「3世代に渡り、Razer Bladeを愛用」国内外で活躍するFLIGHTGRAFの冨吉剣人氏が最新モデル「Razer Blade16」をレビュー
ゲーミングデバイスメーカーとして知られるRazerがクリエイター向けノートPCとして打ち出している「Razer Blade」。今回、最新モデルであるNVIDIA GeForce RTX 4090 ノート PC「Razer blade16」を、長年に渡りRazer Bladeを愛用しているというFLIGHTGRAF(フライトグラフ)の冨吉剣人氏がレビュー。冨吉氏が得意としているプロジェクションマッピングの制作を想定した検証をしてもらった。
現地で投影しての確認は必須。1週間前から現地調整を重ねる海外でのプロジェクションマッピング
CGWORLD編集部(以下、CGW):まずは冨吉さんご自身とFLIGHTGRAFについて教えていただけますか?
冨吉剣人氏(以下、冨吉):はい、2013年頃から細々とメディアアートに関わるようになってFLIGHTGRAFを設立しました。2016年からは僕がディレクター兼ビジュアルアーティスト、つまり映像面を担当して、もうひとりサウンドデザイナーの生水真人が音響面を担当するという体制になりました。今は映像面をサポートしてくれるスタッフ2名もいて、会社としては4名体制でやっています。
CGW:活動初期から海外のコンペの受賞歴が多数ありますよね。
冨吉:2013年はまだまだプロジェクションマッピングとしては黎明期でしたが、僕はその頃から興味をもって取り組んでいました。最初は日本の 「1minute Projection Mapping Competition 」に応募して賞をいただいたのですが、 僕は海外のクリエイターの作品に注目していたこともあって、
CGW:そうした国際コンペでFLIGHTGRAFの作品が受け入れられた理由はどこにあるのでしょう?
冨吉:難しいですが、僕が好きなものと審査員が好きなものの雰囲気が近くなっていたからかもしれませんね。ヨーロッパには自分の憧れのアーティストがたくさんいるので、僕も影響を受けて、作風が少し寄ってくるんです。
CGW:憧れのアーティストとは、どんな方々ですか。
冨吉:いちばん尊敬しているのはフランス出身のRomain Tardy氏。かなり初期にプロジェクションマッピングを始めた方で、ロシアやドイツのコンペで握手ができて光栄でした。ほかにも、ハンガリーのLászló Zsolt Bordos氏は、われわれを見つけてくれた偉大なアーティスト。いまだに彼らの作品から強く影響を受けています。ほかににも挙げたらきりがないくらいたくさんいますよ。
CGW:近作はこの『ECHO』でしょうか。
冨吉:はい、これはチェコ・プラハの「Signal Festival 2023」で公開した作品です。コンペやオープンコールではなく、ヨーロッパのアート界では有名なイベントキュレーターに選出されたクリエイターしかこのイベントでの制作権を与えられないという、プロジェクションマッピング界の登竜門的なイベントです。この年はマッピング作品が僕らのしかなかったこともあって、ヘッドライナーとして参加できました。この作品は大変光栄なことに、毎年フランスのリールで行われるその年の世界の「Best 10 Mapping」を讃える作品賞にも選出していただけました。
ECHO – Signal Festival 2023 from FLIGHTGRAF on Vimeo.
CGW:映像作品として、プロジェクションマッピングは普通の映像とどこがちがうのでしょう?
冨吉:プロジェクションマッピングの場合、ディテールよりも見た目の雰囲気、表現を重視します。にもかかわらず、似たり寄ったりな表現が生まれやすいという難しさもあります。できることが限られていて、クリエイターが使うツールが共通しているのがその理由です。
CGW:なるほど。FLIGHTGRAFとしては、独自性を出すためにどういったアプローチを?
冨吉:できるだけ手付け、手づくりでアニメーションをつくるようにしています。そのおかげで、海外のオーディエンスやクリエイターから「唯一無二の雰囲気」だとか「誰がつくったかすぐわかる」なんて評価していただいています。
CGW:クリエイター冥利に尽きますね。表現のインスピレーションはどこから得るのですか?
冨吉:趣味が山登りなので、 自然から得ることが多いかもしれませんね。電波の届かない場所で、静かにゆっくり考えると、インスピレーションが得られやすいように思います。
CGW:プロジェクションマッピングの映像制作の進め方を教えてください。
冨吉:まずはクライアントから投映する建物のCADデータをもらって、プロジェクターの配置場所を含め、どこに何を設置できるかを交渉します。その後、Cinema 4Dで図面をつくって見えるアングルをシミュレートして、プロジェクションマッピングツールの「Millumin」で仕上げます。
CGW:現地にはどのくらい前に入るものなのですか?
冨吉:イベントの1週間前には入りますね。つくったものを現地で確認して、投影ズレがあったら現場でつくり直さなくてはいけませんし、現地のオペレーターさんとの打ち合わせ、現場で使わなくてはいけない特殊なツールへの対応作業も発生しますから。
圧倒的なパフォーマンスで現場での調整に対応、優れたデザイン性もお気に入り
CGW:現在の制作環境を教えてください。
冨吉:オフィスでは僕もスタッフも全員が自作のデスクトップです。スペックとしてはRyzen 9 5950、メモリ128GB、NVME SSD 2TB×3、GeForce RTX 3080Ti×2基。スタッフはRedshiftをすごく使いこなすので、GPUだけGeForce RTX 4090にしてあります。そのほか、CPUレンダリングマシンが4台、GPUレンダリングマシンが1台ありますね。
CGW:Razer Bladeは海外や現場作業で使われている、と?
冨吉:海外、現場、それと自宅作業ですね。僕が今使っているのはRazer Blade 15の2020年夏モデルで、SSDは2TB、メモリは32GBにアップグレードしてあります。スタッフ用にもRazer Bladeを使っていて、そちらは2022年モデルです。僕はもうずっとノートPCはRazer Bladeで、かれこれもう3代目になるんですよ。
CGW:3代目ですか! それほどにRazer Bladeを使い続けている理由は何でしょうか。
冨吉:まずは格好良さが際立つことです。誇張なく言うんですが、僕の周りのアート・クリエイティブ界隈ではRazer Bladeほぼ一択という状況なんですよ。所有欲を掻き立てる、スクエアで綺麗なデザインの筐体、昔よりロゴらしく格好良くなった蛇のマーク。選択肢としてあえて選んでいるんです。ちなみに、僕は東洋大学と日本大学で学生に映像を教えていて、大学でもRazer Bladeを使ってるんですが、これに憧れてる学生は多いですよ。
CGW:まずは格好良さということですね。スペックについてはいかがですか?
冨吉:もちろん、圧倒的なパフォーマンスも使い続ける理由のひとつです。小ささと軽さ、冷却性能も。キーボードも昔ながらのメンブレンキーボードで使いやすくて好きですね。キーの形状やトラックパッドに毎回改善が見られるのもありがたい。性能面でも信頼が置けるノートPCです。諸々を考え合わせるとコストパフォーマンスも高いですし。
CGW:今回のテスト機、「Razer Blade 16」のパフォーマンスはいかがでしたか。
冨吉:お世辞ではなく、驚きのパフォーマンスでした。僕がRazer Bladeを使い始めた理由は格好良さとパワー。パフォーマンス面では自作のデスクトップ並みのパワーがあるノートPCをずっと追い求めていたんです。それで、今回このテスト機を触ってみたら「あ、ついにその世界がやってきたのか」と思いました。
Razer Blade 16
- モデル
Razer Blade 16
- CPU
Intel® Core™ i9-14900HX 2.4 GHz
- GPU
NVIDIA® GeForce® RTX™ 4090
- メモリ
DDR5 5600MHz メモリ
- ストレージ
最高仕様は 4 TB SSD M.2 NVMe PCIe 4.0
- ディスプレイ
16 インチ QHD+ 240Hz OLED (2560 x 1600)
CGW:実際どんなデータでテストを?
冨吉:まずはCinema 4Dの重めのデータ、透過も被写界深度も入ったシーンです。これをRedshiftでプレビューレンダリングしてみたところ、デスクトップと変わらないスピードでした。
冨吉:次はパーティクルシミュレーションですね。10万を超えるパーティクルとフロック(一定距離のパーティクル同士が近づき群れを成すモディファイア)が使われたシーンです。Cinema 4Dユーザーならかなり重いことがわかると思うんですが、しっかりプレビューできます。
冨吉:そしてもうひとつ、先日リリースされたばかりのCinema 4D 2024.4で搭載された、新しいパーティクルシステムを使ったテストです。枝が伸びて樹木になり、枝の先に花が咲くというアニメーションをつくりました。これはAlembic形式のデータをタイムラインに読み込みながらMoGraphを操作するというやり方で、すごく負荷が高いんです。動かしてみたところ、速度は若干落ちますが、プレビューまでもっていけました。そこまでやれるパワーがあるんだと驚きました。
CGW:テスト結果はかなり良好な様子でしたね。個別のスペックはどう評価されていますか?
冨吉:全般的に最新最先端のスペックなので完璧ですが、以前の世代と比較して特に嬉しいのはストレージです。2021年のモデルからはNVMe M.2 SSDで2TBを2枚挿しできるようになっていますね。そこはもはやデスクトップと変わらないですよね。
CGW:やはり扱うデータが大きいからでしょうか?
冨吉:その通りです。クライアントからもらうデータがテラ単位なんてこともありますし。外付けを検討する手もありますが、抜けるリスク、忘れるリスク、速度の問題があります。だからやっぱり内蔵で高速・大容量を確保できるのは嬉しい。
CGW:今回のRazer Blade 16ではモニタと色表現にも力を入れているようですが。
冨吉:まず、2,560×1,600・WQXGAの高解像度は作業がしやすくて嬉しい。「Calman Verified」のキャリブレーション済みというのも驚きです。僕らはまだ色合わせはデスクトップでキャリブレーターを使ってやっていますが、ノートでも色合わせできる未来がもう来ているんだなと。
CGW:GPUはハイエンドのGeForce RTX 4090ですが、排熱や冷却についてはいかがでしたか。
冨吉:4090ですからさすがに熱は出るのですが、Razer Bladeは冷却を頑張っていますよね。ごく一部分しか熱くならないのがやっぱり良いです。ユーザーとしてはGPUが発熱していてもあまり気にならりません。ただし、ひざ上での作業はさすがにできないかなとは思います(笑)。
CGW:最後に、Razer Blade 16の総合評価はいかがでしょう。
冨吉:ハイエンド中のハイエンドということで、とてもバランスの良いマシンに仕上がっていると思います。まずはGPUが最強なのですが、同時にCPUもCore i9の14世代で最強。CPUパワーとGPUのパワーが相乗効果で素晴らしいパフォーマンスのノートPCになっていると思います。そして何より、やっぱり格好良い! 広くクリエイターの皆さんにオススメできる1台です。
TEXT__kagaya(ハリんち)
NTERVIEW_池田大樹/Ikeda Hiroki(CGWORLD)
EDIT_海老原朱里/Ebihara Akari(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充/Hirota Mitsuru