広告からイベント、スポーツ、バーチャル店舗まで......「未来の当たり前」をつくるためのサイバーエージェントの挑戦〜CGWORLD JAM ONLINE 2022(5)
5月27日(金)と28日(土)の2日間に渡ってCGWORLD主催のオンラインイベント「CGWORLD JAM ONLINE 2022」が開催された。2日目のサイバーエージェントAICG部門(サイバーエージェント・CyberHuman Productions・CyberMetaverse Productions)による「3DCGの新たな活躍先 ~広告・イベント・店舗の未来の当たり前づくりへの挑戦~」の講演では、3DCG・フォトグラメトリー・AI・XR・メタバースなど、先端技術とクリエイターの力をかけ合わせることで「未来の当たり前の社会実装」に挑戦している同社の模様が紹介された。
エンターテインメントの枠に収まらない広告・イベント・店舗などの領域において、3DCG技術や3DCGアーティストはどのような活躍チャンスがあるのか、またゲームや映像とのちがいについて、現場で働く3DCGアーティストがバーチャル空間に登場し、解説した。
イベント概要
「CGWORLD JAM ONLINE 2022」
日時:5月27日(金)17:00〜22:00/5月28日(土)11:00〜19:00
会場:オンライン配信
主催:CGWORLD、株式会社ボーンデジタル
cgworld.jp/special/jam/vol4/
「技術(Cyber)」と「人間(Human)」の融合で、未来の当たり前を社会実装する
講演では、まずCyberHuman Productions(以下、CHP)取締役の芦田直毅氏によるサイバーエージェントAICG部門(サイバーエージェント・CHP・CyberMetaverse Productions)という組織紹介からスタート。
サイバーエージェントの事業の軸は大きく分類すると、インターネット広告、ゲーム、メディアの3つ。CHPはそのうちの広告関連に属するAI事業部の子会社だという。サイバーエージェントでは、2017年からCGチェンジャーとAVATTAというグループ会社を擁して積極的にCGへ取り組んできたが、2019年にそれらを統合して設立されたのがCHPだ。
CHPは「『技術(Cyber)』と『人間(Human)』の融合で、未来の当たり前を社会実装するクリエイティブパートナー」という理念の下活動している。現在はさらにメタバースを扱うCyberMetaverse Productionsが創設され、事業ドメインが広がっている最中だ。
事業内容は、得意の広告制作に加えて、1.イベントテック、2.デジタルツイン、3.スポーツDX、4.バーチャル店舗の4事業が増えた。
1.イベントテック
先端技術を使ってオンラインイベントを開催する事業で、コロナ禍でリアルイベントが開催できなくなった昨今、その代替案として発達したが、リアルイベントが復活しても独自の価値が生まれているという。
2.デジタルツイン
著名人をデジタル化して広告制作とリンクさせるもの。著名人は広告コンテンツの制作に時間を割くことができないことが多く、時間的にも空間的にも制限が強い。事前にデジタル化しておけば本人への負担が減り、制作がしやすくなる。
3.スポーツDX
デジタルツインとスポーツイベントに注力し、スポーツをDX化していく。デジタルを利用したアプリなどでファンとチームがコミュニケーションしていく領域だ。
4.バーチャル店舗
今年に入ってから力を入れている事業ドメイン。メタバースがもてはやされている中で、物理的な販売とECにプラスアルファを足したバーチャル店舗に挑戦している。そのために、新たにCyberMetaverse Productions(以下、CMP)が設立された。
これらの事業を展開するにあたって、初めは3DCGを技術的なコアにしていたが、さらにAI、フォトグラメトリー、モーションキャプチャ、LEDバーチャルプロダクション、XRなどの先端技術を採り入れて設備投資し、新しい先端の設備を駆使してコンテンツを制作している。
ここまでに触れられた内容は、CHPが制作チームとして注力している、世の中の実務に近い領域の話であったが、制作実務だけで「未来の当たり前」を社会実装しようとするとスピードとできることの幅に限界がある。そのため、アカデミックなリサーチを担う社内研究組織「AI Lab」で社会実装できるタネを見つけた上で、R&Dチームでより実装に近づける研究開発を行い、CHPで制作し具現化するという役割分担がされている。
先端技術を積極的に使った未来を感じさせるケーススタディ
続いて、CHPのCGディレクター田森 敦氏とCGアーティスト 中澤 勤氏が加わり、制作事例が紹介された。
まず、LEDの背景を使ったバーチャルプロダクションの事例が紹介された。狭いスタジオで、いかに広い空間を撮影できるかのチャレンジだったという。企画自体も社内スタッフがゼロからつくりあげたものだ。
LEDに映し出される背景の映像はUE4で作られたリアルタイムのフルCG映像で、手前の人物と一緒に撮影すれば、ポスプロでカラコレをする程度の手間で画が完成する。
リアルタイム映像であるため、ロケに行く必要がなく、広告用途では商品を差し替えるなど、短時間で効率的な撮影が可能だ。CHPの特長は、映像表現だけではなく、新たな映像制作のしくみを生み出していることだろう。
続いては「Future Event/Live」の事例が紹介された。Future Event/Liveはグリーンバックの撮影をしながらリアルタイムでキーイングして、背景にCGを合成して配信するもので、音楽ライブやファッションショーなどで活用されている。コロナ禍でリアルにできないものをバーチャルで放送したり、さらに現実ではできないCGならではの表現が可能になる。これはユーザーにとっては新しい体験ともいえる。
「デジタルツインレーベル」は、デジタルツインをキャスティングするサービスだ。CHP設立初期からリアルな人間をつくる試みは重ねていたが、今回は世界的トップモデルの冨永 愛氏を起用して大々的に制作された。この技術は、広告やイベントで幅広く活かせる技術だという。
スポーツDXの事例としては、Stadium Experiment社と開発したJリーグのサッカーチームFC町田ゼルビアの公式アプリ『ZEL-STA』が紹介された。『ZEL-STA』はサポーターに新しい体験を提供するアプリで、試合を観に行けなくてもアプリを通して選手を応援できたり、バーチャルの応援スタジアムにサポーターが集まれたり、現地に行くこと以外のコミュニケーションをとることができる。スポーツにフォーカスした上で、デジタルツインとイベントテックの要素を合わせて「スポーツDX」として運営している。(CGWORLD参考記事)
最後に、CHPがメタバースをつくったらどのような世界になるかのモックアップが紹介された。社内のスタッフが自由につくり上げたもので、中で商品を購入することができるバーチャルショップも用意されている。クライアントワークではない自由さが感じられるプロジェクトだ。
新しいことにトライするカルチャーで、一緒にチャレンジする仲間を募集中
以上のように多角的なチャレンジの事例を挙げられたが、アクティブに動いている同社では一緒に働いてくれる仲間を募集している。
業界数社で20年のCGの経験があるキャリア入社の田森氏は、ゲームや映像をつくっているいわゆるCGプロダクションとは毛色がちがうという。「ジャンルの中で突き詰めていくというよりも、コンテンツだけじゃなく、いろんな技術やファシリティも含めて複合的な要素を踏まえつつ、3DCGを軸としていろんなクリエイティブを発信しています」(田森氏)。
3DCGだけをするのではなく、リアルタイムエンジンのエンジニアやCG以外の専門領域の人たちと一緒に、アプリや配信イベント、CM、AR、VRなど、多種多様なアウトプットをしていく職場だ。
向いているタイプは、もちろんCGアーティストではあるが、映像、ゲームに限らず、様々なことに面白みを感じ取れるような、新しい活躍先を自分で切り拓けるタイプだという。CGという軸になる武器は変わらないが、新しいスタンダードをつくりたい、未来の当たり前を実装したいという気持ちのある自発的な仲間を探している。
最後に座談会形式でQ&Aが行われ、CHPの文化や今までのCGプロダクションとのちがいが語られた。
田森氏は「自分で考えるところから始まるのが大きなちがいですね。映画だったら監督やディレクターがいて、絵コンテもあります。でも、CHPの場合はゼロベースでスタートします。欲求があれば、ビジュアルを自分から出していける。そこが魅力的なところです」と長いキャリアの中でもCHPは特殊な組織だと話す。例えばリアルタイムのプロジェクトでは、エンジニアとアイデアを出し合い、近い距離で一緒につくり上げていく。
中澤氏は求められる人物像について、「CGは昔ほど特別じゃない。垣根がいい意味でなくなってきているから、映画をやりたい、ゲームをやりたいみたいに自分の活躍のフィールドを特定せずに、わからないけどやってみたいみたいな好奇心を大事にしてほしいですね」と、現在のCGの方向性を含めて語ってくれた。
芦田氏は「はじめからそれほど深い知識はいらない。常に新しい領域にトライしているから、むしろ新しくキャッチアップをしてトライ&エラーをしていくのが大事なカルチャーです。スキルセットよりも、マインドが大事」と語る。今までのスキル重視の組織ではなく、新しいことにチャレンジするマインドが大事だとのことだ。今後、新卒の募集も始めるということだった。
3DCGの可能性は映像やゲームにとどまらず、今まで以上に広がっているのを感じる講演だった。CHPは、これからも3DCGの可能性に挑戦していくという。既存の枠組みにこだわらず、活躍の場を広げていきたい人はぜひお問合せを!
CyberMetaverse Productions
https://cgworld.jp/jobs/30371.html
CyberHuman Productions
https://cgworld.jp/jobs/30372.html
TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura