建設、不動産開発など幅広く事業展開し「地域スーパーゼネコン」を目指す株式会社トーケン。そんな同社が導入したのが、Autodesk社が開発している設計・施工向けのBIMソフトRevitだ。本記事ではRevitの導入経緯や、どのようなプロジェクトで活用実績があるのかを紹介しよう。
※BIM:Building Information Modeling、建築物を3D空間上で構築し、情報を一元化して活用する手法
株式会社トーケン
建設業を中心として、開発不動産事業や賃貸マンション事業、緑化事業、ソーラー(太陽光発電)事業など幅広く事業展開中。建設に関するあらゆるものに関わる生活総合サービス業(ワンストップサービス)を目指している。
HP:https://www.token-web.com/
CGWORLD(以下、CGW):本日はよろしくお願いします。まずは、貴社のご紹介をいただけますでしょうか?
南 明宏氏(以下、南):弊社は地域に根差した建設業を中心として、さらに開発不動産事業、賃貸マンション事業、緑化事業、ソーラー(太陽光発電)事業の四つの柱で支える「多柱経営」のもと、人を大切にする「地域スーパーゼネコン」を目指しています。
南 明宏氏(設備部課長 兼 副IcAセンター長)
26年間、建設業に従事。業界で働き始めたころから3Dでの設計に興味を持つ。営業部で働いていたころ、顧客に対するプレゼンで二次元図面を用いることに難しさを感じ、AutoCADや3ds Maxを導入することを決意。Revitにも早くから注目し、自主的に活用をしてきた。
CGW:Revitを使用している人数をお聞かせください。
南:設備部自体は3名で、そこに技師長1名と、IcAセンターの人員も加わります。Revitのライセンスは10本持っているんですが、Revitを常時使っているのは4~5人ですね。
2年半以上をかけ、徐々にBIM推進体制が浸透
CGW:どのような経緯でRevitを導入したのでしょうか?
南:6~7年前に川崎重工さんのプラントの現場で施工協力した際に初めて現場で使用しました。川崎重工さんは当たり前に3DCADを使っていまして、そのワークフローにこちらも対応しなくてはならず、そのためにRevitの導入に踏み切りました。プロジェクト終了後に社内でプロジェクト事例を報告したところ、弊社としてもBIMを推進しようという方針になりました。
その後、今から2年半ほど前に、社内でBIM推進委員会が起ち上がり、私が座長として月イチでBIMとは何かという説明などをしていたんですが、あまり浸透しなかったんです。そこでBIM導入のサポートをしているペーパレススタジオジャパン株式会社に協力を依頼し、OJT形式という教育プログラムを受けたり、アドバイスをもらいながら社内のハードウェアとソフトウェアの整備を進めていきました。
建築意匠や構造設計だけならArchiCADでいいと言われていましたが、当時から建設業でのデファクトスタンダードはRevitだったということと、私自身もRevitを使っていたこともあり、社内で検討した結果、Revitの導入に至りました。
Revit導入で他社との差別化を目指しつつ、実質的なメリットも数多く享受
CGW:BIMソフトであるRevitの導入には、どのような狙いがあったのでしょうか?
南:ひと言で言えば「差別化戦略」です。最も大きな要素として、他社に先駆けてBIMを導入することで、競争優位性や先行者利益を獲得するためですね。地域未来牽引企業として、石川県でBIM推進を牽引していく企業になれたらと考えています。
CGW:今すぐ現場的なメリットを見出すということではなく、将来の案件獲得のためということでしょうか?
南:そうですね、もちろん生産性の向上ということもあるんですが、まずは仕事を受注する段階で貢献することを目指しています。Revitもその方針の一環として導入を進めています。
CGW:ありがとうございます。一方で、現時点で感じているメリットがあれば教えていただきたいです。
南:作業フェーズ毎に様々なメリットがありまして、まず設計フェーズで言いますと、クライアントへのプレゼン時に、従来は二次元の図面を用いていたのですが、ウォークスルーやVR・立体で見せることで二次元の図面より早く合意形成ができるようになりました。それによってフロントローディング(前倒し可能な工程を初期の段階で行うことで、早い段階で問題点の改善を図ることにより、最終的な設計品質を高めること)ができるなど、時短メリットが図れるという点がありますね。
ただし、作業時間が導入以前よりも掛かるようになったり、ソフトを使用できる作業者が限定されるなどの体制的な問題もあります。まだ今の段階では作業全てをRevitで対応することはできないので、使用範囲や用途は絞っています。例えば外観パース作成はRevitとEnscapeでやるといった具合です。
CGW:ほかにはどんなメリットがありましたか?
南:施工フェーズで言いますと、まず他社設計か自社設計かでRevitの使いどころの違いはあります。まず他社設計の場合ですと、設計モデルをBIMで作成している設計事務所さんとお仕事をする場合は、まずその設計BIMモデルを共有してもらえるんですね。そうすると、そこに空調や配管のほか、ダクトやエアコンなどの建築設備機器のデータを載せることができ、二次元の図面でチェックするより格段に精度や品質が向上するんです。
特に私が担当する設備機器は建築の中に埋め込まれているものも多く、外から見えないものなので、意匠的なことよりも性能が重要なんです。「配管が何かにぶつかってないか」とか、「ダクトがちゃんと通るか」とか、「機械のメンテナンスに必要なスペースがちゃんと取れていて、性能がきちんと発揮できるようになっているか」といったことなどは、二次元のモデルだとわかりにくいんですが、三次元のモデルに統合するとわかりやすいんです。
CGW:自社設計の場合にはどのようなメリットがありましたか?
南:自社での設計施工案件だと、基本の設計BIMモデルをブラッシュアップしたうえで、設備や企画、設計のBIMモデルを載せて、干渉チェックなどを設計段階で行えると、それ以降の工程でのミスや不整合がより少なくできる点が大きいと思っています。つまりメリットとしては可視化、合意形成の早さ、干渉チェックによって不具合のない情報を後の工程に流せる、ということなどが挙げられます。
それに、設計段階でも施工段階でも変更はつきものなんですが、BIMモデルを直せば二次元の図面も直って整合性が取れるので変更も楽です。複雑な建物になればなるほど、一ヶ所を直すと他の箇所もそれに合わせて直す必要があり、直す箇所が何十となってくると当初の図面通りには作業ができず、最終的には現場で実施設計しながら施工作業を進めるようなことにもなりかねません。その結果、現場にしわ寄せが生じてしまうので、フロントローディングを図るためにもBIM導入を推し進めていく必要があると思っています。
【事例紹介】Revit導入によって得られたプレゼン時の優位性
CGW:Revitの導入事例をご紹介いただけますか?
南:それでは、金沢大学付属病院の機能強化棟の設計事例を紹介させてください。我々が金沢大学附属病院の機能強化棟の工事に入札する時に、大学側から技術提案を求められたんです。免震構造の構造部分の設計の際、SRC構造の鉄筋のための穴をコンクリートにあけておく必要があるのですが、その設計は二次元では難しいこともあり、技術提案も兼ねてBIMモデルを作成し、不整合のない品質の高い建物に仕上げることができますと提案しました。
ただ、この時のものはあくまでも技術提案として作成したものでして、このモデルをもとにVRを制作するなどクライアントへのプレゼンとしては役立ったんですが、図面化などより深い部分での利用まではできませんでした。
Revitを導入して圧倒的に向上した生産性
CGW:Revitを導入したことで解決された課題はありましたか?
南:例えば施工作業の際には施工図を作るんですが、従来は二次元ベースで作業していました。ある建物について東西南北の計四面分の展開図を作るとき、二次元で作業していくととても手間がかかるんですね。
ところがRevitを使うことによって、1つのモデルを作ってしまえば切り出していくらでも図面化できますし、データの一部を修正すれば4面全てに反映されるので非常に楽かつ正確なんです。そういった生産性の面においてBIMモデルは圧倒的に高いですね。
CGW:二次元での作業と比較して、生産性が向上したということですね。
南:そうですね、二次元で成果物を作ろうとすると、生産性の向上は直線的、一次関数的にしか上昇しないイメージです。一方、Revitの三次元モデルであれば、使いこなすまでのハードルもあり、最初はなかなか成果が出ないけれど、やがて指数関数的に生産性が向上していくイメージですね。それは編集や修正の時間も含めてです。なのでトータルで見ると、BIMワークフローのほうが従来の二次元のやり方よりも絶対に早いです。
CGW:最後に、今後のRevitの活用方針について教えてください。
南:Revitはすごく高いポテンシャルを持ったソフトだと思っていて、今後は建設DXの基幹ソフトになっていくと考えています。Revitを活用することで、設計・施工・維持メンテナンスといったワークフローの効率が良くなれば、建築業界における様々な課題が解決できるはずです。それに現場レベルではまだまだ活用の手法があるはずなので、もっとRevitを使っていきたいですね。
CGW:本日はありがとうございました。
Revitについて
Autodesk® Revit® は建築設計、土木エンジニアリング、建設・施工分野において使用されている設計ツール。パラメトリックの正確性、精度を利用して形状、構造、システムを3Dで簡単にモデリングしたり、平面図、立面図、集計表、断面図、シートを瞬時に改訂して、プロジェクト管理を効率化することも可能だ。大規模なチームで使用する場合は、多分野にまたがる複数のプロジェクトチームが一体化され、オフィスや現場での効率、連携を向上させる。
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TEXT_岡本拓也、EDIT_小倉理生(shushu-kikaku)