六本木にある東京ミッドタウン・ホールに『グランブルーファンタジー』(以下、『グラブル』)の世界が出現した。2022年7月30日(土)~8月28日(日)の30日間で開催された『グラブル』初の体験型アート展『GRANBLUE FANTASY×NAKED, INC. グラブルミュージアム 蒼の追想』(以下、『蒼の追想』)だ。

ゲームやアニメの展示会は近年様々なかたちで開催されているが、『蒼の追想』ではホール内にMX4Dミニシアターを設置して新規CGムービーを上映したり、全編にわたりプロジェクションマッピングを駆使した展示をくり広げたりと、規模や内容の作り込みを含め空前の規模のイベントとなった。

CGWORLD.jpでは、前後編にわたって本ミュージアムの軌跡をふり返る。前編となる本記事では、実際の展示を余さず紹介していく。

記事の目次

    イベント概要

    【グランブルーファンタジー】「グラブルミュージアム 蒼の追想」公式PV

    『GRANBLUE FANTASY×NAKED, INC. グラブルミュージアム 蒼の追想』
    開催日時:2022年7月30日(土)〜8月28日(日)
    場所:東京ミッドタウン・ホール

    「プロローグ -Into the Blue-」〜「追想:空の人々、物語 -People and their Tales-」

    本ミュージアムは1,300平米という広大な空間に設置されており、12の展示エリアから構成される。

    ▲『蒼の追想』の全体マップ

    『グラブル』の世界に入っていく演出は『蒼の追想』の入口から始まっている。ネイキッドが制作した感染症予防対策アート「NAKEDつくばい™️」のグラブルver.が設置されており、ボックスに手を入れると、除菌用のアルコールが吹き出されるのとともに、プロジェクションマッピングで手のひらに『グラブル』でお馴染みのクリスタルが映し出される(3種ランダム)。

    こうした、『グラブル』とは直接関係のない、現実世界の規則に基づいた設備にも『グラブル』の世界観を採り入れることで、イベントへの期待感を高めながら臨むことができる。それは会場内での注意事項を3Dのルリアが伝えてくれる演出においても同様だ。

    巨大イラストパネルやバハムート像、壁面に飾られた多数の原画や設定資料を眺めつつ、いよいよ入口のエリア「プロローグ -Into the Blue-」へ。

    「プロローグ -Into the Blue-」

    まず、ネイキッドを代表するアートオブジェクト「NAKED BIG BOOK」をベースに制作した「ルリアノート」が来場者を迎える。これは巨大な本の造作にプロジェクションマッピングによってページをめくっていく演出を施したもの。『グラブル』のヒロイン・ルリアと主人公の出会いや、これまでの冒険で出会った人々のことをモノクロから徐々に鮮やかなカラーに色づいていくという映像演出でふり返っていく。

    ▲映像が終わると目の前でページが実際に開き、来場者を物語の世界へと招き入れる

    「追想:空の旅と仲間達 -Sky of Phantagrande-」

    本をくぐり抜けた先のエリア「追想:空の旅と仲間達 -Sky of Phantagrande-」ではルリアノートの断片をかたどった10枚のスクリーンにメインクエスト「蒼の少女編」でのメインキャラクターたちの印象深いシーンを描いた映像が映し出され、物語の順序に合わせ展開してゆく。

    これらのスクリーンが不規則に配置されている理由は、先のルリアノートのページが「風に舞っている」というイメージに基づいたもの。この演出のためにプロジェクタの投影線上にスクリーンを吊るワイヤーが重ならないよう、VRを使って緻密に配置シミュレーションを行なったというほどの徹底ぶりだ。この映像投影にはPanasonicのスポットライト型プロジェクタ「スペースプレーヤー」が使われており、AEで加工を施し、投影先のページの形状に合わせて歪ませて投影している。

    「追想:空の人々、物語 -People and their Tales-」

    つづく「追想:空の人々、物語 -People and their Tales-」ではさらに巨大な円形状に展開されたスクリーンが立ち並び、これまでに開催された様々なシナリオイベントのシーンを描いたイラストや物語に登場するキャラクターたちが代わる代わる映し出される。

    全8種類の映像は、シナリオの世界観ごとにエフェクトなどの映像演出も変わっていくため、様々な演出を楽しむことができる。さらに、地面にはインタラクティブな演出が施されており、来場者の足の動きに合わせて、各イベントの世界観に合わせたエフェクトが追従するしくみになっている。

    ▲床の演出はシナリオイベントの雰囲気に合わせ様々。「ロボミ」の演出では主人公たちが対峙する敵「壊獣」が床を跳ね回り、「ハンサム・ゴリラ」の演出では『グラブル』ユーザーに愛される召喚石「ゴリラ」のイラストが現れる

    「追想:空に集う意志 -Will, Strength, and Ambition-」

    ここからの「追想:空に集う意志 -Will, Strength, and Ambition-」は、空を巡る様々な物語や集団をテーマとしたエリアだ。「Marionette Stars」、「十天衆」、「十賢者」の3つの展示から構成される。

    「Marionette Stars」

    2021年11月から12月にかけて開催されたシナリオイベント「Marionette Stars」をモチーフに、天体観測を行う展望台をイメージした空間には、シナリオに登場する「占星武器」のレプリカが展示されている。精巧に作られた武器群を展示するだけではなく、シナリオに合わせたプロジェクションマッピングによる演出を融合させて見せているのがポイントだ。

    武器にはそれぞれ個別にスピーカーが設置されており、レプリカが光るとその武器の“適合者”の声を聴くことができる。このしかけの他、この後に続く様々な音響については専門のサウンドディレクターが演出を行なっているという。

    ▲占星武器のレプリカが展示されている壁の上部はドーム型になっており、ドームの内側にも星空の映像が投影されている。壁部分とドーム部分の映像の位置合わせには苦労したという

    また、この「占星武器」の隣には『蒼の追想』のために描き下ろされた「Marionette Stars」の登場キャラクターたちの巨大イラストも投影されており、高解像度のプロジェクタが用いられている。ここからも新規イラストを騎空士たちに美しく届けたいという制作チームの思いが伝わってくる。

    「十天衆」

    続いては円筒状の壁に囲まれた「十天衆」の空間。ここでは『グラブル』のシナリオ内で全空一の強さを誇るとされる騎空団「十天衆」の映像が映し出され、空間全体を使ったダイナミックな映像演出を楽しむことができる。

    スクリーンはタテ5mの巨大なもので、1,920✕1,080のプロジェクタを縦に使って映像を映し出している。また、中央部には「十天衆」を全て仲間にしたプレイヤーが手にすることができるジョブスキン(主人公ジョブの姿を変更することができるスキン)「十天衆を総べし者」の衣装も展示されている。意匠や武器の細部まで、イラストを精巧に再現したこの衣装はここ『蒼の追想』が初公開となった。

    「アーカルムの十賢者」

    そして「アーカルムの十賢者」のエリアでは、タロットカードに導かれアーカルムの星晶獣とその契約者である十賢者が巨大スクリーンに現れる。十賢者と星晶獣はそれぞれ1つずつ映像が用意されており、キャラクターに合わせた演出のちがいにも注目だ。

    床から壁までを使って描くこのエリア。6台のプロジェクタを使い、各プロジェクタの特性を組み合わせて演出している。ここではできるだけイラストを歪ませないようにプロジェクタの縦横のセッティングに心を砕いたという。また、壁面にあるランプとプロジェクションがぶつからないように設計されている細かなこだわりから、丁寧な世界観づくりが感じられる。

    「追想:空と月 -Recollect the Moon-」

    続くエリア「追想:空と月 -Recollect the Moon-」は、2021年2月に『グラブル』7周年を記念してゲーム内で開催されたシナリオイベント「STAY MOON」をモチーフにしたゾーンだ。

    作戦室

    まず騎空士たちを迎えるのは、主人公とゼタたち“組織”のメンバー、そして機械に強いマキラが、空の世界では前人未踏の領域「うちゅう」へ行くための作戦を立てていた「作戦室」を再現した展示。これまでのファンタジックな世界観から一転、SFの要素が多く入ってくる。プロジェクションマッピングで幾何学的な模様が浮かぶ壁や妖しく光る床面、そして部屋に立ち込めるスモーク等でミステリアスな空間を演出している。

    ▲“組織”が保持する様々な資料が並ぶなか、ガイド役の“ジョイくん”が、騎空士たちを“月”へと導く。表情の変化や録り下ろしボイスを楽しむことができる

    目を引くのは、机の上の「マキラのうちゅう船」の設計図だ。ここには羊皮紙の本の何も書かれていないページが開いて置かれ、そこに小型のプロジェクタで設計図の絵を投影し、みるみるうちにページ上に設計図が描かれていくという演出がなされており、モチーフと合わせセンス・オブ・ワンダーなつくりになっている。

    ▲本の横に置かれたインク瓶にも、瓶の形状に合わせて光のエフェクトが投影されており、その投影の緻密さに驚かされる

    一方、スペース手前にある実験道具たちにはプロジェクションを行なっていない。これは、造作をじっくり見せたいという判断によるもので、音響と同じく専門の照明ディレクターによって演出されている。プロジェクションマッピング等「デジタル」で見せる部分と、実際の造作や装飾物など「アナログ」で見せる部分を使い分けることで、ゲーム内に実際に登場する「作戦室」が現実に現れた、という実在感が増している。

    機神・セスラカ

    そこから歩みを進めると、ひときわ広い空間の奥に、『蒼の追想』の目玉のひとつ機神・セスラカが現れる。身の丈約3.5mもの巨大立像だ。セスラカを格好良く見せるために、複数のムービングライトを上下から投射し、スモークやサウンド、プロジェクションマッピングなど様々な演出要素を組み合わせて迫力を出している。

    ▲一定時間ごとに、「STAY MOON」のシナリオでもお馴染みの敵勢力「ω3」が襲撃してくるスペシャル演出も仕込まれている。空間全体でシナリオの激闘の雰囲気を味わうことができる

    セスラカから離れた壁面には機神アリアネンサと機神グロウノスがそれぞれ敵と戦う様子が映し出され、来場者がアイコンにタッチすることで機神を操作できる。また別の壁面には手を触れることで“組織”のメンバー情報が展開する演出もある。ここでは床に向けて5台、壁に向けて8台のプロジェクタを使用している。

    ▲機神グロウノスの月面での戦い。右下のアイコンに触れるとグロウノスを操作することができる
    ▲壁面のアイコンにタッチすると、"組織"のキャラクターの情報が展開される

    ヤチマ&レイベリィ等身大フィギュア

    次のスペースでは「STAY MOON」の登場キャラクター、ヤチマ&レイベリィの等身大フィギュアが展示。背後にはプロジェクションマッピングにより2人の思い出にまつわる映像が展開される。電飾の細かな部分にまでこだわったリアル造形とエモーショナルな映像演出の融合が見どころだ。

    ”組織”描き下ろしポスターマッピング

    さらに進むと、“組織”のメンバー勢揃いの巨大な描き下ろしイラストが展示されている。「ポスターマッピング」と銘打たれたこの展示は、壁面にモノクロで印刷されたイラストに対して、エフェクトなどの映像をプロジェクションマッピングで重ねることで鮮やかなカラーイラストに変化させていくというもの。眺めていると、人物の色合いや武器のエフェクトだけでなく、髪の揺れなどの細かな演出も入れられている。映像中の色の変化をより綺麗に見せるために、投影テストをしてポスターの素材を決め、グレーメタリックの背景に決定したというこだわりようだ。

    ▲イラストの変化の様子

    この反対側の壁には「STAY MOON」の予告PVで使用された、イラストをうっすら発光しているような表現で見せた「STAY MOON イラストインスタレーション」が展示されている。何と壁面サイズを分割することなく一度に印刷が可能な特殊印刷が採用されており、『蒼の追想』の最後に登場する蒼空のイラストも同じ印刷技術で制作されているという。

    「追想:空を見守る翼 -His Revival, His Revenge-」

    カナンの神殿

    ここからはゲーム内でも高い人気を誇るシナリオイベント「どうして空は蒼いのか」シリーズをモチーフとしたエリア。足を踏み入れると、シナリオで重要な位置づけとなる「カナンの神殿」が迎える。丁寧に再現された植栽や柱などの造作、ステンドグラスの美しさなど見どころが満載だ。

    「000」特別シアター

    様々な手法で世界観を精巧に再現したエリアを抜けると、終盤の目玉である、MX4DモーションシートによるCGムービーが体験できるエリアへと案内される。このムービーはシナリオイベント「000 どうして空は蒼いのか Part.III」のルシファーとサンダルフォンの激闘を描いたものだ。

    3DCGキャラクターを使ったコンテンツはこれまでの『グラブルフェス』での「Special Character Live」や「キャラクタートークスポット」などでも「現実世界にキャラクターが現れた存在感がより味わえる」ことで好評を博しており、今回のシアターでもサンダルフォンの3DCGとともに初公開となったルシファーの3DCGが登場する。

    ここでも『蒼の追想』コンセプトの「体感」は最も重視されており、映像に合わせシートが動く演出をはじめ、キャラクターたちの羽の動きや激しい攻撃によって生じる「風」や閃光などの「光」も実際の特効や照明の演出で体感できるようになっている。さらに、Cygamesのサウンドチームが制作した360度のサラウンドサウンドが生み出す臨場感で、バトルの中に身を置く“没入感”を味わうことができる。

    ▲「000」特別シアターのスクリーンと座席

    こうした「000」特別シアターを体験するといよいよエンディング。最後には「どうして空は蒼いのか」の特別描き下ろしイラストが壁面いっぱいに現れ、最後にはルリアからのメッセージ。会場を出ると図録をはじめとしたグッズ約70点を扱うショップがあった。ショップの隣にはタッチペンを使った「デジタル寄せ書きコーナー」があり、訪れた騎空士たちの感想を残すことができた。

    3DCGやプロジェクションマッピングなど様々な最新テクノロジーを駆使し、『グラブル』をこの世界に立体的に浮かび上がらせる『蒼の追想』。デジタル×アナログの理想的なつくりは最後のユーザー体験にまで現れていた。

    後編では、Cygamesとネイキッドを中心とする制作関係者に本ミュージアムの制作の裏側について聞く。

    後編(インタビュー篇)はこちら>>

    TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura
    PHOTO_蟹 由香 / Yuka Kani