2022年10月25日(火)〜26日(水)の2日間にわたり、Unityユーザーのためのテクニカルな講演が一堂に会する大規模カンファレンス「SYNC 2022」がオンラインおよびサテライト会場で開催された。本稿では、株式会社大林組によるセッション「Unity Reflectを活用した建設デジタルツインの最前線と将来ビジョン」についてレポートする。

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    イベント概要

    SYNC 2022

    開催日時:2022年10月25日(火)~26日(水)10:00~22:00(予定)
    開催形式:オンライン(事前登録制)
    events.unity3d.jp/sync

    建設現場が抱える課題。生産性と労働環境

    本セッションで登壇したのは、株式会社大林組(以下、大林組)の湯淺知英氏。湯淺氏は大林組に入社後、都市土木の建設プロジェクトで施工管理や設計を担当し、現在は先端技術企画部にてUnityを活用したデジタルツインの開発リーダーを務めている。本セッションでは主に建設の施工段階においてUnityがもつパワーを最大限活用し、どのように建設業務を変革しようとしているのか、開発事例や将来ビジョンなどを通して最新状況が報告された。

    最初に建設現場における課題が2つ提示された。1つ目が生産性の低さ。大量生産ではなく単一のものを受注生産していること、工場と異なり屋外で生産していること、労働集約型の生産システムを続けていること。これらが生産性の低さを招いている原因だという。



    2つ目は国内の建設業界が抱える労働環境だ。就業者数の減少および高齢化による担い手不足、長時間労働や屋外の過酷な労働環境による若手入社希望者の減少、改正労働基準法の適用による時間外労働の制限。この状況の変化のなかでクオリティを維持するには、建設施工現場の働き方改革を行う必要がある。

    施工DX実現を目的にアプリケーションを開発

    では、その課題はどのように解決すればいいのだろうか。建設業界では設計フェーズ、施工フェーズ、維持管理フェーズがある。そのなかでも特に施工フェーズにおけるDXの実現が、課題解決の1丁目1番地ということで大林組の取り組みが語られた。

    施工のDXを実現するためには、業務をシステム化してプロセス自体を変えていく必要がある。しかし、今までは紙の図面や口頭による伝達ばかりで、デジタルデータとして残っているものはほとんどない状況だった。これを現場のデジタルツインを進めることで、業務アプリの開発や着工前の施工シミュレーションを可能にする。これが取り組みの第一歩だ。

    大林組では、データ取得層と呼ばれるBIM/CIMモデル、現場で取得できる点群データ、人の位置情報の測位に関わる情報、車両や重機の位置情報など、デジタル化すべき情報を集約して3Dモデルの統合を行なってきた。その結果、2022年8月25日に東京大学との共同研究において「データ・システム連携基盤を活用した施工管理システム」の概念実証が完了したことをプレスリリースで発表した。

    ▲「データ・システム連携基盤を活用した施工管理システム」の概念図

    統合した3Dデータを管理していくためには、強力な描写エンジンと描写機能が必要になってくる。そこで大林組では、Unityが提供しているUnity Reflectというサービスの活用を選択した。さらに大林組ではUnityとコラボレーションを行い、Unity Reflectをカスタマイズしたデジタルツインのアプリケーションを開発している。

    カスタマイズにより追加された機能が番号を付けて紹介された。3D空間上に付箋を付けるように情報共有を行うことができるアノテーション機能やコーン標識をデジタル空間上で配置する機能など、それらは12機能にも及ぶ。さらに開発中の機能として時間軸を管理できるタイムライナーも検討していると紹介があった。

    ▲大林組がカスタマイズしたデジタルツインのアプリケーションによって、Unity Reflectに追加された12の機能

    アプリケーションの代表的な4つの機能が、デモンストレーション動画を交えながら説明された。

    1.誰でも簡単に3Dデータを活用できる
    2.アノテーション機能
    3.指示書や豆図の簡単作成
    4.建機や作業員位置を3D空間上に再現

    1つ目については、デフォルトから追加したファンクションのUI/UXについて設計し直し、基本的に説明書なしでも簡易にわかりやすく操作できるようにしている。例えば移動をシーンで行う際に、シーンごとにデータを保存することによってカメラのポジションが一緒に変わる。それにより配置計画などを検討することが可能だ。

    ▲点群データと3Dモデルを同時描写して配置を行なっている様子

    2つ目のアノテーションとは、データに対して関連する情報をコメントとして付与する機能で、付箋のように使うことができる。是正の指示や記録を残す場合に使われ、SNSとかチャットのようなかたちでコミュニケーションを取ることが可能だ。完了報告もここで行うことで記録が残る。

    ▲アノテーションを付けたら、右側の「内容入力」欄に宛名とコメントを入力。口頭では消えてしまう情報もデータとして記録される

    3つ目は、2Dでは非常に面倒だった建設現場における作業計画指示書を、3Dにすることで逆に簡単に作成できるという機能。作成した3Dデータにコーン標識や人などを、自分の好きなアングルで配置するだけだ。

    ▲このように配置したデータは、WordやPowerPointに貼ることで作業計画指示書を簡単に作成できる

    4つ目の建機や作業員位置を3D空間上に再現する機能は、それぞれに取り付けた測位センサー情報をリアルタイムに現場の3D映像に再現するというもの。こちらは現在開発中だ。

    ▲開発中のイメージ画像。建機の位置が3D映像に反映されている様子

    大林組が取り組む「エンビジョニング」とは

    2021年は、大林組で「基盤」と呼んでいるデータの統合に関するシステム開発をTIS株式会社と行った。現在、Unityと開発を進めているデジタルツインのアプリケーションは、2023年には社外への提供も実現したいとのことだ。

    大林組とUnityの関係は、アプリケーションの共同開発にとどまらない。大林組のメンバーがカナダのバンクーバーにあるオフィスに出向くなど、デジタルツインの基盤を使った建設現場の在り方、技術の活用に関する将来ビジョンを一緒に検討している。大林組ではこの活動を「エンビジョニング」と呼ぶ。

    エンビジョニングとは、施工のDXを実現するために現場のデジタルツインを推進し、課題を解決するアプリケーションの開発によって、現場の業務を将来ありたい姿に変えていくということだ。「今ある課題を単純に解決するだけではなく、DXということは根本的にプロセスを変革して、業務自体を大きく変えるレベルに踏み込まないといけない」と湯淺氏は考えを述べた。

    例えば、デジタルツインという技術が登場したときに「今まではなかった技術」があるという前提で、もう一度現場を見直して管理業務とオペレーション業務がどう変わるのか、再度シミュレーションする。その結果、現場がどう変わるのかビジョンを策定して、業務アプリケーションを開発していく。そのようなプロセスが必要になってくる。

    最後に大林組の考え方をまとめた「OBAYASHI CPS(Cyber Physical System)」という動画が上映された。多くの時間がかかっていたプランニングも、CPSを導入すると過去の膨大なデータベースから最適なワークパッケージが自動的に作成される。そのような計画、測量、実施、検査という建設のフェーズにおいて、デジタルツインの技術を活用する取り組みがCPSだ。「今後は様々なシステムとの連携が重要なポイントになってくると思います。興味を持っていただけた方は、いつでもお声がけください」という湯淺氏の挨拶でセッションは終了した。

    ▲CPSの概念図Unity Reflectをカスタマイズしたアプリケーションに加え、外部システムとの連携が今後は重要になっていくとのこと

    TEXT&EDIT_園田省吾(AIRE Design)