セガで『龍が如く』シリーズ等の人気タイトルを手がけてきたゲームクリエイターの名越稔洋氏が、2021年11月に「名越スタジオ」を設立した。世界市場を見据えた新規のハイエンドタイトルの開発に挑む同社には、早くも数多くの腕利きゲーム開発者たちが集結している。
そんな名越スタジオが、Unreal Engine 5を活用した次世代ゲームタイトルの開発機として選んだのがマウスコンピューターの「DAIV FX」シリーズである。70万円という価格帯のハイエンドPCを導入するに至った経緯や開発環境に対しての考え方などを、同社エンジニアの藤本光伯氏とデザイナーの染屋直樹氏に伺った。
CGWORLD(以下、CGW):まず、名越スタジオのこれまでの歩みを教えてください。
藤本光伯氏(以下、藤本):弊社は名越を筆頭に、セガの「龍が如くスタジオ」の元メンバーを中心とした9名が、NetEase Gamesの出資を受けて2021年11月に設立しました。当初は10名にも満たない小さな組織でしたが、現在(2023年9月時点)は外部スタッフも含めると50名を超えるまでに成長しています。
CGW:どのような人たちが新たに入社しているのでしょうか?
藤本:大手あるいは中堅クラスの会社でコンシューマ系ゲームの開発に携わっていた人がほとんどです。職種は「プログラマー」「アーティスト(いわゆるデザイナー)」「プランナー」の3種類ですが、アーティストがやや多い構成になっています。
近年はハイエンドコンシューマ経験者の人材採用がとても厳しい状況にあるだけに、1年ほどで40名近い採用を実現できたことは「期待以上」と言っていいでしょう。それだけ、業界全体にボス(=名越氏)の名声が轟いている“証し”なのかもしれません(笑)。
CGW:開発中のゲームタイトルについて教えてください。
藤本:Unreal Engine 5を使ったハイエンドタイトルで、ワールドワイド向けのモノになります。また、名越が「トレンドを意識しつつも流されることなく、ドラマ性の高いゲームを目指す」と公言していますが、そういった部分も注目ポイントになるかなと。
CGW:Unreal Engine 5を採用した理由は何だったのでしょうか。
藤本:ゲームエンジンを利用することで「開発環境の底上げを実現できる」という点は大きなポイントでした。それ以前に、今のところ自社エンジンを作るほどのヒューマンリソースはないので、プロダクトに求められるグラフィック表現の観点からもUnreal Engine 5を選んだという感じです。
CGW:制作における現在の課題は?
藤本:新しいことにチャレンジしているので、「ゴールが見えない」という点でしょうか。例えば、シリーズ作品の新作を作るのであれば、最終的なゴールを最初からイメージしやすいので、スタッフは共通の認識を持ちながら、ロスなく効率的に作業することが可能です。
一方で、今回の新規タイトルの開発では、ゲーム性にしてもグラフィックにしても現状だと明確なゴールが見えない部分もあり、作業ロスや非効率的な作業も踏まえたうえでトライ&エラーを繰り返す必要があります。そのため、現在はそこに対して「どのように対応していくか」をスタッフと相談しながら取り組んでいるところです。
期待以上にゲーム開発経験者が集まり、スタッフは約1年で50人超の急成長
名越スタジオ
ゲームクリエイターの名越稔洋氏を中心に、NetEase Gamesの100%出資で設立されたゲームソフトウェア開発会社。高いドラマ性を兼ね備えた、ワールドワイド向けのハイエンドタイトルを開発している。2023年9月時点でのメンバーは、外部スタッフを含めて55名。
HP:https://nagoshistudio.com/
X(旧Twitter):@nagoshistudio
Facebook:https://www.facebook.com/nagoshistudio.inc
GeForce RTX 3080、メモリ64GBのモデルでは太刀打ちできなかった
CGW:マウスコンピューターの「DAIV FX-I9G90」を開発機として選んだ決め手は?
藤本:先ほどの“課題”の話に直結するのですが、トライ&エラーを繰り返すためには、多くの時間と労力が必要になります。スタッフの純粋な作業時間はもちろん、PC処理による待ち時間なども増えるわけですが、私に言わせればこのような待ち時間は“悪”以外の何物でもないのです。ただ、この状況に対して高性能なPCを用意できれば、待ち時間を削減することで、クリエイターのパフォーマンスを最大化できると考えています。
そこで弊社は、基本的に「購入時点で一番良いものを制作用機材として購入する」ことにしており、今回の場合であれば、CPUはインテルの第13世代Core i9、GPUはGeForce RTX 4090、メモリは128GBを搭載するPCを求めました。そして、これらの条件をすべて満たすPCを探したところ、外資系メーカーのワークステーションでは該当するスペックの機種が見つからず、安定性などを総合的に鑑みて、最終的にマウスコンピューターのDAIV FX-I9G90へと行きついたわけです。
CGW:条件がかなりハイレベルだと感じますが、ここまでのスペックが必要なのでしょうか。
藤本:名越スタジオを立ち上げた当初、じつはあまり深く考えずにちょっと割安のPCを購入したことがありました。価格は約40万円で、スペックはCPUがインテルの第10世代Core i9、GPUはGeForce RTX 3080、メモリは64GBというモデルだったのですが、これがまったくお話にならなかったんですよね。
例えば、アーティストのスタッフは2台の4Kディスプレイと液晶タブレットを接続して使用していたのですが、その環境でしばらく作業すると画面表示が徐々におかしくなってきたんです。たぶんVRAMが足りなかったんでしょうが、当時は原因がわからず本当に困りました。
また、各スタッフはUnreal Engine 5を使いながら、MayaなどのDCCツールも複数起動させて作業するのが当たり前です。しかし、メモリが64GBでは明らかに挙動がおかしくなり、ときにはMicrosoftのOfficeツールで不具合が出るほど不安定でした。おかげでこのPCは半年しか使用しませんでしたが、いまはDAIV FX-I9G90になったことで、これらの問題は概ね解決されました。
「10万円で作業効率が10%上がる」なら、それは十分に選択肢となり得る
CGW:今回はDAIV FX-I9G90を選ばれたわけですが、これ以外の選択肢はなかったのでしょうか。
藤本:先ほど挙げた条件を満たす他メーカーのPCはほぼ皆無でした。その意味では、DAIV FX-I9G90一択だったと言ってもよいでしょう。強いて言えば、CPUにXeonを搭載するモデルはあったのですが、私的にXeonは最初からNGでした。
CGW:XeonがNGだった理由は?
藤本:理由は2つあります。1つはやはり「価格」で、コストパフォーマンスを考えるとどうしても簡単には手が出せません。もう1つは「クロック周波数」で、Xeonはコア数こそ多いのですが、Core i9と比べて「クロック周波数が低い」という点がネックでした。
そもそも、制作で使用しているソフトウェアの中には、マルチスレッドで性能が出ない物も少なからずあります。そうなるとシングルスレッドの性能も欲しくなるわけで、そういった点も含めて総合的に判断すると「XeonよりもCore i9の方がいい」という結論になるわけです。
CGW:随所にこだわりを感じますが、そのほかにも何かありますか?
藤本:トータルで見た時の“機材コストと作業パフォーマンスのバランス”にもこだわっていますね。例えば、仮に「10万円プラスすると作業効率が10%上がる」のであれば、それは十分に選択肢となり得るかなと。また、先ほどの割安PCの失敗体験もあるので、機材のコストをケチってもあまり良い結果にはならないとも思っています。
CGW:一般的なゲーム会社では、アーティストはハイスペック、プランナーはロースペックといった具合で、職種によって使用するPCの性能を変えることでコストバランスを取っているケースが多いと思いますがいかがでしょう?
藤本:弊社の場合は、ストレージの容量こそ異なりますが、それ以外はすべて同じスペックのDAIV FX-I9G90を全員共通が使用しています。なぜなら、プランナーのPCでUnreal Engine 5を使って動作チェックなどを行う場合、仮にPCの性能不足でフレームレートが低下しまったりすると、誤った評価を下してしまうこともあり得るからです。
そういった可能性も考慮すると、自分としては機材でコストダウンをするぐらいなら、逆に「スタッフが最大限のパフォーマンスを発揮できるような環境を整えるべきだ」と考えています。ひいてはそれが、ユーザーに提供するプロダクトの品質も高めるわけですから。
DAIVが処理時間を大幅に短縮、もう前のPCには戻れない
CGW:制作で使用しているDCCツールを教えてください。
染屋直樹氏(以下、染屋):Unreal Engine 5を筆頭にMayaやMarvelous Designer、Substance Designer、Substance Painter、ZBrush、Houdiniなどを使っていますね。もちろん、職種によって多少の違いはありますが。
CGW:さまざまなDCCツールを使っていますが、DAIV FX-I9G90の使い勝手はどうでしたか?
染屋:背景制作だと高ポリゴンのモデルを扱うことも多々あり、例えば何百万ポリゴンレベルの重い背景画像だと、前のPCではビューワーなどで遅延が発生しがちでした。しかし、DAIV FX-I9G90にかえてからは遅延もなく、とても快適に作業できています。
また、時間のかかる作業の1つにUnreal Engine 5へのデータインポートがあるのですが、前のPCだと2~3分かかっていたものが、DAIV FX-I9G90ではわずか30秒ほどで完了できるようになりました。そのほか、Unreal Engine 5の再ビルドやGPUによる自動生成やシミュレーションなどにも多くの時間がかかっていたのですが、これらの処理も非常にスムーズ。複数のソフトウェアを立ち上げても安定して動作してくれますし、全体的なストレスもかなり軽減されました。おかげで、もう前のPCにはとても戻れないですよ。
CGW:筐体デザインはどうですか?
染屋:形状がスタイリッシュでとても気に入っています。カラーもオシャレですし、「最新のPCを使っている」って感じますね(笑)。あと、キャスターとハンドルを標準装備しているので、設置の際に運びやすい点も助かっています。
CGW:ちなみに、マウスコンピューター自体の評価はどうでしょうか。
藤本:自分の場合は10年以上前の古いイメージがずっとあったので、ぶっちゃけて言うと、これまでの評価は機材選定をするうえで優先度が高くないメーカーという印象だったんですよね。でも、今回使ってみたら「とても良い!」ことを痛感しました。
例えば、製品の性能や動作の安定性などはもちろん良かったのですが、何気にサポート体制も柔軟かつスムーズで非常に満足しています。マウスコンピューターは近年“クオリティの改善”をとても重要視しているそうですが、その変化を十分に感じましたよ。
CGW:最後に、これから名越スタジオで働きたいと考えている人たちへメッセージを。
藤本:名越スタジオならストレスのない最上級の環境で、思いっきりクリエイティブなことにチャレンジできますよ、というところは強くアピールしたいと思います。ぜひ一緒に、最高の作品を生み出しましょう!
名越スタジオが導入した「DAIV FX-I9G90」のポイント
マウスコンピューターが展開するクリエイター向けPC「DAIV」シリーズにおいて、「DAIV FX」シリーズは最上位に位置づけられるデスクトップPC。中でもDAIV FX-I9G90は、CPUに「インテル Core i9-13900KF プロセッサー」、GPUに「GeForce RTX 4090」を採用したハイスペック仕様のモデル。ハイエンドパーツを搭載することで、高負荷のかかるクリエイティブな作業でも優れたパフォーマンスを発揮する。なお、名越スタジオではメモリを64GBから128GBにアップグレードすることで、マルチタスクでの作業も快適にこなせる環境を実現している。
DAIV FX-I9G90
- 価格
699,100円(税込)
- CPU
インテル Core i9-13900KF プロセッサー(24コア【Pコア 8、Eコア 16】 / 32スレッド / Pコア 3.00GHz、Eコア 2.20GHz / TB時最大5.80GHz【Pコア 5.80GHz、Eコア 4.30GHz】 / 36MBキャッシュ)
- GPU
GeForce RTX 4090
- メモリ
128GB(32GB×4)
- ストレージ
NVMe接続2TB SSD
- OS
Windows 11 Pro 64bit
- 無線
Wi-Fi 6E(最大2.4Gbps)対応 IEEE 802.11 ax/ac/a/b/g/n準拠 + Bluetooth 5内蔵
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_近藤寿成(スプール)、EDIT_小倉理生、PHOTO_弘田 充