10月6日(金)と7日(土)の二日間にわたってCG・映像に特化したスキルアップ&就職フェス「CGWORLD JAM ONLINE 2023」がオンラインにて開催された。
初日の10月6日(金)には、いますぐスキルアップに役立つ技術情報から、これから就職をめざす方のヒントとなる座談会企画など全11セッションを配信。
本記事ではその中から「こわくないNuke ~Q&Aと実務データで覗くNukeの世界~」の模様をレポートする。
CGWORLD JAM ONLINE 2023
CG特化型CGスキルアップ&就職フェス
開催日程:2023年10月6日~10月7日
開催時間:<10月6日> 14:00~21:00
<10月7日> 11:00~19:00
会場:完全オンライン
参加費:無料
主催:CGWORLD
cgworld.jp/special/jam/vol5
INFORMATION
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www.foundry.com/ja/education
NUKEの作業環境をイラストで解説!
「こわくないNuke~Q&Aと実務データで覗くNUKEの世界~」にはVFXアーティスト/VFXスーパーバイザーの三宅智之氏が登壇。
三宅氏が参加した映画『シン・仮面ライダー』やミュージックビデオ「YouTube Rewind in JAPAN 2021」の担当カットの解説を交えながら、Nukeの魅力をまだ触れたことのない視聴者にわかりやすく紹介した。
Nukeは画像や映像のコンポジットに特化したソフトウェアだ。似た機能を持つAfter Effectsと比較されることが多いが、最大の違いはノードと呼ばれるUIを持つところにある。
三宅氏はノードコンポジットについて「素材が川の流れのように組み合わさっていくイメージ」だと例え、視認性の高さを長所に挙げた。どこにどのような処理を加えたのかがビジュアルでわかるため、トラブルが起きたときに担当者以外でも問題を特定しやすく、チームでの制作にも役立つという。
セッションではNukeの基本操作について、作業画面をイラストに置き換えて基本操作を説明。オバケの画像にBlur(ぼかし)処理をかける手順を紹介した。
左がNukeの作業画面。右が作業画面をデフォルメしたイラスト。ウィンドウの左上のViewerに映像が表示され、左下のNode Graphで作業を、Propertiesでノードの設定を操作する。
obake.pngを読み込み、Viewerノードに繋げると、Viewerにobake.pngが映る。
obake.pngとViewerノードの間にBlurノードを挟むと、PropertiesにBlurノードの設定が表示される。
PropertiesでBlurノードのsizeの数字を増やすと、Viewerの画像にBlur処理がかかる
続いて画像のマスクを切って背景と合成する方法を解説した。
なおRotoノードとMergeノードの間にBlurノードを挟むと、輪郭線にぼかし処理がかかり、よりオバケらしさが出る。ただRotoノードだけを使った方法では、マスクで切ったエッジがすっぱりと切れてしまい、手描きが失われてしまう。
拡大した輪郭線の比較。曲線的に切れており、ギザギザした部分がなくなっているのがわかる。
Keyerノードで黒い部分のみ抽出して、Invertノードで反転。
それをマスクと合成すると、オリジナルの画像と同じ輪郭線を再現できる。拡大すると輪郭線がギザギザしている。
三宅氏は上記の手順ように、アルファとカラーを別々に考えて作業をできる点がNukeの面白さだと語った。
Nukeは3D機能も優れており、セッションではCard3Dノードを使って3D上に配置する様子も紹介。camに3DCGソフトウェアで制作したFBXやAlembicのデータを読み込み、そのカメラビューを利用することもできる。
『シン・仮面ライダー』と「YouTube Rewind in JAPAN 2021」実務データを用いて解説
セッションの中盤では三宅氏の実務データを交えながらのメイキングに移る。まずは『シン・仮面ライダー』で仮面ライダーが登場する崖上のカットを取り上げた。
『#シン・仮面ライダー』VFX breakdown
— 三宅智之 | 38912 DIGITAL (@38912_DIGITAL) April 15, 2023
登場シーンの崖上のカット制作を担当しました!
背景まるごとBlenderによるフルCGカットです。pic.twitter.com/TbqT2VE4mp
続いて「YouTube Rewind in JAPAN 2021」の宇宙飛行士のカットを解説。こちらは実写素材を使用しており、撮影時にはなかったヘルメットのガラスの表現にこだわった。
最初にBlenderで球体のガラスの素材を制作。それをNukeに持ち込んで色調整をした。その作業中にガラスの下部に白い線を足して反射を表現するというアイデアを思い付いたそうだ。
ただBlenderに戻って手直しをすると再レンダリングに時間がかかってしまうため、『シン・仮面ライダー』と同じようにNuke上で処理を加えることに。
Lightノードで光の色や向きを変更して反射光を作成。「3Dのデータを後から調整できるのがNukeの良いところですね」。(三宅氏)
宇宙飛行士の息によって生じるガラスくもりの表現にもNukeを利用した。まずノイズテクスチャを加工してガラスくもりを作成。BlenderのUVパスを利用し、STMapノードを使ってガラスの曲面に沿う形に、Nuke上でテクスチャを貼り付けた。
下部の反射や、うっすらとしたガラスくもりが確認できる。なお宇宙飛行士の呼吸に合わせて、くもりを強くしたり弱くしたりというアニメーションのタイミング合わせもNukeで行った
三宅氏は『シン・仮面ライダー』、「YouTube Rewind in JAPAN 2021」ともに数多くの調整を行なったが、Node Graph全体を見れば構造を簡単に把握でき、どういった処理を加えたのかがすぐにわかるのが、Nukeのメリットだと伝えた。
頭で思い描いたことをすぐ実行できる
セッションの後半はNukeに関してよく出てくる質問にQ&A形式で回答していった。
とりわけAfter Effectsの経験者から聞かれるのは「タイムラインはどこに?」という質問だという。NukeではDope Sheetが同じ役割を果たし、キーフレームを操作することができる。ただしカットを並べたタイムラインは最も高機能なNuke Studioにしか存在しない。
ただNuke Studio以外ではカットの管理ができないという訳ではなく、その場合はカットごとに.nkファイルを分けるという方法を用いる。.nkで保存されるデータは、ノードグラフのスクリプト(処理)だけを保存しているため、画像や動画のデータは含まれず、複雑なノードを組んでも非常に軽いという特徴を持つ。三宅氏はNukeの軽さもメリットの一つだと語る。
次は「慣れるのにどのくらい時間がかかる?」という質問だ。三宅氏はAfter Effectsを7年使用した後にNukeに乗り換えたため、ゼロからのスタートではないと前置きしながらも、1ヶ月程度で基本操作に慣れたそうだ。1年で仕事に使えるレベル、3年で体に馴染んだ感覚があると話した。
当日リアルタイムに配信した質疑応答のコーナーでは、視聴者から「ノードを左から右につくっているのですが、上から下につくった方がいいのでしょうか?」という質問が飛んだ。三宅氏は「慣れている方でいいと思う」と答えつつも、Nukeではノードを置くとインプットの矢印が上、アウトプットの矢印が下に表示されるため、上から下へつくっていくのが標準的だとコメント。実際に多くのプロダクションでもそのようにつくられており、チームで制作することを考えると標準に合わせた方が無難かもしれないとアドバイスする。
最後に三宅氏が「Nuke推しポイント」を紹介。ひとつめは「使い回しが楽」な点だ。ほかのユーザーが作成したカスタムノードであるGizmoを利用することもできる。セッションでは三宅氏もよく利用しているGizmoの中から、説得力のある光の表現ができるexpoglowノードを紹介した。
2つめに「業界標準」であること。映像業界で世界的に使われており、高度なコンポジットが可能。チュートリアルもプロがつくっているものが多く、実践的な内容が揃っている。
3つめは「ショートカットが快適」。ショートカットはノードの頭文字であることがほとんどで、「B」を押せばBlurノードが、「G」を押せば色を変えるGradeノードが出てくる。三宅氏は「これまで使ってきたソフトの中でも、手に馴染むのがとくに早かった」と快適な操作性に触れた。
そして最大の長所は「頭で思い描いたことをすぐに実行できる」点にある。三宅氏は理論的に考えたことが、そのまま頭から出したような感覚で作業ができると絶賛。「こうしたらこうなるはず」という考えを即座に試せるため、試行錯誤のサイクルを効率良く回せるソフトだとイチオシした。
セッションの最後には「Nukeは難しいと思われがちですが、シンプルなものの組み合わせでできていて、ノードを一つ一つ紐解いていけば決して難しくはありません」とコメント。「とにかく手に馴染む良いソフトなので、ぜひ使ってみてください」と未経験者に向けて一歩足を踏み出してみるようにエールを送った。
お問い合わせ
Nuke購入に関するお問い合わせはこちら
www.borndigital.co.jp/software/nuke.html
TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_柳田晴香/ Haruka Yanagida(CGWORLD)