エピック ゲームズ ジャパンが主催するUnreal Engineの公式大型勉強会「UNREAL FEST EXTREME 2022 SUMMER」が、5月23日(月)から5月28日(土)にかけて開催された。本稿では5月26日(木)に行われたエピック ゲームズ ジャパンの講演「Unreal Engine 5.0 ノンゲーム向け機能紹介」の模様をレポートする。
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イベント概要
「UNREAL FEST EXTREME 2022 SUMMER」
日時:5月23日(月)~28日(土)
場所:オンライン配信
www.unrealengine.com/ja/events/unreal-fest-extreme-2022-summer
UE5.0 レンダリング関連の新機能や改善点
講演にはエピック ゲームズ ジャパンのSolution Architect 向井秀哉氏が登壇。4月に正式リリースされたUnreal Engine 5.0(以下、UE5.0)の新機能の中から、映像、自動車、建築などのノンゲームの分野でも活用できる新機能や改善点を紹介した。今回のレポートではレンダリング関連の機能とGeometry Toolsを中心に取り上げる。
最初に紹介されたNaniteは、UE5.0の目玉ともいえる、大量の頂点をもつジオメトリを扱える機能だ。スカルプトモデルやフォトグラメトリ、CADなどのハイポリゴンなメッシュを、よりハイディテールな状態で活用できる。
これまでは処理速度を上げるためには段階的なLODを自分でつくらなければならなかったが、Naniteを有効にすれば距離に応じてポリゴン数が減っていくためLODをつくる必要がなくなり、ノーマルマップのベイクなどの手間も減る。建築の分野ではフォトグラメトリーを、製造業ではCADを扱う機会が多いため、Naniteは大いに役立つだろう。
昨年5月にリリースされた早期アクセス版からもいくつかの改善が施されており、スタティックメッシュの中のNaniteの設定もそのうちのひとつだ。Fallback メッシュはPath TracerなどNaniteが扱えない状況で使用されるメッシュで、早期アクセス版でのProxy メッシュという名称から変更となった。
正式版では三角ポリゴンの比率に応じてポリゴン数を減らせるFallback Triangle Percentに加えて、Fallback Relative Errorが追加された。こちらは数値を上げるほど重要度が低いところからサイズに応じて三角ポリゴンの数が減っていき、0の場合は無効となる。
なお、三角ポリゴンの比率を維持するKeep Triangle Percentと、メッシュの大きさに応じて三角ポリゴンを減らすTrim Relative Errorも三角ポリゴンの削減に関するものだが、こちらはNaniteが使える場合での設定。ディスク容量の削減にのみ有効で、パフォーマンスの向上には影響しない。
新たに追加されたNanite Toolsでは、Naniteに対応していない機能を使用しているメッシュやNanite化した方が良いメッシュを探すことができる。特にUE4から移行したプロジェクトの場合、Naniteの使用を意識してつくられていないため確認に便利だ。
注意点としては、早期アクセス版ではDirectX 11でもNaniteが使用できたが、正式版からはDirectX 12が必要となったことを挙げた。DirectX 11は非サポートのため、もしUE4から移行したプロジェクトでNaniteが機能しない場合はDirectXのバージョンを確認した方がいいだろう。
Lumenは動的なグローバルイルミネーション(GI)や反射を描画する機能である。従来は綺麗なGIを表現する場合はライトベイクが必要になり、反射をリアルタイムで表現する際はスクリーンスペースリフレクションや負荷のかかるレイトレーシングが選択肢であったが、UE5.0ではLumenで容易に実現できる。
GPUがRTX 2000もしくはAMD RX6000以上であればハードウェアレイトレーシングも使用でき、よりハイクオリティなビジュアルを生み出せる。GIを伴う天候や時間の変化など、今までは難しかったことも可能になった。
Lumenも早期アクセス版から機能が改善している。例えば以前はガラスなどの半透明のマテリアルを使用した部分は光を通さずに影になっていたが、ハードウェアレイトレーシングの使用時には透過するようになった。
UE4のレイトレーシングはUE5.0正式版でも使用可能だが、基本的にはLumenに置き換わっている。反射とGIに関してはPost Process Volumeから切り替え可能だが非推奨で、Lumenがその代わりとなる。
Path TracerはUE4.27で大幅に改善され、それを引き継ぎながらUE5.0でもバージョンアップした。例えばEyeとHairのシェーディングモデルに対応し、キャラクターのルックデヴが行いやすくなった。
被写界深度については、正式版から「被写界深度(DOF)の参照」の設定が追加され、チェックを入れれば半透明なものであっても正しく表現できるように。パフォーマンスも改善しており、UE4.27に比べて平均で2倍の速度を実現した。
なお現状ではPath TracerはNaniteに対応していないため、Fallbackメッシュが使用される。前述のようにFallback Relative Errorを0にすれば元のメッシュと同じポリゴン数となる。
向井氏は「Path Tracer全体としては、ほかのUEの機能に比べても最適化できていない部分がまだまだある」と今後も改善の余地が多いと語った。
レンダリング関連で最後に紹介されたのがLocal Exposureだ。従来の露出機能に追加されたもので、露出側でハイライトを抑えてシャドウ部分をもち上げる機能である。白飛びや黒潰れを抑えてディテールを強調でき、ノンゲームでも建築などの分野で特に役立ちそうだ。
ビューポートの表示からLocal Exposureの効果も確認できる。緑が明るさを抑えた部分、赤が暗さをもち上げた部分であり、効果を実際に見ながらパラメータを調整できるのも嬉しい点となっている。
豊富なGeometry Toolsをラインアップ
Geometry Toolsに関しては、Modeling Toolsが大きく進化した。基本的なジオメトリの作成やエッジの追加、フェース単位での移動など、モデリングに必要な最低限な機能が揃っている。さすがにMayaや3ds Max、BlenderなどのDCCツールとの代替レベルではないものの、ワークフローを含めて現在も開発中だ。
ピボットの位置変更についてはレベル上のアクター単位だけでなく、アセット自体の位置を手軽に変更できるようになった。ベベルはDCCツールでよく使う機能であり、これまでも多くのユーザーから要望が寄せられていたこともあって実装。こちらもスタティックメッシュアセット単位で適用されるため、同じアセットを使用したアクターもAcceptを押すことで変更される。
向井氏が個人的に嬉しい機能だと語ったのがマテリアルエディットである。フェースを選択し、新規にマテリアルを割り当てることができる。今まではDCCツールに戻してアサインし直さなければいけなかったが、その手間が省けるようになった。
UV編集に最低限必要な機能も用意された。Modeling ToolsでゼロからきちんとしたUV展開するのはまだ難しいものの、既存のUVを少し編集したいときや、CADをインポートしてUVがない場合に簡単に展開したいときに役立つ。
例えばXFormではUVのスケールや回転が可能。UVシームの追加と合わせて、木目の向きを調整などにも使用できる。ミスを見つけた際の手直しなどにも便利だろう。
さらにUV Editorというプラグインも追加された。こちらもDCCツールほどの機能ではないものの、Modeling ToolsのUV編集よりも使いやすく、操作感はDCCツールと変わらない。簡易的なUVの調整に重宝しそうだ。
最後に紹介したGeometry Scriptは、ブループリントやPythonでモデリングができるツールである。今までもコンストラクションスクリプトでプロシージャルな配置などができたが、こちらはより豊富なモデリング関係の機能が含まれている。まだ実験段階の機能だが150以上のノードがあり、既存のスタティックメッシュやジオメトリをつくったものにも変更を加えることができる。
講演ではGeometry Scriptを用いた使用例として螺旋階段を紹介。コリジョンの追加やマテリアルの割り当てなども可能である。また正式版ではハードウェア テッセレーションは削除されているが、Geometry Scriptにはテッセレーションがあるため、メッシュを分割してディスプレイスメントを適用できる。
そのほか、バーチャルプロダクションやパイプライン関連の新機能、テンプレートやサンプル、正式版移行時の注意点などを紹介。後半は質疑応答のコーナーも用意され、正式版の内容を幅広く網羅する講演となった。
講演動画
講演資料
TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada