一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)による「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)」が、3月11日(土)・12日(日)の2日間開催された。
東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)実行委員会主催の下「ACTF2023 in TAAF」と銘打ち、11日は制作プロダクションなどによる各社事例紹介の配信、12日はソフトベンダー・企業によるセミナー配信と、としま区民センターでのリアル出展を行なった。
本記事では3月11日配信のセッションからパネルディスカッション「アニメ制作における地方、リモート、Blender最前線」の模様をレポートする。
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Information
「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2023 in TAAF」
開催日:2023年3月11日(土)、12日(日)
場所:としま区民センター
参加料:無料
主催:東京アニメアワードフェスティバル実行委員会
共催:一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA)、ACTF事務局、株式会社ワコム、株式会社セルシス
http://www.janica.jp/course/digital/actf2023inTAAF.html
地方で働く人材を育てる「アニメ塾」
本セッションにはアニメ企画制作会社RICE FIELD・代表取締役社長の田原麻美氏、ダンデライオンアニメーションスタジオのテクニカルスーパーバイザー西谷浩人氏、アニメーター・演出・監督・研究者のりょーちも氏、そしてモデレーターとしてACTF事務局の轟木保弘氏が登壇。
継続的なアニメ制作を支える上で重要となる、地方人材の獲得、デジタルインフラの活用、ソフトウェアの研究開発やクリエイターの在り方について、それぞれが実務を通じて得た知見を示し、今後の在り方を提言した。
まずは田原氏が「地方人材の獲得」というテーマから同社の取り組みを紹介した。東京に本社を置き、宮崎スタジオを構えるRICE FIELDは、2021年4月に人材育成事業「アニメ塾」をスタート。オンラインでアニメ制作技術を学び、地方でアニメ制作業務を仕事にするためのカルチャースクールを運営している。
当初は数人程度の参加を見込んでおり、宣伝もTwitterで10日ほどだったが、想定を大幅に超える60人以上から応募があった。現時点でアニメ塾からは9名のアニメーターを輩出。RICE FIELDの自社制作作品をメインに、他社作品の受託にも関わっている。
アニメ塾の特徴は、様々な事情から働くことが困難だった人々が副業として携わっている点だ。その中には難病指定の持病のため一般的な会社勤務が難しかった人が、リモートワークで自分のペースで働けるようになったケースも存在する。
田原氏は「アニメにはビジネス的な可能性があるだけでなく、働くスタイルにも可能性があることを感じました」と活動を通じての学びを伝えた。
りょーちも氏はRICE FIELDの取り組みについて「アニメ業界は入口が厳しくて、そこでつまずいて諦めてしまう人が多い。でも副業に近いかたちで業界に入れて、自分のペースで成長していくことを見守ってもらえるのは、とても恵まれた環境に思えます。そういう作り方が現場でも必要なのだと感じました」と感想を述べた。
轟木氏は地方スタジオの意義に触れて「埋もれた人材を発掘するなど、地元だからこそできる取り組みがある」とコメント。「少子化が進む中で、働き方のスタイルが広がって作り手が1人でも増えることは業界全体も助かる」と人手不足の解消にも繋がると語る。
コロナ禍で変化するアニメ制作への関わり方
続いてのテーマは「リモートワーク」。ダンデライオンアニメーションスタジオの西谷氏が、リモートを活用した制作体制について、自社の実例を挙げながら解説した。
3DCGアニメの企画・制作を行う同社は、2020年の新型コロナウイルスの流行を機にフルリモートワークを実現したスタジオである。最新作『THE FIRST SLAM DUNK』の制作中にコロナ禍となったため、リモートに移行しながら作業を進めていった。
手始めとして2020年3月にリモートワークが容易なモデリングチームからテストを開始。ツールなどの検証を含めた結果、実現可能だと判断して、約1ヶ月で一気に体制を整えた。
パイプラインは全データをクラウドにアップロードし、個人や協力会社がダウンロードして使用する体制に。ツールに関してもバッチファイルを実行すれば自動でダウンロードされ、環境が整ったアプリが起動するしくみをとった。
作業者が仕事を終えれば自動でクラウドにアップロードされるため、制作進行などのスタッフがファイルをアップロードする必要がなくなった。そのため雑務が減り、クリエイティブを支える業務に集中できるようになった。さらにヒューマンエラーも減るなどリモートによって得られたメリットは多かったという。
西谷氏はリモートワークについて「東京は物理的なキャパシティが限られるが、コロナ禍に対処する中でいろいろな人たちが仕事をできる環境を整備することができた」とふり返る。
「3DCGアニメは現場で作業をするものだ」という旧来の考えから解き放たれて、出産や育休などで第一線を退いた人材が現場に戻ってきやすい状況が生まれたことも利点だった。
轟木氏はJAniCAが行なったリモートワークに関するアンケート結果を公開。新型コロナの影響によって社内のリモート化が進んだアニメスタジオが56%に上るなど、ここ数年でアニメ制作のデジタル化が大きく変わったことがわかる結果となっている。
2DアニメーターがBlenderを習得する意義
最後はりょーちも氏が個人クリエイターとしての立場から、Blenderの長所やコミュニティの重要性を説いた。2Dアニメーターとしてキャリアをスタートしたりょーちも氏がBlenderに魅力を感じたのは自由度が高かったからだった。
紙と鉛筆さえあればクリエイティブに関われる2Dアニメーターにとって、特定のソフトや環境などに依存しないと創作できない状況は辛いものだという。紙と鉛筆の自由度に匹敵するソフトを探していたときに、無料でありながら他のDCCツールと似た機能を備え、さらに絵も描けるBlenderに関心を抱いた。
またスタジオに専門職として入ったクリエイターは特定のスキルを突き詰めていけばいいが、個人の場合は仕事をもらう立場であり、作品が終われば関係はいったん途絶えてしまう。そのため様々なスキルを会得しなければならない。
その中で「自分はどういう作品を作りたいのか」を考えなければ、単に仕事を請けるだけの人間になってしまう。そのため2D、3D、実写といった垣根を壊して、自由にものを作らないと身動きが取れないとの危機感を抱いていたことも、Blenderを使っている理由だと語った。
アニメ制作にまつわる技術は年々進歩しており、今までの手法を固定化する必要はない。ただ新たなツールが使えるのかスタジオが試して失敗したときのダメージは大きいため、個人が実験屋のような立場で好き勝手に試して、上手くいきそうな部分をプロダクションで利用するといったこともできるだろう。
さらにセッションでは自由度を担保できる制作方法として、組織でも個人でもないコミュニティの可能性に言及する一幕も。自由に入り、自由に抜けられて、でもお互いに顔はわかる緩やかな繋がりの中、失敗しても良いという空気感でいろいろと試せる場所が必要ではないかと説いた。
ディスカッションの締めでりょーちも氏は、近年ではブートキャンプなどアニメに興味をもった人に向けた教育の機会が増えており、業界をリタイアした人も戻ってこられる土壌が生まれつつあるのではないかと言及する。
それに田原氏も同意し、RICE FIELDにも業界を一度辞めた人が在籍していることを明かした。リモートワークが復職を促し、地方スタジオが新たな雇用を生み出したように、何度でも仕事にトライできる環境があってもいいのではないかとメッセージを伝えた。
TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)