2024年3月10日第96回アカデミー賞® 視覚効果賞を『ゴジラ-1.0』が受賞した。邦画、アジア映画初の受賞であり、歴史的快挙となった。そんな本作の視覚効果(VFX)を担当したのは白組。本記事では、白組に多くの卒業生が所属している日本電子専門学校の特別企画として『ゴジラ-1.0』の制作に携わった白組調布スタジオのメンバーにインタビューを実施。CG・視覚効果(VFX)業界の仕事とその魅力に迫る。
取材協力/株式会社白組
あらゆるツールのいいとこ取りをする視覚効果
本記事のナビゲーターは、日本電子専門学校卒業生で白組調布スタジオに所属する髙橋正紀氏と早﨑達矢氏が務める。まずは、2人に話を伺った。
――受賞の瞬間、どんな気持ちでしたか?
髙橋氏:しばらくは受賞した実感がなかったです。受賞式の後、歴代のアカデミー賞受賞者の写真が並ぶ廊下で、「みなさんはここにいる偉人と並んだのよ」と言われてはじめてじわじわと実感が湧いてきました。
髙橋正紀氏
日本電子専門学校1991年卒。白組調布スタジオ部長・VFXディレクター。第96回アカデミー賞® 視覚効果賞受賞者
――素敵なエピソードですね。本当に歴史的快挙でした。お二人は、どのような仕事をされているのでしょうか?
髙橋氏:私は調布スタジオで、CGでつくる絵のディレクションや、VFX全体のクオリティの管理をしています。監督の話を解釈して、スタッフをどう使うかを考える仕事です。
早﨑氏:僕は監督のイメージを、CGでどうつくるかを考えています。実際にCG制作の作業もしています。
早﨑達矢氏
日本電子専門学校2004年卒。白組調布スタジオCGディレクター
――設計だけでなく作業もされているんですね。以前白組調布スタジオはゼネラリストが多いと伺いました。
早﨑氏:調布スタジオのスタッフはみんな何かに特化していても、一通り全部できますね。僕も今回、デジタルエキストラをつくるためにHoudiniを新しく勉強しました。
――勉強していきなり実戦投入とは驚きです!
髙橋氏:すでに他の3DCGソフトを使っていれば、作業を置き換えるだけなので、案外習得は早いんです。あとはソフトごとにできることを学んでいきます。あらゆるツールの良いとこ取りでつくっていくのがVFXの考え方なんです。私が卒業した日本電子専門学校では、Houdiniをはじめ様々なツールの使い方を学ぶことができます。学生時代に複数のツールを使いこなす力をつけ、たくさん作品を制作することができた経験が、今に活きていると思います。
『ゴジラ-1.0』
DVD3枚組
発売元/販売元:東宝株式会社
価格:4,950円 発売中
godzilla-movie2023.toho.co.jp/bluraydvd/#special
©2023 TOHO CO., LTD.
VFX(視覚効果)とは?
現実には撮影が困難な映像をつくり出す映像技術
VFX(視覚効果)とは、「実写」、「3DCG」、「マットペイント(背景)」などを組み合わせて、現実には撮影が困難な映像をつくり上げる映像技術の総称だ。CM、TVドラマ、劇場用映画など、幅広い映像で使われている。
怪獣や魔法など、現実に存在しないものをCG でつくり映像に合成したり、グリーンバックで人物を撮影して別の背景を合成したり、スタジオにつくられた小さいセットをCGで拡張して広く見せたりすることができる。
どんな映像も想像力・発想力次第
『ゴジラ-1.0』の実写撮影では人が触れる周辺のエリアのみセットをつくり、その他をCGでつくることで、巨大な戦艦や昭和の町並みを再現した。ゴジラが海を泳ぐシーンは、手前の船と海は実写で撮影し、ゴジラと海の飛沫をCGで加えることで、臨場感あふれる表現を可能にした。VFXを使えば、つくり手の想像力・発想力次第でどんな世界でも表現することができる。
【解説】CG映像制作科で学べるVFXの仕事の魅力とは?
レンジの広さがVFXの魅力
髙橋氏:VFXの魅力は、CGだけじゃできない、つくれるもののレンジの広さですね。CGはそれだけでひとつの絵をつくり上げることができるという魅力があります。もっと動かしたい、もっと立体に見せたいといった思いがあるはずです。VFXは更にそこから現実世界にまで広げられるところが面白いし、とにかく楽しいと私は思います。
早﨑氏:僕にとってのVFXの魅力は実写撮影ですね。アニメやゲームなどは実写撮影がないのですが、VFXの場合は実写撮影という工程があります。撮影現場はお祭りのようなもので、現地に行き、様々なスタッフさん達とワイワイやりながら、天気などのあらゆるトラブルにその場で対応したり考えたりするのが楽しいんです。撮影現場にはCGと違ってUndo(取消)がないので、その場のコミュニケーションで最適解を考える面白さがあります。
白組スタッフに聞いたVFXの魅力
「スクリーンで見たとき、つくったものが現実の世界に存在しているように感じられたときに魅力を感じます」
「役者さんがその場にいることで、生きている人がそこにいて、瞬時に自分もそこにいるかのような感覚になるところに魅力があります」
「例えばSFの場合、未来を先取りして見ていると感じるものを提供できるところです」
【解説】コンピュータグラフィックス科・CG映像制作科 コンピュータグラフィックス研究科で学べるモデラーの仕事とは?
資料を集めて、想像する
――モデラーとはどんな仕事ですか?
中倉氏:形をつくる仕事です。『ゴジラ-1.0』では、昔の戦艦をつくっていたのですが、とにかく昔の資料を探して再現しつつ、資料にない側面や見えない場所は想像で補っていきました。これはリアルなものでも、ファンタジーなものでも同じで、資料を集めて、現実のものと想像を重ねてつくっていきます。ちがうのは現実と想像の割合です。
中倉寛隆氏
白組/3DCGアーティスト
――資料を探す時間とつくる時間では、どちらが長いのでしょうか?
中倉氏:ちょうど半々くらいです。まず資料を探したり問い合わせたりして集めます。集めた資料を横に表示しながらつくり続けていきます。現実にあるものをつくるときは、作業しながら、追加で資料を集めることが多いです。正確な現物の資料があると再現作業になるので完成が早いです。資料がないと時間はかかりますが自分の想像で補いつつデザインしていく面白さがありますね。
手で触った感触を得られる絵の良さを引き上げていくモデルを目指す
――モデリングするうえで重要だと感じていることはなんでしょうか?
中倉氏:ストーリーの中に展開していくモノをつくるので、浮かないように、本物感と味わいを大事にしています。手で触った感触を得られるようなモデルをいつも目指しています。
――モデラーになるためには、どんな勉強や経験が必要だと思いますか?
中倉氏:とにかく様々なモノを観察して、たくさんつくることでしょうか。
――モデラーにはどんな人が向いていると思いますか?
中倉氏:デッサンや造形が好きな人、楽しい人は向いていると思います。形をつくって、ライティングして、シーンに入れるときはものすごく楽しいですし、それがスクリーンに登場したときには感動します。
――最後に一言お願いします。
中倉氏:実はモデリングは本格的な教えを他人にしてもらう経験がなかったので、多少葛藤しながら仕事をしていました。今回賞をもらえたことで、一定のレベルで受け入れてもらえたんだと、すこし安心しました。自信を持てなくても、続けてきて良かったなと。
ここがポイント
現実に存在するものをつくるときは、とにかく資料を集めることが大事です。ゴジラなど、現実に存在しないものはワニやトカゲなどの実在する生物を観察してつくり込んでいきます。それから、2Dのイメージスケッチをそのまま3Dにするとバランスが悪くなることがあるので、どこから見ても良く見えるバランスを取りながら形をつくるのも大事です。
【解説】コンピュータグラフィックス研究科で学べるエフェクトアーティストの仕事とは?
とにかく自由につくり続ける
野島達司氏
白組/エフェクトアーティスト・コンポジター
――エフェクトアーティストになるためには、どんな勉強や経験が必要だと思いますか?
野島氏:Houdiniでいろんなものをつくりまくることです。とはいえチュートリアルをただやるのはあまりおすすめしません。とにかく何かやりたいことをやってみて、出てきた結果を見て、その状態からさらに良くするためにパラメータをひたすら変えて学んでいくほうが、応用が効きます。
ここがポイント
シミュレーションも観察が重要です。現実のモノの動きをよく見て再現し、さらに魅力的に見えるように演出していきます。
【解説】CG映像制作科で学べるコンポジターの仕事とは?
コミュニケーションを取りながら絵の良さを引き上げる
大久保榮真氏
白組/コンポジター
――コンポジターになるためには、どんな勉強や経験が必要だと思いますか?
大久保氏:よく画づくりが大事と言われますが、僕はコミュニケーションのほうが大事だと思います。コンポジターはCGアーティストと撮影現場と監督の間に立って、絵の良さを引き上げる仕事だからです。人と映像をつくっていくのがコンポジターの魅力とも言えます。
ここがポイント
コンポジターはとにかく映像のことが好きな人におすすめの仕事です。自分で撮影してみたり、合成してみたり、遊びながら研究している人は伸びやすいです。それからCGと違いひとりでは完結しない仕事なので、仲間を集めて楽しくつくることが何より大事だと思います。
白組調布スタジオに訪問!
自立型チームを目指すVFX総合スタジオ
――普段はどんな雰囲気で仕事をしていますか?
髙橋氏:明るく楽しくです。山崎(貴)さんを含めて、みな黙って仕事するのが苦手なので、年齢も関係なく喋りながら仕事をしています。調布スタジオは定時ミーティングが一切ないのが特徴です。歩いていてこれ良いねと話しかけると、みんなが見に来て勝手にミーティングが始まります。必要なときは呼びますが、基本は自分で会話に加わるか判断するんです。
――定時ミーティングがないのは驚きです。
髙橋氏:ミーティングのために作品を用意するのではなくて、とにかくありのままの現状を見せてほしいからです。ルールは決めず、自立型チームを目指しています。
【白組調布スタジオのミーティングスタイル】
①誰かの作業画面を見て、話し始める
②盛り上がって、人が集まってくる
③課題やアイデアが会話の中から出てくる
――リモートワークの制度もあるのでしょうか?
髙橋氏:リモートワークは禁止していません。リモートのほうがノッて作業できるときはリモートもありです。これも判断は自主性に任せています。でも、ほとんどのスタッフが毎日出社しています。リモートだとチェックがなかなか大変ですし、コミュニケーションの効率が悪いからです。調布スタジオは楽しくお喋りしながら、クラブ活動的なものづくりをしている場所ですね。
――確かに、キッチンから賑やかな声が聞こえますね。
髙橋氏:楽しくつくることが目標なので、居心地の良さを大事にしています。キッチンで誰かが話し始めた声を聞いて、人が集まってきてさらに盛り上がったり。コミュニケーションで繋がっているチームです。
――白組調布スタジオは、新卒も採用しているのでしょうか?
髙橋氏:最近は新卒をほぼ毎年採っています。応募していただいた方の中から採用したり、SNSで良い作品を上げてる方に声をかけたり様々です。若い人たちが入ってきて、刺激を受けています。今年は新卒が2人入りました。ひとりは制作で、プロデュース部から新しい風を吹かせています。もうひとりはコンポジターで、この記事のライターもしています。
――本当に自由な空気を感じます。
髙橋氏:もちろん経営も大事なのですが、自分たちが楽しいことをやれるかどうかを一番大事にしています。
白組調布スタジオに所属する、日本電子専門学校卒業生の皆さん。白組三軒茶屋スタジオも含めると、11名の卒業生が『ゴジラ-1.0』の制作に参加
日本電子専門学校卒業生の喜びの声と高校生へのエール!
山口拓洋氏 CGゼネラリスト コンピュータグラフィックス科 2010年卒業
――受賞した感想は?
なかなかこんな機会はないので、大きな賞を取れたのは光栄です。これを道標に日本の映像業界がさらに発展したら嬉しいです。
――高校生のみなさまへ
やりたいことがあったら今すぐやってみるのをおすすめします。
植木孝行氏 CGゼネラリスト コンピュータグラフィックス科 2004年卒業
――受賞した感想は?
ラッキーパンチがあたった。想像してなかったので嬉しかったです。
――高校生のみなさまへ
自分が高校生のときは映画の仕事なんてできるわけがないと思っていました。 でも思い切って飛び込んでやってみたらなんとかなるよ。一生懸命たくさんやった人はどんな業界でも強いですよ。
早﨑達矢氏 CGゼネラリスト コンピュータグラフィックス研究科 2004年卒業
――高校生のみなさまへ
専門学校の仲間と楽しくやってほしいです。映画はひとりじゃつくれないので、バスケでもサッカーでも、仲間とコミュニケーションすることが案外生きてきます。
髙橋正紀氏 CGディレクター コンピュータ・グラフィックス科 CGコース※ 1991年卒業
――高校生のみなさまへ
とにかく映像が好きなら、目指す価値のある業界だと思います。映像はひとりひとりのセンスの集合体なので、代えが効かない仕事です。作品をたくさん見て、たくさんつくっていけばセンスは磨かれるので、今すぐにでもつくり始めてみてください。
菅波 純氏 撮影部 コンピュータ・グラフィックス科 画像コース※ 1987年卒業
――受賞した感想は?
最初で最後かもしれないけど、こういう受賞ができたことは嬉しいです。
――高校生のみなさまへ
好きこそものの上手なれ。日本電子専門学校にはスキルを学べる環境があると思うので、やってみて。
早川胤男氏 システムエンジニア 情報処理科 コンピュータ・グラフィックスコース※ 1986年卒業
――受賞した感想は?
まさかでした。長くやっているとこんなこともあるのかなぁと。
――高校生のみなさまへ
面白いと感じたことをやってください。高校時代に、面白いと思ったことが、僕はいまも仕事として続いています。
長谷川界斗氏 CGゼネラリスト CG映像制作科 2019年卒業
――受賞した感想は?
世界一なんて信じられませんでした。今でも信じられないです。
――高校生のみなさまへ
関係ないことだと思っていても、将来何かにつながるかもしれないです。学生時代に色々なことに挑戦してみてください。
お問い合わせ
学校法人電子学園 日本電子専門学校
1951年創立|コンピュータ・電気・電子分野の総合学園
〒169-8522 東京都新宿区百人町1-25-4
フリーコール:0120-00-9691
www.jec.ac.jp
TEXT_三宅智之(38912 DIGITAL)
EDIT_Mana Okubo(CGWORLD)、山田桃子/Momoko Yamada