VRChat内の人気クラブワールド「GHOSTCLUB」本誌284号の特集でも取り上げたが、この制作と運営にあたっているのは日常的にVRChatを楽しむ若手アーティストたちだ。今回はそのメンバー10名に改めてインタビューを実施。2021年5月に公開されたワールド「GHOSTCLUB5.0」の制作をメインに、開発秘話や効率化のためのオススメツール、GHOSTCLUBの今後の展開などについて聞いた。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 290(2022年10月号)からの転載となります。

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記事の目次

    Information

    クラブワールド「GHOSTCLUB」
    https://ゴーストクラブ.コム
    Copyright©GHOSTCLUB All Rights Reserved.

    VRChatで知り合い自然に今のメンバーに

    CGWORLD(以下、CGW):まずはみなさんのGHOSTCLUBでのご担当やプロフィールを教えてください。

    0b4k3氏(以下、0b4k3):GHOSTCLUBのディレクターを担当しています。

    Rintaro氏(以下、Rintaro):GHOSTCLUBではコンセプトアート、全体のビジュアルのアートディレクションを担当しています。普段はフリーランスのイラストレーターです。

    rakurai氏(以下、rakurai):背景部分の環境表現やそのほかのエフェクト類を担当しています。普段は3DCGやUnityを扱う仕事をしています。

    phi16氏(以下、phi16):GHOSTCLUBのクラブルームのライティングに関するシェーダ、プログラム周りを担当しています。また、クラブ内の機材を動かすプログラムも担当しています。普段の仕事もCGエンジニアです。

    fotfla氏(以下、fotfla):クラブルームの照明や入場演出のギミック、エフェクトを担当しています。普段はUnityのエンジニア、場合によってはUnreal Engineも触ったりしています。

    Reflex氏(以下、Reflex):環境モデリング、新しく設置されたVJ機材のモデリング、配信まわりのオペレーションを担当しています。普段は3Dアーティストとしてフリーランスで活動しています。

    tanitta氏(以下、tanitta):クラブルーム以外のビルの配線を主に担当しました。普段も3DCG制作を仕事としており、HoudiniやUnityなどを触っています。

    amanek氏(以下、amanek):GHOSTCLUBの中では中庭と天窓の制作、期間限定で行われたファッションブランド「chloma」とのコラボではストア内部のデザインやモデリングを担当しました。普段は建築ビジュアライゼーションを仕事としています。

    free458679氏(以下、free458679):GHOSTCLUB5.0では建物のモデリングを担当しました。普段は3Dモデラーとしてフリーランスで活動しています。

    Cap氏(以下、Cap):GHOSTCLUBではモデリングを担当しました。普段はフリーのモデラーとして活動しています。

    Interviewee

    最前列中央、ディレクター&アートディレクター・Rintaro氏/画像左より、エンジニア・fotfla氏、ビルダー・free458679氏、エンジニア・phi16氏、インストゥルメントアーティスト・Cap氏、ディレクター・0b4k3氏/ジェネラリスト・Reflex氏、エンバイロメントアーティスト・rakurai氏、モデラー・amanek氏/最後列中央、ワイヤリングアーティスト・tanitta

    CGW:さっそくですが、みなさんがGHOSTCLUBの制作にあたって使用されている主なツールを教えてください。

    0b4k3:Unity、BlenderCinema 4D、Houdini、Substance 3D Painterなどですね。場合によっては、テクスチャにPhotoshopを使うこともあります。

    CGW:ありがとうございます。さて、それではさっそく、GHOSTCLUBはどのような体制で運営されているのでしょうか?

    0b4k3:イベント開催時には僕が主催で、Reflexが配信などの技術的なサポートを行なってくれています。GHOSTCLUBのワールドを増改築する際は、必要に応じてその時々にメンバーを集めており、決まったメンバーだけで制作しているわけではあまりありません。メンバーも必ずしも意図的に集めたわけではなく、ほぼ全員がVRChatで知り合っており、そこから自然に制作に携わるようになっていったという経緯があります。

    CGW:最新バージョンである「GHOSTCLUB5.0」は2021年の5月から公開されていますね? そのときはどうされていたのでしょうか?

    0b4k3:GHOSTCLUB5.0の制作に関しては、最初に僕とRintaroでコンセプトを決め、徐々に必要な人員をお誘いして、最終的に今のメンバー構成になりました。基本的には仲が良いから自然に集まることが多いのですが、amanekさんに関しては、普段から制作されているワールドの作風をGHOSTCLUBにも取り入れたいと考えてお声がけさせていただきました。

    amanek:私はGHOSTCLUBにお客さんとしてクラブを楽しみに通っていたので、まさかお誘いいただけるとは思いませんでした。メンバーとして呼んでいただいた当初はモデリング初心者でしたが、GHOSTCLUBに強く惹かれ、勇気を出して制作に加わろうと思いました。

    CGW:ほかのみなさんも、5.0へのアップデートにメンバーとして参加されることになった経緯やそのときの気持ちなどを教えていただけますか?

    free458679:以前からGHOSTCLUBの制作には携わっていたのですが、建物の制作は経験がなかったため、若干躊躇しました。ただ、面白そうだったので、参加させてもらうことにしました。

    tanitta:0b4k3さんから連絡が来たときは、プロシージャルにものをつくることができる人を探していたらしく、僕に白羽の矢が立ったと記憶しています。その後、何を制作するか話し合いを重ねて、最終的には配線周りをHoudiniで制作することになりました。また、細かなテクスチャの変換作業、データの一括処理もHoudiniで作業しています。

    rakurai:GHOSTCLUBとは別の、個人制作として進めていたワールドや環境表現に関するエフェクトが0b4k3さんの目に留まり、今回のGHOSTCLUBの制作に活かせそうだということで制作に参加しました。GHOSTCLUBに初めて訪れたのが2018年頃ですが、そこからワールドのバージョンアップに伴いクオリティがどんどん高まっていくのを目にしていたので、制作に関するお話をいただいたときは驚きました。

    fotfla:もともと5.0とは別に、照明演出まわりを改善する話をいただいており、そこから自然に5.0のプロジェクトにジョインした感じです。

    phi16:私が呼ばれた当初の理由は、ワールドの制作というよりは、GHOSTCLUBの新しいロゴを用いて遊ぶためでした。見ていただければわかるのですが、GHOSTCLUBのロゴは大分変わっていて、動かし甲斐があるんです。そこで、私に少しいじってほしいという依頼があったのが発端です。その後、fotflaさんと一緒にクラブルームにある演出用の機材の設計を担うことになりました。

    Cap:参加時期はfotflaさんやphi16さんと近く、もともとGHOSTCLUBのモデリングをお手伝いした経験があり、そのながれで参加しました。自分としても、大きめの制作に関わりたいと思っていたので、5.0のワールド制作への参加は嬉しく思っています。

    Reflex:去年の1月くらいに、0b4k3さんから新しいワールドでイベントの配信をやるからその手伝いをしてほしいと頼まれ、そのままながれでGHOSTCLUBの制作にも参加することになりました。ちょうど別の個人のプロジェクトで制作していたアセットもあったので、それを利用することもありましたね。最近ではもう少しコアな部分まで携わるようになっています。

    様々なツールでコミュニケーションを活発に、意思決定は「面白そう」が基準

    CGW:前回、284号の取材では、モックアップをつくり、その検討をするのはVRChat内で行なっているとのことでした。非常に先進的な取り組みですが、どのようにしてこうしたスタイルにたどり着いたのでしょうか?

    phi16:GHOSTCLUB1.0があった2018年当時から、VRChat内の特定のワールドにあるペンを使って制作のディスカッションをしていました。2019年頃からはペンを様々なワールドに置けるようになったので、自分がつくったワールドに直接ペンを置いてその場でアイデアをブラッシュアップするようになりました。

    VRChat内での意見交換

    GHOSTCLUBの制作ではモックアップの制作後にメンバーがVRChat内でモデルの中に入り、プロップの配置やケーブル配線のながれなどの必要な要素をペンで描いていくという作業を行なった

    0b4k3:もともとVRChatで知り合ったメンバー同士なので、そこで制作を進めていくのはある意味自然だったのかなと思っています。あと、GHOSTCLUB5.0の制作からオンラインホワイトボードの「Miro」を本格的に導入しました。主にRintaroの指示出しや修正依頼で使用しています。最初は一覧性の高さから便利だと思い導入したのですが、制作の途中段階から、膨大なアセットを管理する際にも重宝するようになりました。

    Rintaro:「一度制作して終わり」というプロジェクトならこのようなSaaSを使う必要はないのですが、今回の5.0制作では長期間にわたってディスカッション、制作、修正作業が発生することが考えられました。こうした状況では、変更があるたび毎回画像を集めて資料をつくるより、リアルタイムに皆で確認し合えるMiroのようなツールの方が意思共有の場として適していると思います。説明や提案もより手軽になったと感じます。特に今回はVRでの写実的な制作になったため、コンセプトアートに描ききれないディテールがたくさんありました。例えば、使用するネジやコンクリートのひび割れ具合、建築物のつなぎ目部分の摩耗など、思いついた瞬間理想をモデラーさんに素早く共有するツールとしてMiroは有効でした。

    「Software as a Service」の略。ソフトウェアを利用者(クライアント)側が導入するのではなく、提供者(プロバイダ)側のコンピュータで稼働させ、利用者はインターネットなどのネットワーク経由でサービスを利用する状況

    free458679:僕は今回、0b4k3さんとRintaroさんからMiroを教えてもらって、プロジェクトを進める上で一緒に使いました。Miroは編集した内容がリアルタイムに反映されるので、検討された案をその場で確認できますし、こちらのフィードバックも即座に反映していただけるので、作業の効率化に役立ちました。制作中はずっと開きっぱなしで作業していましたね。

    Cap:自分もDJ機材などの制作時にはMiroにある資料を参考にしました。直接の資料というよりは、全体の雰囲気を掴むために参考にしたという感じです。他のメンバーが言う通り、資料の共有や作業の反映がリアルタイムなので、今後オンラインでプロジェクトを進める際にはこのようなツールが必須だと思いました。個人的には、制作前の段階や合間のディスカッションではVRChatでのやり取りが最もイメージ共有が早く、具体的な資料の共有や作業内容の確認にはMiroなどのツールが向いていると考えています。

    オンラインホワイトボードMiroの活用

    オンラインホワイトボードMiroにはアートディレクターであるRintaro氏の指示やリファレンス、プロップの一覧などの資料がまとめられている

    CGW:コミュニケーションの話がいくつか上がりましたが、GHOSTCLUBは基本的にオンラインでのコミュニケーションが主ですよね。その点、何か工夫されていることはありますか?

    0b4k3:ほとんどのメンバーが普段からDiscordを使っていたので、制作時もそのままDiscordでコミュニケーションをとっていました。ただ、今回のようなプロジェクトをまとめる際のコミュニケーションツールとして本当に最適なのかは議論の余地がありそうですが。

    phi16:Discordを使っていた理由に関しては、誰かがかならずそこで作業をしていたという点が大きいと思います。制作をしながらコミュニケーションができるので、制作期間中は毎日長い間通話をしながら作業をしていました。お互いのイメージに齟齬を生まないためには、こうしたコミュニケーション方法が向いているのかもしれません。

    CGW:ある意味、仮想オフィスやバーチャルスタジオのような感じでしょうか。

    0b4k3:そうですね。制作時に使用していたDiscordサーバでは24時間誰かしらが作業していて、制作に関係する会話から、何でもない会話まで、いろいろなことを雑談しながら作業していましたね。GHOSTCLUBに関しては皆好きでやっているので、仕事のように必要なときに誰かを呼び出すのではなく、日々のそういった様々なコミュニケーションの中でイメージをすり合わせていく感じでした。そういった意味では、オンライン上にある寝泊りできる制作スタジオみたいなものかもしれません。

    amanek:作業通話以外でDiscordを使って良かった点は、各作業の進捗がわかりやすかったことです。GHOSTCLUBのプロジェクトでは、モデリングやクラブ内のシステム制作、Webサイト制作などの各種トピックをDiscordのカテゴリで分けています。自分が携わっていない作業でも、Discordを起動した瞬間に進捗をすぐ確認できる点が良かったですね。

    CGW:今後、作業効率化に関して、改善していきたいところはありますか?

    0b4k3:5.0のときはデータの管理に大きな課題があったので、今はGoogleドライブでアセットを管理するといった改善策を実行中です。また、制作進行にはNotionも導入しています。

    CGW:皆さん好きでやっているとは言え、制作を進めると意見が対立することもあるのではないでしょうか。異なる意見が出たとき、メンバー内でどう対処していますか?

    0b4k3:そもそも意見が対立することはほとんどなくて、メンバー内で話し合っていくうちに面白いアイデアがいくつか出てきて、そのうちどれかを採用するというのがいつものながれです。判断基準としても、面白いかどうかだけですね。また、僕は一応ディレクターという立場ですが、他のメンバーのアイデアの方が面白いと感じることは多々あります。あまり自分の我を通すことはなく、意思決定は割と緩やかにしていたかなという感じです。

    CGW:その他に、0b4k3さんがメンバーに対して気をつけていることはありますか?

    0b4k3:メンバーには、ひとつひとつの作業を信頼して任せることを心がけています。細かな指示を出すこともありますが、各々でできることを見つけながら進めていくのが趣味性の高いGHOSTCLUBの制作の特徴です。メンバーは普段から個人で作品を制作している人が多いので、グループ制作をわざわざしなくても個人で良いものがつくれてしまう人たちばかりです。それをわかっていて呼んでいるので、皆のスキルを信頼して自分の意見にこだわりすぎないようにしています。

    より実験的な場もつくる? オススメのアドオンも紹介

    CGW:今回集まっていただいた皆さんの中にはBlenderユーザーも多いと思いますが、制作にあたってオススメのアドオンがあれば教えてください。

    0b4k3:BlenderならReflexが講師もしていて詳しいですよ!

    Reflex:そうですね(笑)。講師やらせてもらってます。例えば、Blenderは配列系が弱いので、「Align And Distribute 」という配列・分配系アドオンを使っています。また、Blenderはマテリアル一覧を表示できないので、「All Material List」というアドオンも便利です。それから、面白いものだと、様々な地図データをBlenderに反映できる「Blender GIS」もオススメです。

    free458679:ほかには「Zen UV 」という辺の角度でシームを自動で付けてくれるもの、オブジェクト同士をスナップさせることができる「Snap! 」というアドオンもオススメです。

    amanek「Quad Remesher」はReflexさんが使っているのを見て、私もその後買いました。ハイポリゴンなモデルをVRChatにもっていくときに、自動でリトポロジーをしてくれるアドオンです。

    Cap:あとは「Lazy Weight Tool」という、キャラクターのウェイトを調整するツールも便利ですね。Blenderはキャラクターのウェイトを一覧で表示したり、一気に調整することが難しいのですが、そのへんの細かな調整を効率化してくれます。

    CGW:たくさんありがとうございます。Blenderユーザーにおおいに参考になると思います。皆さんは日々いろいろな情報を集めて制作されていると思いますが、GHOSTCLUBの何にモチベーションを感じているのでしょうか?

    Rintaro:0b4k3さんが何か新しいことを始めるとき、大抵は僕が最初に話を聞くのですが、僕自身にはとても考えつかないようなことを本当に楽しそうに話してくれるので、手伝いたくなるんです。自分にとってまったく未知の創作に全力で打ち込めるので、挑戦の場としてとても大切な場所です。そして、複数人で何かを成し遂げるのが、大変ではあるのですが、本当に楽しいです。

    Reflex:GHOSTCLUBの制作は自分自身のキャリアにも役立っています。正直、GHOSTCLUBはVRChatのクラブの中では有名ですし、制作していてスキルアップになっているという実感も得られています。また、最近だとGHOSTCLUBの活動からコンタクトしてくれる人も増えています。僕はフリーランスなので、素晴らしい作品やプロジェクトに関わることはダイレクトに自分のキャリア形成に良い影響を及ぼします。こうした側面もモチベーションになっていますね。

    fotfla:GHOSTCLUBの制作は純粋に面白いと思っていますし、好きなことをある程度自由にやらせてもらえるというところが大きいです。私は本業がエンジニアなので、キャリアにつながるということもありますが、普段はあまり深く考えず、純粋に制作する楽しさを味わっています。

    tanitta:自分ひとりでは想像もつかないような創作物をチームの力でつくっていくことに魅力を感じています。個人での制作は大体最終的な作品の姿が想像できてしまいますが、チームだと良い意味でイメージが湧かないことがあります。こうしたワクワク感がモチベーションのひとつになっています。

    CGW:ありがとうございます。最後に、GHOSTCLUBでみなさんが今後取り組みたいことについて教えてください。

    0b4k3:GHOSTCLUBは実験室みたいな場所でもあるんです。ただ、最近は忙しくてあまり実験的なことを行えていないんですよね。メンバー同士でも、実験的な取り組みができなくて寂しいという話はしているので、今後は小さな規模でもいいので面白いことができる場を新たに制作できたら嬉しいなと思案中です。

    Rintaro:5.0のワールドにまだまだ修正したいところがあるので、時間があれば手を入れていきたいです。

    rakurai:主な担当箇所である背景部分の環境表現について、負荷の削減や写実性の向上などの面で改善できる箇所がたくさん存在すると思うので、機会があればそのあたりを改善していきたいです。

    phi16:GHOSTCLUBのクラブルームにある私がつくった機材も当初のまま残っているので、できるならアップデートしていきたいです。

    fotfla:クラブルームの演出はVJを主体としたパフォーマンスが行われるので、もう少し照明をベースにした表現を開拓できればと思っています。

    0b4k3:具体的にはまだ決まっていませんが、今後もアップデートしていきますので、ぜひこれからもGHOSTCLUBをよろしくおねがいします。

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    クラブワールド「GHOSTCLUB」のメイキングについてはCGWORLD vol.284(2022年4月号)、およびCGWORLD.jpにて詳しく解説しています

    Information

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.290(2022年10月号)

    特集:新世代クリエイター
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2022年9月9日

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    TEXT_江連良介
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada