アバターで街を歩き、買い物やイベントを楽しむことができる仮想都市のコミュニケーションプラットフォーム・スマホアプリ「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」。開発・運営は株式会社三越伊勢丹だ。ここでは本サービスローンチのねらいからフロアデザイン、CG制作のノウハウまでを詳細に紹介する。

※本記事はCGWORLD283号(2022年3月号)の記事を一部再編集したものです

記事の目次

    スマホアプリ「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」
    開発・発売:三越伊勢丹
    配信日:配信中
    プラットフォーム:iOS/Android
    www.rev-worlds.com
    ©2021 ISETAN MITSUKOSHI All rights reserved.

    スマホの中に広がるバーチャル百貨店

    老舗百貨店の三越伊勢丹が自ら開発・運営を行う「REV WORLDS」がローンチから1周年を迎えた。原型は2020年4~5月開催のイベント「バーチャルマーケット4」内に出店した「仮想伊勢丹新宿店」だ。旗振り役は同社オンラインクリエイショングループデジタル事業運営部の仲田朝彦氏。当時の社内起業制度を活用して、丸山 透氏や池田英生氏らと共に、終業後Blenderの自習を重ねて実現したプロジェクトである。その様子をCGWORLD.jpに掲載したところ(※)、CG制作関連企業30社ほどから協業のオファーが届いたという。

    ※2020年4月28日(火)公開記事「伊勢丹 新宿本店を、新宿の街をバーチャル空間に再現したい! 百貨店&ファッション文化の再構築を目指す、三越伊勢丹 社員の挑戦」

    仲田朝彦氏

    オンラインクリエイショングループ デジタル事業運営部(三越伊勢丹)
    (※2022年3月現在)

    池田英生氏

    オンラインクリエイショングループ デジタル事業運営部(三越伊勢丹)
    (※2022年3月現在)

    丸山 透氏

    オンラインクリエイショングループ デジタル事業運営部(三越伊勢丹)
    (※2022年3月現在)

    「いわばCGプロパーではない百貨店の方が本気で楽しんでつくっているさまが伝わってきました。こうした方たちと仕事をしたいと以前から思っていたので、とにかく連絡をと手段を選ばず仲田さんにアプローチしました」と話すのは、CRAFTARで本プロジェクトのディレクターを務めている川島英憲氏。CRAFTARからのアプローチを受けた仲田氏は、失敗をくり返しながら進んでいく心づもりで、一緒に添い遂げる強い意志を感じ、両社はパートナー関係となった。

    上段左より、リードモデラー・嶋谷英郎氏、ディレクター・川島英憲氏、リードモデラー・住岡大介氏、中段左より、チーフラインプロデューサー・下河辺桜氏、モデラー・宮澤 瞭氏、デザイナー・河野紘一郎氏、下段左より、テクニカルディレクター・安部隆太郎氏、デザイナー&モデラー・岩﨑 楽氏、ラインプロデューサー・山田健人氏(以上、CRAFTAR)

    まずはREV WORLDSを自社事業として行うため、社内答申に向けて取り組んだ。三越伊勢丹とCRAFTARは受発注の関係性を超え、ワンチームとして互いに顔色を窺うことなく、近い距離感でものづくりを行なっているという。CRAFTARから技術的なサポートを受け、丸山氏や池田氏らもメキメキと実力をつけた。制作が進むにつれ、三越伊勢丹からは12名、クラフタースタジオでは最大で30名が関わるプロジェクトに成長。三越伊勢丹からのゴーサインが出た12月から、わずか3ヶ月でローンチまで漕ぎ着けた。

    最近では従来の三越伊勢丹の顧客がREV WORLDSを利用するケースも増えてきている。実店舗の催事とも連動して、月2回コンスタントにアップデートを行い、また東京都三鷹市の小学校でバーチャルファッションショーの授業を行うといったユニークな展開も実施。今後、EC事業だけでなくアバターアイテムの販売や、ユーザーが自由にカスタマイズできる空間なども計画されている。

    <1>仮想伊勢丹新宿店の店内の制作

    仮想伊勢丹新宿店では「伊勢丹を体験してもらう」ことを目的とするため、通路幅や什器(じゅうき)の大きさなどは実寸サイズで制作した。実際の店舗に行った経験のある顧客はまず驚くだろうし、REV WORLDSから入ったユーザーも、実物をベースに再現されたワールドの説得力に没入感を覚えるはずだ。販売員として12年間店頭に立ち接客を行なってきた池田氏は「当時は、商品や什器をどのように見せれば魅力的に見えるかと、常に展開方法を考えていました。それが今回の仮想空間制作にも活かされたと思います」と語る。

    なかでも「デパ地下」エリアは、潤沢な資料から実際の伊勢丹新宿店地下1階が再現されている。制作資料作成のため終業後にフロアを360度カメラで撮影し、データから3Dウォークスルーアプリを作成。背景3DCG担当のリードモデラーの嶋谷英郎氏らがそれで店内をくまなく確認しながら3DCG空間をつくり込んでいった。演出のテーマは「伊勢丹らしいショッピング体験」だったため、環境マッピングといった一般的に重く敬遠される表現にもしっかりとリソースを割き、高級感を出した。そのほか、テクスチャのマテリアル作成やライティング、シェーディングなどは、データ量を抑えつつも見映えが良くなるよう、大小様々な工夫が施されている。

    REV WORLDSでは、幅広い顧客がカジュアルにECを利用できるようにするため、スマートフォン用アプリでの運用を念頭に置いて、Unityで開発が進められた。多種多様な機種への対応のため、アセットはポリゴンを抑えて制作したり、画面に映る範囲だけを処理するカメラカリングなどの手法を活用して負荷を抑えた。

    アセット制作については、三越伊勢丹側はひき続きBlenderを、クラフタースタジオ側はMayaを使用し、セットアップは3ds Maxを使用。「デパ地下」は嶋谷氏を中心に4人のチームで制作が進められ、1エリアごとに約3週間、トータル約4ヶ月で完成させたという。

    360度カメラでフロア全体を撮影し空間を把握

    伊勢丹新宿店地下1階、いわゆる“デパ地下”の写真。営業終了後に360度カメラで撮影をくり返し、2週間かけて店内をくまなく撮影。自由に移動できる3Dウォークスルーアプリを作成した。通常の撮影では把握しにくい什器の位置関係も、この手法によって正確に写し撮ることができた。「店内マップなどではわかりづらかった通路裏のエリアが実はスタッフルームだったことがわかるなど、容量的に無駄のない空間づくりができました」(嶋谷氏)

    デパ地下エリア「ある老舗和菓子店」のモデル

    地下1階にある老舗和菓子店の店舗制作の様子

    • テクスチャマップ。2Kサイズで作成されているが、壁面にあたるテクスチャは左上の黄土色の正方形のみ(128×128ドット)。画面中央部の黒い石など、固有の模様が入っているものは解像度を担保する必要がある。ユーザーにどのように見せたいかを意識し、素材ごとのメリハリをつけて制作した
    • UVの様子。左下のような叩き台になるテクスチャを1枚描き、UVを重ねることで広い範囲を表現
    店舗壁面のポリゴン分割
    実際のアプリ画面

    伊勢丹らしい高級感は光と影の演出で表現

    高級感あるフロアの肝は、ライティングとシャドウのつくり込みだ

    3Dカメラで撮影した店舗。左の床のような照明の反射は高級感演出のポイントとなる
    • 買い物エリアのテクスチャ。テクスチャ自体に明暗を付けたり、壁のタイルにUVを回転させて当てることで、少ないUVリソースで正しく光が当たっているように表現
    • 複数のUVで表現したライトマップ
    床のライトマップ。おおまかな陰影はMayaからの出力だが、光の点ひとつひとつはPhotoshopで手打ちされている
    Mayaで制作したモデル。デパ地下があまりに広大でライトマップだけでは表現しきれないため、ベースのモデルの壁に、ある程度のライトを描いておいた
    アプリ画面。同じ柱でも乗せている影の形が変わるため、いわゆるリピート感がない丁寧なつくりの印象を受け、それが高級感につながる

    高い再現度で完成した「デパ地下」

    リアル伊勢丹新宿店地下1階の完全再現を目指した「デパ地下」。一部、アバターの通り道によっては什器の位置をずらしている箇所があり、カメラ位置の都合上、実際よりも天井が高くなっているが、全体的な再現度はかなり高い

    デパ地下の俯瞰図
    (上図)左から洋酒と洋菓子の売り場。(下図)左から工事中エリアとグローサリー。工事中と明言することで、全体をオープンしつつも徐々に拡張させる方策が可能になった
    同じく高い再現度を追求した1階正面入口エリア。高級感あふれる半透明ガラスの什器が来店客の目を引く。アプリの画面では店員アバターがいて顧客を迎え入れてくれる

    <2>新宿東口に広がるメガフロートの仮想世界

    仲田氏は以前から、仮想伊勢丹新宿店のみならず新宿エリア全体をバーチャル空間で再現し、新宿がもつ文化的多様性を世界に示したいという考えを抱いていた。その実現に向けた大きな一歩が、REV WORLDSの新宿東口~新宿三丁目交差点エリアの構築である。伊勢丹新宿店のデパ地下は完全再現を目指したが、新宿エリアはこの限りではない。「伊勢丹本店や新宿アルタなどのランドマークを置いて、残りはリアルを40%程度再現することをイメージしています。エリアを拡張していく際に、リアルにこだわると大きな商業施設同士の距離が離れてしまい、空間的に寂しくなってしまうのです。そのため、完全再現ではなくてアレンジを利かせる余地を残しています」と、仲田氏は先を見越した運用の考えを話す。

    REV WORLDSでは、各区画がメガフロートに置き換えられており、現実では車道の場所は海面となっている。各区画は水上バスやテレポート機能を使って一瞬で移動できるが、その停留所となる“ターミナル”は新宿アルタ前に置かれている。この街並みをまとめ上げたのが、背景担当のリードモデラー・住岡大介氏。制作にあたっては、多くの建物が立ち並ぶエリアであるため、現実に忠実につくるとたちまち高負荷になってしまうことが容易に想像できた。そのため、どんなもの、どんな要素をどこまでつくり込むのかを線引きし、アプリに落とし込める情報量に絞り込んだ。その際、遠くの建物は極力省き、路面に近い建物に注力している。また、屋上や建物の裏側といった見えない箇所は大胆に省略されている。

    仮想伊勢丹新宿店は、REV WORLDS内で最も多い約20万ポリゴンを費やしたオブジェクト。そもそもは前述の「バーチャルマーケット4」出展時に仲田氏、池田氏、丸山氏がBlenderで制作したモデルで、これをREV WORLDS仕様に調整した。負荷対策のため、画面に映り込む箇所のみ表示するカメラカリングを用いたり、外観の表現にも様々な処理上の工夫が施されている。

    新宿東口ビル群のモデル制作とレイアウト

    建物アセットはまず軽量のレイアウト用モデルを制作し、そこからラフモデル、完成モデルと段階を追ってつくり込んでいった

    レイアウト用モデル。建物の形や配置からは現実の新宿東口と変わらない印象を受ける
    • 新宿駅ビルや東口にあるランドマーク的なビル群のラフモデル。この時点で、現実に近い看板を備え付けてある
    完成モデル。アルタ前広場はクラフタースタジオのデザイナーがアレンジを施しており、仮想伊勢丹新宿店のポップアップストアインフォメーションや「空飛ぶクルマ」の展示スペースを設けている(2022年2月現在)。スタジオアルタの上方には本物の企業広告を掲載している

    リッチに仕上げた仮想伊勢丹新宿店のモデル

    仮想伊勢丹新宿店はポリゴン数が多いため、1メッシュでつくってしまうと建物の一部が画面に映っただけで全てが描画され、アプリに強い負荷がかかってしまう。そのため、建物のモデルをカリングして画面に映るパーツを減らし、負荷を軽くする工夫を施している

    仮想伊勢丹新宿店のコンセプトアート。最終的にメガフロート構想を採用したが、検討段階ではフンデルトヴァッサー建築(色彩豊かで自然と調和する同氏の特徴的な建築手法)のような立体的なものもあったという
    • 完成モデル。装飾部分はノーマルマップでつくられており、見応えがある

    ショーウインドウにはインテリアシェーダを適用

    仮想伊勢丹新宿店を含むREV WORLDSのショーウインドウには、展示アイテムや建物を魅力的に見せるための工夫が施されている。通常、こうしたウインドウを単純な窓ガラスで表現すると、いかにも「つくりもの」の感じが出てしまう。そこで本作では、シェーダ内に仮想の立体を組んだインテリアシェーダを用意し、ショーウインドウ内で自動計算を行い、立体的な反射を表現する処理を追加。これにより、曇りガラスと透明なガラスの間のような、リッチなルックになる。最近のハイエンドゲームではよく使われる処理方法だ

    インテリアシェーダを利用した建物
    インテリアシェーダのノード

    コスチュームショップはおしゃれな2階建てバス

    アバター衣装をポイントと交換する水上バスショップは、様々なユーザーに楽しんでもらえるよう、クラシックな2階建てバスのスタイルを採用。高級感がありつつも、真っ赤なカラーリングで親しみやすさを感じさせる、伊勢丹らしい洗練されたデザインとなった。ラグジュアリー感はその内装からも窺える。「バスの中にいる雰囲気を感じるように、曲線を取り入れたフォルムで内装を設計しました。また、明るいカラーリングをベースにして親しみやすさを演出しています」(デザイナー&モデラー・岩﨑 楽氏)

    • コスチュームショップ外観のコンセプトアート。バスの窓ガラスがショーウインドウの役目を果たしている
    • 内観のコンセプトアート。扉を開けるとバスの2階にあるショップに通される
    完成したCGモデル

    <3>人間から雑貨まで幅広く3Dスキャンでモデリング

    REV WORLDSのアセット(アイテム)は大きく3つの方法で制作されている。まずは完全な手づくりのパターンで、これはシンプルなモデルや手づくりが適している場合に用いられる。次にハンディスキャナ「EinScan Pro HD」を使うパターン。そして3つめが、大きなサイズのアイテムやマネキンなどをリアルアバター株式会社製の全身3Dスキャナで取り込んで制作する方法だ。販売員のリアルアバターも大型スキャナを活用している。大型スキャン装置を含め、機材は新宿のイセタン スタジオ内の一角にあるが、近くに同社倉庫があるため、商品アイテムをスキャンする場合にも便が良い。

    スキャンしたデータはメッシュを整え、ローポリ化やテクスチャの調整を行なって納品する。具体的なポリゴン数としては、ハンカチが50程度、服を着ているマネキンが5,000~8,000程度。商品の魅力を引き出すことを大前提に、できるだけ少ないポリゴン数でつくることを心がけているという。2022年1月の取材時点で約1,170点が完成しており、そのうちスキャナを利用したものは約半数にのぼる。なお、デリケートな話として、3Dスキャニングとその権利の問題があるが、REV WORLDSでは同サービス内のEC販売用として商品を仕入れ、同サービス内でのみ購入されるため、困った問題は起きていないそうだ。

    モデル制作にはスキャナを使用するのが効率的ではあるが、スキャンに向かないアイテムもある。金属、透明な素材、真っ白や真っ黒なアイテムなどがそうで、それらは手で3Dモデルを起こしている。

    全身3Dスキャナを使った販売員アバターの制作

    リアルアバター株式会社の全身3Dスキャナを使用して、販売員アバターを制作

    全身3Dスキャンの様子。機械には105台のカメラが組み込まれている。スキャンソフトはRealityCapture
    スキャンした販売員アバター。池田氏(中央)と丸山氏(右)もアバターとしてスキャン済みだ。生地の質感やパンツのシワまでしっかりとキャプチャされている。スキャンデータは1体約40万ポリゴンで、これを1万ポリゴン未満になるよう調整していく。これまで販売員アバターとしてREV WORLDSに実装したのは約30人だが、スキャン自体は約100人完了しており、今後ワールド内はさらに賑やかになる

    小型のアイテムはハンディスキャナで撮影

    小型のアイテムは日本3Dプリンター株式会社の「EinScan Pro HD」でハンディスキャンを行う(スキャンソフトはExScan Pro)

    右の台にアイテムを置き、台がぐるりと回転しているところを、左のハンディスキャナが3D撮影する。小さい雑貨品などに用いられる
    EinScan Pro HD

    <4>豊富な表情デザインと重ね着ができるアバター

    REV WORLDSがねらったユーザー層は、ゲームと親和性が高い人だけでなく、普段ゲームをしない人も含まれる。そのため、アバターのデザインには、間口が広く、誰もが親しみをもてるようなテイストが求められた。当初、リアルな頭身はキャラクター性の観点から避けていたが、一方でデフォルメして頭身を低くしすぎると今度はアバターのファッションを十分に表現できなくなる。その板挟みに悩んだ結果、現実の人間の頭身に近づける方向で調整を行なったという。「紆余曲折ありましたが、最終的にはファッション性と親和性の両方をもち合わせた頭身のデザインに落ち着きました」(川島氏)。

    アバターのモデルはヘア、ボディ、トップス、インナー、アウター、ボトム、シューズとパーツが分かれており、様々なアイテムを組み合わせることで自分好みにカスタマイズできる。特筆すべきは顔周りのバリエーションが豊富なことだ。マス層に受け入れられるシンプルな顔やギャグ顔といったものから、アニメ調やVTuber風といったものまであり、今後さらに変わり種の表情を実装していく予定だという。「着せ替え機能としては珍しく、まったく印象の異なるフェイスに着せ替えすることもできます。この点も本アプリの特徴のひとつだと思います」と岩﨑氏は語る。

    そして本作では、アバターで「重ね着」ができるのも大きな特徴となる。現時点で、アイテムの組み合わせは1億通り以上のパターンがあるという。従来のゲームではパーツ単位での重ね着は技術的にも実装が難しかったが、今回はクラフタースタジオの技術力によりこれを実現した。

    バリエーション豊かなアバターの表情デザイン

    アバターの顔周りのデザインが豊富な点は、REV WORLDSの特徴のひとつと言ってよいだろう

    • 男性アバターの初期デザイン。男女問わずカジュアルな服装がデフォルトだ
    • 女性アバターの初期デザイン。キャラクター性を理解できるよう、表情が添えられている
    表情デザイン集。「オーダーとしては、広い層の方に楽しんでもらえるように、画風を限定してバリエーションを増やすのではなくて、根本的に画風の異なるものを増やすというアプローチでバリエーションを増やしたい、という内容でした」(岩﨑氏)
    今後実装を検討している変わり種の顔の一例

    重ね着コーディネートができるアバター

    REV WORLDSのアバターは、1億通り以上の組み合わせパターンから着せ替えと重ね着のコーディネートを楽しむことができる。そもそも3DCGではめり込みや干渉の問題があるため、衣装をひとつひとつ重ね着させるのは難しい。従来のゲームにおけるキャラメイクでは、衣装1パーツ化してあり、そのパーツを変更して着せ替えすることがほとんどだ。仲田氏はファッション業界のユーザーとして、そこに課題を感じていた。今回クラフタースタジオは、既存の技術を応用し、重ね着を実現。「様々なブランドさんのアイテムを組み合わせてコーディネートするという、現実では当たり前のことができます。なりたい自分になれる汎用システムで、素晴らしいと思います」(仲田氏)

    • 素体CG
    • 素体アバター
    • 着せ替え例
    • インナーとアウターで重ね着をした例

    エクスポートツールによるセットアップの自動化

    REV WORLDSで扱う衣装アイテムのアセット数は取材時点ですでに329点と膨大。しかもその性質上、どんどん増えていくものである。作業の効率化が欠かせない部分ということで今回、3ds Maxを使った自社のエクスポートツールを開発した。プロジェクト管理ツールShotGridに必要な情報を登録してエクスポートツールを通せば、セットアップ、コスチュームごとの適切なスキニング、マテリアルの設定、サムネイルの作成、Unityへのエクスポートまでを自動で行なってくれる。ツールは川島氏が2ヶ月ほどかけて開発し、その後もメンテナンスを続けている。今後は衣装以外にも応用できるよう、同様のツールを開発中だ。「ボーン数やセットアップ量には肌感覚と技術の両面が必要で、熟練度が試される開発です」(川島氏)

    ShotGridの画面から。各アイテムの属性情報(肌が含まれれるかどうかなど)を設定しておく
    エクスポートツールのUI
    • Unityへのエクスポート
    • セットアップ中の様子

    華やかな場をつくるNPC群のモデリング

    NPC(ノンプレイヤーキャラクター、本作では販売員とアクセント的な買い物客など)の制作においては、まず三越伊勢丹の社員がコンセプトアートを描き、クラフタースタジオがキャラクターデザインを起こしてモデリングする。あるいは、もっと簡便なケースの場合は販売員を360度写真で撮影して、そこからモデルを起こす。先述の全身3Dスキャンによるリアルな販売員アバターとは異なり、キャラクタライズしたルックに落とし込む

    • 1階のNPC販売員
    • デパ地下のNPC販売員
    • 女性客のNPC
    • 男性客のNPC

    販売員アバターの動きはモーションキャプチャでリアルに表現

    販売員アバターのモーションは、赤坂にあるCRAFTARのキャプチャスタジオで撮影。日頃から同社作品に携わるモーションアクターが、三越伊勢丹の社員から動きの指導を受け、必要な仕草を撮影した。「株式会社モーションアクターの杉口秀樹さんたちの知見もお借りしながら、伝わりやすいアクションになるように意識して現場でつくり込みました」(川島氏)

    • モーションキャプチャの撮影風景。全モーションは男女で2パターン制作
    百貨店の販売員ならではの手を身体の前で重ねる丁寧なお辞儀。角度まで決まっているという。販売員アバターはもちろん、ユーザーアバター用のモーションにも採用した
    什器の内側にいる販売員の動きにもモーションキャプチャを用いている

    <5>REV WORLDS×東京都三鷹市立第三小学校バーチャルファッションショーを開催

    現在、「REV WORLDS」では期間限定で、東京都三鷹市立第三小学校の5年生(106名)がデザインした未来のファッションがアバターとなるバーチャルファッションショーを開催中だ。18チームに分かれてデザインしたファッションを、審査会を通して上位3作品を含む最終9作品を選定。今回9作品がVR上のアバターファッションとしてランウェイを歩く。また、実際に小学生が描いたデザイン画やアート作品を仮想伊勢丹新宿店屋上にて展示するほか、4月20日(水)よりアバターの着せ替えアイテムとしても登場。ユーザーは未来のファッションを実際に体験することができる。

    「REV WORLDS」
    バーチャル会期:2022年3月22日(火)~4月19日(火)予定
    (各日正午、午後5時、午後9時)
    場所:仮想伊勢丹新宿店前
    詳細はこちら

    TEXT_日詰明嘉
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada