今回で12回目を迎えた「CGWORLD 2022 クリエイティブカンファレンス」。2022年11月7日(月)から11月11日(金)までの5日間にわたって全29セッションが行われた。11月10日(木)開催のセッション「『機動戦士ガンダムSEED』〜メカCGワーク世界〜」には、バンダイナムコフィルムワークス 第一スタジオよりCGアニメーションディレクターの佐藤光裕氏とCGモデリングディレクターの櫛田健介氏が登壇。現在制作中の劇場版について、モデリングとアニメーションの作業工程を解説した。
イベント概要
CGWORLD 2022 クリエイティブカンファレンス
開催日:2022年11月7日(月)〜11日(金)
※最終日はハイブリッド開催
会場:ベルサール九段
懇親会:11月11日(金) 19:30-21:30
時間:15:30~21:00
※Day1のみ16:50スタート
参加費:無料 ※事前登録制
参加対象:
CG制作に関わる業界に従事している方
業界を目指している学生
その他CG業界に興味のある方
https://cgworld.jp/special/cgwcc2022/
作画風のモデリングを目指す
『機動戦士ガンダムSEED』は2002年から2003年にかけてTVアニメが放送され、2021年には新プロジェクト「GUNDAM SEED PROJECT ignited」の一環として劇場版の制作がスタート。TVアニメ版は2Dによる作画が中心だったが、劇場版ではモビルスーツのメカデザインに3DCGを採用し、CGでありながら手描きに見えるアニメ調のルックを目指して制作中だ。
セッションの前半では、劇中に登場する量産機のバランスモデルが紹介された。ザフト陣営のジンのモデリングでは、TVアニメ版でメカニックデザインを務めた大河原邦男氏による放送当時の設定を参考に、TAKE1のモデルを制作。メカ作画監督の重田 智氏が手描きの修正を加え、モデラーがブラッシュアップするやり取りを何度も行なった。
気を付けたのは「上半身が弱く見えるので、下半身に負けないようにマッシブにする」こと。そのために重田氏は脚部を狭めて、上半身にボリュームを出すような修正指示を出した。
腕が長くなった理由について、櫛田氏は「アクションポーズのときに腕が短いとなかなか様にならないことが多いんです」、佐藤氏は「過去の『SEED』に合わせて手描きに見えるような工夫をしていますが、あまりに腕が見えないと作画のようなポーズが難しくなります」と、アニメーションの工程でも腕が長い方が芝居が付けやすいとコメントする。
劇場版では、肘や膝などの関節まわりなどはメカらしさを出す方針だ。今回紹介したバランスモデルでは細部まで作り込んではいないが、今後はモノアイにレールを仕込むなど、内部構造もリアルに造形していく。
ただし劇場版が目指すのはあくまで手描きのルックである。櫛田氏は「モノアイのレールなどをモデリングしたとしても、基本は暗く落すことが基準になると思います」、佐藤氏は「メカメカしくするためラインを増やすと今度はディテール過多になってしまうんです。作画では十中八九省く部分もCGだとそのまま出ますから」と線が増えすぎることの問題点に触れる。そのためアップで映るときにはディテールを入れるが、カメラからの距離に応じてロングショットではラインを間引くなど、作画らしく見せるため適切にオミットすることを検討しているそうだ。
次は地球連合軍の105ダガーを紹介。こちらもジンと同じく、大河原氏のメカニックデザインを基にモデルを手がけていった。
105ダガーでも作監の重田氏のこだわりが発揮された。櫛田氏は「105ダガーのチャームポイントは膝からスネにかけてのライン」だと語り、ガンダム系のモビルスーツにおいて特徴的なふくらはぎからつま先にかけての曲線美にこだわったとふり返る。とくに膝下のスネが短くなってしまうと、足そのものが短く見えてしまうため注意したという。
難しかった点については、量産機であることを挙げた。主役は当然メイン機のため量産機がカッコ良すぎて悪目立ちし過ぎるのは良くないのだ。佐藤氏は「アニメーションでもモブの量産機には“あまりカッコ付けるな”と修正が出るので、そのバランスが難しいです。……でも充分にカッコイイんですけどね」と笑みを見せる。
モビルスーツをモデリングするときに気を付けている点については、櫛田氏が「腕と腰の間を広く取らないと、アクションポーズを取ったときにだいぶ詰まってしまうんです」とコメント。そのため胸の位置を上げてシルエットが映えるようにしていると対処法を話す。
佐藤氏は「モビルスーツはロボットというより人間のようなアクションを付けることが多いので、ポイントに置くのは腰やお腹です。とくに監督や演出からは“お腹の捻れや反りをよく見せたい”と指示が出ます」と話す。元のデザインに比べるとお腹まわりに余裕があるのは、そのような捻れなどをアニメーションで入れるようにするためだ。重田氏の修正指示もその点を加味したもので、腰回りには仮のリグを入れてだいぶ動くような状態にしながら修正を加えていった。
全スタッフが『SEED』らしさを追求
セッションの後半はアニメーションカットの説明に移った。なおこれから紹介する内容は、アクションやレイアウト、時間尺の確認用につくられたもので、本番用では全てブラッシュアップしたものに差し替えられる。
CUT59はジンと105ダガーが撃ち合う量産機同士の戦闘の場面。ダガーの主観映像で川向こうのジン陣営を見つけ、モニタでズームして、ビーム攻撃するという132フレーム(5.5秒)の内容だ。
先ほどの工程で作ったモデルを使用しており、ジンにはCATでリグを入れた。リグ自体は仮のものだが本番用の動きはできるようにしている。ただしジンの羽や武装などの大きなものはカットごとにサイズを変形させるため、CATではないリグを用いた。
TAKE1から最終TAKEまでの工程で最も大きく変わったのは、ジンが撃破される瞬間だ。TAKE1では手前のビルにビームが命中して見えづらくなっていたが、TAKE2では頭に直撃している。劇場版では全体の演出意図として、モビルスーツがやられるときも爆発で隠さずに、きちんとメカが壊れる様子を見せるという方針を立てており、それを反映した修正となっている。
続くCUT60はジン陣営からのアングルで、CUT59と同じ戦場の別の場所という想定の146フレーム(6秒)の内容だ。こちらはTAKE1を経て、重田氏からレイアウトを少し俯瞰気味にして道路がきちんと見えるようにしてほしいという指示があった。
ラフに合わせてカメラも引き気味に修正した。佐藤氏は「劇場版はテレビ版より全体的にカメラを引き気味にするという指示が出ています。映画館の大きなスクリーンで見るときに、画面が(モビルスーツで)大きく埋まると見えづらくなってしまいうんです。その点がテレビ版と画づくりが違うところです」と劇場版ならではのこだわりを明かす。
また本作では各アニメーターに裁量を任されている部分も多く、カットごとに考えながら画づくりをするという面白さがあるという裏話も飛び出した。
例えばCUT60ではビームが当たる前にジンがのけぞるという芝居がある。これは絵コンテで指示されたものではなく、「敵にロックオンされたことに気付いて避けようとしたものの、間に合わなくてビームが当たってしまう」というストーリーを、アニメーターが自ら考えたそうだ。
このようにコンテを読んでアニメーターから浮かんだアイデアが面白ければ、監督や演出がそれを採り入れる柔軟な環境になっている。スタッフ全員が自分なりの『SEED』を突き詰めて、クオリティアップに貢献していることがよくわかるセッションだった。
クリエイターの力を最大限引き出すHPワークステーション
バンダイナムコフィルムワークスではHPのワークステーションを採り入れており、本作は「HP Z2 Tower G9 Workstation」と「HP Z4 G4 Workstation」を使用して制作が進められている。櫛田氏は「以前は処理落ちすることもあったが、今は安定して作業ができています」、佐藤氏は「アニメーションカットはプレビューごとにメモリをかなり食うのですが、そういった点でだいぶ助かっていますね」と、HPワークステーションがストレスを感じない環境に役立っていると話す。
セッションの最後には、日本HPの島﨑さくら氏が「クリエイティビティを最大化するデバイスの選び方」というテーマでHPワークステーションの強みを紹介した。
島﨑氏は「CPUやメモリ、ストレージはどう選べばいいのか」という相談を受けるが、それらはあくまでスペックに過ぎず、デバイス選びの最終的な目標は「安定動作による生産性の向上」だとコメント。そして安定動作に必要な要件は「デバイス品質」だと断言する。
クリエイターはマシンに高い負荷をかけながら厳しいスケジュールの中でクオリティアップを目指して格闘している。マシントラブルが起きてクリエイティビティを損ねないような環境を創出するためにも、デバイス品質に目を向けてほしいとメッセージを伝える。デバイス品質は「設計品質」と「製造品質」によって支えられているが、HPワークステーションはその両方に配慮したつくりとなっている。
電源設計はCPU、メモリ、GPU、ストレージなど、全てのモジュールに対して最適な電源供給を実現。自作PCではマザーボードと電源が最適化されておらず、モジュールを追加するときに電源供給が不十分で期待通りの拡張ができない場合もある。HPでは最適化された電源とマザーボードの設計により出荷後の構成だけでなく、拡充・拡張の安定稼働をサポート。島﨑氏によるとHPワークステーションのユーザーには10年間故障なく使用しているユーザーもいるという。
マシンのパフォーマンスを最大限に発揮するためには、常に最良の状態に維持することが必要になる。セッションではユーザーに提供されるソフトウェア「HP Performance Advisor」の一部機能を紹介。
専門ソフトウェアベンダーが構成に応じてより最適だと判断したドライバーに1クリックで更新できたり、アプリごとに最大使用コアを設定することでCPUコア全てを占有して作業ができないという事態を防いだり、BIOS設定画面に入って設定を一つ一つ変えるという手間を軽減できたりと、便利な機能が搭載されている。
バンダイナムコフィルムワークスのクリエイターと、その力を最大限引き出すHPワークステーションによって生まれた劇場版『機動戦士ガンダムSEED』が一体どんな映像を見せてくれるのか。期待が膨らんでいく。
TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)