ゲームクリエイターがこの10年で30人から1,100人に!? 一気に変貌を遂げたクリーク・アンド・リバー社 C&R Creative Studios のゲーム部門に潜入取材!
いわゆる「派遣業」の印象の強いクリーク・アンド・リバー社(以下、C&R社)が、近年大きく変貌を遂げている。ここ数年の売り上げの半分以上は自社制作スタジオである C&R Creative Studios の制作案件によるもので、年商100億円以上、所属クリエイター数は1,100人を超える規模にまで拡大しているという。
「この採用難の時代に、ゲームクリエイターだけで1,100人超!?」 にわかには信じられないような数字だが、一体何がクリエイターたちを惹きつけているのだろうか。知られざる成長の秘訣とスタジオの全貌を解明していきたいと思う。
クリエイターファーストを掲げる C&R Creative Studios のゲーム部門(以下、C&R クリエイティブスタジオ)に、CGWORLD調査隊として任命を受けたHEART CATCH西村真里子と日本で働きたいドイツからの留学生デニー・ボグデンが潜入取材し、真相を確かめてきました!
【潜入1】ゲームクリエイター1,100人超!クリーク・アンド・リバー社が業界最大規模のクリエイティブスタジオになれた理由
西村:みなさんこんにちわ!CGWORLDの潜入調査隊の西村です。
西村真里子 氏
HEART CATCH/代表取締役
2014年に株式会社HEART CATCH設立。ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。2020年には米国ロサンゼルスにHEART CATCH LAを設立、米国でのプロジェクトも進行中。
デニー:日本のアニメとゲームが大好きでドイツからやってきました。将来日本で働きたいため、日本が生み出すアニメやゲームがどのように制作スタジオでつくられているのか興味津々です。西村さんと一緒にお話を伺いたいと思います!
デニー・ボグデン氏
テクノロジー、アート、ビジネスに情熱を持つドイツ人。宮崎駿(スタジオジブリ)の作品を通じて、日本のクリエイティブ産業の品質の高さ、細部へのこだわりに魅了され一年間日本に滞在を決意。この情熱を胸に、日本のクリエイティブ産業への深い関与を目指している。
木下陽童(以下、木下):Schön, Sie kennenzulernen. Ich freue mich auf eine gute Zusammenarbeit.(今日はどうぞ宜しくお願いします)
デニー:Was? Warum sprechen Sie Deutsch?(えっ、何でドイツ語話せるんですか!)
木下:Ich habe während meines einjährigen Studienaufenthalts in Deutschland Deutsch gelernt.(1年間ドイツに留学していた時期があったので、そこで覚えました。)
西村:今日はデニーが日本語をまだ勉強中のため、英語で通訳をしながら取材させてもらおうと思いましたが、まさかドイツ語で迎えられるとは思いませんでした(笑)。それではデニーとの会話はドイツ語でお願いします。
木下: Da eine gewisse Zeit vergangen ist, werde ich mich entsprechend meiner Erinnerung ausdrücken.(久々なので、思い出しながらしゃべります笑)
木下陽童氏
株式会社クリーク・アンド・リバー社
デジタルコンテンツ・グループ 横断営業ディビジョン ディビジョンマネージャー
西村:現在C&R社には、ものすごい人数のCGデザイナーが所属していると聞いています。IRも見させていただきましたが、この10年で売上も200億から400億と倍にもなっており、日本の停滞感を1ミリも感じさせない業績です。
木下:はい、CGクリエイターを含めたゲーム部門だけでも、およそ1,100名が所属しています。売上もこのC&R クリエイティブスタジオの事業が大きく貢献しています。
西村:ゲーム部門だけで1,100名ですか!それはすごいですね。それだけのクリエイターを抱えているスタジオは国内でも最大級じゃないかと思います。
デニー:私がドイツで親しんでいた任天堂やスクウェア・エニックスなどのゲームの制作にもC&R社のクリエイターが関わっていると知って驚いています。日本のクリエイティブの様々な現場をC&R社が支えているんですね。
木下:ゲーム部門以外のアニメ・Web・映像・XR・漫画・建築・ファッションなどのスタジオを含めていくと、C&R クリエイティブスタジオは総勢で1,800名くらいのクリエイターが所属しています。
西村:さまざまなスタジオが集まっているんですね!
木下:人数の多さだけではなく、人材の多様さもC&R クリエイティブスタジオの特徴と言えます。そのおかげで建築とゲームのクリエイターがコラボして、VR上に建築モデルを作ったり、業種を超えた新たなクリエイティブの可能性にもチャレンジしています。
デニー:ゲームクリエイターがゲームの世界だけに留まらず、他業種とコラボレートできるオープンネスがあるのはいいですね。どのような経緯で、このようなスタジオができていったのでしょうか?
木下:もちろん弊社も最初から今のように大きな規模ではありませんでした。私が入社した13年前は、人材派遣や紹介業がメインで、全体の売上の9割くらいを占めていて、残りの1割がC&R クリエイティブスタジオでの制作といった状況でした。当時の人数で言うと、30名くらいでしたね。
西村:そもそも制作はメインの事業ではなかったんですね。
木下:はい、そこから10年前くらいにC&R クリエイティブスタジオへ注力しようという流れになって、5年前には今の半分、およそ500名くらいの規模になってきました。
西村:5年間で30名から500名まで人員が増えたとなると、かなりの成長速度ですね。C&R クリエイティブスタジオにフォーカスし始めた理由は何だったのでしょうか?
木下:我々は「プロフェッショナルの生涯価値の向上」というミッションを掲げているんですが、それを達成するにあたって、人材派遣や紹介業だけだと限界があると感じたことですね。
人材派遣や紹介業はクライアントのニーズとマッチすればクリエイターにとって良い経験になるのですが、ミスマッチが起きればそもそも何も始まらないんですよね。
自社でスタジオ機能を持って、クリエイターを直接雇用しながら育成していけば、クリエイターも安定した収入を確保できるし、着実にスキルアップしたクリエイターがクライアントのニーズにも応えることができる。
そうすることでクライアントとクリエイター双方にメリットがあり、ひいてはクリエイター自身の価値を上げることにも繋がる。そういった考えからスタジオ業務に注力し始めました。
西村:なるほど、自社でクリエイターを育成していくことで、スキルの高い人材を安定して確保することができ、それがクライアントにもクリエイターにもメリットをもたらすという、関わる全員が幸せになれる仕組みができあがったわけですね。
木下:またクライアントのニーズに合わせて、プロジェクト単位で人材を提供する「派遣」、社員として紹介する「人材紹介」、そして我々が丸ごと業務を請けおう「制作受託」と複数の契約形態を柔軟に提案できることが、弊社の最大の強みだと思っています。
西村:会社の方針がそれぞれ違うクライアントには、フレキシブルに対応ができますね。
木下:今後は世界での市場も視野に入れているため、まだまだクリエイターを増やしていく予定です。
【潜入2】YOUは何しにC&R社に?グローバルな人材が集まるC&R クリエイティブスタジオ
木下:それでは、C&R クリエイティブスタジオの中で一番大きいゲームスタジオであるCOYOTE 3DCG STUDIO(以下、COYOTE)にご案内します。COYOTEは外国籍のクリエイターも数多く所属しているのが特徴で、今回はロシアから来たイワンをご紹介します。
イワン・アントノフ氏(以下、イワン):よろしくお願いします。私はロシア出身で、現在はC&R社が運営するCOYOTEで働いています。これまでに『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』などの大型ゲームプロジェクトに参画してきました。
西村:イワンさんはどのような経緯でC&R社で働くことになったのでしょうか?
イワン:私は子供の頃から絵を描くことが好きで、高校生の頃にはピクサーのような3DCGの会社で働きたいと考えるようになりました。
しかしロシアではゲームやアニメの作り方を学ぶための学校はなく、3DCGを学べるのは建築学科のみだったので、大学では建築学を専攻しました。卒業後は建築業界に進んだのですが、やはり3DCGクリエイターへの夢が諦めきれず、まずはチェコスロバキアなどヨーロッパのゲーム会社で働き、その後日本のゲーム業界へと飛び込んで行きました。
西村:なぜヨーロッパに留まらず、日本にやって来られたのでしょうか?
イワン:私は「スーパーマリオブラザーズ」などの日本のゲームに子供の頃から親しんでいたので、任天堂をはじめとする日本のゲーム業界で絶対に働きたいという思いがあったんです。そこでヨーロッパから任天堂の本社もある京都に移住して、まずは日本語学校で日本語を学んでから就職をしました。
デニー:私も全く一緒です。私も日本語を学んで、いずれ日本で働きたいと思っています。海外でも日本のアニメやゲームは愛されているので、そういった文化に憧れて日本に住みたいと考える人は多いですね。
西村:イワンさんも日本のゲームへの強い思いから日本に来られたんですね。しかし、日本ではゲームに携わっている企業は沢山あります。数多くの企業の中からC&R社を選ばれた理由を教えてください。
イワン:日本で働く上で様々な企業について調べていくうちに、日本で発売されたゲームタイトルの多くにC&R社が関わっていることに気付いたんです。
西村:えっ、そんな分析をしていたんですか?それはちょっと想像つきませんでした。でも、様々なゲームタイトルの開発に携わっているC&R社だからこそイアンさんの分析で抽出されたのかもしれませんね。
イワン:はい、おかげで憧れの任天堂のゲームタイトルの制作に携わることができました。
COYOTE 3DCG STUDIOの制作実績
https://3d.crdg.jp/work/
西村:他にもC&R社で仕事をして良かったと思う点があれば教えてください。
イワン:まずひとつは、私のような外国人クリエイターに対するサポートの手厚さですね。実は私はC&R社の前に別の日本企業で働いていたこともあったんですが、言葉の壁もあり、なかなかコミュニケーションがうまくいきませんでした。
しかしC&R社はそもそも国内だけでなく、世界をもっとクリエイティブにしたいという方針もあることから、私のような外国籍の人材にもオープンな会社で、履歴書の書き方から、挨拶やマナーなどの日本の企業文化までを丁寧に教えてくれました。日本語が完璧ではない私でもスムーズに働き始めることができました。
デニー:海外から日本に働きに来た人にとっては、ただでさえ言葉の壁がある上に、日本の文化は独特で、暗黙のマナーやルールなども多くて困ってしまうとよく聞きます。単に技術的なことだけでなく、働き方全てを含めた面でサポートしてもらえるのは外国人クリエイターにとってはとても嬉しいですね。
木下:そういったことをイワンが感じられるのは、弊社が長年、人を大事にする企業風土を培ってきたからかもしれません。そもそも人がいなければ、我々は何も始められないので。
イワン:C&R社で働いて良かったと思うことの二つ目は、会社としてクリエイターを大切にしてくれることです。私は社内のワークフローの改善の提案を何度かしていますが、COYOTEでは必ず話を聞いて、検討してくれます。
何かやりたいことや気になったことがあった時に相談すると、それをちゃんと聞いて対応してくれるんです。ここまでクリエイターにちゃんと向き合って、クリエイティブの価値を評価してくれる会社はヨーロッパでもなかったです。
西村:確かに現場の要望ってなかなか聞いてもらえないこと多いですもんね。その部分でもクリエイターファーストの精神が徹底していますね。今後、C&R社はグローバルも視野に入れ、さらに人材を増やしていくと先ほどお聞きしましたが、イワンさんは現場の立場からどのような方に来て欲しいですか?
イワン:個人的には、アートディレクションの知識を持ったコンセプトデザイナーがもっと増えるといいなと思っています。海外だとコンセプトデザイナーや3Dデザイナー、エフェクトデザイナーたちが、それぞれ相互にコラボする形で働いていることが多いんです。
でも日本は分業体制が進んでいて、それぞれの職種の間に壁があるので、全体としての統一感が薄れてしまうんです。海外のクリエイティブ企業に対しての競争力を上げていくためには、職種の壁を超えて作品全体に一貫性のあるアートディレクションができるコンセプトデザイナーがもっと必要だと感じています。
それにテクニカルアーティストも、もっと増えて欲しいですね。アートもプログラムも理解できる人材ということになるので絶対数は少ないですが、そういった方にデザイン向きのツールを作って欲しいです。
西村:そういったスキルをお持ちの方は、ぜひC&R社を尋ねて欲しいですね。しかし、外国籍であるイワンさんがスタジオのことを考えてそこまで発言されていて、改めてC&R社のカルチャーの浸透度に驚きました。
【潜入3】無償!ゼロイチでゲームクリエイターを育てるC&R クリエイティブアカデミーの魅力
佐藤健吉氏
クリエイティブアカデミー/3DCGモデルクラス 背景・キャラ
佐久間朋実氏
クリエイティブアカデミー/3Dモーションデザイナークラス
株式会社ナジェーナを設立し、手付けアニメーションのお仕事を中心に活動中
西村:先ほどお邪魔したC&R クリエイティブスタジオの人員拡大の要因のひとつに「C&R クリエイティブアカデミー」という教育プログラムを展開していると聞きました。何も3DCGツールを触ったことのない人が、たった数ヶ月で制作現場で働けるようになるという、とてつもないスピードでクリエイターを育成する教育プログラムだと聞いています。しかも、その授業が無償で受けられるという点も驚きです。
そこで「C&R クリエイティブアカデミー」で講師を務められている佐藤健吉さん(以下、佐藤)と佐久間朋実さん(以下、佐久間)に、より詳しいお話をうかがいたいと思います。未経験者がたった数ヶ月でプロの現場に立てるようになるというのは信じがたいのですが、本当なのでしょうか?
佐藤:はい、「C&R クリエイティブアカデミー」の受講生はMayaすら使ったことのない方が大半なんです。ほとんど未経験と言っていいレベルから、ツールの使い方、背景の作り方、キャラクターの作り方などを教えていき、8ヶ月かけて現場で働けるレベルまで育てていきます。講師である私自身も現役クリエイターなので、実際の仕事の現場で身に付けた技術を直接生徒たちに伝えています。
佐久間:私はモーションのクラスを担当して、アニメーションの基礎から人体の仕組み、動きの基礎などを教えています。
西村:実際に現場で働いているプロに基礎中の基礎から教えてもらえるというのは、初心者にとっても安心ですね。
デニー:ドイツにもCGの専門学校はありますが、何年もかけて学んでいくのが普通です。「C&R クリエイティブアカデミー」が1年にも満たない期間で、初心者が現場レベルの実力を身に付けられる理由は何なのでしょうか?
佐久間:日本でも一般的な専門学校だと2~4年程の期間をかけて学んでいきますが、当アカデミーでは受講生が伸ばしていきたいところを集中して伸ばしていくので、短期間でプロレベルまでの育成が可能なんです。ただしその分、受講生の自主性が求められます。受講生自身が、自分がどのようなスキルを身につけていきたいのかを明確にしている必要があるんです。
西村:初心者でも意欲があればすぐにプロレベルになれるというのは素晴らしいですね。ですが、入学すれば初心者でも成長できる一方で「C&R クリエイティブアカデミー」に入る倍率は約20倍と、非常に狭き門だとも聞きます。C&R社としてはどのような生徒に入学して欲しいと考えているのでしょうか?
佐藤:やはり一番重視するのは本人の熱意ですね。私は、クリエイティブはマラソンと同じで、長く走り続けられることが大切だと思っています。ですから当アカデミーでは、志願者の入学時点での知識やスキルは問わない代わりに、その人にアニメやゲーム、ものづくりへの熱い思いがあるかどうかを見ています。
西村:成長に一番必要なのは、それまでに身に付けた知識や経験よりも、本人の熱意ということなんですね。
佐久間:ただ、3DCGの経験はない方が多いものの、当アカデミーの入学者には様々な経歴の方々が集まるんです。入学前は防塵マスクを作っていましたとか、映画を作っていましたとか、ゲーム業界とは畑の違うところからの出身者が大勢います。
たとえば防塵マスクを作っていた方は数学が得意だったり、映画を作っていた方はカメラの扱いに長けていたりと、それぞれに多様なスキルを持った人材でもあったりします。
そういった能力はいずれ3DCGを作っていく上でも役立ちますし、様々なバックボーンを持つ受講生が集まることで互いに影響し合って、新たなスキルが身に付くような環境にもなっています。私たち講師も生徒から教わることは沢山あるんです。
そして、そういった多様な人材が集まって形成されるネットワークも当アカデミーの特徴であり強みであると思います。
西村:3DCGの経験を問わず、熱意を基準に入学者を選ぶからこそ、お互いを高め合える多様な人材が集まるということなんでしょうね。
デニー:生徒からも教わることがあるというお話が出ましたが、お二人が生徒に対して一方的に教えるだけの、いわゆる「先生」のイメージとは違って、いい意味で生徒と対等に見えるところが素晴らしいと思います。「C&R クリエイティブアカデミー」には講師と生徒で、また生徒どうしで、いい関係性を作っていきやすい環境があるようですね。
西村:では最後に、これからクリエイターを目指す方々へアドバイスをいただけますか。
佐藤:昨今、生成AIなどの技術の発展もめざましいですが、いくら技術が進歩しても、何が面白いとか、何が綺麗だとか、何が可愛いだとかという我々人間の感性ってそうそう変わらないものだと思っています。そこを理解した上で、それぞれの時代に合ったものを作っていければ、これから先の時代でも生き残れるクリエイターになれると信じています。
佐久間:アニメーションって、日常的な動きを何でも作れないといけないんですよ。ということは、あらゆる動きがアニメーションを作る上での資料になる、つまり日常生活で見ているもの全てが勉強になるんです。だから自分が興味のあるものについて調べることはもちろん大切ですが、それ以外のものについても何でも取り入れられるように、まずは世の中に対してアンテナを貼っておくことが大切だと伝えたいですね。
西村:未来のクリエイターたちにとって励みになるアドバイスだと思います、ありがとうございました。
【潜入4】クリエイターの価値を世界へ!海外に輸出可能なビジネスモデル
西村:これまで様々な立場の方々からお話をうかがうことでC&R社の実像に迫ってきましたが、最後はいよいよC&R社のCMO(取締役)である青木克仁氏にお話をうかがいます。ずばり、これからのC&R社は企業としてどのような未来像を目指しているのでしょうか?
青木克仁氏(以下、青木):弊社としては二つの大きなミッションを掲げていて、ひとつは「プロフェッショナルの生涯価値の向上」ということ、そしてもうひとつは「クライアントの価値創造への貢献」というものです。たとえば現在、我々は海外戦略に力を入れていますが、それは単に海外の案件を手掛けるということが目的ではなく、我々の掲げる二つのミッションと、そこに紐付くビジネスモデルを世界に広げていきたいという思いからなんです。
西村:海外進出はあくまでも、企業として掲げるミッションを推進していくためなんですね。
青木:はい、色々取材していただいたような弊社のサービスは世界でもユニークだと思ってまして、なぜ日本だけで展開しているんだろう、という思いがあったんです。私は弊社のビジネスモデルは世界にも通用するし、それが広まることによって世界中のクリエイターの価値をもっと高めることができると信じています。
西村:その実現のために、現在どのような取り組みをされているか教えていただけますか?
青木:ひとつは、世界中のクリエイターに対して地道に声をかけながら、C&R社という企業について知っていただくための活動を続けています。もうひとつは、「C&R Creative Studios Metaverse」という、仮想空間上に世界中のクリエイターが集える場を、近日中にローンチする予定です。
西村:現実世界で世界のクリエイターに対して着実にアプローチを続けつつ、ネットワーク上にクリエイターの集う場所を作るという両面作戦で進めているわけですね。
青木:やはり世界中のクリエイターがリアルに集うというのはなかなか難しいですが、メタバースならそれが可能ですからね。そこでクリエイターたちが交流したり、各々のクリエイティブワークを展開したり、プレゼンテーションをしたり、商談をしたり……リアルの世界でクリエイターが行っている活動を、そのままメタバース上でもできるようにしていきたいと考えています。
西村:クリエイターの集まる、クリエイターのための場所というわけですね、ローンチが楽しみです。ちなみに、C&R社としての目標はうかがえたのですが、青木さん個人として目指すところはありますか?
青木:これも「クリエイターの生涯価値の向上」というところに繋がってくるんですが、たとえば一つのプロジェクトがあったとします。そのプロジェクトを遂行するのに最も適したクリエイターと企業とをアサインしてチームを作り上げる、さらにそのクリエイターや企業は日本国内のみならず世界中から選ばれる、そんなことを可能とする仕組みを作り上げていきたいです。
デニー:それが実現できれば世界中のクリエイターが喜びますね。クリエイター個人がいくら頑張っても、自分の力を最も発揮できる場所で働けるとは限りませんが、そこまで導いてくれる企業があればとても素晴らしいです。
青木:我々は業界全体をひとつの企業とみなして、クリエイティブの人事的な役割を果たせればと考えているんです。企業で人事の役割というものを考えると、それはそれぞれの社員が最も能力を発揮できる場所に配置して働いてもらうことです。
ただ、それをクリエイターに当てはめて考えた時、一つの企業内に留まってできることにはやっぱり限界があるんです。そういう時、クリエイターがさらなる成長を望むならば、通常は転職をするという選択肢しかありません。
しかし弊社の場合、人材ビジネスとスタジオの両方を持っているわけです。そうなると、たとえば弊社の社員のまま、客先常駐という形で、クリエイターが一番成長できる環境で働いてもらうことができます。そこで人脈やスキルを身に付けてもらって、やがてそこで正社員になってもらってもいいし、戻ってきてもらってもいい。
とにかくクリエイターが最適な場所で輝けるように、ということを第一に考えています。そして、そのクリエイターが輝ける場所を海外にまで広げるために、様々な施策を行っているところなんです。
西村:ただ、日本人クリエイターが海外のプロジェクトにアサインできたとしても、海外の企業と仕事をする場合、やはり言葉の壁というものは大きいと思うのですが、その点についてはどうお考えでしょうか?
青木:確かにその通りで、日本のクリエイターが海外で活躍するためには、現状、英語力が必要なのは事実です。ただ同時に、英語さえある程度できれば立派に働いていけるんだということもわかってきたので、数年前からクリエイターに英語を教えるサービスも作ったんです。
現在、弊社のスタジオでは20カ国近くのクリエイターたちが所属しているので、彼らが日本人クリエイターに英語を教えたり、逆に彼らに日本語を教えたりといった環境も作られていっています。
西村:C&R社が様々な面でクリエイターを支援していることは何度もうかがってきましたが、言語の壁を取り払うことにも既に注力されてきていたんですね。
青木:その言語教育サービスは社内で一定の成果をあげることができ、ノウハウも蓄積されたので、今は海外の人材を採用しようとしている他社の大手メーカーさんにも提供し始めているところです。
デニー:海外にはまだまだ、日本のアニメやゲームに関わりたいと考えているクリエイターが大勢います。C&R社が、日本のクリエイティブに憧れる外国人が日本で働くためのハードルを下げる役割を果たしてくれるのはとても嬉しいです。
西村:今回、青木さんを含めた様々な方々にお話をうかがって、C&R社が人材の採用や育成、そして企業へアサインするサポートまで、あらゆる面でクリエイターを手厚くフォローして「クリエイターの生涯価値の向上」を目指していることがよくわかりました。最後に改めて、C&R社の今後の展望についてお聞かせください。
青木:弊社のC&R クリエイティブスタジオには現在、約1,800人のクリエイターが所属してくれています。これは国内であればプロダクションとしてはかなりの人数なのですが、海外で成功している大手スタジオは、およそ3,000人規模なんです。海外展開を見据え、まずはその3,000人を目標に、さらなる人材の獲得に励みたいと思っています。
また「C&R クリエイティブアカデミー」で人材を育成し、そしてクリエイターたちを最も輝く場所に導き、そうすることによって「クリエイターの生涯価値の向上」と「クライアントの価値創造への貢献」に繋げていく。それが我々の果たすべきミッションであり、その活動を国内だけでなく海外へも広く展開していきたいと思います。
西村:今回はありがとうございました。
TEXT_西村真里子(HEART CATCH)
EDIT_CGWORLD編集部
PHOTO_鈴木凱斗