『Battlefield Ⅴ』のファンメイドムービーを脅威のクオリティで制作したシム氏がRTX 4090搭載マシン「raytrek(レイトレック) 4CZZ」を検証。(後編:ZBrush、Substance 3D Painter、EmberGen編)
FPSゲーム『Battlefield Ⅴ』のファンメイドムービーとして、自主制作で作られた作品『B17 Fortress』。その圧倒的な物量と突き詰められたクオリティが話題となり、SNS上で一躍注目を集めた映像作品だ。その制作者であるシム氏の制作環境は物量に耐えうるハイスペックPCで、2年前で70万円クラスの自作PCにて作業が行われたという。今回はちょうど制作環境を更新するタイミングだというシム氏に、RTX 4090を搭載した50万円台の最新クリエイター向けPC「raytrek 4CZZ」が制作にどこまで有用か徹底検証してもらった。
シム氏には映像制作に用いる各種CGツールにおいて、「実際のオペレーション時に体感としてどうか?」という観点からシム氏自作PCと「raytrek PC」の比較として実にさまざまな検証を行なった。特にシム氏の作品においては、個人制作ならではのクオリティ至上主義的なアセットやシーンの構築が行われているため、オペレーションが極めて重くなるような傾向にあり(例えばすべてのテクスチャが4K仕様、B17の機体を各区画、最大限の品質で作り上げたのちに全部読み込んで全体を構築する等)、ハイエンド構成のマシンだからこそ自分のよく使うツールや制作フローに合わせてマシンスペックを考える必要があるそうだ。個人の創作活動の一環として作品を発表し続けているシム氏ならではの知見に満ちた検証を引き続きお送りする。
>>>前編(Blender編)はこちら
ZBrushでの検証について
ZBrushでは、『B17 Fortress』中に登場する女性キャラクターの頭部を検証に用いている。本作中では、この頭部のハイポリモデルからノーマルマップを作成し、Blenderで適用されている。
ファイルの読み込み
まずは、女性キャラクターの頭部モデルの読み込み時間を比較する。
◀︎ 結果 ▶︎ 女性キャラクター頭部のファイルの読み込み時間(時間が短いほど高性能)
raytrek 3.3秒
シム氏のPC 5.7秒
搭載するストレージのスペックとしては、シム氏のPCと検証機のraytrekに明瞭な性能差はないが、raytrekのほうが高速な結果を示した。ZBrushの動作はCPU性能(公式発表では、コア数×クロック)に依存するところが大きいため、コア数を1.33倍(24コア対32コア)擁するThreadripperが優位かとおもいきや、raytrekがかなり速いという結果となった。
なおオペレーションについては、どちらのPCでもビュー画面は滑らかに動作しており、制作に差し当っては快適な環境と言える。
ディスプレイスメントマップのベイクとエクスポート
ZBrushの検証では、さらに(1)ディスプレイスメントマップのベイク時間の比較、(2)ハイポリモデルのエクスポート処理時間の比較が行われた。比較(1)は、Blenderに持ち込む基本的な手順であり、比較(2)は、Substance 3D Painterにインポートする際に行う手順だ。
◀︎ 結果 ▶︎ ディスプレイスメントベイク時間(時間が短いほど高性能)
条件:32bit exr形式 8kサイズ サブディビジョンレベル7
raytrek 5分11秒
シム氏のPC 5分03秒
◀︎ 結果 ▶︎ エクスポート処理時間の比較(時間が短いほど高性能)
条件:サブディビジョンレベル7 の400万ポリゴン
raytrek 42秒
シム氏のPC 43秒
結果としては、raytrekよりもシム氏のPCがやや高速であったが、体感的にほぼ変わらないというものだった。この処理については、メニーコアCPU搭載のシム氏のPCのほうが1.5倍程度早いと思っていたようでシム氏としても予想外の結果だったようだ。
考察するに、ZBrushの動作性能は公式にはコア数xクロック数に依存するとあり、シム氏のPCに優位性があることになる。しかし、ベイクとエクスポートの処理時間は、双方の環境において大差は出なかった。
ベイク中のCPUクロックを見てみるとインテル® Core™ i9-13900FではクロックがPコアで5.5GHz、Eコアが4.3GHzで最大近くクロックが高速化されたが、シム氏のPCでは、3.6GHzから4.2GHzでばらつきが見られるなど動作に差が出ていた。それぞれにCPUアーキテクチャの違いがあるため、単純に公称スペックのコア数xクロック数では比較できないと思われる。約3倍の価格差を考えると、「raytrek 4CZZ」に搭載されているインテル® Core™ i9-13900F(現在は13900KF)がこの作業においてはベターな選択となるだろう。
Substance 3D Painter検証
Substance 3D Painterにおいても、各種処理速度を比較。動画『B17 Fortress』に登場するメッサーシュミットBf109のモデルを使用して、(1)fpsの比較、(2)メッシュマップのベイク速度の比較、(3)テクスチャをエクスポートする速度の比較、(4)Irayレンダリングの速度比較、をそれぞれ検証している。
(1)fpsの比較
◀︎ 結果 ▶︎ ビューポート画面(数値が大きいほど高性能)
raytrek 50-100fps
シム氏のPC 80-140fps
◀︎ 結果 ▶︎ Iray画面(数値が大きいほど高性能)
raytrek 15-20fps
シム氏のPC 15-20fps
条件:モニター解像度4K
ビューポートの比較ではGPUの差が出ると思いきや、予想外に現環境のほうが高速という結果。Irayの表示では、FPSは同程度。fpsの数字ではraytrekの方が低かったが、ファイルを読み込んだ際のレイヤーの読み込み時間、スマートマテリアルの適用までの時間、レイヤー切り替えのレスポンスを総合的に踏まえると、raytrekの方が体感的に速く感じられたという。
(2)メッシュマップのベイク速度の比較
◀︎ 結果 ▶︎ メッシュマップのベイク速度の比較表(時間が短いほど高性能)
メッサーシュミットBf109のメッシュマップのベイク(ワールド空間法線/AO/曲率/位置/厚みのマップ)
raytrek 2分02秒
シム氏のPC 2分20秒
条件:サイズ4K
結果としては、raytrekのほうが高速であった。
(3)テクスチャをエクスポートする速度の比較
◀︎ 結果 ▶︎テクスチャをエクスポートする速度の比較表(時間が短いほど高性能)
メッサーシュミットBf109のカラー/メタリック/ログネス/ノーマル/AO/透過のテクスチャをエクスポート
raytrek 50秒
シム氏のPC 1分13秒
条件:サイズ4K
結果としては、raytrekの方が高速であった。
(4)Irayレンダリングの速度比較
◀︎ 結果 ▶︎ Irayレンダリングの速度比較表(時間が短いほど高性能)
raytrek 19秒
シム氏のPC 16秒
条件:サンプル数300
IrayではGPUよりCPUの並列処理性能の差の影響が出るようで、コア数が多いシム氏のPCの方が高速という結果になった。総合的には、Substance 3D Painterにおいては、同程度の結果で、要はCPU、GPUともに求めるスペックが高いソフトということになるだろう。ただやはりコストパフォーマンスを考えると、raytrekに軍配が上がるだろう。
EmberGen検証
動画『Incoming』のエンジンのメッシュをEmberGenにインポートし、(1)ビューポートのFPS比較、(2)VDBエクスポートの比較を行った。EmberGenのオペレーションについては、GPUへの性能依存がきわめて大きく、raytrekに搭載されたGeforce RTX4090による性能向上の期待値は高い。
①ビューポートのFPS比較
◀︎ 結果 ▶︎ ビューポートのFPS比較表(数値が大きいほど高性能)
raytrek 31fps
シム氏のPC 16fps
条件:画面解像度4k
現環境のGeforce RTX 3090も十分なハイエンドGPUだが、RTX 4090搭載のraytrekでは、それと比べても2倍近いFPSを叩き出した。これはリアルタイムに近い感覚でシミュレーションできる、という数値であり、ビューポートでのFPS向上が重要なEmberGenにおいて、この性能差は非常に大きいと言える。
(2)VDBエクスポートの比較
◀︎ 結果 ▶︎ VDBエクスポートの比較表(時間が短いほど高性能)
raytrek 8分10秒
シム氏のPC 9分01秒
raytrekのほうが高速、という結果となった。エクスポートに関してはGPUの性能差による速度向上のみでなく複合的な処理のようで、2倍といった差は出ないものの着実に変化した。
個人での制作活動においてマシンスペックは作品の量と質に直結する
結果として、シム氏のハイエンド自作PCよりも、インテル® Core™ i9-13900F&RTX 4090搭載の「raytrek 4CZZ」が、シム氏の制作活動におけるほとんどの場合において高速である、という結論となった。
「もちろんCPUコア数が多く、CPUレンダリングやコア数に応じて高速に処理できるツールを使用するという選択もありますが、私の使い方としてはBlenderでのシーンの作成とGPUレンダリングがメインです。この用途だと、実は今回の検証機の方が快適に作業できるんだなと。自身の使い方と、メインとするツールにあったPCを選ぶことが大事だなと思いました」とシム氏。加えて、BlenderやEnberGenの場合、CPUコア数が活きるのでは?と思われいたシミュレーション処理においても、実はクロックの高いCPUのほうが処理が速かった、という結果も押さえておきたいところだ。
「ここまで速くなっていて、自分が組んだPCより安い価格で収まっているというのは大きな魅力。この構成であれば、シミュレーション処理の速さを活かしてそこをもう少し突き詰めた表現がしてみたくなります。筐体もシルバーで存在感があっていいし、マグネット式フィルターは取り外しやすく、トータルとしてメンテナンス性が高い。いいマシンだと思います」とシム氏。
個人での制作活動においてマシンスペックは作品のクオリティに直結し、スペックが高ければ高いほど作品の発表ペースも早められるという。Blenderをメインツールとして個人でフォトリアルな映像制作をするシム氏にとって「raytrek 4CZZ」は次のメインマシンとして有力な候補となったようだ。「今度は近未来的なSF、古代や中世、なんてテーマもいいですね」と、今後も自らが作りたいと思えるものを作り、発表していく予定だという。
3DCGにさわり始めてわずか3、4年程度、しかも自主学習のみで、ここまでのクオリティの作品を作り出すまでとなったシム氏に、これからCGを始めたい、という人へのアドバイスがあれば、と聞いてみた。
「全然偉そうに語れるようなものではないのですが……。ただ自分は、作りたいものが明確にあって、それを実現していこうとしているだけで。ツールを覚えよう、とか新しい技術を使おう、みたいな感覚じゃないんですね。だから続けてこられている、というのもあると思います。そういう意味で言えることであれば、とにかく“作ってみたいイメージがある”という人は、まずはBlenderを始めてみるのはすごくいいと思います。無料で気軽に始められるということで、自分も道が開けたので。しかも、無料とはいえハイエンドなフォトリアル表現も十分可能なパワフルなツールです。あとは、ツールを覚えようとするより、“作り上げる”という気持ちが上達への近道じゃないでしょうか。それさえあれば、何がしかの結果は残っていくのではないかと思います」。
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TEXT_髙木貞武
編集_藤井紀明(CGWORLD)
PHOTO_Tomohiro Takeshita