方
......になるようです。この方法は、特にカラマネに関する知識が少なかった時代に多かったように思います。導入に関する知識、マニュアルなどがないために、自社でカラマネをイチから研究する必要があったんでしょうね。どのような機材が最適なのかを判断するために、複数台の機材を購入したり、パイプラインを組み替えたり、試したりする必要がありました。そのためには1名ないし数名でスタートした方が費用がかからないので、このような例になったのだと思います。
「段階的導入例《試験導入からスタート》」 ※クリックで拡大
1台もしくは数台から試験的に導入します
段階的導入例2:部署単位で導入
最も色に厳しい部署に導入します。そして、徐々に拡大していきます。実例を見ると、色に厳しい部署とは、
・色を決定する部署
・色を間違えると問題が発生する部署
......のようです。このような部署の場合、カラマネの導入効果が最もよく現れます。品質向上はもちろんですが、作業効率が劇的に向上します。そして何より担当者にとって嬉しいのは、ストレスが激減する! ことでしょう。モニタで見た色が忠実でデータ通りの色になるため、色の決定が早くなり、他部署へデータを渡しても問題が発生することが無くなります。部署単位で一括導入するため、グループ内のメンバー間で色の統一が図られます。どのモニタを見ても同じ色になっているので、メンバーを指揮するディレクターは指示がしやすくなり、あるメンバーが作ったデータを使い回したり、仕込みと仕上げを違うメンバーが行なっても色確認や修正をする必要がなくなります。また、他部署との関わりがないため、問題が起きづらく、導入がスムーズに進みます。
「段階的導入例《部単位で導入》」 ※クリックで拡大
部署のメンバー全員で導入します
段階的導入例3:全体で導入
会社全体、または関係者全体で導入します。導入例2で、「色に厳しい部署は導入効果が大きい」 と解説しましたが、カラマネはどの部署でも高品質化と効率化をもたらします。それ以外の部署でも、その度合いが多少小さくなるだけです。そして、全体で導入することでその効果は最大化します。実例を見ると、以下のような条件と理由を持った会社が行うようです;
・カラマネの導入方法を持っている(または専門知識を持っている方に協力してもらう)
・なるべく早く品質と効率を上げたい
・いずれやるのだから、どうせなら一気にやる(経営判断が早い)
全体に導入する期間が他の例に比べて 短期間 になるため、最も早く "最大の効果" を得ることができます。一方で試験期間がないため、すでに導入した経験のあるスタッフが進行するか、外部からの協力を得て進めていきます。
「段階的導入例《全体で導入》」 ※クリックで拡大
全体で導入して、短期間で効果を最大化します
段階的導入例4:モニタの品質を徐々に上げていく
これまでの例と視点を変えてみましょう。これまでの例はカラーマネジメントシステムの導入についてでしたが、そのうちのモニタについてフォーカスした例です。
一番重要な機材であるモニタですが、3DCG ソフトの設定などと違い、機材そのものを入れ替える必要があります。カラマネ導入のタイミングと、機材入れ替えのタイミング(リース切れや故障など)を一致させるのは簡単ではありません。そこで、既存のモニタを生かしながら徐々に高品質なモニタに入れ替えていきます。既存のモニタを生かしながらなので、取り組みやすいのが特徴です。
実例を見ると、既存のモニタは新たに購入した 測色器 を使って調整を行う 「ソフトウェア・キャリブレーション」 で運用します。その際の注意点が2つあります。
POINT 1:測色器によって性能が違う
POINT 2:測色器によって調整できる台数に制限がある
POINT 1 の性能 については、「フィルタ方式」と「分光式」の2種類に大別できます。 より精度が高いのは「分光式」 です。そして POINT 2 の台数制限 ですが、ハードウェア・キャリブレーションの場合は一般的に制限がありませんので、対応している測色器を1台所有していれば大丈夫です。その理由は、モニタ側に補正回路があり、調整用ソフトウェアもモニタメーカーから提供されるためです。
しかし、ソフトウェア・キャリブレーションの場合は測色器に付属のソフトウェアで行うため、ソフトウェアのライセンス形態によっては台数制限がある場合があるので注意が必要です。たとえば手頃な価格で分光式の X-Rite ColorMunki は3台までとなっているので、調整するモニタが多くなると測色器の購入台数が増えることになり、かえって投資が大きくなることもあります。
「段階的導入例《モニタを徐々に高品質化する》」 ※クリックで拡大
既存モニタを生かしながら、徐々にハードウェア・キャリブレーション型モニタに入れ替えていきます
百聞は一見にしかず
私たちが行なっているカラーマネジメントセミナーで、実機を使って効果を見てもらうときは、いつも同じ反応が返ってきます、「おー、本当に色が合ってる!」 。毎回それを聞くと、やはり百聞は一見にしかずなんだなあ、と実感します。ですので、この連載でカラマネに興味を持ったら、次のステップは 実機を見る ことをお勧めします。
あなたの目で効果を確かめてみてください! その方法は、今回のはじめの方に書いた 「STEP 3:適切な機材を導入」 部分の5つになります。
その1:メーカーショールームへ行く
その2:実機が展示してあるイベントに行く
その3:すでに導入しているプロダクションを訪問する
その4:メーカーから機材を一時的に借りる
その5:実機を使ったセミナーに参加する
その1:メーカーショールーム では、ナナオの運営する EIZOガレリア銀座 がお勧めです。ハードウェア・キャリブレーションモニタを複数見ることができます。その2:イベント は、すでにカラーマネジメントの導入が進んでいる写真・印刷関連のイベントのモニタメーカーブースをお勧めします。
私が先日参加した 「page2012」 というイベントでは、iPad の色をモニタ上に色を疑似再現するデモンストレーションを見ることができました。スマホでも可能だそうなので、スマホ向けゲーム開発・サイト制作に役立ちそうです。
その3:導入しているプロダクションを訪問 については、もし知り合いのプロダクションで導入しているところがあれば、ぜひ見せてもらってください。そのような知り合いが思い当たらないという方は私たちの会社で良ければお越しください。そして、その4:メーカーから機材を借りる 。モニタメーカーによっては機材を試験的に貸し出してくれることがあります。ぜひコンタクトしてみてください。その場合、測色器については自分で購入する必要がありますが、ColorEdge CG275W 等のモニタは測色器を内蔵しているので、購入しなくて済みます。ソフトウェアの調整方法や試験運用については、この連載を見ながら行なってください。
その5:実機を使った 3DCG のカラーマネジメントを解説するセミナー に参加すると、必要な情報がまとめて分かる上、色が合うことを体感できますので、非常に効率的です。当社でも、企業に訪問して 「3DCG のためのカラーマネジメントセミナー」 を実施していますので、ご関心のある方はお気軽にお問い合わせください。ただ、こちらに関しては「自社は少人数のため受けづらい」等のご相談をいただくこともあり、申し訳なく思っています。
そこで今回、より多くの方がカラーマネジメントの導入をスムーズに進められるよう、「CG de カラマネ! 総括セミナー」 を実施することにしました! ナナオさんのご協力があって実現できる、スペシャル企画です。この連載の内容を、実機を見ながらまとめて確認できるセミナーですので、皆様お誘い合わせの上、是非ご活用ください(※先着順ですので、お申し込みはお早めに!)。
「CG de カラマネ! 総括セミナー」
日時:5月18日(金)14:00~16:00
場所:EIZOガレリア銀座
受講料:2,100円(税込)
詳細は こちら
http://www.eizo.co.jp/event/seminar/place_3dcg/index.html
モニタのちがい
セミナーなどを行なっていて一番多く質問されるのは、「今持っているモニタを調整するのと、ハードウェア・キャリブレーション モニタの違い」 です。
しかし、実際に購入して利用してみないとわからないことなので、なかなか言葉で説明するのが難しくて苦労しています。複数台購入するコストと手間を減らせるように、実際に導入してわかることをまとめて解説したのが、第10回 でしたが、複数のモニタを測定したデータが手に入ったので紹介します。
測色器で調整すれば、色が合う と思いがちですが、3つの理由から調整後も色が合わないことが多くあります。
理由1:元々のモニタ特性が悪いため調整しきれない
理由2:測色器の調整では、中間を正確に補正しきれない
※測色器の調整は、RGB 各色ごとに行われるが、0~100までの出力の数カ所で行われ、中間部分は前後の測定結果を基に補われる。そのため中間を正確に補正しきれない
理由3:モニタ自体の調整が雑なため、明るさやコントラストを最適な状態にできない
では、モニタの特性はどの程度ずれているのか、複数のモニタを測定した結果を見てみます。下図は、4台のモニタ特性を分光式の測色器で測定した結果です。
「元の特性が悪いモニタは、測色器で調整しきれない」
制作スタッフの教育内容です。この項目とポイントに沿って教育を行うと効果的です
「モニタの出力特性比較」
ハードウェア・キャリブレーション モニタと、一般的なモニタを測定した結果です。特性がバラバラで、ずれ方に特徴がないので、調整が難しいことがわかります(※悪い印象を与えるためメーカー名は伏せています)
ハードウェア・キャリブレーション モニタは非常に優れた特性を示していますが、この形が私たちが期待している(頭に思い描いている)モニタ特性だと思います。入力信号が 50 なら出力は 50、100 なら 100、となってくれていると信じていましたが、実は多くのモニタが他の3つのような特性になっているようです。
最大出力は白の色(色温度)と輝度を決める要素です。測色器で調整すると多くの場合は、一番低い色(RGB のいずれか)に合わせて他の出力を下げることをします。そのため輝度が下がったり、色温度に関しても補正しきれない場合は不自然になります。最大出力から 0 に向けて直線になるのが当然ですが、実際にはクネクネと上下に蛇行しています。しかも RGB の3色がそれぞれに曲がり方が違う場合は、明るい色では R が強く、中間では G が強く、暗い色では B が強い、といった現象が起きます。
また、測色はたくさんのステップで行われず、0~100 の間で数回です(測色器とソフトウェアによって異なります)。その間の測定されなかった箇所は前後の測定結果に基づき推測して補正されます。しかし、この測定結果のように蛇行している場合は、数カ所の測定では調整は正確に行うことができません。
なぜこのような特性のモニタが多いのかというと、単純に 調整には"手間"と"コスト"がかかる からです。
優れた発色特性を持つ液晶パネルは高価で、そのパネルを細かく調整できる専用回路を組み込むには技術とノウハウが必要で、その調整にも時間がかかります。ハードウェア・キャリブレーション モニタの特性が優れているのがわかりましたが、それでも長時間使用すると徐々に特性が劣化する 経年劣化 は起こります。それを補正するために定期的な測色をして色管理することが必要です。
とは言え、もともとちゃんと調整された高品位モニタのためか、安価なモニタより長期に渡り表示性能を保てる(色ムラが出たり、画面が暗くなったりしにくい)ことが多いようです。通常のモニタより交換期間を長く設定したり、リース期間を長く設定できれば費用対効果がより高くなりますね。
カラマネは、作業の高品質化と効率化に欠かせない仕組みです。クリエイティブの現場がより良くなる、ストレスなくクリエイティブに集中できる、仕事が楽になる、ためのカラーマネジメントです! クリエイティブ業務には必須の仕組みですので、いずれ導入することになると思いますが、僕としてはこの連載を機会に導入してくれると嬉しいです......スミマセン、とっても個人的な発言でしたね。
カラマネに興味が湧いた、導入方法がわかった、導入した、という方が少しでも増えたら、この連載も成功でした。今後もパーチからカラーマネジメントに関する情報を発信し続けていきます。皆さんも 段階的導入 がんばってください! 応援してます。
いかがでしたでしょうか? 最後に具体的な応援策のひとつとして、私たちパーチでは連載終了を記念して、"スペシャルキャンペーン" を実施することにしました。カラーマネジメントシステムの導入にあたり不可欠な 「関係者教育(訪問型セミナー)」 と 「運用ルール作り」 を特別価格にてご提供して、皆さんの導入をサポートします!
本連載をお読みになって、
「早くカラマネを導入して、仕事を効率化したい!」
「負担を最小限に抑えて、確実に導入したい!」
......と思われている方は、この機会をぜひ活用してください。詳細は こちら からご確認ください(キャンペーン期間:2012年3月26日~2013年3月31日まで)。
http://www.perch-up.jp/design-viz/colorManagement_specialcampaign.html
皆さんのカラマネ導入がスムーズに進むことを祈っています! それでは、また。
TEXT_長尾健作(パーチ)
▼Profile
長尾健作(ながおけんさく)
広告写真制作会社(株)アマナにて、3DCG制作などの事業立ち上げを行なった後、(株)パーチ を設立。広告業界・製造メーカーに向けて、3DCGによる新しい広告制作手法の導入/制作サポートを手がける。各種セミナーでは、制作業務の効率化・コスト削減を実現するためのノウハウを提供。
パーチのカラーマネージメントの導入をサポートするWebページ
perch-colormanagement.jp/
▼ Powered by EIZO
この連載は、EIZO株式会社の協賛でお送りしています。
・EIZOがお届けする「カラーマネージメントに関する基礎知識」
www.eizo.co.jp/eizolibrary/index4.html