建築や製造業といったBtoB企業向けに、高品質のビジュアライゼーションや映像を提供するアルディナ・ビジュアル。2009年の設立以来、残業はあまり行わないことでスタッフのQOL向上を意識しながら、納期をきちんと守るための効率的な制作スタイルも模索してきた。
そこで今回は、同社の画づくりへのこだわりや現在取り組んでいる「アート分析」の手法などに注目するとともに、効率的な制作を実現する機材環境に対する考え方を紹介。また、マウスコンピューターのクリエイター向けデスクトップPC「DAIV DD-I7G7T」を直近に約50万円で導入したことから、その使い勝手や魅力についても伺った。
建築分野で培った「空間デザイン」の力でプロダクトを引き立てるイメージ画を制作
CGWORLD(以下、CGW):始めに、会社の沿革や業務内容を教えてください。
村上堅氏(以下、村上):弊社はもともと、不動産関連の物件パンフレットや電車の中吊り広告などに掲載されるビジュアルを制作していました。マンションのパース(建物の外観や室内の立体的なイメージ)などを手掛けていたのですが、リーマンショックでの需要減を機に、プロダクト系CGへシフトしたという経緯があります。
そのため、商材となるプロダクトを引き立たせるための「空間デザイン」を、建築系のバックグラウンドを活かしながら3DCGで実現できるという点が弊社の“強み”です。現在は床材や壁装材、オフィス家具などのメーカーからの案件を多く取り扱っており、そのメーカーの新製品などを「演出」するための静止画や映像をCGでビジュアライズすることが、メイン業務となっています。
CGW:具体的にはどういったものを作っているのでしょうか。
村上:例えば、オフィス家具メーカー様のプロダクトを掲載したカタログなどが挙げられます。この場合、単品の商品画像以外にも、その商品が置かれている室内やオフィスなどのイメージ画(あるいはイメージ映像)も必要となるわけですが、クライアントであるメーカー側が製品PRとしての効果的な見せ方や、ビジュアル的に魅力を感じる使用シチュエーションのイメージを持ち合わせていないケースも少なくありません。そこで弊社は、建築設計なども手掛けてきた強みを活かし、違和感のない背景で家具の魅力や特徴を引き立てるイメージ画やイメージ映像を提案・制作しています。
ただし、制作する背景は実在する空間ではないため、さまざまな要素を組み合わせて独自の空間を生み出していくことになります。インテリアのコーディネートやスタイリングなどの要素も必要とされるわけですが、そういった部分までをワンストップで対応できるという点も、弊社の強みの1つかと思います。
アルディナ・ビジュアル
“見せるを変える”をコンセプトにBtoB企業向けのCGを制作するビジュアル・ソリューション制作会社。2009年設立で現在の社員数は6名。建材や家具以外に医療系やマテハン(マテリアルハンドリング)など、さまざまな分野のBtoBメーカーにもサービスを展開している。
HP:https://aldinavisual.com/
モデリングはせず画づくりに特化、海外トレンドの調査や独自の「アート分析」による高い提案力
CGW:3DCG制作で用いている主なツールを教えてください。
村上:メインのDCCツールは3ds Max、レンダラーはV-Rayを使用しています。V-Rayは、クオリティ重視でCPUレンダリングを採用。レンダリング専用のPCを15台ほど用意しており、ネットワーク経由でデータを流して処理を実行しています。そのほか、メーカーからは家具データがIGESやSTEPなどのCADファイルで提供されるため、そのファイルをコンバートするためのソフトとしてAutodesk Showcaseを使用しています。さらに、映像制作ではAfter Effectsを、医療系や工業系の映像で用いる流体シミュレーションではHoudiniを使うこともあります。
CGW:画づくりのポイントは?
村上:浴槽メーカーを想定したサンプル作品画像を例に説明すると、最近は海外建築の方がスタイリッシュな傾向にあるので、これはそういったトレンドをデザインに落とし込んで表現しています。超高額なインテリアや外装材を用いた“普通ではあり得ない”ような超セレブ的な空間になっていますが、海外のハイエンドメーカーだとこれぐらいの規模の浴室はよくあるイメージなのです。
さらに言えば、浴室の隣に森林が見えるような環境もやや“非現実的”と言えるでしょう。しかし、そのあたりも含めてリアリティから少しずらしつつも、クライアントやカタログを見た人に「これはすごい!」と感じて興味をもってもらえれば、ビジュアルを制作している我々としては“勝ち”だと思っています。
CGW:画づくりの際に家具などをモデリングすることはあるのでしょうか。
村上:弊社は社員6名で大量の受注をさばく必要があるので、社内でモデリングはやりません。必要な場合は協力会社に制作の相談をしますが、基本的にはアセットを購入し、弊社は画づくりのみに特化しています。海外にはCGのアセットが豊富にあるので、Evermotionの3Dデータなどはよく利用していますよ。
CGW:画づくりにあたり、クライアントと完成イメージを共有するためのコツなどはありますか?
村上:例えば近年、幅広い内装材を取り扱う床材メーカー様から、世界規模の海外メーカーがカタログやホームページなどに掲載しているイメージ画の分析を依頼されており、弊社ではこれを「アート分析」と名付けて取り組んでいます。このアート分析では、各メーカーの特徴やフォーカルポイント、全体のトーン、視線の誘導、画の構成、配色、形状、ライティングなどを細かく分析していくのですが、これによって各メーカーの特色や違いをわかりやすく可視化・言語化することが可能です。
さらに、この分析結果は床材メーカー様と共有しており、例えば「このカットはメーカーAのような雰囲気に仕上げてほしい」といった感じで画づくりのガイドとして活用しています。お互いのイメージをわかりやすく伝えられる「共有言語」として活用できている点は大きなポイントといえるでしょう。
これに加えて、ここまでやりこむ弊社の姿勢はクライアント側の安心感にもつながります。弊社としても安心して作業を任せてもらえれば作りたい画づくりができるので、アート分析によってWin-Winの関係になれていると感じています。
「初稿が命!」のプレゼンテーション、高速な制作スタイルを下支えするレンダリング環境
CGW:普段の業務において、PCに高い負荷がかかる作業は何でしょうか。
村上:建築系や工業系の場合、クライアントから提供される商品や部品のCADの元データが大容量ファイルになっているケースがあるため、それらのデータを取り扱う際はPCにかなりの負荷がかかります。ときには1つのCADデータに数万~数十万のパーツが含まれていたり、ファイル容量が1~2GBになったりすることもあるので、これらを扱う際にはPCの挙動がかなり重くなりますね。
CGW:レンダリングで高負荷がかかるケースは?
村上:レンダリングはネットワーク経由で専用PCに流していることもあってか、それほど重いと感じたことはありません。時間的にはA4サイズの静止画で3~4時間、時間のかかるものでも丸1日ぐらいです。
CGW:制作期間や工程はどのような感じでしょうか。
村上:例えばオフィス家具メーカー様のカタログの場合、200~300のカット数を約3ヵ月で対応するイメージです。1カットあたりではだいたい2~3日といったところです。
工程に関しては、まずは先ほどのアート分析の観点から対象となる商品のコンセプトを弊社側でも改めて考え、それを踏まえてコンセプトや空間デザインを提案する形で初稿を出します。この初稿で方向性が合っていればそのままブラッシュアップしていきますし、違うようであればコンセプトに立ち返って修正して2稿目が初稿になる流れです。
感覚としては初稿で内容の5~6割程度までを固めていくイメージなので、ここが一番大変な作業かなと思いますが、個人的には「もっとも面白いポイントでもある」と感じています。また、初稿できちんと方向性を決めてしまえばその後の修正は少なくなるので、後半の時短につながるという意味でもまさに「初稿が命!」といったところですね。
メモリとCPUを重視したDAIVが効率化や社員のQOL向上を実現する
CGW:制作で使用するPC選びのポイントを教えてください。
岡田一斗氏(以下、岡田):大容量ファイルをどう扱うかが重要となるため、スペックの中では「メモリ」と「CPU」を最重視しています。とくにメモリは最近、素材点数の多いフルCGの映像制作が増えていることもあり、64GBでも動作が重くなってしまいストレスを感じていました。
しかし、約50万円で導入したマウスコンピューターの「DAIV DD-I7G7T」は128GBのメモリやインテル Core i9-13900KFを搭載しているため、After Effectsの動作全般やレンダリングでもたつくことはありません。レイヤーを重ねても快適に作業でき、プレビュー再生もスムーズな印象です。
CGW:機材選びの方針はどのようなものなのでしょうか?
村上:弊社では、まずベースとして「短時間で作業を終える」という大前提があります。また、仮に低スペックかつ安価なPCで作業したがために、数十分で終わる仕事が数時間もかかってしまうようでは非効率ですし、そもそもの問題として1日の作業サイクルを考えた場合にそれでは仕事のフローが成り立ちません。
そのため、設備については可能な範囲で予算をかけるようなスタンスを取っています。そのおかげか弊社は、CG制作会社では珍しいと思うのですが、残業があまりありません。残業が少なければ会社としては経費を抑えられますし、社員のQOLも高まるので一石二鳥です。さらに言えば、残業がないので納品が遅れることもありません。実際、クライアント側の都合で納品が遅れるケースはあっても、弊社の都合で遅れることは基本的にありません。
CGW:さまざまなメリットがあるとはいえ、一般的なCGプロダクションが導入するPCは20~30万円であることを踏まえると、50万円という値段はやや高めという印象です。
岡田:確かに、50万円という価格は一般的に見て安くはないのでしょう。しかし、今回導入したマシンと同じ構成のPCをマウスコンピューター以外のPCメーカーで購入しようとすると、価格が100万円程度にまで上がってしまう場合もあります。それが50万円で収まるのであれば、我々としては必ずしも“高い”というわけではないのです。その意味では、マウスコンピューターは「コストパフォーマンスが非常に優れている」と言えるでしょう。
さらに、マウスコンピューターのPCは故障もなく安定して使えていますし、BTOの構成が豊富な点も助かりました。そういった部分もマウスコンピューターの魅力かなと思いますね。
アルディナ・ビジュアルが導入した「DAIV DD-I7G7T」のポイント
アルディナ・ビジュアルが導入したDAIV DD-I7G7Tは、BTOで構成を吟味したデスクトップPC。
こだわりのポイントは、優れたパフォーマンスを発揮するインテルのハイクラスCPU「インテル Core i9-13900KF プロセッサー」を搭載する点と、メモリを128GBまで増やしている点にある。また、GPUはミドルハイクラスの「GeForce RTX 4070 Ti」を選択したほか、ストレージは2TB SSD+8TB HDDを内蔵。大容量ファイルを扱う業務をスムーズこなせる構成を選ぶことで、快適な操作性や作業効率の向上を実現している。
DAIV DD-I7G7T
- 価格
約50万円
- CPU
インテル Core i9-13900KF プロセッサー(24コア【Pコア 8、Eコア 16】 / 32スレッド / 最大ブースト・クロック5.8GHz / 36MBキャッシュ)
- GPU
GeForce RTX 4070 Ti
- メモリ
128GB(32GB×4)
- ストレージ
NVMe接続 2TB SSD+8TB HDD
- OS
Windows 11 Pro 64ビット
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_近藤寿成(スプール)、EDIT_小倉理生