CGWORLDが開催した初のCGファッションコンテスト「HARAJUKU FASHIONSNAP 2100」アバター部門優勝者の"0から始めるblender生活"こと藤原一弥氏。Blenderを初めてから277日目という脅威の成長スピードでコンテスト優勝を果たした彼の素顔とその成長方法に迫る。
「これから3DCGを始めようかな」と躊躇している方にはきっと成長の一助となるだろう。
39歳からBlenderを始めた藤原氏 成長の秘訣は”徹底的に凝る性格”
CGW:先日のコンテストでは最優秀賞受賞おめでとうございます。
藤原一弥氏(以下、藤原):ありがとうございます。
CGW:まずは藤原さんの簡単な自己紹介からお願いします。
藤原:群馬在住の今年で40歳になる会社員です。地元の高専を出て、今は機械エンジニアをしています。仕事柄、2Dの図面を見て立体形状をイメージすることを得意としています。3DCG制作って機械エンジニアの仕事と似ているところがあるんですよね。
【原宿ファッションスナップ2100 アバター部門】
— CGWORLD.jp (@CGWjp) November 10, 2022
第1位 『近未来型猫耳ファッション』 58点
藤原一弥さん
コンセプト:原宿系の自由なファッションとガジェットの組み合わせが未来の原宿で流行
使用ツール:Blender ・Substance 3D Painter・Photoshopほかhttps://t.co/uaYMOwTSdJ#CGWCC pic.twitter.com/JNvZS0clFj
キャラクターモデリングは正面・側面の絵を用意してから立体を起こしていくのが一般的ですが、私の場合、ちょっとつくり方が違い、斜めから見た顔を基準にしてつくっています。
正面や真横も参考にはするのですが、キャラクターを真正面から見ることって意外と少ないので、一番見る頻度が高い斜めでどう見えるかを優先しています。
また、つくっていく段階で頭の中である程度立体のイメージができており、そのイメージにどれだけ制作中のものを近づけていけるか、という感じで制作しています。
平面や立体を見る「目」が仕事を通して養われていたのかなと思っています。
CGW:そういったバックボーンがある中で、CG制作を始められたんですね。お仕事のある日、休日でそれぞれ平均どれくらいCG制作に時間を使われていますか?
藤原:仕事がある日は平均3時間。休日で予定がない日は12時間くらい作業しています。子供も大きくなっているので、家族で晩御飯を食べてから寝るまでを制作時間に充てています。あ、そうだ。ちなみに寝る前には、1日に1本はアニメを見るようにしていますね。
CGW:それを毎日ですか? すごいですね。
藤原:アニメやゲームに毎日触れることで目が肥えたのは、モデリングの上達に役立ったかもしれません。ゲーム『Fallout』シリーズではゲーム内で色々なところに行ってスナップショットを撮って遊んでいました。
スナップショットって良い見栄えの所を探して写真を撮るような感じですので、こういったところも上達の一助になっている気がします。
以前はイラストを描くことにもチャレンジしたことがあります。イラストレーターさんが「描いてみた」動画を上げていたので、面白そうだから真似してみたり。でもイラストは模写以上のことはできなくて、このままやっていても成長はないなと思ってやめました。
私は昔から、なんでも「すごいな」と思ったものは自分でもやってみたい性分なんですよ。ピアノがうまい人を見かけたらピアノを弾き始めましたし、会社のコンペがきっかけでゴルフを始めたりもしました。
blender生活99日目。
— 0から始めるblender生活 (@0_blender) May 17, 2022
1日フライングですが、100日間のblender生活をまとめました。
有名なリンゴとの出会いからなんとなく3DCGを始めましたが、100日でそこそこは成長できたかなと思っています。#blender #Blender3d #b3d pic.twitter.com/bQPM9124qO
ライティングで勝つ! 魅せる3DCGつくり方とは?
CGW:3DCGを始めてからコンテストで優勝するまで277日目ですよね。
とても効率よくマスターされたと思うんですが、学習法を教えていただけますか?
藤原:専門学校に通っているような若い子の学習スピードに勝つことを考えると、効率よくやらないといけません。ですので、技術的に「この作品はここをテーマに」と自分の中で決めながらやっていきました。
僕の最初の目標は「なにか形にすること」。YouTubeを見ていると、モデリングで形にするにはスカルプトが向いてそうでしたので、『グラップラー刃牙』のキャラクターのスカルプトから入ったんですよ。この手のキャラは特徴を押さえればそれっぽく見えますから。
CGW:なるほど。
CGW:そうして出来上がった数々の作品をTwitterに投稿されているのですね。
現在Twitterのフォロワー数は8,000人ですがどのように増えたのでしょう?
藤原:少しずつですね。「いいね」が多くつくのって、ライティングがうまくいったもので、甘いものは「いいね」も少ない。そういうふうに作品を上げていくと、少しずつ「いいね」が増えていきました。「#blender 初心者」と入れて投稿すると、同じような人がフォローしてくださるのかな。
CGW:HARAJUKU FASHIONSNAP 2100優勝作品で、ライティングにこだわった部分を教えて下さい。
藤原:今回のコンテストではキャラクターと衣装をしっかりと見せたいという意図から、
実はキャラクター用のHDRIは屋内のものを使い、
藤原:1作目はスカルプトとリトポロジー、マテリアルの設定を覚えることを目標に制作しました。これらの目標は1作目である程度達成できたので、2作目はボーンを入れてポーズをつけることと、テクスチャを貼って見栄えを良くすることをテーマにしました。3作目はそれの発展系で、テクスチャをがっつり描き込むことをテーマにしました。
Blenderの標準機能では複雑なテクスチャが上手く描けなかったので、より効率を求めてアドオンを入れました。リトポロジーでもアドオンを入れて、アドオンの使い方を覚えることを目標に制作を行いました。
CGW:テクスチャはBlenderで?
藤原:最初はBlenderで描いていたんですが、「より簡単にクオリティアップする方法はないか?」と考え、60日目くらいでSubstance 3D Painterを導入しました。
徐々に使えるツールを増やしながら、毎回できる限りのことは試しています。でも80%の完成度で終わらせて、次の作品では今までの技術を活かしつつ新しいテクニックや表現方法にトライして技術の幅を広げていくように意識しました。
ただライティングは最初から一番気にしています。YouTubeなどで海外の方の作品を見ていると、造形はそれほどすごくないものでもライティングで見栄えがすごく変わってくる。自分の作品もライティングで見栄えを良くできるんじゃないかと考えていました。今回のHARAJUKU FASHIONSNAP 2100でも、そこはすごく意識した箇所です。
CGW:ライティングも独学ですか?
藤原:Instagramで映画のライティングの紹介をしているciloversgroup氏やその他海外アーティストの方の作品から学びつつ試行錯誤しています。実際に配置してみて、後ろにライトを配置したらエッジが際立って見栄えが良くなるな、とか。いまだに何がいいのか悩みながらではあるのですが、作品ごとに設定に力を入れています。
CGW:キャラクターはどの点を意識しましたか?
藤原:ファッションのデザインと配色ですかね。「2100年の原宿」というテーマに対して何が正解かわからなくて、最初はサイバーパンクっぽいものをイメージしていました。
作品応募用に提供された背景モデルをみると、今の原宿っぽいので、あまり現実から乖離させない方がいいのかなと考えました。現実路線ということで、「スカート系にするか、パンツ系にするか」については、スカート系だと他の人と被りそうなのでパンツ系に決めました。衣装デザインは「シック系か、キュート系か、POP系か」を考え、原宿ということでPOP系にしました。配色はカラーチャートのサイトを参考にしながら、青とオレンジを基調に、添える色は緑にして、あとは各色の比率をどうするかを決めて、デザインしていきました。
「スラっとしたパンツではアクティブなポーズがしっくりこない。つなぎのほうが元気に動き回っている」、そこまで考えた段階で、非常に簡単なシルエットだけのローポリモデルを数パターンつくりました。
タイムラプスから学べ! 効率重視の成長方法とは?
CGW:ところで、藤原さんは海外のサイトを参考にされていますか?
藤原:はい。実は日本のサイトだと自分の好きなテイストのモデリングをしているチュートリアルがほとんどなくて、でも海外だとよくあるんですよね、一生懸命英語を翻訳しながら見ています。特にタイプラプスはよく見ていますね。
CGW:初期の頃はこういったタイムラプスを見て覚えたのですか?
藤原:ええ。ひたすら見ましたね。タイムラプスがいいのは、いろいろな向きが出てくるので唇や鼻など立体の形や、立体として人間の顔はこういうふうになっているんだなってわかる。最初に「形をつくる」という点に集中したことで、成長が早かったのかなと思っています。
でも実はタイムラプスしか見てないので、Blenderは最低限必要な機能しか理解してないんですよ。必要になったらその都度調べるくらいで。
CGW:使用しているアドオンはありますか?
藤原:Blenderでしたら、「Auto-Rig Pro」ですね。これは本当にオススメで、キャラクターモデルのリグを全部自動で設定してくれるんです。ここはアゴですよ、ここは手首ですよ、と設定すると、自動でボーンを配置してくれます。自動でリグを生成してくれる「リグ生成」のボタンや、自動でスキニングしてくれる「スキニング」のボタンもあります。
CGW:それはすごい!
藤原:ウェイトの調整は必要ですけど、あるとめちゃくちゃ便利です。あとは「Handy Weight Edit」ですね。頂点単位でウェイト調整ができるアドオンです。好き嫌いは別れると思うんですが、私は好きなアドオンですね。
あとは「Easy HDRI」。これは自動で環境光をつくってくれるアドオンで、これを使うと、つくっている最中から、こんな背景だったらどう見えるんだろう、っていうのを確認できるんです。
CGW:紹介ありがとうございます。アドオンを使いこなすと、効率的にCG制作に取り組めますよね。
「Dell Precision 5470」はスカルプトに最適! 出張先にも持っていけるラップトップ
CGW:最後に、3DCG制作に使用されたPCについて教えてください。
藤原:CG制作初期で使用していたPC(※1)と、2作品目の制作から使用しているPC(※2)があります。初期に使用していたPCだとスカルプトでポリゴン数を増やす場合、動作が非常に重たくなっていました。
それにレンダリングでCyclesをよくつかうんですね。Cyclesが動作が重かったんですよ。流石にこれはキツいなと1作目のモデルをつくった時点で思いまして、速攻で新しいPCに乗り換えました。グラフィックスボードの価格が高い時期だったんですが、ちょうどPCショップがセールだったのでそこで購入しました。クリエイター用に組んでいただいたものです。
CGW:BTOのPCですか?
藤原:そうですね。BTOのPCです。現在使用しているPCですと、直近で完成させたオリジナル作品の制作では、キツかったですね。
CGW:今回のHARAJUKU FASHIONSNAP 2100の賞品で提供された「Dell Precision 5470 」はいかがでしたか?
藤原:GPUは現在メインで使用しているPCの方がスペックが上になるんですよ。でもCPUやメモリはDell Precision 5470の方がスペックが高いです。最近使い始めたZBrushはCPU駆動なので、賞品としていただいたPCのほうがスムーズにスカルプトできました。
ハイポリ(6,000万ポリゴン程度)で形をつくっていくこともストレスなくできます。初期のリトポロジーをする前の段階では特に使えますね。アンドゥのスピードが、1秒くらいかな、ちゃんとは測ってないのですが、体感的にかなり早い印象があります。
CGW:CPUの性能がダイレクトに影響を与えてるんですね。
藤原:あとは、仕事でけっこう出張があるんですよ。以前は出張先で制作ができずもどかしい思いをすることが多々あったのですが、提供していただいたラップトップはとても軽量で持ち運びも便利なので出先のホテルでも作業できる。そういった意味ではすごく助かっています。
CGW:それは嬉しい報告をありがとうございます。そして長いお時間、お話をありがとうございました。次のオリジナル作品はぜひWHO'S NEXT?2023年第1弾にご応募いただけたら嬉しいです。
藤原:あれは学生以外が応募してもいいんですか?
CGW:就業経験のないアマチュアの方でしたら大丈夫です。
藤原:それなら、ぜひ狙いたいですね。
CGW:お待ちしています。今日はありがとうございました!
TEXT_武田かおり/ Kaori Takeda
EDIT_山下一貴 / Itsuki Yamashita(CGWORLD)