COVERが運営する世界最大級のVTuber事務所であるホロライブプロダクションは、3Dショートアニメシリーズの『ホロのぐらふぃてぃ』(以下、『ホロぐら』)を公式YouTubeチャンネルにて毎週日曜18時に配信している。本作を手がける『ホロぐら』チームは2023年から新プロジェクトを推進しており、モデリングディレクターとアニメーターを募集中だ。中核スタッフに新プロジェクトの舞台裏と求人の詳細を聞いた。
未来に根づくカルチャーをつくるため、果敢に、しかける。
CGWORLD(以下、CGW):まずは新プロジェクトの概要を教えてください。
福川善仁氏(以下、福川):『ホロぐら』の配信がスタートしたのは2019年5月で、それ以降、1分半〜2分程度の3Dショートアニメを週1本ペースでつくり続けてきました。制作メンバーはほとんどが社員で、約30名のチームです。『ホロぐら』は毎週公開することが最重要なので、とにかくスピードが求められます。
ただ、それだけを続けているとチームが成長できないので、新しいことにも挑戦したいという思いで起ち上げたのが新プロジェクトです。新プロジェクトの発足は2023年の初頭で、2024年4月1日に「あの空の下で待ち合わせ」と題した約1分のパイロットフィルムを公開しました。
CGW:パイロットフィルムにおける皆さんの役割も教えてください。
福川:僕は企画とプロデュースを担当しており、宮村(悠季)さんはディレクターを務めています。篠原(天元)さんは2023年の秋頃に入社し、美術背景を担当しています。坂本(洋)さんはフリーランスのCGアニメーターで、2024年の初頭から本作のCGディレクターを務めています。
篠原天元氏(以下、篠原):僕はアニメの美術背景会社からスマホゲームの開発会社に転職し、背景のディレクションを担ってきましたが、新しいことに挑戦したくて当社に入りました。僕と同様、『ホロぐら』のチームメンバーも常に挑戦の機会を欲しているので、パイロットフィルム制作はすごく楽しかったです。
坂本 洋氏(以下、坂本):本作ではアニメーションだけに留まらず、モデリングやルックデヴのディレクションも行なったので、僕も面白い挑戦ができました。
福川:当社が掲げるバリューのひとつに "果敢に、しかける。" というのがあって、未来に根づくカルチャーをつくるために、コンフォートゾーンから抜け出して、⼤きなしかけを積み重ねることを大事にしています。新プロジェクトは、それを実践する機会になっていると思います。
CGW:『ホロぐら』はギャグに振り切ったカオスな方向性ですが、パイロットフィルムは3期生メンバーの繊細な芝居やイラスト調のルックが印象的で、すごく新鮮でした。
宮村悠季氏(以下、宮村):パイロットフィルムの企画段階では、「デビュー以前は、ぺこらさんだって新聞配達やティッシュ配りなどのアルバイトをしていたんじゃないか?」、「3期生メンバーがVTuberになるための1歩を踏み出すまでのストーリーを届けたら、リスナーの皆さんも共感してくださるんじゃないか?」といったことをチーム内で話し合っていました。
現在の彼女たちは、1回の配信で数十万、数百万の再生数を獲得する人気タレントなので、別世界の住人のように感じるかもしれませんが、かつては自分の無力さに落ち込んでいた時代があったかもしれません。でもホロライブとして1歩を踏み出し、活動をがんばったからこそ取り巻く状況が変わったんだというストーリーを皆さんに提供したいと思い、パイロットフィルムの企画を進めました。本作のルックは、そのストーリーに合わせて新たに開発しています。
福川:僕たち自身、1歩を踏み出したことで新しいルックを開発できたし、『ホロぐら』の制作にも活かせるノウハウを蓄積できました。とはいえ新プロジェクトはまだまだ道半ばなので、今後も挑戦を続けていきます。
MayaとBlenderをメインに据え、ワークフローを構築中
CGW:パイロットフィルム制作の主な使用ツールを教えてください。
福川:『ホロぐら』はMikuMikuDance(以下、MMD)でつくってきたのですが、パイロットフィルム制作ではメインツールとして新たにBlenderを導入し、ラインはPencil+ 4 Line for Blenderで生成しています。『ホロぐら』チームのメンバーの多くがBlender未経験だったので、使い方を覚えることからスタートしました。
坂本:Mayaや3ds Maxなら慣れていますが、Blenderを仕事でガッツリ使うのは僕も初めてだったので、つくりながら慣れていきました。
CGW:今後は『ホロぐら』の制作でもBlenderを使うのでしょうか?
福川:『ホロぐら』の方はMayaに移行しようとしており、坂本さんの協力も得ながらワークフローを構築している最中です。新しいスタッフを採用するにしても、メンバーのキャリアアップを図るにしても、Mayaの方がメリットが大きいと考えています。パイロットフィルム制作を通してBlenderにも手応えを感じたので、用途に応じて使い分けていく計画です。
CGW:パイロットフィルム制作において、特に苦労した点を教えてください。
宮村:一番時間をかけたのはモデリングで、3期生メンバーとプロップの3Dモデル制作をスタッフ7名で分担しています。『ホロぐら』用の3期生メンバーの3Dモデルは頭身や情報量がバラバラだったので、まずはバランスを調整し、坂本さん主導の下で新しいルックを開発していきました。
福川:モデリングを担当したスタッフの大半は、『ホロぐら』でアニメーションを担当してきたスタッフです。現在の『ホロぐら』チームはアニメーターとコンポジターが多くを占めており、3Dモデルの形状やルックの良し悪しを判断できる人がいなかったので、坂本さんにディレクションを依頼したという背景があります。
宝鐘マリンのルック開発
不知火フレアのリギング
お互いの無茶振りを受け入れ、新たな世界観を実現
宮村:3期生メンバーのルックは試行錯誤の過程で二転三転したので、美術背景もそれに合わせた細かい調整が必要になったのですが、篠原さんが柔軟に対応してくれたので助かりました。
篠原:初期のルックはもっとシンプルだったので、それに合わせた美術背景を準備していたのですが、途中からルックの情報量がどんどん上がっていったので慌てて調整しました(笑)
坂本:本作には色彩設定のスタッフがいなかったので、篠原さんの意見がすごく参考になりました。最近のアニメの流行もふまえて、影やハイライトの入れ方を提案してくださり、それに調和する美術背景もつくってくれたので、綺麗でまとまりのある新たな世界観を実現できました。
篠原:3Dは専門外なので無茶振りをしたこともあったのですが、快く聞いてもらえたので、安心して提案できました。
宮村:僕らも篠原さんに無茶振りをしていましたからね(笑)。「篠原さん! 絵は得意ですよね? 作画エフェクトを描きませんか?」と畳みかけて、キャンバスから落ちる絵の具のエフェクト素材を描いていただきました。
CGW:パイロットフィルムならではの、すごく柔軟なチームワークですね(笑)
福川:『ホロぐら』の制作も、パイロットフィルムの制作も、ひとりで完結できる仕事ではないので、仲間を巻き込み、シナジーを生み出すことを大切にしています。チームで背負うからこそ、お互いの無茶振りを受け入れる寛容さを維持できるのだと思います。
不知火フレアの裏路地シーンの美術背景
CGW:パイロットフィルムのアニメーション制作は、『ホロぐら』のそれとは別種の難しさがありそうですね。
福川:アニメーションは坂本さんとスタッフ4名からなる合計5名で担っており、スタッフたちは「思った以上に大変でした」と語っていました。例えば、パイロットフィルムにはフレアやノエルが落ち込むシーンがありますが、『ホロぐら』とは全然ちがう芝居が求められたので、最初は手探り状態だったようです。
宮村:『ホロぐら』の彼女たちは何をやるにもオーバーアクションなので、落ち込むときも全力で、その辺の床や壁に「ゴンゴンゴン!」と勢いよく頭をぶつけて猛省しますからね(笑)
CGW:それだと世界観がぶち壊しですね(笑)
坂本:どのスタッフも飲み込みが早かったので、コツを掴んでからは「この子だったら、こんな動きが良いですよ」と提案してくれるようになりました。3期生メンバーのことは僕以上に熟知しているスタッフばかりだったので、僕の方が教えてもらう機会も多かったです。
加えて全員の手が早いことにも驚きました。例えば3つ調整を依頼したら、その3つだけでなく、プラスアルファの何かをやって返してくれるのです。慣れないBlenderでの作業だったのに、すごいなと思いました。
福川:『ホロぐら』の毎週公開で鍛えられた手の早さを活かして、短期間にテイクを重ね、グングン腕を上げてくれました。アニメーション制作に要した期間は1ヶ月ほどだったので、僕も驚きました。
坂本:最近の3Dアニメ制作ではカメラ位置に合わせて顔の輪郭や口の位置などをデフォームする手法も多用されていますが、本作ではその手法を導入せず、どの角度から映しても成立する3Dモデルを制作しました。形を直すことよりも、芝居を付けることに注力してもらいたかったのです。実際、どのスタッフも良い芝居を付けてくれたので、この判断は正しかったと思います。
白銀ノエルの訓練カットのアニメーション
モデリングディレクター1名と、アニメーター若干名を募集中
CGW:新プロジェクトの、今後の展開を教えてください。
福川:次にどんな映像をつくるかは、まだ未定です。パイロットフィルムの公開後にアンケートを実施し、リスナーの皆さんから数千件の回答をいただきました。今はそこに書かれた意見を分析している段階です。「3期生メンバー以外のタレントにも登場してほしい」というリクエストも受けているので、まったく別のストーリーを、別のルックで展開する可能性もあります。
宮村:どんな内容にせよ、パイロットフィルム制作を通して培ったスキルを活かして、リスナーの皆さんに喜んでいただける作品をつくっていきます。
CGW:モデリングディレクターとアニメーターの求人は、新プロジェクトのテコ入れが目的なのでしょうか?
福川:それに加え、『ホロぐら』チームの成長のためでもあります。坂本さんや篠原さんの参加によってCGディレクターと美術背景のポジションは埋まりましたが、僕たちのワークフローにはまだまだ空席があります。さし当たって、キャラクターモデリングを主導してくださるディレクターを1名、アニメーターを若干名採用したいと考えています。
宮村:さらに良い作品をつくるためには、キャラクターモデリングのプロフェッショナルの力が必要だと感じています。加えて、アニメーターは人数が足りないので、増員したいという事情があります。
CGW:現在の『ホロぐら』チームのメンバーは、どのような経緯で入社したのでしょうか?
福川:MMDでつくった映像をニコニコ動画で公開していた人がメンバーの6割を占めます。趣味でやっていた映像制作が、仕事になったというパターンですね。近年はアニメ業界やCG映像業界からの転職者が増えており、その技術や経験のおかげで、徐々にワークフローが整ってきたし、表現の幅も広がっています。
CGW:『ホロぐら』チームにマッチするのは、どんな人だと思いますか?
坂本:チャレンジ精神旺盛な人でしょうね。できそうなことは何でもやってみる人は合っていると思います。「ここを極めたい」という自分なりの目標は大事にしてほしいのですが、ほかのことにも好奇心をもって取り組んでもらえる人と一緒に働きたいです。
篠原:『ホロぐら』チームのメンバーは、所属タレントのことが大好きで、メンバー間の仲がよいので、皆でワイワイ集まることが多いです。少し前に『ホロぐら』5周年記念カルタの見本が当社に届いたときには、早速開封して皆で遊んでいました。そういう輪の中に入ってコミュニケーションがとれる人は、楽しくやっていけると思います。
福川:『ホロぐら』は企画から公開までのほとんどの工程をチーム内で進めているので、アイデアや意見を言いやすいし、「自分が携わった」という実感も得られます。新作をYouTubeで公開したら即座に数十万回再生され、数千件のコメントがつくし、近年は海外在住のリスナーも増えているので、インパクトも絶大です。
モデリングやアニメーションをやっていて、現状を変えたいと思っている人は、1歩を踏み出して、ぜひ当社にご応募いただきたいです。多くのご応募をお待ちしています!
求人情報
COVER
『ホロぐら』チーム スタッフ募集
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota