近年、大きな盛り上がりを見せているインディーゲーム界隈。ゲーム自体のクオリティも飛躍的に上がっているが、一方で「ゲーム開発に最適なPCを選択するのが難しい」という悩みもある。
そんな状況に対して、最新世代の高性能CPUなどを搭載するMSIのクリエイター向けノートPC「Prestige 16 AI Studio B1Vシリーズ」は、その悩みへの回答になるのか? 本職でゲーム開発会社に勤めながら、プライベートでもインディーゲームの開発に挑んでいるtake氏に、その実力をチェックしてもらった。
インディーゲームだから新しいことに挑戦できる
CGWORLD(以下、CGW):まずは、takeさんのクリエイターとしての活動について教えてください。
take氏(以下、take):普段は、某ゲーム開発会社にフルタイムで勤務しています。一方でインディーゲームサークル「UNLIMITED GAMES」を主宰し、空いた時間や週末などにオリジナルのインディーゲームを開発しています。
CGW:どんなゲームを開発しているのですか?
take:現在は、崩壊した世界を舞台にロボット形態と飛行形態を自由に切り替えて戦うオープンワールドのフライトメカゲーム『VARIAVLE ARMS FRONTIER -暁の皇女と忘れさられた惑星-』(以下、VAF)を制作中です。パイロット候補生のプレーヤーが仲間達と数々の困難を乗り越え、最高のエースパイロットを目指すというストーリーです。
ジャンルはひと言で表現するのが難しいですが、RPGでもありTPSでもありフライトシューティングでもあり、といった感じでしょうか。既存の大手会社がつくるゲームと異なり、「ちょっと新しいことにチャレンジしている」という点が“インディーゲームならでは”かな、と思っています。
VAFについての取材記事はこちら
日本のインディーゲーム開発者の現場から
第1回:ガンダム、マクロス好きで知られるゲーム業界20年のベテランtake氏が贈る、可変ロボットが登場するフライトオープンワールドRPGゲーム。Blender、Unreal Engine 4を活用
cgworld.jp/regular/202304-indie-01.html
take氏
某ゲーム開発会社でアートディレクターを務めており、ゲーム業界歴は20年以上。バリバリの最前線で活躍する一方で、インディーゲームの開発にもいそしんでいる。
CGW:使用しているDCCツールは何でしょうか?
take:現在のメインはUnreal Engine 4ですが、今後を見据えて一部でUnreal Engine 5も利用しています。そのほかはPhotoshop、Blender、Substance 3D Painter、SAIなどですね。SAIは2Dキャラクターを描くときに活用しています。
CGW:インディーゲームを開発されるにあたり苦労するのはどんなところですか?
take:やはり「とにかく時間がかかる」ことですね。頭の中にはすでに最後までの構想があるのですが、結局1つ1つの素材をつくるのに時間がかかってしまうんです。例えば、機能やメカの3Dデータを1つつくるだけで1ヶ月以上かかることもしばしば。さらに、自分のゲームでは「最新技術をできるだけ取り入れたい」という想いもあり、その技術習得に時間がかかってしまうこともありました。だから、そういった部分を「いかにコンパクトかつスムーズに進めてくか」が今後の開発での重要なポイントになると感じています。
CGW:最近のインディーゲーム業界の状況についても教えてください。
take:近年はUnreal EngineをはじめとするDCCツールやPCなどの機材が劇的に進化したことで、個人(あるいは小規模)開発のインディーゲームでも大企業のゲームに引けを取らないクオリティの実現が可能になってきました。その意味で、クリエイター側としては夢のような環境に近づきつつあると感じています。実際、やる気さえあれば個人でもかなり質の高いゲームをつくることができますし、業界的にもインディーゲーム開発者が増えていると実感しています。
Unreal EngineのためにPCはGPUやメモリを重視
CGW:では、現在の開発環境を教えてください。
take:メインで使用しているのは、2020年1月に購入したデスクトップPCです。CPU「インテル Core i7-10700 プロセッサー」やGPU「NVIDIA GeForce RTX 3070」、32GBのメモリを搭載しており、現状でもとくに不満なく開発できています。
また、ノートPCも2台所有しており、1台目の古いモデル(以下、旧ノートPC)はイベントなどの展示用として利用しています。ただ、本体重量が3kgととにかく“重い”というのが難点だったので、高性能かつ持ち運びに便利な軽量モデル(以下、新ノートPC)を購入したという経緯があります。
CGW:PC選びで重視するポイントはどこでしょうか?
take:「Unreal Engineが快適に動作するか」をポイントに、まずはGPUの性能を最重視します。さらに、個人的にはメモリもかなり重要だと感じているので、現在はノートPCも含めすべてで32GBを搭載しています。また、ストレージもUnreal Engineの起動や重いシーンのローディングなどに影響するので、できる限り高速化かつ大容量のSSDを搭載したいと思っています。これらを踏まえると、重視する順番はGPU→メモリ→ストレージ→CPUというイメージです。
検証ハードウェアについて
Prestige-16-AI-Studio-B1VGG-5001JP
● OS:Windows 11 Pro 64bit
● CPU:インテル Core Ultra 9 プロセッサー 185H / 16コア(6P+8E+2LPE)22スレッド
● GPU:NVIDIA GeForce RTX 4070 Laptop GPU
● メモリ:32GB
● ストレージ:NVMe接続2TB SSD
●ディスプレイ:16インチ
●重量:1.6kg
take氏のデスクトップPC
● CPU:インテル i7-10700 プロセッサー(8コア / 16スレッド / 2.90GHz / TB時最大4.80GHz / 16MBキャッシュ)
● GPU:NVIDIA GeForce RTX 3070
● メモリ:32GB
take氏の新ノートPC
● CPU:AMD Ryzen 7 6800HS プロセッサー(8コア / 16スレッド / 3.20GHz / TB時最大4.70GHz / 16MBキャッシュ)
● GPU:NVIDIA GeForce RTX 3050 Ti LAPTOP GPU
● メモリ:32GB
● ディスプレイ:13.5インチ
● 重量:1.35kg
take氏の旧ノートPC
● CPU:インテル Core i7-6700HQ プロセッサー(4コア / 8スレッド / 2.60GHz / TB時最大3.50GHz / 6MBキャッシュ)
● GPU:NVIDIA GeForce GTX 1070
● メモリ:32GB
● ディスプレイ:17インチ
● 重量:3.00kg
デスクトップPCに匹敵する性能で 本気のクリエイターに最適なパフォーマンス
CGW:今回、MSIの最新ノートPC「Prestige-16-AI-Studio-B1VGG-5001JP」(以下、Prestige 16 AI Studio B1V)を検証してもらいましたがいかがでしたか?
take:例えばCityサンプルの検証では、解像度が1080Pの時に自分のデスクトップPCが「29.62 fps」だったのに対し、Prestige 16 AI Studio B1Vは「24.92 fps」という結果でした。Cityサンプルは処理負荷が結構高いので、Prestige 16 AI Studio B1VがデスクトップPCに遜色ないパフォーマンスを発揮したことは非常に驚きでしたね。そもそも、Unreal Engineは高品質なグラフィックス表現でPC側にかなり高いスペックを要求するのですが、Prestige 16 AI Studio B1Vはそういった部分を「完全にクリアできている」と感じます。
検証1:「Cityサンプル」の処理性能
映画『マトリックス』の技術デモ「The Matrix Awakens: An Unreal Engine 5 Experience」の街を収録したUnreal Engine 5向けのサンプルプロジェクト「Cityサンプル」を使用し、PIE(Play In Editor)起動でのフレームレートを解像度別に計測。take氏のデスクトップPCが1080Pで「29.62fps」、1440Pで「22.45fps」だったのに対し、Prestige 16 AI Studio B1Vは1080Pで「24.92fps」、1440Pで「20.40fps」という結果となった。また、新ノートPCは1080Pでもスペック不足でシーンを起動できず「計測不能」に終わった。
- Prestige 16 AI Studio B1V
1080P:24.92fps
1440P:20.40fps
- take氏のデスクトップPC
1080P:29.62fps
1440P:22.45 fps
- take氏の新ノートPC
スペック不足でシーンを起動できず計測不能
CGW:ゲーム開発にも利用できそうでしょうか。
take:VAFを使った検証もしてみましたが、すべてにおいて非常に快適でした。16インチのディスプレイも4K対応で想像以上に広く使えるので、表示情報が多くて細かいBlueprintなどの作業でも問題なく対応できるでしょう。
あえて補足するなら、ディスプレイを4Kなどの高解像度表示にすると、そこでGPUパワーをかなり使用してしまうので、開発の際は作業内容によって「2KやフルHD表示に抑えた方がいいケースもある」と思いました。そうすればGPUパワーをゲーム内の表示処理などに回せますから、上手く使い分けることで「より最適な開発環境になる」と思います。
検証2:「FluidNinja LIVE」の処理性能
流体シミュレーションのアセット「FluidNinja LIVE」をUnreal Engine 5でPIE起動させ、処理中のフレームレートを解像度別に計測した。結果は、take氏のデスクトップPCが1080Pで「60.00fps」、1440Pで「53.64fps」だったのに対し、Prestige 16 AI Studio B1Vは1080Pで「59.43fps」、1440Pで「53.28fps」、新ノートPCは1080Pで「34.78fps」となった。
- Prestige 16 AI Studio B1V
1080P:59.43fps
1440P:53.28fps
- take氏のデスクトップPC
1080P:60.00fps
1440P:53.64fps
- take氏の新ノートPC
1080P:34.78fps
検証3:VAFのビルド作成時間と処理性能
take氏が制作しているVFAを使用し、ビルド作成時間(3回の平均値)とゲーム実行時のフレームレートを計測。ビルド作成時間は、take氏のデスクトップPCが約20分だったのに対し、Prestige 16 AI Studio B1Vは約12分、旧ノートPC機は約23分だった。フレームレートはPIE起動で解像度別に調べたところ、take氏のデスクトップPCが1080Pで「66.54fps」、1440Pで「49.63fps」だったのに対し、Prestige 16 AI Studio B1Vは1080Pで「56.30fps」、1440Pで「43.30fps」、旧ノートPC機は1080Pで「25.42fps」という結果になった。
- Prestige 16 AI Studio B1V
1080P:56.30fps
1440P:43.30fps
- take氏のデスクトップPC
1080P:66.54fps
1440P:49.63fps
- take氏の新ノートPC
1080P:25.42fps
本気でクリエイティブなことをしたい方に最適なマシン
CGW:スペック以外で気に入った点はありましたか?
take:ディスプレイは、発色がとても良く非常に綺麗だと感じました。さらに、光沢のあるグレア液晶であるにも関わらず「反射が気にならない」という点も高ポイントでした。そのほか、イベント出展や出先でのゲーム開発などで利用することを踏まえると、指紋認証や顔認証を標準で備えている点はセキュリティ面で嬉しいですね。
CGW:takeさんは外出先でノートPCを使う場面も多い、とのことでしたがその点についてはいかがでしたか?
take:はい。今回、自分と同じインディーゲーム開発者が集結し、同じ場所にいながら各々のゲームを制作する「インディーゲームもくもく会」(以下、もくもく会)にPrestige 16 AI Studio B1Vを持っていってみました。1.6kgという軽さなので持ち運びの負担も少ない、かつ検証の結果のように高性能というスペックは特筆すべき魅力と感じました。正直なところ、普段使用しているデスクトップPCよりも高性能で、家用のメインPCとしても十分なスペックなのでこれ1台で家でも出先でも作業ができる点は魅力的ですね。
CGW:もくもく会にはどういった意図で参加されているのですか?
take:モチベーションの維持がいちばんの目的ですね。普段は楽しいインディーゲーム開発も、本業での疲労が溜まっていたりするとどうしても後回しになりがちですから(苦笑)。もくもく会に参加することで良い刺激をもらって大きなモチベーションアップにつながっていますし、情報交換の場としても役立っているので積極的に参加しています。せっかく参加したからには「絶対成果を出すぞ!」という気持ちにもなるので、個人的にかなりオススメです。
CGW:ではPrestige 16 AI Studio B1Vの総合的な評価をお願いします。
take:全体的にとても高性能で、サイズ感や重さなども含めて「ノートPCに求める要素のすべてが凝縮されている」と感じました。唯一、価格のハードルだけがちょっと高いですが、そこさえクリアできれば万人にオススメできるでしょう。とにかくハイスペックでどのような作業にも対応できるので、ゲーム開発者はもちろんCG映像制作者なども含め、ノートPCを使って「本気でクリエイティブなことをしたい!」と考えている人には最適な製品だと感じました。
CGW:では最後に、VAFの今後の予定について教えてください。
take:完成までにまだ4~5年ほどはかかると思いますが……。まずはバトルの面白さや駆け引きになる部分のさらなるつくり込みを第一に考えています。また、ラフまで出来ているメカが沢山あるので、そちらもブラッシュアップして早くゲーム内に登場させたいです。
TEXT__近藤寿成(スプール)