『Battlefield Ⅴ』のファンメイドムービーを脅威のクオリティで制作したシム氏がRTX 4090搭載マシン「raytrek(レイトレック) 4CZZ」を検証。(Blender編)
FPSゲーム『Battlefield Ⅴ』のファンメイドムービーとして、自主制作で作られた作品『B17 Fortress』。その圧倒的な物量と突き詰められたクオリティが話題となり、SNS上で一躍注目を集めた映像作品だ。その制作者であるシム氏の制作環境は物量に耐えうるハイスペックPCで、2年前で70万円クラスの自作PCにて作業が行われたという。今回はちょうど制作環境を更新するタイミングだというシム氏に、RTX 4090を搭載した50万円台の最新クリエイター向けPC「raytrek 4CZZ」が制作にどこまで有用か徹底検証してもらった。
Blenderを使って趣味で始めた3DCG
まずはシム氏というクリエイターについて紹介しよう。SNS上において、制作過程を公開しながら進められた『B17 Fortress』により、注目を集めたクリエイターのシム氏。実は本業は別にあり、“あくまで趣味で映像を創作している”という映像作家である。
「元々、CGや映像をつくることに興味はあったんです。それも20年とか25年前から」というシム氏。
しかし、「当時は環境を揃えること自体のハードルが高く、何から始めていいかもわからなかった」という。それが現在、SNSの普及を含めたネット上におけるさまざまな情報量の増大と、それによって出会うことができた、無料で始めることが可能なBlenderによって、3DCGの世界へと足を踏み入れることができたという。
Battlefield5のファンムービー作成中
— シム shimu Machinima (@machinima_jp) January 23, 2022
背景はBF5のスクリーンショットから作ってます。
他は Blenderなどで制作。4~5月頃完成予定?#b3d #3dcg #B17 pic.twitter.com/gqDEQ6Fe8Y
YoutubeでBlenderを知ることができ、そしてそれがフリーソフトであった、ということがなければ、そのはじめの一歩を踏み出すことはできなかっただろう、とシム氏。作品制作を人物モデリングからスタートさせ、自主学習のみでBlenderを使いこなし、今では各種アドオンやプラグイン、Adobeツールほか、さまざまな有償ツールも使いこなすようになった。しかし、やはり導入時に気軽に始められるフリーソフトが存在する、ということが、シム氏のような新たなクリエイターが生まれる土壌となっていることは間違いない。
FPSゲーム好きが高じて制作したフォトリアルな空戦作品
『B17 Fortress』についてシム氏は、「子どもの頃に見た映画『メンフィス・ベル』の印象が強烈にあり、その雰囲気を出したかったこと、またインスピレーションの元となったFPSゲーム『BATTLEFIELDⅤ』がメインモチーフとなっている」と語る。Blenderを使い始めたのが2017年、本作のために人物モデルとB17モデルを作り始めたのが2020年5月~。そこから1年ほどかけてアセットを作り切り、さらに1年4カ月を掛けて、1分40秒の本編映像を作り切った。
B17の墜落シーンが完成。
— シム shimu Machinima (@machinima_jp) April 7, 2022
B17が登場する動画はこれで最後です。
次は近未来的なものを作りたい。#BF5 #BFV #blender #b3d #3dcg pic.twitter.com/WaPJL2y1v6
仕事の傍らで毎日2~3時間、さらには土日も創作活動につぎ込み、足かけ2年半にわたって日々こつこつと進めて完成させたのが、この作品なのである。“好きで続けている趣味”だとはいえ、その胆力とこの長期間において最後までやりきる継続の力が、この作品にここまでのクオリティと迫力を与えているのだろう。
「もともと、随時SNSで発表をしながら制作を進めるつもりでした。元々、造形を突き詰めるよりも映像づくりのほうに意欲的だったので、アセットづくりの過程で、出来上がったモデルを使って短いパイロット映像的なものを作り、SNSにアップすることでモチベーションを維持していました」とシム氏。本編作品を作り終えたいまも『Incomming』などの短編映像制作を続け、SNS上で積極的に公開している。
なお、シム氏が制作に使用しているメインツールはBlenderのほか、アセット制作にはZBrushとPhotoshop、Substance 3D Painter、VFX制作にはEmberGen、そしてフィニッシュワークと編集にAfter Effects、ほかBlenderとAfter Effectsの各種プラグインなどとなっている。
全20カット1分40秒の動画をモデリングから制作して2年かけてようやく完成しました。
— シム shimu Machinima (@machinima_jp) September 3, 2022
今後はメイキング映像の制作をします。
B17内部の紹介など動画にしていきます。
1分40秒の動画では結局B17の内部構造の半分以上
使わずに終わってしまったのでメイキング映像で使う予定です。#eevee #blender #b3d pic.twitter.com/tpDc4cebPM
趣味の域を超えた作業マシンとraytrekを徹底比較
「そこまで自分は詳しいわけではないですから」と語るシム氏だが、実際のところはPCを自作で組み上げ、そのスペック構成を踏まえてBlenderシーンの読み込み速度やVRAM消費等の考察まで行える知識の持ち主だ。70万円程かけたという現制作PCは、CPUにはRyzen Threadripper 3970Xを、GPUには2年前当時最新のGeForce RTX 3090、そしてストレージにはNVMe Gen4 SSDを採用。メインメモリにも64GBを積んでいる。そのスペックからは、各種オペレーションの並列処理やシミュレーション、およびレンダリングの高速化を狙ってメニーコアCPUを選択し、描画処理のもたつきをなくすためにGPUにもストレージにもコストをかけていることが伺える。
対して今回、比較検証に用いたPCは、サードウェーブの「raytrek 4CZZ」。シム氏のメインマシンもパーツの総額で70万は下らないハイエンド構成のPCだが、この「raytrek 4CZZ」も50万円台にも関わらず、むしろ最新構成としての期待値は上回るレベルのハイエンド構成となっている。
CPUにはメインストリーム最速クラス、クロック周波数が最大で5.6GHzまで上がるインテル® Core™ i9-13900F プロセッサーを、GPUにもシリーズ最新ラインナップのハイエンドモデル、NVIDIA Geforce RTX 4090を搭載。シム氏の作品ような、物量あり物理シミュレーションあり爆発や流体処理あり、そうしたいかにも重たい処理が必要となるシーンのオペレーションには、確実に威力を発揮してくれそうな構成だ。
「結論から言うと、スペックからの期待どおりというか、それ以上の性能を発揮してくれていました。特に今はアウトプットの品質の差をほとんど感じなくなったため、作品のレンダリング処理にはCPUではなくGPUをメインに利用しています。そうなると、GPUが最新モデルになりスペックアップした恩恵は確実に感じられました。またCPU処理についても、並列処理をいくつもさせるより、1つのオペレーションの快適性やシミュレーション処理の高速性に比重を置く自分のような使い方においては、Threadripperほどメニーコア構成重視でいくより、コア数が多少減ってもクロック周波数が高く設定されたCPUを活用したほうが良いのかもしれない、と気づかせてくれました。」とシム氏。
シム氏の現環境も十分にモンスターマシンなのだが、「raytrek 4CZZ」は今回行った検証のほとんどで、そのモンスターマシンを上回る性能を見せたという。シム氏による、作品制作に用いられたさまざまなツールでの具体的検証は、以下から詳しく触れていく。
Blenderでの検証
Blenderでの検証は、最近発表された作品『Incomming』のシーンを読み込んで行われている。シーンを構成するモデルは、B17の機体とその搭乗員。アセットの情報は以下。
<1>blendファイルの読み込み
Blenderでのオペレーションの快適性を検証するべく、シーンの読み込みに対して3つの検証を行なっている。1つめはシーンそのものの読み込み時間、2つめはそこでソリッド表示からレンダー表示へ切り替える待ち時間、3つめはレンダー表示でのサンプル1000までの経過時間。結果として、すべての処理において、最大2倍程度「raytrek4CZZ」のほうが高速となった。読み込み速度のキーパーツであるストレージについては、シム氏のPCとraytrekに差はなく、比較①と②についてはCPUのクロック周波数やメインメモリ(検証機がDDR5採用、シム氏環境はDDR4)、③については、GPUスピードが影響していると思われる。
◀︎ 結果 ▶︎ blendファイルの読み込み(時間が短いほど高性能)
raytrek ① 1.73秒 ② 8.24秒 ③ 7.60秒
シム氏のPC ① 2.33秒 ② 9.53秒 ③ 15.26秒
<2>ビュー画面のフレームレート
Blender上でのモーションづくりの確認等のオペレーションをイメージし、『Incoming』のblendファイルを読み込んでカメラ視点でアニメーション再生を行い、フレームレートを比較した。結果として、raytrekの方が明らかに高速となった。ここは、CPUのクロック周波数の差によるものと思われる。やはり、オペレーションを重視するなら、クロック周波数の高いCPUに分があるだろう。
◀︎ 結果 ▶︎ ビュー画面のフレームレート(数値が大きいほど高性能)
raytrek 13.3 fps
シム氏のPC 7.4 fps
<3>シミュレーションの処理時間
シミュレーションの処理比較では、3つの検証を行なった。1つは、FLIP Fluidsによる気体のベイク時間の比較。2つめはリジッドボディのベイク時間の比較。そして3つめが、Blenderを複数立ち上げての、ベイクの並列処理時間の比較。1と2は純粋な処理比較として。3つめは、Threadripperが得意とする同時並列処理の場合にどうなるかの検証を補足として行なっている。
◀︎ 結果 ▶︎ FLIP Fluidsによる気体のベイク検証(時間が短いほど高性能)
raytrek 7分42秒
シム氏のPC 11分03秒
◀︎ 結果 ▶︎ リジッドボディのベイク検証(時間が短いほど高性能)
raytrek 5分37秒
シム氏のPC 10分02秒
◀︎ 結果 ▶︎ リジッドボディのベイク並列処理検証(時間が短いほど高性能)
raytrek 16分24秒
シム氏のPC 16分59秒
<4>レンダリング時間
Blenderにおける各種レンダリングの時間を比較検証。GPUを用いて、全レイヤー一式をレンダリングした場合(1)(2)と、コンポジット用に各種レイヤーを別にレンダリングした場合(3)、それからCPUレンダリング(4)も比較する。比較(1)については軽めのフレーム、比較(2)については最も処理が重たいフレームとなっている。また、フレーム別レンダリングの比較(3)においてはBlender 3.2で採用されたボリュームモーションブラーを適用しており、かなり重たい処理となっている。
◀︎ 結果 ▶︎ cyclesレンダラー検証(時間が短いほど高性能)
raytrek ①4分28秒 ② 8分01秒
シム氏のPC ①7分34秒 ②15分23秒
(3)レイヤー別レンダリングの比較検証
4900番目のフレームにおけるエンジンと炎と煙レイヤーをレンダリングする。炎と煙にはEmberGenで作成したVDBを使用(モーションブラー適用あり)。VDBを使用しているレイヤーではサンプル数をおとしてデノイズをかけている
※時間が短いほど高性能
ハイエンド構成だからこそ自分に合ったスペックを
この結果からシム氏は、「繰り返しになりますが、raytrek 4CZZはスペックからの期待以上の性能を発揮してくれました。GPUレンダリングをメインに活用している私としてはGPUが最新モデルになりスペックアップした恩恵を得られましたし、CPU処理についても、シミュレーション処理の高速性に比重を置くクロック周波数が高いCPUを活用したほうが良いのかもしれない、と気づかせてくれました。他の構成もバランスが良く、これだけのスペックがこの価格で、しかもマシンが組み上がった状態で届くraytrek 4CZZは次のメインマシンとして有力な候補になりますね」という。
今回の「raytrek 4CZZ」の検証にあたり、自身のメインマシンとの比較で膨大なテストを行なってくれたシム氏。検証結果の通り、個人でフォトリアルな映像制作をするなら「raytrek 4CZZ」は頼れる相棒となってくれるだろう。今回はBlenderにおける検証のみ紹介したが、このほかにもCPU処理の比重が高いZbrushや、とにかく重くなりがちなSubstance 3D Painterなどでの検証も実施した。続く後編において、それらもきっちり紹介していくのでお楽しみに。
>>>後編はこちら!
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TEXT_髙木貞武
PHOTO_竹下朋宏
EDIT_藤井紀明(CGWORLD)