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    こんにちは。Shotgun認定販売パートナーのボーンデジタルでサポートを担当しているショットガン・トキトウです。前回はインハウスツールでプロジェクトを管理してきた株式会社エヌ・デザインが、どのような経緯でShotgunへの移行を決断したのか、移行したことで何が変わったのかをご紹介しました。続く第6回は、国内屈指の歴史と規模をほこり、大規模な分業体制を敷く株式会社ポリゴン・ピクチュアズにおける導入事例をご報告します。1983年設立の同社には、現在約300人のスタッフが所属しており、映画やTVシリーズなどの大型プロジェクトを常時手がけています。進行中のプロジェクトの多くに複数の協力会社が関わっており、そのなかにはマレーシアの合弁会社であるSilver Ant PPI Sdn. Bhd.(以降、SAPPI)をはじめ国外のスタジオも含まれています。1日あたり数千件にのぼる大量データがパブリッシュされる同社のパイプラインにおいて、Shotgunがどのように機能しているのか、Shotgunタスクフォースの中核メンバーに語っていただきました。

    Shotgunは、プロジェクトに関する全情報を共有できるインタフェース

    ショットガン・トキトウ(以降、トキトウ):ポリゴン・ピクチュアズは2014年の秋頃からShotgunの試験導入に乗り出したそうですね。これはボーンデジタルがShotgunの認定販売を開始する半年以上前になります。今では約400本のライセンスを所有し、数十件におよぶプロジェクトのほとんどで導入し、使いこなしている印象があります。まずは今日にいたるまでの経緯を教えていただけますか?

    長崎高士氏(以降、長崎):Shotgun導入以前から、当社は大規模プロジェクトを円滑に進めるためのパイプライン構築に力を入れてきました。その一貫として、飯山や加島をはじめとするソフトウエア開発チームの協力を得て、数多くのインハウスツールと、Pizmo(ピズモ)というデータベースを整備しました。

    石井涼子氏(以降、石井):例えば、モデラーがMayaでキャラクターのアセットをつくったとします。当社では基本的にQuickTime(以降、QT)形式のターンテーブル映像でアセットをチェックするため、モデラーはインハウスツールを使ってチェック用のQTを自動生成し、別のインハウスツールでそのQTをパブリッシュします。するとPizmoにパブリッシュの履歴が自動登録されると同時に、タスクのステータスも"チェック"に変更されます。

    トキトウ:素晴らしい。洗練されたパイプラインですね。

    飯山公子氏(以降、飯山):チェック用のQTを受けとったスーパーバイザー(以降、SV)は、PPI Reviewというインハウスのレビューツールを使い、チェックバック用のペイントオーバーやコメントを制作します。作業が完了したら、PPI Review上で"アプルーブ(承認)"あるいは"リテイク(修正)"へとステータスを変更し、パブリッシュします。このとき、相手がSAPPIなど国外のスタッフであれば、トランスレーションチームにコメントの英語翻訳を依頼します。PPI Reviewのパブリッシャにはそのためのチェックボックスが用意されており、クリックすれば自動的にトランスレーションチームにデータが送信されます。

    ▲インハウスのレビューツールであるPPI Reviewのインタフェース。この画面では『亜人』のチェックバックを行っています (C)桜井画門・講談社/亜人管理委員会

    加島忠之氏(以降、加島):一連の履歴とステータス情報はすべてPizmoに記録され、各種データは当社のローカルサーバに保存されます。データを外部の協力会社と共有する場合は、共有用サーバにもデータを格納します。このサーバは国内外の協力会社が所有するローカルサーバと1時間に1回の頻度で自動的に同期を行い、データに差分があればアップデートをかける設定になっています。

    谷 加奈子氏(以降、谷):協力会社のなかには、アーティストのインターネットアクセスに制限をかけている会社もあります。そんな場合でも、ローカルサーバどうしで同期をかける本システムであれば、最小限のタイムラグでチェックバック情報やデータを共有できるのです。

    トキトウ:さ、さすがですね。(Shotgunの活躍する余地がどれだけ残っているのか、不安になってきました)

    長崎:ところが本システムには、アーティストへの申し送りを記録したり、タスクの進捗を管理したりする機能が組み込まれていませんでした。その結果、申し送りを記録したいSVと、タスクを管理したいプロダクションマネージャー(PM)が、Googleスプレッドシートでオリジナルの管理表をつくるようになったのです。

    • 長崎高士氏
    • 長崎高士氏
      制作推進室/室長/CGスーパーバイザー。ポリゴン・ピクチュアズにおける最初のShotgun検証者の1人。アーティストの立場から同社のパイプラインとShotgunの相性を確認した。「情報共有やタスク管理に使ってきたGoogleスプレッドシートとShotgunの利点・欠点を比較し、Shotgunに移行するメリットを検証しました。Shotgunは拡張性に優れており、当社の複雑なパイプラインにマッチすると感じています」。


    • 石井涼子氏
    • 石井涼子氏
      制作管理部/制作マネジメントグループ・ラインプロデューサーグループ リーダー/ラインプロデューサー。PMやコーディネーターの代弁者として、Shotgunの使い勝手を検証した。「映画やTVシリーズのような大規模案件は期間が長く人の入れ替わりが発生するため、情報を一元管理できるShotgunは大きな効果をもたらしました。各自の工程に加え、前後工程の情報も同時に閲覧できるため、情報共有が以前よりスムーズになり、制作管理の負担軽減にもつながっています」。


    • 飯山公子氏
    • 飯山公子氏
      技術研究開発部/ソフトウエア開発 第2グループ/グループリーダー。後述する加島氏と共に、ポリゴン・ピクチュアズのパイプラインを支える大量のインハウスツールやデータベース(Pizmo)をShotgunへつなげるためのシステムを構築した。「システム開発以上に、Shotgunを各プロジェクトに根づかせ、使ってもらうための工夫に時間を割きました。なかには食わず嫌いのスタッフもいて、理解を得るまでには一定の期間と話し合いが必要でした」。


    • 加島忠之氏
    • 加島忠之氏
      技術研究開発部/ソフトウエア開発 第2グループ/ソフトウエアエンジニア。Shotgun導入にあたり、各種プログラミングを担当した。「インハウスツールやデータベース(Pizmo)とShotgunをつなぐ際には、Shotgun API(CRUD ベースのPython API)を使っています。約3ヶ月の作業で新システムの大枠は完成し、その後は当社の全プロジェクトに対応させるためのヒアリングと調整を行いました」。


    • 谷 加奈子氏
    • 谷 加奈子氏
      プロデュース部/企画管理グループリーダー/アソシエイトプロデューサー。プロデューサーの立場からShotgunの活用方法を提案するのに加え、Shotgunタスクフォースの取りまとめも担当。「Shotgunを導入したことで、各プロジェクトのタスク数、アセット数、所要時間など、制作にまつわる大量のデータを蓄えるしくみができました。これらのデータをコスト情報と紐付け、可視化することが次の目標です。それが実現すれば、当社の課題やボトルネックの発見がさらに進展するだろうと期待しています」。


    • ショットガン・トキトウ
    • ショットガン・トキトウ
      本名、時任友興(ときとう・ともおき)。1975年、宮崎県小林市生まれ。散弾銃"Shotgun"使いを父にもつ、ボーンデジタルのShotgun使い。リトルゲットーボーイのころから音楽とアートを愛し、30歳までギタリストとして活動。都内CGプロダクションでコンポジター&ディレクターとして勤務した際にShotgunと出会う。2015年より現職。Shotgunに関する相談やお問い合わせはフォームからお送りください!

    トキトウ:つまり、同じプロジェクトであっても、SVやPMの人数分だけGoogleスプレッドシートが量産される可能性があったわけですね。

    石井:TVシリーズのような大型プロジェクトは、膨大な量の情報やデータを扱います。1エピソードの平均ショットが300として、1期12話でショット数は3,600、アセットも何千という数にのぼります。それらを管理するため、SVとPMたちが各々の立場で工夫を重ねてきたので、多種多様な使い方、見え方のGoogleスプレッドシートが生まれました。

    :そうなると重要な情報が個人に委ねられるケースが増えてきて、どれが正しい情報なのかわかりにくくなってしまったのです。見る側はもちろん、Googleスプレッドシートをつくる側も混乱していました。まして途中からプロジェクトに入った人は、何が何だか皆目見当がつかず、慣れるまでに必要以上の時間がかかっていたのです。

    長崎その状況を改善するには、プロジェクトに関する全情報を共有できるインタフェースが必要でした。複数のソフトが候補にあがり、検証を重ね、最終的に導入したのがShotgunだったのです。

    蓄積された数値データに統計関数を適用し、プロジェクトの実績を分析したい

    トキトウ:データベースのPizmo、ローカルサーバ、SVやPMたちが制作した無数のGoogleスプレッドシートに分散していた情報を一元管理・一括表示する役割がShotgunにたくされたのですね。

    飯山:Shotgun導入決定後、各部署の代表者を集めたShotgunタスクフォースが結成され、使用時のガイドライン作成と、パイプラインへの連結が行われました。インハウスツール経由でPizmoに記録されたパブリッシュの履歴やステータス情報、ローカルサーバに保存されたチェックバックデータなどをShotgunにも自動的に反映させる新システムをつくるのと合わせて、"申し送りの記録やタスク管理は、GoogleスプレッドシートではなくShotgunで行う" "ShotgunのPipeline StepやStatusの定義は全プロジェクトで共通とする"などのルールも策定していきました。

    ▲ポリゴン・ピクチュアズのパイプラインとShotgunとの連携を解説する資料。各種インハウスツールを介してデータベースのPizmoに入力された情報が、Shotgunで一元管理・一括表示できるようになっています

    ▲ローカルサーバに保存されたチェック用のQTやチェックバックデータも、全て自動的にShotgunのVersionsに反映されます (C)桜井画門・講談社/亜人管理委員会

    :一連の準備を約半年で終わらせ、2015年春頃から『亜人』をはじめとする各プロジェクトへShotgunを導入していったのです。一番力を入れたのは、"何のためにShotgunを導入するのか?"という目的をプロジェクトメンバー全員に理解してもらうことでした。しつこいくらいに、何度もていねいに伝えましたね。

    長崎:"目の前の情報を管理する"ことだけが目的なら、慣れ親しんだGoogleスプレッドシートを使った方がわかりやすいし、時間もかかりません。新しいことを覚えるときには時間と手間がかかりますし、Googleスプレッドシートで可能だったことが、すべてShotgunで実現できるわけではありません。それでもShotgunに移行した方が、プロジェクト全体、会社全体としてのメリットは大きいのだと理解してもらうことが大切でした。入力したデータが、瞬時に同じプロジェクト内の多くの人に共有されることで、情報が錯綜する事態を回避できるのに加え、誤った情報が訂正される確率も高まります。

    トキトウ:プロジェクト数も関わるスタッフ数も国内屈指だからこそ、新しいやり方を全員に浸透させるためには、盤石なパイプラインの再構築に加え、筋の通った説明が必要だったというわけですね。ちなみに、Pipeline StepやStatusの定義を全プロジェクトで共通としたのはどうしてですか?例えば連載第5回で紹介したエヌ・デザインの場合、VFX案件とフルCG案件とではPipeline Stepのフィールドが全くちがいました。

    加島:PizmoやローカルサーバとShotgunを同期させるための必須措置だったのです。ただし、それだけではスタッフの使い勝手が悪いので、TVシリーズ用、CMなどの小型案件用など、何種類かのテンプレートを制作しました。

    ▲『亜人』のショットリスト(カットリスト)として機能しているページ。各ショットのPipeline Stepごとのステータスが一覧できます (C)桜井画門・講談社/亜人管理委員会

    ▲前図の赤枠内を拡大したものです。Pipeline Stepは全プロジェクトで共通のため、不必要なStepは非表示にしてあります。例えば、ここでは全エフェクトを3DCGで表現しているため、"3DFX"というStepだけが表示されています。作画エフェクトも使用する場合は、"2DFX"というStepも表示します

    ▲『亜人』のアセットリストとして機能しているページ。各アセットのタスクやステータスが一覧できます

    ▲前図の赤枠内を拡大したものです。アセットの名前(右から3列目)、説明(右から2列目)、ミーティング時の申し送り(右から1列目)などが記されています

    ▲『亜人』のアセットのスケジュールを管理するページ。タスクの開始日と終了日を入力すれば、自動的にガントチャートが生成されます

    ▲前図の赤枠内を拡大したものです。"Bid"は作業にかかる工数の見積もりで、SVが入力します。"Time Logged"は実際にかかった工数で、そのタスクの制作進行を担っているコーディネータが入力します。先々ではタスクを担うアーティスト自身に入力してもらう計画で、そのためのツールを開発中だそうです

    トキトウ:Shotgunの導入以前と同様、チェックバックデータのアップロード先はローカルサーバのままですか?

    長崎:合弁会社のSAPPIにはShotgunのライセンスを100本ほど配布していますが、アーティストのインターネットアクセスに制限をかけている協力会社とは、インハウスツールのPPI Reviewを介してチェックバック情報を共有しています。相手の環境に合わせたケースバイケースの対応が求められるため、ローカルサーバを使う方が都合が良いのです。加えて、Shotgunのクラウドストレージよりもローカルサーバの方が短時間でデータ格納できる、データ圧縮時に色が変化しないか不安視する声が出たなどの理由もありました。

    トキトウ:Shotgunに同梱されているRVは、Pixar社を始め数多くのスタジオでの使用実績があります。解像度や色の再現性にこだわりがあって、なおかつShotgun上でレビューしたい場合は、RVの使用をぜひご検討ください。

    石井:Shotgunの活用方法は幅広く、いまだに新しい機能を知って感動することがあります。使う側が毅然とした意志をもち、使いこなすためのルールを決めることが大切だと感じます。

    :本格導入から約1年が経過し、分析にかけられるだけのデータが溜まってきました。今後はShotgunに蓄積された数値データに統計関数を適用し、各プロジェクトの実績を様々な角度から分析したいですね。次のプロジェクトにおける見積もり精度の向上やパイプラインの改善につなげていくことが今後の目標です。今はShotgunから各種データをCSV形式でエクスポートして、Excel上で関数を適用し、全プロジェクトの進捗率や実績を総覧するしくみを使っています。Shotgaunの分析ツールがもっと拡充され、Shotgun内で分析が完結するようになると嬉しいですね。

    ▲プロジェクトが本格始動する直前、ショットリスト(カットリスト)とアセットリストが完成したタイミングで、このページを使って作業の物量を精査しています

    ▲前図の赤枠内を拡大したものです。ショットとアセットの物量が直感的に把握できるため、作業内容の変更や削減、優先順位の決定などの判断材料に使えます

    ▲プロジェクトの進捗を管理するページです。このページでは、アニメーションとエフェクトの進捗状況が棒グラフで表示されています

    ▲前図の赤枠内を拡大したものです。残りの作業日数は31日で、クライアントの承認が得られたアニメーションは、全ショットの29%だとわかります

    トキトウ:CG制作にも統計学が導入される時代になっていたのですね。たいへん驚きました。Shotgunを通して集積したデータを二次利用することでプロジェクト管理を改善できるというお話は、ほかのCGプロダクションやゲーム会社の皆様にもぜひ知っていただきたいです。国内各社のプロジェクト管理がさらにレベルアップできるよう、引き続きサポートさせていただきます!



    Interview&illustration_ショットガン・トキトウ(ボーンデジタル)
    TEXT_尾形美幸(ボーンデジタル)
    Photo_弘田 充