PS5向けに開発されたアクションRPG『FINAL FANTASY XVI』。本作のために用意された内製エンジンの特徴と“現実感とアーティスティックな表現との狭間バランスが取られたPBRによるキャラクター制作、そして大迫力の召喚獣バトルまで、その魅力を全3回に分けて深掘りする。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 301(2023年9月号)からの転載となります。
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独自エンジンによる、アートとリアルの中間をねらった画づくり〜『FINAL FANTASY XVI』(1) 開発環境・画づくり篇
Information
発売・開発:株式会社スクウェア・エニックス
リリース:発売中
価格:通常版9,900円(パッケージ版・ダウンロード版)ほか
Platform:PS5
ジャンル:アクションRPG
jp.finalfantasyxvi.com
現世代機のグラフィック性能を活かしたリアルなアセットをアート・3D両面から追求
本作のキャラクター制作は、主に人型キャラクターとそれ以外(召喚獣、モンスター等)に分けられる。シリーズ屈指のリアルな質感で描かれる本作だが、必ずしもフォトリアルを徹底しているわけではなく、ややイラスト調のバランスも含むキャラクターデザインを基にファンタジックな世界観に落とし込んでいる。
顔は多国籍な部内スタッフの3Dスキャンを平均化してベースモデルとしてスカルプト。髪はカーブからポリゴンカード化する手法で、コンセプトアートで描かれている角度については完全一致を目指し、アートにない角度については印象を損ねないよう制作している。
「コンセプトアートの雰囲気を大切に、そのなかで説得力のあるリアルさをもたせていくことを目指しました。アートでサッと描いてあるところが印象面ではキーになったりするので、それを造形に変換していく作業も重要でした」と語るのは人物の顔髪モデルの制作・管理を担当したリードキャラクターアーティスト・石井晴也氏。
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写真左から リードキャラクターアーティスト・園部 淳氏、キャラクターアーティスト・南條和哉氏、リードキャラクターアーティスト・石井晴也氏、写真なし キャラクター&ビジュアルデザイン・髙橋和哉氏
衣装を含む質感は、カットシーンでどれくらい寄るか確定できないこともあり、全般的にどんなにアップでも自然に見えることを意識して調整。
「カットシーンでの使用に制限をかけたくもありませんし、一方でテクスチャ解像度は限られます。そこでタイリングテクスチャを活用して、それを複数ブレンドしながら密度感を出し、クオリティを底上げしていきました」と語るのはキャラクターアーティストの南條和哉氏。南條氏は衣装周りの制作・管理、ワークフロー策定などを担当。
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召喚獣・モンスターについては、リードキャラクターアーティスト・園部 淳氏がかねてより検討していた制作手法を採用。
「先行するアートがない場合には、ZBrushでのラフスカルプトから開始し簡易にテクスチャ、ボーンを組み込んで実機確認する『動くコンセプトアート』を制作しました。ひとまず細かいエラーを無視しても実機出力してもらうなどいろいろな協力があって比較的早い段階で確立でき、詳細アートのないモンスターのほとんどはこの方法で効率的に制作できました」(園部氏)。
召喚獣の質感はSubstance 3D Painterの天然物の質感を上手く利用しつつ、エミッシブや各種パラメータなどをスクロールできるようにしたマテリアルを用いて幻想的に仕上げている。これらの技術的な詳細は今年のCEDECでも解説され、講演資料が公開されているとのことで、興味のある方はぜひご確認いただきたい。
キャラクターの礎となるコンセプトアート
キャラクターは、完全にリアルな顔ではなく少しイラストを基にした感じを目指されている。
「顔については3Dモデリングによるところが大きく、アートとしては今までとさほど変わりませんでした。しかし衣装は質感がリアルになるので素材感が明確になります。そのため、今までのデザインの仕方だと違和感が出てくると思いました」(キャラクター&ビジュアルデザイン・髙橋和哉氏)。
作中世界のリアルな財政状況を反映し、華美な装飾による違和感が生じないよう意識してデザインされている。またドミナントは誰がどの召喚獣に変身するのかを意識して仕上げられた。
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▲タイタン。顔がドミナントであるフーゴに通じるデザインとなっている。この点はシヴァも同様 -
▲バハムート。顔の棘は、カメラがアップになると新しいディテールが見えてくるよう大小の棘を織り交ぜている。ディオンのチェインメイルはバハムートの鱗を意識したもの。「召喚獣のアートは巨大さを出すことを意識して制作しています。ディテールは巨大感を出すのに重要なため、アートの段階でアップになっても大丈夫なように考えています。また、全ての召喚獣の顔は全体的に小さめにし、遠近感がより強く出るように工夫しています」(髙橋氏)
人型キャラクターの顔モデル制作
顔の造形はアートとリアルな顔の落としどころを追求するために「リアルな顔とはどのような造形か」というところまで立ち戻ってスタート。様々な国籍のメンバーが集う開発部内のスタッフを3Dスキャンした。
「顔は画角によって立体としての見え方が変わるため、アートや写真を基につくっても正解がわかりません。そこでまず安心できる基準として3Dスキャンから導いたベース顔を用意しました」(石井氏)。なお、顔のトポロジーはメインキャラクター・サブキャラクターにかかわらず共通となっており、後工程の効率化を図っている。
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目の造形
目の周辺は、眼球のサイズを年齢に関わらず2.3~2.4センチで固定している。
「目の大きさを決めるというのが、顔をつくる上で最初の重要なポイントでした。アートもデフォルメではない自然なバランスだったので、それに沿ってリアルな眼球サイズとしています」(石井氏)。眼球サイズが決まることで、そこからまぶた周辺の立体が自ずと自然な造形に落ち着いていく。
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髪や毛の表現
「アートでは自然な髪型のキャラクターが多かったので、あとはそれをどれだけアップに耐えられるようモデルに落とし込むか。髪の毛は微妙な差で印象を左右してしまうので『何となくアートに合わせた』程度ではまったく別物に仕上がります。アートと同じ角度で画像を保存し、アートと重ねてぴったりになるよう1本単位で調整を重ねました」(石井氏)。
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▲UVを編集してテクスチャを割り当てる -
▲Maya上でプレビューしながら積み重ねていく。共通の髪テクスチャが用意されており、そのなかから合いそうなものを選んでアサインしている
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毛は全て共有テクスチャを使用。短毛やヒゲなどは板ポリで表現すると膨大なポリゴン数になってしまうため、タイリングで何層か重ね、頂点カラーアルファでブレンドして表現した。
衣装制作のながれ
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▲衣装はMarvelous Designer(以下、MD)で制作。3Dスキャンも検討したが、コンセプトアートを重視する方向性やスタッフのスキルアップなどを鑑みてMDを選択した -
▲MDからZBrushへは一度Mayaを経由し、スカルプトしやすいメッシュに調整。上段がMDから受け取ったデータ、下段がMayaでリメッシュしZBrushへ渡すデータ。このひと手間によって後々のリトポ作業も効率化される
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▲鎧の制作。Mayaでクリースエッジをしつつ、リトポのことも考えてポリゴン数を抑えながら作業を進める -
▲ZBrushへ移行してスカルプト。細かい傷はタイリングテクスチャで入れるため、比較的大きなディテールのみ追加する
“3Dコンセプトアート”から実制作を進めた召喚獣やモンスター
召喚獣、モンスターらは、その全てに詳細なアートが用意されているわけではなく、必要に応じてZBrushによる3Dコンセプトアートとも呼べる造形をラフにスカルプト、それをDecimation Masterなどでポリゴン数を減らして仮のボーンを入れ、動くコンセプトアートとしていったん実機出力。この段階で仮の着色まで済んでおり、確認を経て実制作へ。
「そこからは特に変わった工程はなく、単純に完成度を上げていくだけですが、動くところも含めて最初にイメージが固まるのですごく良かったです。これはアートがないからこそできたことで、任せていただいたというのがひとつ大きかったのかなと思います。主要キャラクターの顔などではこういうことはできないので、モンスターならではの効率的なつくり方でした」(園部氏)。
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タイリングテクスチャの活用
大きなテクスチャの使用を減らしつつ密度感を得るために、本作ではタイリングテクスチャが多彩に活用されている。
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▲タイリングOFF -
▲タイリングON。基本的にタイリングが乗っていない箇所はなく、Substance 3D Painterでの質感作成時点ではできるだけニュートラルにしておき、モデルエディタ上でのタイリング指定で質感として完成させていることがわかる
自然物を意識した召喚獣の質感表現
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▲イフリートの質感は岩肌や溶岩のイメージ。天然物と肉体の融合表現が試みられている -
▲様々な鉱石がスクラップされたようなタイタンの肌。また、より巨大な召喚獣ではキャラクターの範疇を超えて背景用のマテリアルを適用するケースも
マイクロシャドウによる陰影の描画
AOマップに基づく2種類のディテール表現で精細感を高めている。AOマップとノーマルマップによって細かい陰影を擬似的に描画する「マイクロシャドウ」では、ハイメッシュからローメッシュへベイクした際に欠損した微細な凹凸感を補う。
汚れや濡れの表現
各種の汚れは、キャラクター・モンスター問わず全てのモデルに指定可能で、パラメータで動的にコントロールできるほか、重ねることも可能。いずれもコモンテクスチャを用意して3方向から投影する方式。
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頂点シェーダによる揺れ
頂点シェーダによる風揺れ表現。Maya上の頂点カラーペイントで揺れの影響度を調整する。
本作では、長髪であればボーンを仕込んで揺らすことになるが、壮年期クライヴ相当の髪のボリューム感であれば頂点シェーダで揺らしている(ちなみに少年期クライヴの前髪の毛束はボーンで揺らしている)。毛だけでなくガルーダの羽なども頂点シェーダで揺れているほか、前述の濡れ髪が下がる表現にもこの手法が応用されている。
NPCのバリエーション制作
NPCのバリエーションはプランナーから直接キャラクター班が受け持ち、パーツの組み合わせや色替えなどで対応することでなるべく期間を圧縮して仕上げている。
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▲デカール(UVセットで指定した領域に描画を重ねる)を活用したディテールアップ -
▲元テクスチャの解像度に依存せず情報量を上げることができる。縫い糸を替えたり、装飾の細工を増やすほか、ベアラーの刺青もデカールで表現されている
(3) モーション篇につづく。
© SQUARE ENIX
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CGWORLD 2023年9月号 vol.301
特集:『2023 夏のゲームグラフィックス』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年8月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT _ks
EDIT _小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada