『楽園追放』(2014)は東映アニメーションのオリジナル劇場アニメーション作品で、わずか13館での公開にも関わらず、11万人以上を動員し、Blu-ray&DVDのセールスは7万本以上を記録した。それから10年が経過した2024年の1月、その続編となる『楽園追放 心のレゾナンス』の制作が発表された。現在、全7職種のスタッフを募集中の現場にて、水島精二監督や、プロデューサーの野口光一氏、制作環境を鋭意構築中のスタッフたちに、最新状況を語ってもらった。
新チームNOISEを組成
CGWORLD(以下、CGW):『楽園追放 心のレゾナンス』の企画は、どういう経緯でスタートしたのでしょうか?
水島精二氏(以下、水島監督):前作がわりと成功したので、「東映アニメーションの社内でも、続編を期待する声が上がっている」という話は野口さんから折に触れて聞かされていました。でも脚本の虚淵(玄)さんは「前作でやりきったから、アイデアが浮かびません」と言っていて、僕は「虚淵さんが書かないなら、『楽園追放』の再始動はあり得ない」と答えていたんです。そんな状態が何年も続いていたのに、あるとき突然、虚淵さんが「いけるかもしれません」と言い出したんですよ。
CGW:虚淵さんに何かが降りてきたんですね。
水島監督:そうです。「これを逃す手はない。集まろう!」って号令をかけて、関係各所との調整もやり、1〜2ヶ月に1回のペースで脚本の打ち合わせを重ねていきました。
野口光一氏(以下、野口P):虚淵さんの脚本が完成したのが2022年で、2023年の初頭にnoise animation label(以下、NOISE)という制作チームを起ち上げました。今は絵コンテの完成を待ちながら、制作環境を構築したり、キャラクターやメカなどのモデリングを進めている段階です。
CGW:作品を制作するにあたって、新しくチームを起ち上げるにいたった経緯をお伺いできますか?
野口P:『楽園追放 心のレゾナンス』をつくるにあたり、当初はMayaの使用も検討したのですが、最初に集まってくださったスタッフの多くが3ds Max愛用者だったんです。前作のメインツールが3ds Maxだったこともあって、今回もそれを踏襲することにしました。ただし東映アニメーションの大泉スタジオではMayaのパイプラインを構築していて、それを流用するのは無理がありました。「スタッフの意見や、最新の事例を取り入れながら、作品にとって最適なパイプラインを構築した方が良いだろう」という結論になり、NOISEを起ち上げることにしたわけです。
菅谷幸平氏(以下、菅谷):現在、本プロジェクトでは全7職種のスタッフを募集しています。その中には、パイプラインの改善や、ツール開発、アセット管理などを手伝ってくださるCGテクニカルディレクターも含まれているので、興味のある方はぜひご連絡ください。
水島監督:僕は監督として様々なスタジオを渡り歩いてきており、どこに行っても、それ以前に積み上げてきた制作手法やアセットを活用することになります。ところがNOISEは本当にゼロベースなので、良く言えば自由だし、悪く言えば決めることが多いです(笑)。その環境を楽しめる人は、本作に向いていると思います。
続編をつくるからには、前作を超える
CGW:前作が公開された2014年当時、日本のCGアニメーション作品に対する世間の評価はまだまだ微妙でした。そんな中、水島監督や演出の京田(知己)さんが培ってきた作画アニメの制作手法を、CGスタッフに粘り強く伝授することでつくられた前作は、CGに対する世間の期待を一気に底上げしたと感じています。前作のつくり方が、その後のCGアニメーション制作のスタンダードになったという側面もありました。その続編をつくるにあたり、掲げている目標やコンセプトがあれば、教えてください。
野口P:前作のメインスタッフが再集結した当初から、「続編をつくるからには、前作を超えよう」という話はしています。
水島監督:当初は『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)や『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』(2023)のような全然ちがうルックに挑戦するのもありかなと思っていたのですが、早々に野口さんから「ダメです」と言われました(笑)
野口P:前作のファンが期待しているのは、そっちじゃないと思います(笑)
水島監督:この10年間の積み重ねで、CGアニメーションは格段に進化しています。その延長線上の作品をつくるのは当然として、観た人がハッとするような新しい画をつくれるかどうかが勝負だと思っています。集まってくれたスタッフは、「前作を超えなきゃ」と気負ってくれているので、お話と、画と、演出の総合力で、作品を面白くできるようにがんばることが僕の役割ですね。さし当たって、絵コンテや設定がまだ完成していないので、スタッフからの「早くください」というプレッシャーと戦っています。
CGW:前作の絵コンテは、水島監督を含む4人で描いていましたね。今回は何人くらいですか?
水島監督:僕を入れて7人ですね。メインスタッフとして入ってくれる人や、ほかのCGアニメーション作品で監督をしている人などに「描いてみませんか?」と声をかけました。僕自身それほど早く描けるタイプではないので、各シーンに向いている人をアサインして、上がってきたものを手直ししながら1本にまとめていくスタイルの方がやりやすいんです。
実写VFXなどを画づくりに活用する
CGW:ティザーPVの最終カットでは、北八ヶ岳で撮った実写素材を使ったと「Virtual Anime Fes」で語っていましたね。同様の試みは、本編の制作でも実践するのでしょうか?
野口P:やります。2023年の秋には水島監督と一緒にスイスの山岳地帯までロケハンに行って、ドローン撮影をやりました。本編ではその素材も使います。さらに国内での追加撮影を計画しているので、同行してくださるスタッフも絶賛募集中です。
水島監督:ティザーPVの制作中に、野口さんから「1カット、でっかい画をつくってください」とリクエストされたんです。屋内であればCGでつくった方が良いと思いますが、本作はアウトドアのシーンが多いので、実写のVFXのつくり方を取り入れてみようという話になりました。野口さんは実写作品のVFXスーパーバイザー(以下、SV)の経験も豊富で、以前からVFXの制作現場の話を聞かせてもらっていたので、実験を兼ねてやってみたいと思ったんです。
ティザーPV最終カット用の実写素材は、北八ヶ岳で撮影
CGW:ティザーPVの実写素材は、全然吹雪いてないし、色味もちがったんですね。
水島監督:北八ヶ岳で撮った素材はピーカンの青空でしたが、被せるものが多いから、違和感なく馴染むだろうという自信があったんです。実際、多家(正樹)さんが実写とCGを良い感じに馴染ませてくれたので、大半の人が実写だと気づかず、全部CGでつくっていると思っていました。「実写素材だとバレない」というのが、ティザーPVでクリアしたかった僕の課題なので、このやり方に手応えを感じています。
CGW:スイスで撮った素材がどんな画に化けるのか、今から楽しみです。本作での多家さんの役割は、実写素材のコンポジットなのでしょうか?
多家正樹氏:うーん......、何と言えば良いのかわからないですね。
水島監督:何でも屋さんです! 僕が「こんなことを試してみたい」って相談すると、必ず何とかしてくれるマジシャンだと思っています。
最終カットのコンポジット
ゼネラリストの人や、複数職種への応募も歓迎
CGW:全7職種のスタッフを募集中とのことですが、どの程度の人数を想定していますか?
菊原 碧氏:今は10人程度なので、各職種で数名、全体で15人程度を追加募集したいと考えています。
CGW:合わせて25名なので、劇場作品の制作チームとしてはコンパクトですね。
荻田直樹氏(以下、荻田):だからゼネラリストの人や、複数職種への応募も歓迎です。実際、モデリングSVの久目(健人)さんはゼネラリストだし、橋本(豊和)さんはエフェクトのディレクションをメインにやりつつ、メカモデリングも担当しています。
水島監督:作画アニメの場合はわりと分業化されていて、職種を縦断するのが監督や演出の仕事になっていますが、ある程度クロスオーバーしている方が、話が早いし、アイデアも出やすいと思うんですよね。ただし、誰がどこまでやるかが曖昧だと揉める原因にはなるので、そこはしっかり整理していきます。
久目健人氏(以下、久目):10年前の僕はまだ学生だったので、前作を観て「こんなCGアニメは観たことない!」って感動したんです。その後、ゼネラリストとしてCGスタジオに務めた後、2022年からフリーランスになりました。本作には知人の紹介で参加が決まり、今はモデリングSVとしてメインキャラクターのモデリングや、ブラッシュアップを担当しています。10年の時を経て、自分が感動した作品の続編制作に携わることになるとは、まったく予想していませんでした。
荻田:僕の場合、10年前にはすでにCG業界で働いていましたが、だからこそ前作のすごさに驚愕したんです。その世代が、そろそろSVやディレクターを担える年齢になっており、僕はアニメーションSVを任されました。僕たちと同じような経験を重ねてきた人には、今回の募集は絶好のタイミングだと思います。プロジェクトの起ち上げ段階の今なら、いろいろなアイデアを監督に提案できます。後になればなるほど、決まったものをつくる作業にシフトしていきますからね。
水島監督:「自分が思う『楽園追放』をつくろう」と思って来てくださって大丈夫ですよ。荻田さんなんて、入って早々に「キャラクターが可愛くない。もっと可愛くできるはずです!」って僕に言いましたからね(笑)
CGW:前作はアンジェラがとにかく可愛かったですから、そこは大事ですね(笑)
橋本豊和氏(以下、橋本):僕の方は、今はメカのモデリングを担当していますが、カット制作が始まったらエフェクト制作にシフトすると思います。
野口P:橋本さんはエフェクトが強いのですが、『ガールズ&パンツァー』シリーズでは複雑な戦車まわりのモデリングのリードを担っていたらしいので、期待しています。登場するメカの数は前作より多いですし、見応えのある画がつくれると思います。
水島監督:久目さんは本当にシュッとしてて、冷静沈着です。荻田さんはノリが良くて、ニコニコしながら「絵コンテまだですか?」って僕に言い続けてくれます。橋本さんは「ザ・真面目」って感じで、コツコツキチッとやってくれます。面白いバランスで、面白い人たちが集まりつつあるなと感じているんです。一方で多家さんは、僕や野口さんと年齢が近いので、僕的には心のオアシスです。オジサン仲間としても頼りにしています。メインスタッフは若い人が多いから、同世代の人に入ってもらって現場が活気づけば良いと思うのですが、それだけだとオジサン3人が浮くので、ベテランの人にも来てほしいです。最終的には、老若男女が混ざりあって、皆でワイワイ楽しくつくれれば良いなと思っています。
監督を出し抜くような、やる気のある人が入ると一番良い
CGW:スタッフ募集に関連して、ほかに補足したいことはありますか?
水島監督:前作は限られた地域での小規模公開でしたが、本作は全国公開規模で、前作を超える映像を目指します。そのために、新チームのNOISEまで起ち上げたわけですから、アクセルは踏めるだけ踏むしかないと僕自身は思っています。最終的には時間との戦いになるので、どこまでクオリティを落とさずに走りきれるかの勝負です。それを一緒にやってくださる人が必要なので、多少ダメ出しされても折れない人が良いですね。どんな現場でも、クリエイティブな仕事はそういう人の方が良いんですよ。とはいえ、僕は優しい方だと思うし、そんなに厳しいことは言いませんけどね。
荻田:まだ言われてませんが、カット制作が本格化したら、戦いが始まるんじゃないでしょうか(笑)
水島監督:ノリが良いでしょ(笑)。NOISE自体は本作専用のチームというわけではなく、ほかの企画も進めると聞いているので、僕の代わりを担えるようなディレクターが育つと良いんじゃないかとも思っています。皆が同じ方向を見ていれば、「監督を出し抜いて、こんなことをやってみたんですけど」って言われても、僕はわりと大丈夫なタイプで、「面白いじゃん」って採用することもあるんです。そういう提案までしてくれるような、やる気のある人が入ると一番良いですね。
野口P:NOISEは企画・制作ができる集団で、基本的にはCGの劇場アニメーション作品をつくっていく計画です。本作は、そのための勝負の1本目という位置づけですね。
久目:モデリングに関しては、3ds Maxがメインツールで、ZBrushを使う可能性もあります。さらにSubstance 3D Painterや、Substance 3D Designerが使えるとなお良しですね。加えて、2Dが描ける人はすごくありがたいです。セル調の作品なので、線や陰影のテクスチャを描くケースもけっこうあります。
荻田:アニメーションに関しては、前作と同じく基本的に手付けで、3ds MaxとAfter Effectsを使います。キャラクターは基本的にCGで表現する想定なので、テンプレの表情を使いまわすだけではなく、よりそのシーンの感情に沿った表情をつくれる人が望ましいですね。体の芝居ももちろんですが、キャラクターをさらに魅力的に見せるためには、表情の芝居や表現がすごく重要です。 「こんな表情が良いんじゃないですか?」と提案できる人を求めています。
水島監督:前作ではCGキャラクターの上から作画で描き足すつくり方も試しましたが、制作の後半では、煙などのエフェクトを除けば作画はほとんど使っていないんです。僕や京田さんが「もっとこうしてほしい」という修正の方向性をアニメーターに伝えて、CGで表現してもらいました。今回も同じつくり方をしようと思っています。
橋本:エフェクトに関しては、3ds Maxと、tyflow、FumeFXなどのプラグインを使います。前作では、タイミングのコントロールが難しいなどの理由があって、作画を使うケースもありましたが、本作ではなるべくCGで表現することを目指します。
菅谷:そのほかに、リギングのアーティストやディレクター、ラインプロデューサー、プロダクションマネージャーも絶賛募集中です。
水島監督:今はつくるための現場をつくっている段階なので、やれることは多いです。ご応募、お待ちしております!
求人情報
東映アニメーション株式会社
www.toei-anim.co.jp
『楽園追放 心のレゾナンス』スタッフ募集
▼募集職種(複数職種への応募可)
①CGモデラー
②CGアニメーター
③CGテクニカルディレクター
④CGリギングアーティスト/CGリギングディレクター
⑤CGエフェクトアーティスト
⑥ラインプロデューサー
⑦プロダクションマネージャー
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota