CGWORLD編集長の若杉 遼は、『スター・ウォーズ エピソード1 /ファントム・メナス』をきっかけにCGの仕事に興味をもった。東京工科大学 メディア学部を卒業後、Academy of Art University(以下、Academy)でCGアニメーションを学び、2013年にPixar Animation Studios(以下、Pixar)にてCGアニメーターとしてのキャリアをスタートした。2015年以降はSony Pictures Imageworks(バンクーバー。以下、SPI)に所属している若杉に、自身のワークフローを語ってもらった。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 285(2022年5月号)からの転載となります。
INFORMATION
今日までの道のりは、理想のワークフロー探求の旅でもあった
CGWORLD編集部(以下、CGW):本特集は「CGアニメーションのワークフローを取材したいです!」という編集会議での若杉さんのひと声から始動しました。実のところ「それって特集として成立しますか?」と半信半疑だったんですが、予想以上に骨太の特集になりそうで、びっくりしています。
若杉 遼(以下、若杉):僕にとってのワークフローは、RPGで武器や装備を強化していく感じに近いです。いろいろなワークフローを知って、試して、「このやり方はすごく良い」「これは自分に合わない」といった判断をしながら、時間をかけて磨いていくものだと思います。アニメーションを学び始めてから今日までの僕の道のりは、自分の理想のワークフローを探求する旅でもありました。
Ryo Wakasugi
CGWORLD編集長/CGアニメーター
主な参加作品:『モンスター・ホテル4』、『ミッチェル家とマシンの反乱』、『スパイダーマン:スパイダーバース』
twitter.com/Ryowaks
CGW:本特集で紹介するワークフローが、読者の旅に活かされることを願いたいですね。
若杉:はい! 同じ作品に携わっていても、ワークフローはアニメーターによって様々です。本特集で取り上げる僕を含めた6人のアニメーターのワークフローも、きっとバラバラだと思うんです。片っ端から試して、自分の武器や装備を磨いてほしいです。
CGW:若杉さんがアニメーションを本格的に学んだのはAcademyへの入学後ですか?
若杉:日本で大学生をやっていた時代に、当時はIndustrial Light & Magic(以下、ILM)所属だった小山 誠さんにアニメーションの基礎を教えていただきました。小山さんを知ったきっかけは、CGWORLDの鍋 潤太郎さんの連載だったんです。
CGW:今は「新・海外で働く日本人アーティスト」と題してCGWORLD.jpに掲載している長期連載ですね。
若杉:『スター・ウォーズ』をつくっているILMで日本人が働いていることに驚いて、mixiでご本人を見つけたのでメッセージを送りました。その1年後くらいに「オンラインクラスをやろうと思っています」という連絡をいただき、受講することにしたんです。その後、大学卒業後に渡米して、Academyでアニメーションを専攻しました。
CGW:Academyと言えば、Pixarの現役アニメーターが講師を務めているPixarクラス(通称)があまりにも有名ですね。
若杉:僕自身、Pixarクラスで学びたいからAcademyに入りました。Pixarのアニメーターは「キャラクターを動かす」という表面的な部分ではなく、もっと深いところからアプローチするんです。キャラクターの心情を、深く掘って、考えに考えて、ショットをつくります。あの時代に学んだ考え方が、今もぶれずに僕の中にある気がします。
CGW:そういうのって、頭で情報として理解する段階と、腹に落ちる段階とで、影響力が全然ちがいますよね。Pixarの方々と、時間をかけて、何回も接する中で、腹に落ちていったんだろうなという気がします。
若杉:そうなんですよ! 教えてもらったというよりは、いろいろな話をする中で、「この人たちはそこまで考えるんだ」という驚きがじわじわ染み込んでいった感じです。
CGW:仕事を始めてからの出来事で、印象に残っていることはありますか?
若杉:仕事の中での失敗ですね。僕はわりと頑固な性格で、何回指摘されても直せない部分があったんですが、失敗することで、自分の弱点や欠点と素直に向き合えるようになった気がします。失敗によって、自分のプライドや固定観念が崩れていったんです。それから、SPIには世界中から優秀なアーティストが集まってくるので、常に失敗と隣り合わせの緊張感があります。ベストを出し続けないと生き残れない今の環境は、自分を成長させてくれるので感謝しています。
CGW:そんな仕事と並行して、アニメーションエイド(以下、エイド)の講師をやり、編集長もやるという攻めの姿勢は、頼もしい反面、無理しないでくださいねと言いたくなります(笑)。講師をやっているとデモリールを見る機会も多いですよね。つくるときのポイントも、この機会に教えてください。
若杉:SPIやPixarに応募するなら「ベストワークだけを入れる。量より質」という話になりますが、日本には新卒採用枠があるので、同じことが言えるとは限らないと思います。新卒の場合は、ウォークサイクルやランサイクルを充実させることで、基礎が備わっていることを伝えるというやり方もありなんじゃないでしょうか。ある程度の質が保たれていれば、量を見せた方が将来性を感じてもらえるかもしれません。応募する会社と自分の立場によって最適解は変わってくると思うので、相手が求めていることと、自分が売り込めることを見比べて、ベストの見せ方を考えてほしいです。
ワークフロー STEP1 キックオフミーティング&リファレンス収集&プランニング
自分の引き出しを信用しない
CGW:そろそろ本題に入りましょう。若杉さんのワークフローについて、最初から順番に教えてください。
若杉:まずは、監督、スーパーバイザー(以下、SV)、リード、アニメーターが集合して、キックオフミーティングをやります。
CGW:SPIのアニメーション映画のエンドクレジットを見ると、大勢のアニメーターの名前が並んでいますね。どういう編成で進めるんですか?
若杉:ひとつのシー クエンスを10~20人程度のチームで担当します。少ないと30ショット、多いと100ショットくらいありますね。ミーティングはシークエンス単位で行います。ストーリーボードやレイアウトを見せながら、監督がシークエンス全体のながれを説明してくれます。その時点では自分の担当ショットが決まっていない場合もありますが、なるべく質問するよう心がけています。質問が何も思いつかない場合は、確認のための質問をします。例えばキャラクターが怒っているショットなら、「これって、めっちゃ怒ってるんですよね?」みたいな感じです。そうすると監督は「そうだよ。キャラクターはこう考えているから、こういうリアクションになるんだよ」というようにプラスアルファの情報をくれるんです。
CGW:そのショットを自分が担当するなら、語られた情報が指針になるわけですね。
若杉:そうです。さらにミーティングの後で、SVとリードのところまで確認に行ったりもします。「このアイデアでいこうと思っているんだけど、どうかな?」という感じで、作業を始める前に相談するんです。そうすると、「実はこういうアイデアがあって……」と逆提案される場合もあります。ショットのチェックを受けるときは、まずリードのOKをもらい、次にSVのOKをもらってからでないと監督に見てもらえません。だからSVとリードの考えも把握しておいた方が良いんです。
CGW:つまり、事前確認なしでショットをつくってSVやリードに見せた場合、「先に教えてよ」と言いたくなるアイデアを聞かされることもあり得るわけですね。
若杉:そういうことです。ブロッキングした後で全然ちがうアイデアを提案されて、全部つくり直したことも過去にはありました。
CGW:えっ……。
若杉:ミーティングの後は、リファレンス収集をやりつつ、プランニングをします。僕の場合は、最初にスケッチブックに動きやポーズのアイデアを描き出します。いきなり自分の動きを撮るとそれに引っ張られてしまうので、まっさらな状態でインスピレーションを描くようにしています。後は、Googleなどで画像検索もやりますね。例えば「kid」「fall(転ぶ)」といったキーワードを入れれば、何十というポーズが表示されて、「これは自分の頭の中になかったな」というものが見つかります。YouTubeの動画検索は見たい動きにたどり着くまでに時間がかかるので、あまり使わないです。
CGW:やっぱり英語検索なんですね。
若杉:英語の方が数が豊富です。加えて、SPIでは英語圏の人を扱うことが多いので、それっぽいジェスチャーがほしい場合は英語検索の方が参考になります。僕は自分の引き出しを信用しておらず、ゼロから面白いアイデアを思いつけるタイプではないと思っています。だから毎回、自分の引き出しにない何かを探すようにしています。
CGW:スケッチや検索を通してイメージが明確になったら、自分の動きを撮るというながれですか?
若杉:そうです。動きを確認しながら、iPhoneと小さい三脚を使って何テイクも撮ります。iPhoneの位置やアングルは、ショットのカメラに合わせますね。
CGW:リファレンス収集とプランニングにかけられる時間はどのくらいですか?
若杉:1ショットあたり半日程度です。3秒程度の短いショットだと5日くらいで仕上げる必要があり、あまり余裕はありません。
スケッチと、リファレンスの撮影
ワークフロー STEP2 ブロッキング&スプライン
内容に応じて補間方法を変える
CGW:次の工程はブロッキングですか?
若杉:そうです。プランニングした動きをリグで再現していきます。ただし、その作業に入る前の準備があります。例えば剣で戦うショットだと、剣と手のコンストレインを設定します。最近の僕はレイアウトアーティストとしてプロジェクトに参加しているので、カメラの階層構造を設定する機会が増えました。これらをちゃんと設定しておくと、後ですごく助かります。それから、データを軽くするための設定もやります。映画用のリグはメチャクチャ重いので、そのままだとリアルタイムにアニメーションを再生できず、プレイブラストの生成にも時間がかかります。だからジオメトリだけ軽いものに差し替えた作業用のリグをつくります。
コンストレインの設定と、データの軽量化
CGW:けっこうカスタマイズするんですね。
若杉:はい。さらにブロッキング用のコントローラをピッカーに登録します。完璧なポーズを求めて最初から細かいコントローラまで触ると、大きな変更が発生したときのダメージが大きいし、作業スピードも遅くなります。ブロッキングでは使うコントローラを最小限にするのが僕のポリシーです。例えば頭を動かす場合はIKを使い、首が自動的に追従するようにします。ただし指や眉は例外で、最初から細かいコントローラまで触ります。そこを制限すると、表現力がかなり損なわれてしまいます。
ブロッキング用コントローラのピッカー
CGW:ワークフローの後半になるほど、触るコントローラが増えるのでしょうか?
若杉:ポリッシュまで進めばゴールは明確になっているので、コントローラを増やしても問題ありません。逆にブロッキングは自分のアイデアを監督にプレゼンテーションする段階なので、アイデアが却下されたらガラッと内容が変わります。自分のアイデアが明確に伝わるように、ショットの内容に応じて補間方法を変えることも大事です。例えば、全身を使った派手なアクションなら階段状のステップ補間で伝わるけど、繊細に表情が変化するショットなら曲線状のスプライン補間の方が良いといった感じです。
CGW:最初からスプライン補間でブロッキングする場合もあるんですね。
若杉:エイドで教えていると、受講生から「ブロッキング=ステップ補間だと思っていました」という声をよく聞きます。でも、ブロッキングからスプラインまで、一貫してスプライン補間で作業する人もけっこういます。ステップ補間のポーズは手描きアニメの原画に相当するので、再生するとキレキレの動きに見えるんです。それをスプライン補間にしたら、途端にぬるっとした動きになったというケースはよくあります。「なんでだ?」と戸惑う初心者が多いですね。
CGW:キーの位置が同じでも、カーブが変わると動きもガラッと変わるわけですね。
若杉:キーの数や位置が適切でないと、そうなっちゃいます。迷走しないためには、それを理解しておくことが大事です。とはいえ闇雲にキーを増やすと、後々の管理が大変になるのでバランスが難しいです。そこの頭の切り替えが面倒で、最初からスプライン補間しか使わない人もいますね。僕の場合は、ブロッキングをやりながらステップ補間とスプライン補間を行ったり来たりして、移行後のカーブが理想通りになるかを確認しています。後は、ブロッキングのプレイブラストを保存しておき、スプラインの作業画面の背景に表示するというのもよくやります。
CGW:ブロッキングのプレイブラストと、作業中のスプラインのアニメーションをMayaの中で同時再生して見比べるわけですね。
若杉:そうです。プランニングやブロッキングで思い描いたスピード感やタイミングからずれていないか、確認しながら作業します。同様に、リファレンスも背景に表示しながら作業することが多いです。
CGW:主要なポーズはブロッキングでつくり、スプラインではスピード感やタイミングを調整するというながれでしょうか?
若杉:そうです。そこが一番崩れやすいので、キーをずらして微調整していきます。「キーを追加しないと、ポーズが崩れるな」と思ったら、追加のキーも打ちます。それから、各プロジェクトには監督がOKを出したポーズを登録したライブラリもあるんです。ブロッキング段階の表情や指は、ライブラリにあるポーズを使う場合もあります。でも、そのまま最後まで使えるケースはほぼないので、スプライン段階で調整します。SPIでは、各アニメーターが個人的につくったポーズもライブラリに登録でき、自動的にプロジェクトメンバーに共有されます。
CGW:プロジェクトが進めば進むほど、ライブラリが充実していくわけですね。
若杉:そうです。ただし、ライブラリのポーズを入れると、自分が普段使わないコントローラのキーが打たれてしまう場合があります。無秩序に入れると収拾がつかなくなるので要注意です。
CGW:ブロッキングとスプラインの時間配分はどんな感じですか?
若杉:一連のワークフローの中で、最も大事で面白い工程はブロッキングだと僕は思っています。そこで監督からアイデアに対するOKが出れば、後は綺麗に仕上げるだけなので、気持ちは楽になります。でも後半になるほど作業量は増えるので、全体で5日使えるとしたら、ブロッキングに1日、スプラインに2日、ポリッシュに1.5日くらいの配分になります。正直、ポリッシュはやりきれないことが多いです。時間の許す限り手を入れるという感じです。
CGW:アイデアに対するOKがなかなか出ないというケースはありますか?
若杉:アイデアが全然決まらなくて何回も何回もやり直すというのは、けっこうあります。どの監督もアイデアに対しては妥協しないので、2週間で仕上げる予定だったショットが4週間かかったということもありました。方向性が決まっておらず、「面白いアイデアを入れてください」という感じでふられるショットだと、オルト(Alternativeの略)と呼ばれるバージョンちがいを、A案、B案のような感じでつくったりもします。それでも、アニメーターが参加するタイミングだと、ある程度は方向性が決まっているんです。より上流のレイアウトの方がもっと漠然としているので、レイアウトを担当している今は、アニメーターのとき以上に数多くのオルトをつくっています。
スプラインの進め方
ワークフロー STEP3 ポリッシュ
始める前に別名保存する
CGW:ポリッシュに入ると、どんな作業をするんですか?
若杉:以前、Michal Makarewiczさん(Pixarに約19年間務めた後、2021年末よりSpire Animation Studios(以下、Spire)のキャラクターアニメーション責任者を務めている)のクラスを受けたときに、「ポリッシュは、サラダにおけるドレッシングみたいなもの」というようなことを教えてもらいました。美味しくないサラダをドレッシングでどうにかしようとしても限界があるのと同様に、「なんかおかしいな」というショットをポリッシュでどうにかしようとしても、時間を空費するだけなんです。
ポリッシュの進め方
CGW:それ以前の段階で、違和感をつぶしておく必要があるわけですね。
若杉:ポリッシュに入ると触るコントローラが増えるので、どこに問題があるのかますますわからなくなって、深みにはまるというパターンが初心者のうちはよくあります。例えば、腰の動きがおかしいことに気づかないまま背中や股関節のコントローラをいじってしまい、気づいたときには全身を直さないといけないといった事態に陥りがちです。ポリッシュを始めたら後戻りできないと思って、ファイルを別名保存しておくことをオススメします。
CGW:深みにはまっても、別名保存しておけば最初に戻ることはできると?
若杉:そうです。ポリッシュでやるのは、イーズイン・イーズアウトやオーバーラップの調整、身体のやわらかさの表現、髪や服の揺れ表現、めり込み修正などだから、作業自体はシンプルです。Michalさんは「ブロッキングはアイデアを考える段階なので、すごく集中するし、音楽も聴かない。逆にポリッシュになったら、音楽を聴きながら作業できる」と語っていました。ただし、1フレーム単位で細かく調整するから時間はかかるんです。一方で、やりすぎるとオーバーポリッシュと呼ばれる状態になり、動きのキレがなくなってしまいます。
CGW:絵を仕上げるときに、全部に全力で手を入れると主役がどこだかわからなくなる現象に近い感じでしょうか?
若杉:そうかもしれないです。例えばアクションの場合は、若干のガタガタ感を残しておいた方が良いこともあります。全てが滑らかだとインパクトが弱くなりますね。それから、監督のOKはポリッシュ前に出る場合もあります。基本的に、アイデアが良ければ監督はOKを出します。アニメーションの品質に関しては、SVとリードがチェックするという棲み分けになることが多いです。
CGW:「1回OKしたけど、やっぱり直して」といった後出しはありますか?
若杉:普通にあります。
CGW:あるんだ(笑)。ほかのショットとつないでみたら、辻褄が合わないから直したいみたいな感じですか?
若杉:そういうケースもありますし、CBB(Could Be Better)と言って、「OKなんだけど、時間があったらちょっと直したい」というリストに入れられるショットもありますね。制作の末期には、CBBのショットの手直しが回ってくることもあります。その時期になると、ショットを担当したアニメーターがプロジェクトから離れているケースも多々あるので、ほかのアニメーターがCBBだけ担ったりもします。
CGW:映画館で観てみたら、自分がつくったショットと微妙にちがうといったこともあり得るわけですね。
若杉:それはまだ良い方で、担当ショットが使われていないという場合もあり得ます。編集でまるごとカットされてしまうこともあるので、映画館に観にいくときは毎回ドキドキしますね。
ポリッシュ前とポリッシュ後の比較
先入観に囚われるのではなくいろいろなやり方を試したい
CGW:今まで試した中で、上手くはまらなかったワークフローはありますか?
若杉:Michalさんのクラスで、レイヤーを重ねるように、腰→胸→頭の順番で動きをつくっていくレイヤードアプローチを教えてもらったのですが、腰の動きだけで最終形を想像するのが難しく、動きがぬるくなりがちで、扱いが難しいなと思いました。だいぶ慣れましたが、今も使いこなせているわけではないですね。
CGW:過去と現在のワークフローを比較したときに、どんなちがいがありますか?
若杉:柔軟性が増したと思います。学生の頃はクラスで習ったポーズ・トゥ・ポーズとステップ補間によるつくり方を忠実に守っていたんですが、仕事を始めてみたら、ワークフローは人によってバラバラでした。SPIには、監督にアイデアを提案するときに「ほぼポリッシュだよね」と言いたくなるほどつくり込んだものを見せる人もいれば、何パターンかのリファレンスを見せる人もいます。
CGW:ブロッキングしたアニメーションを見せるのではなく、自分が演じたリファレンスを見せる人もいるということですか?
若杉:そうです。『スパイダーマン:スパイダーバース』のときから、そのやり方が広まっていきました。すごく繊細な演技が求められるプロジェクトだったので、ブロッキングをつくってアイデアを売り込むのは効率が悪いということに、多くのアニメーターが気づいたんだと思います。5~10パターン程度のリファレンスを見せて「どれが良いですか?」と監督に選んでもらい、それをブロッキングした方が無駄がなかったんです。
CGW:面白い。SPIでも、ワークフローの探求が現在進行形で続いているんですね。
若杉:当初、僕はそのやり方に抵抗があったんです。リファレンスはあくまで参考資料なので、ブロッキング段階で自分のオリジナリティを加えたり、誇張したりしたものを監督に見せたいと思っていました。でも何回かそのやり方を試したら、確かに作業効率が良かったんです。だからこれからも、先入観に囚われるのではなく、いろいろなやり方を試していきたいと思っています。
Information
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.285(2022年5月号)
特集:6人のアニメーターに聞く CGアニメーションのワークフロー
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2022年4月8日
INTERVIEWER & TEXT _尾形美幸(CGWORLD)、文字起こし_奥村ひとみ
EDIT_山田桃子、 海老原朱里(CGWORLD)
PHOTO_蟹 由香