9月23日(金・祝)から25日(日)まで、アニメ制作技術の総合イベント「あにつく2022」がオンライン開催された。各セッションのうち、本稿ではサンジゲンが実施した「『GUILTY GEAR STRIVE』オリジナルMVメイキング」の模様を記す。
イベント概要
あにつく2022
主催:株式会社Too
日時:2022年9月23日(金・祝)〜25日(日)
会場:オンライン(事前申し込み制)
参加料金:無料
www.too.com/atsuc/y2022
字コンテムービーの制作 タイミングも含めて字でカット割り
登壇者は監督の石川真平氏、演出監修の森川 滋氏、制作プロデューサーの保住昇汰氏。本MVはアークシステムワークスの2.5D対戦格闘ゲーム『GUILTY GEAR -STRIVE-』の発売1周年を記念し、主人公ソル=バッドガイのテーマ楽曲「Find Your One Way」を使用して制作されたものだ。
その楽曲をフックとしてキャラクターと世界観の魅力、ひいては『GUILTY GEAR』シリーズの魅力を伝えられる、『GUILTY GEAR』を知らなくてもカッコいいと思える映像を目指したという。イメージとしては歌詞を反映して、ソルの生き様や半生を描き、ロケーションを巻き込む破壊表現を重視したとのこと。
まず石川氏は「ゲームをプレイして何となく歴史を把握していたが、ソルの半生を描く際に、改めて歴史を調べ直すところに時間をかけた。そこから『このようにしていこう』と、自分の中でイメージを固めていった」と、図表を示した。
そして図表を見ながら「調べていくうちに改めてソルの半生は壮絶だと感じました。逆境を行動で乗り越えていくところがすごく格好良くて、そこを見せられたらいいなと」と、MVのねらいを語った。
「その案にOKが出て、絵コンテに入る前に字コンテとして流れを洗い出しました。3Dモデルをどうするかとか、ここは作画にしようとか。背景も3Dや作画の背景美術もあるので、どういうロケーションで使われるのかまでを含めて整理しました」(石川氏)。
ところが、「弊社の役員の瓶子(修一氏)から『字コンテだけじゃわからないから映像にしてほしい』と要望があった」ため、「どこでどの曲を、そこでどんな絵をはめこむのかイメージで伝わるようにしよう」と試みたという。
さらに社長の松浦裕暁氏からは、「もっと痺れるカットを見たい。早く見せてほしい」「ケレン味のあるキャラクターが剣を引き抜くときに、鞘が短いのに引いてみるとすごく長いとか、半分ギャグかもというくらいのインパクトが欲しい」との要望もあったそうだ。
そうした意見から、石川氏は字コンテを見直し、再考が必要と感じた箇所を赤丸で示した。「『バイクで走行しつつ回想』という構成を少し変えてみようと思いました」。そしてよりカッコいいシーンを作るために、森川氏からアドバイスをもらい、字コンテに変更を加えながら字コンテムービーを制作。「タイミングも含めて字でカット割りをして、自分の中でのイメージを固めていく」作業を行なった。
「誰に向けて制作しているのか」を意識する
石川氏が「森川さんから『飛行船の上をバイクで走って飛び降りたらどうか』とアドバイスをもらって、そういう過激な演出をもっとやってもいいんだな」と、話したところで京都スタジオから森川氏が登場。
森川氏は「松浦からの『痺れるカットが見たいんだよ!』というのは、『どうやってクライアントからの漠然としたイメージに対応していくか』ということなので、ある意味こちらは体力を試されていると受け取りました」と話した。そして「ソルの、再生能力があって人智を超えたところを拡張して、徹底的に生々しく描いた方が視聴者に伝わるのではないか」と思ったそうだ。
石川氏はそれらを反映して、ビデオコンテの制作に着手。「このビデオコンテは、先ほどの『早く絵を見たい』という意見も採り入れつつ、森川さんの絵コンテももらって制作しました。カッティングもしてあって、作業者にお願いするために尺もここで決め込んでいます」。
石川氏が森川氏からもらったアドバイスの中で一番参考になったのは、「ソルの再生能力を活かした演出と、もっと表現を極端にするところ」だという。
具体的には「森川さんに描いてもらった絵コンテを見たら、めちゃくちゃ絵力が湧き上がっていて圧倒されました。森川さんにお願いしたときに『額から出血しているシーン』という話はしましたが、ここまで血を出すんだという凄みがあり、改めて自分の中で自制していた部分を見直したい」との思いにいたった。
あわせてビフォー&アフターが示された。「左に映っているのがTake 1として最初に出したもの。それを右に修正しました。最初は地面を削ってソルの行動を足止めすることを想定していましたが、森川さんの絵コンテを見て、もっとやるんだと思って、実際に腹を切って吐血するくらいにまで振り切りました」。
その理由として、「ソルが逆境を乗り越えていく表現ができる」点を挙げた。次のカットも、「中盤の白く巨大なジャスティスを退治しているときに、最初は走っているところでジャンプして逃げるソルを描いていたが、ソルの再生能力や身体性を伝えるにはもう少しやられているところを見せた方が良いと、一撃されてから逃げる途中で背びれに激突する方に変更した」のだとか。
森川氏のアドバイスには「アニメーション制作で自分がそれを担当するのかと思うと、ちょっと怖気づいてしまうところもあります。『こんなしんどいことをみんなにさせていいのかな』と。でも視聴者はそんなこと考えていない。要するに誰に向けて制作しているのかというと、スタッフではなく視聴者に向けるのがエンタメ屋の基本なんです。若い人でこれから3Dやりたい人、今やってる人は、それを一番念頭に置いて考えてほしい」との思いがあった。
また森川氏は「それに3Dはモデルが出来上がっていて、動きを付ければ何となくアニメーションとしてはできてしまう。あまりにもスマートにできてしまっているので、やっぱりそこからもっとしんどいことをやっていかないと視聴者に伝わらない、心に響くものにつながらないというのは知っておいてほしい」と補足した。
とにかく形にするところから始めるのが重要
森川氏のアドバイスを受け、ビデオコンテが完成。ただ、実際にカットを制作して完成にいたるまでにも、変更した箇所があったようだ。石川氏は「左が『最初は崖から単純に落ちて、ソルの持っている剣でスピードを落として』というのを、森川さんから『火だるまになっていて、火を崖にこすりつけて消すくらいはやってもいいんじゃないか』とアドバイスがあって変更した」と明かした。
他の箇所にも「アリエルスという敵と対峙するときに、この顔の寄りが一瞬インサートで入るところを、先ほどのとおり『もっと極端にやる』ため、かなり色をショッキングにしたり、舌を出してベロベロしてもいいように森川さんからアドバイスをもらったと思う」と石川氏はふり返った。
なお、このMVを見ると、最後に印象的な文字が出てきているのがわかる。こちらに関して石川氏は「そもそもコンテの段階では、ゲームの方につなげるべく『Will Continue to the Main Story(続きは本編で)』としていました。観た方にゲームもプレイしてもらいたいという意図でしたが、もうちょっと『GUILTY GEAR』の世界観を含めて伝わるようにしたいという思いもあった」と言及した。
「『GUILTY GEAR』には「ロック」というキーワードがあって、それを使いたいと話していくうちに、ゲームの方で対戦が始まる前に表示される『Let's Rock』がいいんじゃないかと、急遽変更しました。コンテができている中でいきなり変更して申し訳なかったですね」と、こだわりを見せた。
これに対して森川氏は「『Let's Rock』の出来上がりを見て、すごく進化していて良かったなと思いました。コンテにあるものを飛躍させて、もっと面白くしようとしてこなれていた。石川さんが自分の土俵に持ち込んで勝負してるんだなと感じました」と応じた。
締めとして保住氏は「石川さんは普段は絵を描いていないので、どういう映像を制作するのかイメージを伝える上で、字コンテから始めるとか、とにかく映像にしてみるとか、自分に無理なくできるところから進めていくのは重要」と総括。「1回で絵コンテ描いてくれというと、初めて描く人は2ヶ月くらいかかることもある。本当に最終的に良い映像を制作するためには、前段階をなるべく巻くように進められるとスケジュール面では効果的だと思う」と本セッションを終えた。
TEXT_真狩祐志 / Yushi Makari
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)