
近年、ビジュアライゼーションの分野では、定番のV-Rayに加え、Corona RendererやVantage、D5 Render、Twinmotionなど、強力なレンダラーが次々と登場している。一方、CPUとGPUの両方に高い処理性能を求めるものも多く、機材構成に頭を悩ませているクリエイターも少なくないだろう。
そんな中で、CGデザイナー・ビジュアルクリエイターの高畑真澄氏も、同じ悩みを抱えていた一人。2023年、高畑氏はよりスムーズなCorona RendererやVantageの活用を目指すべく制作機材を一新することとなった。「PCについてはまったくの専門外なので、すべて人に選んでもらいました」と語る高畑氏。デスクトップPC「DAIV FX-I9G90」とノートPC「DAIV Z6-I9G70SR-A」の使い勝手はどうなのだろうか?
高畑氏の活動や制作環境、初心者向けの学び方まで幅広く話を伺った。
これから建築CG制作をはじめようという読者はぜひ参考にしてもらいたい。
■「美しいもの」をつくると、自分の心も人も喜ぶ
CGWORLD(以下、CGW):本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介からお願いします。
▼プロフィール

CG designer/Visual Creator
高畑真澄
msum.main.jp
2017年 建築ビジュアライゼーション業界への貢献を目的に教育活動をスタート。
・世界で一番やさしい 3ds Max 建築CGパースの教科書(2024年3月27日改訂版発売)
・AREA JAPAN 「やさしい3ds Max –はじめての建築CG-」
・AREA JAPAN 「たのしい3ds Max -わくわく建築CG-」
・青山製図専門学校 非常勤講師
X @t_msum
Instagram @t_msum
高畑真澄(以下、高畑):フリーランスでパース屋の高畑です。経歴としては、青山製図専門学校で建築を学んで、東京の設計事務所勤務を経て、2012年からフリーになりました。
お仕事内容はいろいろですが、ホテルや物流センターといった大きな建造物から、最近ではサウナやガレージハウスといった小規模な商業施設のお仕事も増えています。
CGW:幅広く手がけていらっしゃるんですね。
高畑:はい。竣工前でも理想の世界観を視覚的に伝える手段として、CGビジュアライゼーションはとても有効で様々な分野で活用されています。例えば、こちらのガレージハウスの作品を見てみてください。

高畑:これは「遊び心をくすぐるような空間にしたい」というクライアントからの依頼で、ガレージハウスのビジュアライゼーションを担当しました。
こういう案件って、何もない状態から「何を置いたらかっこいいか?」「どんな空間にしたら住む人がワクワクするか?」といった付加価値をデザインで提案するところからスタートするんです。
CGW:ガレージ内のモノのチョイスや配置も、設計段階で提案されているんですね。
高畑:そうなんです。車やバイク、サーフボードやDIYの工具、そういった「好き」が詰まった空間に見えるように。実は私、自動車とかバイクとか全然詳しくないんですけど(笑)、資料を集めて「その世界が好きな人だったら、こういう空間にワクワクするよね」というのを想像しながらつくっています。
CGW:面白いですね!
高畑:そうなんですよ。ビジュアライゼーションは自分の考える「美しい」ものを自由に形作っていく楽しさがあります。自分の心が躍るビジュアルを作って、それをクライアントが喜んでくれる素敵な仕事だと思っています。

デザイン上達のコツを聞くと「まずは整理整頓」とのことだ。「フォルダ、レイヤー、指示書など、どこに何があるかバタバタしては制作が楽しくできません。オリジナル作品の場合は、とにかく参考の画像や写真を沢山集めて、沢山モデリングしたり、素材を作っても、その後は思いっきり引き算で削除をします」
CGW:デザイナーとしての活動以外にも最近では、オンラインでの個別指導もされているそうですね。
高畑:SNSやホームページから来てくれた方を対象に、家庭教師のようなマンツーマン指導をやっています。まずはその方の仕事の悩みをオンラインでヒアリングして、土木やインテリアなど、その生徒に合わせたカリキュラムを組むんです。
CGW:講師をやってみていかがですか?
高畑:純粋に喜んでもらえたのが嬉しかったですし、人から「こういうの向いてるね」と言われたのも収穫でしたね。私は“勉強しない”タイプで、CGには例えば、「リフレクション(reflection)」と「リフラクション(refraction)」のちがいとか、すごく難しい概念がたくさんありますよね(笑)。
私の場合、そういうことに出会ったら本やWebで情報を探すのではなくて人に聞いてしまうので、逆にそういうタイプの人の気持ちや悩みがわかるのが良かったみたいです。だからそういう人たちに向けて、(漢字ではなく)“ひらがな”で教えられる先生になろう、と考えるようになりました。

■初心者にも扱いやすいツールは?
CGW:ところでどのようなツールをつかっていますか?
高畑:仕事では、3ds MaxとV-Rayをメインで使っています。
レンダラーについては最近ではCoronaやVantage(V-Rayのリアルタイムレンダリングソリューション)も使っています。前者はCPUベース、後者はGPUベースで動きます。
初心者には『Chaos Cosmos』の利用も勧めているんですよ。
これはV-Rayユーザーがすぐに使える無料の3Dアセットライブラリで、インテリアや建築ビジュアライズの現場では、家具や小物の配置、スタイリング作業を大幅に効率化できるツールなんです。

椅子や観葉植物、テーブルウェアといったアイテムをドラッグ&ドロップで簡単に配置できますし、最初からマテリアルやライティングも組まれているので、調整なしでもすぐに見栄えするんですよ。
空間づくりに慣れていない方でも「ビジュアライズって楽しいな」と感じてもらいやすくなるので、導入時のハードルを下げる意味でも重宝しています。
CGW:インテリア好きな人ははまってしまいそうですね。レンダラはどう使い分けているのですか?
高畑:パースの仕事はパートナーとシェアするデータもありますから、3ds MaxとV-Rayが基本です。ただ最近は、設計者やインテリアコーディネーターで3ds Maxを習得したいという方々には、コスト面と習得の手軽さからCoronaをお勧めしてます。
公式サイトに「Most new users learn Corona in just one day — and fall in love with it in two.」(ほとんどの新規ユーザーは1日でコロナを学び、2日で恋に落ちる)という文言が書かれていて、それをそのまま伝えています(笑)。
CGW:初心者には設定の簡単さからとっつきやすくて、いいですね。建築パース制作ではレンダリングはどの程度頻繁に行うのですか?
高畑:ちょっとつくり直したり、ライティングを変えたらすぐレンダリングします。「常にしてる」感じです。
最近はV-RayのIPR(Interactive Photorealistic Rendering)モードをずっとオンにして、インタラクティブプレビューで常時確認することも増えています。一番いい配置はどこなのか、この構図はかっこいいか、都度レンダリングするよりもリアルタイムに確認できたほうがいいですもんね。
CGW:Vantageの活用についてもお聞かせください。
高畑:Vantageは、V-Rayの設定をそのまま引き継いでリアルタイムに表示できるので、クライアントに「こんな感じです」とその場で見せたいときにすごく便利です。特にウォークスルーやカメラの動きを確認したいときに、V-Rayで一枚ずつレンダリングするより圧倒的に早いんですよね。
Chaos Vantageを使ってリアルタイムに確認しながら添景を調整していき、最終的に何十枚ものバリエーションをレンダリングしてますね。最終レンダリングはV-Rayでしっかり仕上げつつ、確認やプレゼンではVantageで即時に見せる、という使い分けをしています。こういうのはマシンスペックがないと難しいですけどね。
■ V-ray、Corona Render、Vantageをフル活用する環境とは?
CGW:さてここからは機材についても伺わせてください。2023年にマウスコンピューターのDAIVに切り替えたそうですね。
高畑:そうなんです。以前はメインとサブでデスクトップ2台と、ちょっとした作業用にノートPCを1台、合計3台を使っていました。
ただ、購入から約6年ほど経って、CPUの性能がツールに追いつかなくなったようで、Coronaで作業をしていてCosmosが開かなくなったり、当時使っていたLumion(Act-3D B.V.社のレンダラ)も起動できなくなってしまったり……。
CGW:マシンスペックはCPUはインテル Xeon E5-2620v4 プロセッサー、GPUは、NVIDIA Quadro M4000だったんですね。
当時としては比較的高スペックな構成だと思いますが、さすがに最新のレンダラー事情にはちょっと対応しきれなかったと。
高畑:Cドライブの容量も限界に近づいていたので、買い換えのタイミングだったみたい。
ただ、私は機械に疎いので、代理店に相談して建築ビジュアライゼーションに耐えうるスペックのPCを見繕ってもらいました。

OS:Windows 11 Home 64ビット
CPU:インテル® Core™ i9-13900KF プロセッサー
GPU:GeForce RTX™ 4090
メモリ:64GB (32GB×2 / デュアルチャネル)
ストレージ:NVMe SSD 2TB +NVMe SSD 2TB+ HDD 8TB
高畑:その時に「メインをハイエンドデスクトップのDAIV FX、サブをDAIV Z6にすれば、これまで使っていた控えのデスクトップPCはもう必要ない」という提案をもらったんです。「ノートPCでもデスクトップ並みに建築パースが制作できるの!?」と、正直びっくりしましたが、使ってみてもっとびっくり。レンダリングもすごい動いてる!って。

OS:Windows 11 Home 64ビット
CPU:インテル® Core™ i9-13900KF プロセッサー
GPU:GeForce RTX™ 4090
メモリ:64GB (32GB×2 / デュアルチャネル)
ストレージ:NVMe SSD 2TB +NVMe SSD 2TB+ HDD 8TB
CGW:GPUにGeForce RTX 4070 Laptop GPUを搭載している恩恵ですね。他にはどういった利点がありましたか?
高畑:定期的に仲間と勉強会を開催するんですが、そこにDAIV Z6を持っていくと、その場でCGソフトを立ち上げて、私がわからないことを仲間に教えてもらえるのもいいところですよね(笑)。あとは学校の講師でも使いますし、在宅ワークの気分転換にも活用しています。
それに、すごく軽い! 以前使っていたノートPCは3.5kg以上もあって重たかった。DAIV Z6は約1.6kgで持ち運びがとても楽です。ファンの駆動音や筐体の熱も気になったことはありません。デザインもシンプルで良いですね。
■体感で2倍速。「DAIV」なら高負荷作業も安定・快適動作

CGW:パース制作作業ではどんな工程で特にマシン負荷がかかりますか?
高畑:PLATEAU(国土交通省のデジタルツインプロジェクト)の大容量データを活用して物件周囲の環境のデザインをおこなっていますが、非常に高密度なポリゴンメッシュと、多数の建築物オブジェクトを読み込むので非常にデータが重くなります。
例えば、オリジナルデータは区単位で500MB~2GB程度で3ds Maxに取り込んで整理するのですが、デスクトップの「DAIV FX-I9G90」であればこの作業もサクサクできます。

CGW:PLATEAUが自由に活用できるとなると表現できる幅も広がりますよね。
高畑:そうですね。利点のもうひとつはZoomでのオンライン授業です。授業ではPhotoshopで画像のレタッチを実演しながら、3ds Maxでのレンダリング様子も見せるといった、いろんなツールを同時に開いて、しかも負荷の高い処理を行いながらストリーミング配信ができなくてはいけませんが、これまで一度もフリーズや遅延が起こったことはなく、スムーズにできています。
CGW:高畑さんのようなマルチタスク用途には、インテル® Core™ i9-13900KF プロセッサーが最適かもしれないですね。
低負荷の処理を省電力で行うEコアと、高負荷の処理を高速に行うPコアが搭載されていて体感の速度が向上するので。Vantageでのリアルタイムレンダリングではどうでしょう?
高畑:私がそれほど大きな物件を担当していないこともありますが、描画が重いと思ったことは一度もないですね。デスクトップもノートPCも買い換えてから2年と少し経ちますが、CoronaもV-Rayもサクサク動いています。以前のPCと比較すると、体感で倍ぐらいのスピードを感じます。

高畑:マシントラブルなども一切なくて、マウスコンピューターのサポート窓口のお世話にもなったことがないくらい。私はPCやスペックには疎いのですが、よくPCの質問も受けるんです。だからそういうときは「私はDAIVを使ってます」と答えて、実際どの程度快適かを伝えてお勧めしています。
CGW:機材環境についても情報をありがとうございます。クリエイターと教育者、両面で今後の目標を聞かせてください。
高畑:クリエイターとしては、常に美しいものをつくっていきたいですね。教える立場としては、そうですね……。私は長く建築に携わる中で先代から教わってきた、伝統的な知恵を次の世代に伝えていきたい、そう思っています。
CGW:美しい建築ビジュアライゼーションをつくるために大切なことは何でしょうか。
高畑:常に美しいものを見て感じることだと思います。木漏れ日や朝もやのような自然現象の美しさに触れに行ったり、ホテルのラウンジに行って何が高級感を感じさせるのかを考えるとか。私は写真が好きなので、美しいものに出会ったらそこでシャッターを切って、どうやったらこれをさらに美しく見せられるか、構図を考えるクセが付いています。あるいは日本画を鑑賞して“余白の美”に触れること。画面を全部埋めないことで作品の素晴らしさが際立ちますよね。
CGW:外に出て五感で感じることが大切ですね。
高畑:はい。身の回りにも美しさはたくさんあります。例えば料理。盛り付けに赤を散りばめたり、ちらし寿司に黄色い卵を美しくあしらうなどです。あとは、映画やドラマなどの映像作品からもヒントが得られます。「ああ、この画面では色調をコーディネートするために俳優の洋服がこの色なんだな」みたいなことです。
CGW:たくさんの方に教えていて、上手くなるのはどういう生徒ですか?
高畑:CGWORLD Online Tutorialsの講座『建築ビジュアライゼーションの解像度を上げる』では、これをひらがな3文字のクイズで考えてもらいました。ある人は「まじめ」、ある人は「えがお」という答えでした。私が用意した答えは「すなお」です。
CGW:なるほど!
高畑:私自身、人から「こうだよ」とか「こっちに動かしたほうが良いよ」とか言われて素直にやり続けたことで変わったという実感があるんです。「この本良いよ」と紹介されたら読んでみる。「このチュートリアル役に立つよ」とお勧めされたら「わかった」じゃなくて実際やってみる。そういう、素直にやってみる人が伸びるんじゃないかと思います。
CGW:今後もご活躍、期待しています。本日はありがとうございました。
■お問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
メールアドレス:houjin@mouse-jp.co.jp
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TEXT__kagaya(ハリんち)
INTERVIEW&EDIT_池田大樹(CGWORLD)