Yostarが運営する人気オンライン対戦麻雀ゲーム『雀魂 -じゃんたま-』(以下、『雀魂』)は、4月に日本でのサービス開始5周年を迎えた。5周年を記念して開催された「5周年記念キャンペーン」では、作中の人気キャラクター「一姫」のフルカラーフィギュアがユーザー向けプレゼントとして制作された。キャンペーンに当選したユーザーから好評を博したそのフィギュアは、ミマキエンジニアリングのフルカラー3Dプリンタ「3DUJ-553」で出力されている。
多品種・小ロット・短納期での納品を実現した3Dプリンタによる新しいフィギュア制作のワークフローについて、Yostarの『雀魂』マーケティングプロデューサー 伊藤 茂氏と、本企画でフィギュア化を推進したミマキエンジニアリングの上原久幸氏に話を聞いた。
新しい提案も積極的に受け入れる、『雀魂』マーケティングチーム
CGWORLD(以下、CGW):まずは、『雀魂』という作品の概要と魅力について教えてください。
伊藤 茂氏(以下、伊藤):『雀魂』は中国のキャットフードスタジオが開発し、日本ではYostarが運営しているオンライン対戦麻雀ゲームです。段位戦や大会戦もある本格的な麻雀ゲームですが、雀士の一姫をはじめとしたかわいらしいキャラクターが登場するのが特徴でもあります。
伊藤 茂氏
株式会社Yostar マーケティング部/企画制作チーム 『雀魂』マーケティングプロデューサー
『雀魂』の起ち上げ当初から5年以上、作品のマーケティングを担当。公式大会や動画配信の企画・キャスティング・運営などを統括している。Yostarで展開しているリアルイベントやアニメ化企画にも携わる。
伊藤:『雀魂』のユーザーは20代から30代が中心で、男女比では同様のゲームカテゴリの中では女性の比率が高いと思います。VTuberやストリーマーの方がコラボレーションして、ゲーム配信がよく行なわれていることも特徴だと考えています。
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企画は常に「ユーザーに喜んでもらえるかどうか」の視点から
CGW:Yostarでは、『雀魂』をはじめとした作品のプロモーション施策をどのように企画していくのでしょうか?
伊藤:「ファンが喜ぶならなんでもやる」という視点と、「新しいことへの挑戦」を重要視して企画を立案しています。様々な提案や考えを前向きに捉える社風があり、「やってみよう!」という思いで進むものも多いです。
CGW:3Dプリンタでのフィギュア制作を試みた「5周年キャンペーン」も、同様の視点に基づいて企画されたのでしょうか?
伊藤:はい。毎年周年を迎える4月にはSNSでプレゼントキャンペーンを実施していますが、今年は節目となる年でしたので、例年よりさらにこだわって企画しました。
フルカラー3Dプリンタが切り拓く新しいマーケティングワークフロー
CGW:どういった経緯で3Dプリンタでフィギュアを制作することになったのか教えてください。
伊藤:2023年末の冬のコミックマーケット用に、SD体型の一姫のモデルをVRM形式でつくったことが始まりです。ブースのディスプレイに3Dモデルを表示して、お客さんが来たらおみくじを引いてくれる、というアトラクションでした。このときのモデルがとても可愛く仕上がったので、もっと様々な用途で活用したいと考えていたんです。
CGW:モデルを制作した当時から、3Dプリントも視野にいれていたのでしょうか?
伊藤:いえ、モデルを制作した時点では3Dプリンタでフィギュアをつくれるなんて思いもよらず、動画コンテンツに横展開することを検討していました。
上原久幸氏(以下、上原):実は同時期に、ミマキエンジニアリングからYostarさんへ、別作品に登場するキャラクターのモデルを3Dプリントを活用してフィギュア化しませんか、と提案させてもらっていました。そのプレゼンテーションの場に伊藤さんも同席されていて、ミーティング後に「こういう(一姫の)3Dデータがあるんですが、活用できないでしょうか?」とご相談をいただきました。
上原久幸氏
株式会社ミマキエンジニアリング JP事業部特販部 3D営業グループ
フルカラー3Dプリンタの日本国内におけるマーケティングや、顧客の課題解決を担当している。
わずか2週間で完成品レベルのサンプルを手にできた
CGW:その後は、とんとん拍子でフィギュア化の企画が進んでいったのでしょうか?
上原:はい。今年の3月22日にYostarさんから当社へVRMデータをご支給いただいて、4月3日にはYostarさんにサンプルフィギュアと見積書をお持ちしたので、データの受領からサンプル提出までちょうど2週間でした。
伊藤:早いですよね。これまでにフィギュアの試作品を確認する機会は何度かありましたが、3Dプリンタによるフィギュア化は今回が初めてでした。正直なところ、クオリティの面については想定ができず心配していたんです。
でも、いただいたサンプルを見て不安は解消されました。フルカラーのフィギュアが一発で出てきて、クオリティも高い。初見で「あ、いける」と思いました。しかもアクスタ(アクリルスタンド)と同じぐらいの納期でこれだけのクオリティのフィギュアが制作できるとは、驚きでした。少量発注が可能な点も、嬉しいポイントでした。
CGW:関係者の方々からの反応はいかがでしたか?
伊藤:3Dモデルを制作したスタッフにも監修してもらいましたが、オリジナルデータに忠実に出力されていたため、修正指示が出なかったんです。サンプルを受け取った直後に開発元の上海に行く機会があったので、現地のデザイナーにもそのタイミングで監修してもらったんですが、「可愛くできてる!」と好評でした。
VRMデータをソリッド化して3Dプリントに適したデータに
CGW:ここからは、3Dデータの提供からフィギュアの完成までのながれをさらに詳しくお伺いしていきます。3Dプリントを進めるにあたって、データはどのように調整されたのでしょうか?
伊藤:Yostarからは、TポーズのVRMデータをそのままお渡ししました。3Dプリントを試みるのは初めてだったので、フィギュアとして出力するための調整はポージングも含めてミマキエンジニアリングさんにお任せしました。
上原:データをいただいてから、まずはTポーズのVRMデータのソリッド化を行いました。プリント可能な状態にするためのデータ修正に要した時間は、4~5時間ほどでした。
土台の作業が完了した後、一姫のキービジュアルを再現するためのポージングと表情付けや、台座の制作、「リャンピン」の麻雀牌の制作を進めました。追加データの制作には、3~4日ほどを要しています。一姫の表情については、表情案を10種類いただいていたので、その中から2種類を選んでサンプルとして3Dプリントしました。表情差分は元データ内に含まれていたため、複数の表情でのプリントは簡単にできました。
CGW:データのソリッド化はスムーズに進みましたか?
上原:いただいた3Dモデルは、いわゆる“板ポリ”を使った簡略化などをしていない、しっかりつくり込まれた綺麗なモデルでした。おかげでソリッド化するために手を加える必要はほとんどなく、スムーズに進められました。
伊藤:オリジナルのモデルは、当社のスタッフ陣が、デザインからモデリングまでかなり力を入れてつくったものです。ここ数年、Yostarは3DCGの品質向上に力を入れているので、日頃のデータのつくり込みの姿勢が活きたことを嬉しく思います。
上原:モデルのクオリティはもちろん、キャラクターの特徴を活かしたデフォルメ具合も絶妙で、Yostarさんのデザイン力と技術力を感じました。
伊藤:今回はフィギュアのサイズもミマキエンジニアリングさんにお任せしたのですが、表情がよくわかるちょうど良い大きさでしたね。
CGW:フィギュア化するにあたって、他に調整した箇所はありましたか?
上原:3Dプリントするにあたり、強度が必要な箇所を調整しました。“アホ毛”を太くして折れにくくしたり、リボンに厚みをつけて取れにくくしたり、スカートに厚みを付けて透けないようにしたりといった調整です。こういったフィギュアの強度を担保する細かい修正やチェックには、見落としがないように3〜4日ほど時間をかけています。
CGW:今回は“フルカラー”3Dプリンタでの出力ですが、色についての印象はいかがでしたか?
伊藤:発色についても申し分ない、といった印象でしたね。フィギュアの質感としては、ツルッとしたプラスチックっぽい印象を受けました。
上原:一般的なフィギュアは塗料で着色しますが、フルカラー3Dプリンタで出力したフィギュアの色は樹脂の色ですので、またちがった質感になります。
サンプルをライブ配信でお披露目し、プレゼントとして正式発注へ
CGW:YouTubeのライブ配信で、フィギュアのサンプルをお披露目したそうですね。
伊藤:4月6日に行なった雀魂公式番組「社務所通信」の5周年特別配信で、上がってきたサンプルを何気なくお披露目したのですが、反応が良かったですね。
上原:「可愛い」というコメントをたくさんいただいて、「よし!」と。その後、改めて表情ちがいの3種類のフィギュアの制作依頼をいただき、そのうち2種類がプレゼントとして採用になりました。
CGW:当選したユーザーさんからの反響はいかがでしたか?
伊藤:SNSのポストを拝見しましたが、みなさん「可愛い」と喜んでくださっていて、今回フィギュア化に挑戦して良かったと実感しましたね。
3Dプリンタが活きるのはコンパクトかつバラエティに富む施策
CGW:今後どのようにフルカラー3Dプリントを活用したいですか?
伊藤:キャラのポーズや麻雀牌の種類を増やす、「大きな麻雀牌を抱えた一姫」をつくる、別のキャラクターで展開する……アイデアはたくさん出てきます(笑)。『雀魂』では他にもフィギュアを展開していますが、それらとはまたちがった用途でフルカラー3Dプリンタのフィギュアを展開できたら良いですね。
上原:フルカラー3Dプリンタの特長はやはり金型不要、塗装不要でフィギュアを制作できることです。商品ごとの生産ラインが必要ないので、開発コストをかなり圧縮しつつ、一般的なフィギュア原型開発から量産までの所要時間と比較して50倍ぐらいのスピードで完成品をプリントできるのもメリットです。
伊藤:小回りの利くところは、マーケティング担当としてとても大きなメリットに感じますね。ユーザーとのコミュニケーションにおいてはバリエーションと頻度を大切にしているのですが、こうしたツールを活かせばコンパクトなキャンペーンも実施しやすくなります。
上原:今回、Yostarさんと多品種・小ロット・短納期でのフィギュア制作が実現できたことをとても嬉しく思っています。
伊藤:今回の取り組みを活かしてまたユーザーに喜んでもらえる企画を準備していきますので、今後ともよろしくお願いします!
ミマキエンジニアリング フルカラー3Dプリンタ 3DUJ-2207
UV硬化インクジェット方式で1,000万色以上のフルカラー造形を実現する小型3Dプリンタ。従来の石膏方式に比べて約2倍の高精細な色表現を可能とする。造形後の色付けでは難しかった微細な色彩の再現、フィギュアやグッズの開発・生産をはじめ、質感を求められる工業デザインの分野で活用できる。
japan.mimaki.comproduct/3d/3d-inkjet/3duj-2207
お問い合わせ
株式会社ミマキエンジニアリング
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3Dプリンタに関するお問い合わせ、サンプル作成のご依頼はこちら
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TEXT__kagaya(ハリんち)harinchi.com
EDIT_Mana Okubo(CGWORLD)
PHOTO_川田航平/Kohei Kawata(ときしろ)