今回で12回目を迎えた「CGWORLD 2022 クリエイティブカンファレンス」。2022年11月7日(月)から11月11日(金)までの5日間にわたって全29セッションが行われた。

11月8日(火)開催のセッション「Substance 3D Painterを使ったリアルに見せるモデリングブロス流背景モデルのテクスチャ作成術」には、株式会社モデリングブロスのミッドモデラー・箕浦佑氏が登壇。現実感のあるテクスチャ作成術を伝授した。本レポートではセッションで扱った様々なテクニックの中から、写真素材とSubstance 3D Samplerを組み合わせてマテリアルを作成する手法を中心に取り上げる。

記事の目次

    イベント概要

    CGWORLD 2022 クリエイティブカンファレンス

    開催日:2022年11月7日(月)〜11日(金)
    ※最終日はハイブリッド開催
    会場:ベルサール九段
    懇親会:11月11日(金) 19:30-21:30
    時間:15:30~21:00
    ※Day1のみ16:50スタート
    参加費:無料 ※事前登録制
    参加対象:
    CG制作に関わる業界に従事している方
    業界を目指している学生
    その他CG業界に興味のある方

    https://cgworld.jp/special/cgwcc2022/

    ワークフローに工夫を入れて、リアルなテクスチャ制作を

    箕浦 佑氏

    株式会社モデリングブロス ミッドモデラー

    セッションでは街中にあるごみステーションのモデルを題材に、リアルな質感へアプローチする方法を紹介。Substance 3D Painterのスマートマテリアルや普通のマテリアルを使うのではなく、写真素材とSubstance 3D Samplerを利用したワークフローを解説した。

    ごみステーションの完成画像

    まずは箕浦氏が撮ったごみステーションの写真を基に、Substance 3D Samplerの素材となる画像を作成する。この作業はSubstance 3D Samplerでも可能だが挙動が重いため、セッションではPhotoshopを利用した。

    箕浦氏が一眼レフで撮影した写真。もし斜めから撮ったせいで素材として使いづらい場合は「遠近法切り抜きツール」で真正面からの構図になるように平面化する
    写真から必要な箇所だけを切り抜く。この段階では上部の貼り紙や右上の出っ張りなど、素材に使えない部分が残っている。周囲の色味も影によって落ちているため、コピースタンプツールでテクスチャを置き換える
    [コンテンツに応じた塗りつぶし]なども使って不要な部分を消去。Substance 3D Sampler用の素材が完成した

    素材ができたらSubstance 3D Samplerに取り込み、マテリアルを2種類作成する。1つ目はユニークな汚れをある程度残して、主にプロジェクションでほしい部分に配置するためのもの。それをベースにした2つ目は、ユニークな汚れを消して汎用的に扱うためのリピート用マテリアルだ。

    1つ目のマテリアル。主に操作するのはレイヤーの[Image To Material]で、自動生成されたPBRの基本パラメータを細かく調節していく
    1つ目のマテリアルを複製して、再度調節したリピート用マテリアル。フィルタ機能の[Make it Tile]でタイリングをして、パラメータで傷や汚れを消したり馴染ませたりしている
    [Make it Tile]のパラメータを極端にしたもの。タイリングの繋ぎ目が見えてしまっている。自分が求めるタイリングができるようにパラメータを調整していく
    フィルタ機能の[Clone Stamp]を追加して、さらに自然な状態にしたリピート用マテリアル
    [Clone Stamp]はPhotoshopのコピースタンプツールと同じような機能をもつ。白い箇所がブラシでなぞってペイントした部分。ここがオフセットするしくみで、目立ちにくい位置を選び、リピートできるようなマテリアルを作成する
    カーソルを動かすとペイントした部分がオフセットしていく。レイヤーに「切手1」「切手2」と2つあるのは、1つだけでは汚れが残る部分があり、別の箇所からコピーするレイヤーを用意したため
    これで2種類のマテリアルが揃った。Substanceシリーズ内でのデータのやり取りは容易で、右側の共有ボタンを押して送信先を選ぶだけ。現在起動中のSubstance 3D Painterにマテリアルが転送される

    続いてはSubstance 3D Painterでの作業に移り、実際にテクスチャを作っていく。マテリアルを乗せる順番は、最初にユニークな汚しを残したマテリアル、次にリピート用マテリアル。それらを三面投影で重ねた後、今回は参考写真の質感を近付けるため単色マテリアルを乗せる。

    ユニークな汚しを残したマテリアルを貼った状態。投影エリアをオフセットで移動させて、質感を付けたい位置に配置する
    その上からリピート用マテリアルを重ねた状態。一見自然に見えるが、下にあるユニークな汚しの錆や汚れが消えてしまった

    ただ重ねただけでは一番下の汚しが消えてしまうため、マスクを追加する。リピート用マテリアルが見えてほしい部分だけを、ペイント機能を使って表に出すようにする。

    リピート用マテリアルのマスク。なお箕浦氏はマスクは黒マスクを基本にして必要な部分を白く出るように設定している。たとえ白が大部分を占めていたとしても、このルールを崩すとレイヤーが一気に扱いにくくなるため順守する
    ユニークな汚しを残したマテリアルと、その上からマスクを切ってリピート用マテリアルを乗せた状態の比較。錆などがきちんと残っているのがわかる

    これだけでも充分によく見えるが、1枚の写真を素材にしているため、特徴的な部分がリピートされすぎている印象がある。それを解消するために単色マテリアルを作成。水色を乗せて上手く馴染ませて、よりリアルな質感に仕上がった。

    単色マテリアル用のマスクに水色を乗せて完成。白と青がはっきり出ていた部分が抑えられた

    セッションではそのほかにも、ジェネレータやグランジマップを利用してマテリアルを組む方法などを公開。さらに具体的なテクニックだけでなく、汚し作業の際に意識してほしいポイントを伝える一幕も見られた。

    箕浦氏は、汚しはアセットに命を吹き込む大切な作業であり、クリエイターとしての腕の見せどころだと力説。ジェネレータで付けられる汚しはあくまで自然に付く汚れを再現したものであり、人為的、環境的な汚しは付けられないからだ。汚し作業では、材質が何でできており、どのような場所に置かれて、どのように使われ、どれくらいの期間が経っているのか、そのバックグラウンドを想像することが重要だと説く。

    水が溜まる箇所には錆が発生しやすい。また扉は溶接されていて上からプレートが貼り付けられており、その隙間にはとくに錆が多い状態になっている
    コンクリート自体は錆びないが、金属と接触する部分は錆垂れが発生して黄色く濁っている。また下部が汚れているのは雨によって地面の汚れが跳ね返ったもの

    今回はごみステーションという実在するものを扱ったが、箕浦氏は「プロになると実際には存在しないモデルに説得力をもたせなければいけない場合もあるため、非常に想像力が求められる職業です」とコメント。「こういうものの場合はこういった事象が起きる、と脳内でストックしておくことが重要になってくると思います」とアドバイスを送った。

    TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada